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不死者


 なんだか、湿っぽくなってしまったので話題でも変えようかな。


「そう言えば。なんでレオが居る時は、魔獣や獣が寄ってこないの?」

「ん?単純に俺が強いから。俺の目につく範囲からは隠れる」

「なるほど」

「もし普通に出てくるなら、それはその縄張りのボスか、小さ過ぎてあまり感知出来ないような。さっきの白鰐みたいに集団で襲う奴ら」


 あー、白鰐あれはいかん。軽くトラウマです。薄々気がついていたけどレオナルドは物凄く強い熊なんだ。


「まぁ、さっきみたいに俺が居なくなるとミッファを狙って魔獣が沸く。昼は獣は出てこないから夜は怖かっただろう」

「旅にいきなり出された初日が1番怖かった…」

「そうだよな」


 この会話はレオナルドの片腕に抱っこされて移動しながらなんですけどね。


「あと、一応このあぜ道でも人が往来する場所は魔導が張られているんだ。さっきのは道から外れて魔導の無い場所に休憩スペースを作ったからなぁ」

「魔導ってよくわからないんですが、結界みたいな?」

「ミッファよくいままで無事だったな…まぁ簡単に言えば結界だな。人間の縄張りだ、これは魔獣にしか効かない代わりにこの道を通るなら安全だ」


 道にそんな効果があるなんて知らなかった。あぜ道の両脇には可愛い野草が生えている。奥にある木々も色はあれだけど、形状は普通に見える、ここはやっぱり異世界なんだ。


「ミッファの落ちた泉の村は確か隣村だったっけ」

「うん、1日歩いた所の」

「…そうか」

「なんで?」

「いや、何でもないちょっと気になっただけだ」

「ふーん」

「ミッファ、王都まで俺が連れて行くけどいいか?」

「あ、うん。私もレオにお願いしようと思ってた。レオありがとう」


 レオは、また私がおしっこチビるくらいの笑顔をしてた。瞳孔が開ききってて口はグワァと広げられ歯は剥き出し。し、心臓に悪い。人間なら満面の笑みなのかな。


「この分だと夕方までには次の村に着きそうだな」

「今日も宿屋に泊まれる、嬉しい」


 そのままレオナルドの腕に乗せられたまま穏やかな時間が流れる。


「そう言えば」

「なんだ?」

「私、スキルは使えるけど、物によっては昏睡するのがあってどうにかならないのかな?」

「スキルは使うと体力だったり魔力を消費するんだ、昏睡するのは魔力を消費している。まぁ本人と相性が良いのは体力消費の方だな」

「魔力!」

「そうだ、さっきミッファが使ってくれた治癒はミッファの体力を使っている。走ったり飛び跳ねたりしてるようなもんかな。使い過ぎると倒れるぞ」

「なんか、わかりやすい」

「魔力はミッファのような異世界の人間はこっちにきて日も浅い。だから魔力が貯まってないんだ、それでスキルを使うもんだからいきなり昏睡しちまう。ただ使いこなせると魔力スキルは凄まじく伸びるけどな」


 ふとレオナルドは思い出したように付け加えた。


「ただ人によっては魔力の貯蔵庫が少ない人間もいて、毎回昏睡する奴もいるからそんな時は諦めた方がいいだろうなぁ」


 謎が解けた。レオナルドってなんでも知ってるし凄いや。なんであの長閑な村に居たんだろう。


 レオナルドが突然止まる。

 気がつくと辺りには濃い霧が立ち込めていた。は?さっきまで長閑な日和の午後だったのに。レオナルドの全身の毛が逆立ってる。


「不味いな…」

「うわあ」


 これは私でも分かるくらいの不自然さ。

 背中がゾクゾクしてピッタリとレオナルドにくっついた。


 ひたひたと裸足の足音が聞えてくる。遠くなったり近くなったり。

 レオナルドは私を左手に抱えこみ腰を落す。自由になった右手をブンッと振る、凄まじい風圧が前方の広範囲の地面ごとえぐり吹き飛ばした。前方の霧が一瞬だけ晴れたが直ぐに視界が白くなる。

 

 ひたひたひたひた…ひたひたひたひた。


 遠くなったり近くなったりと、モスキート音みたいでイライラする。クンッとレオナルドは鼻を鳴らし目を閉じて集中する。


 ひた。


 音が止まった瞬間レオナルドはカッと目を見開き、右斜めに下から上に向かって手を振り上げた。

 風圧が渦を巻いて地面を剥がし、多くの巨木を圧し折り、あっという間に巨大な竜巻が出来上がった。その暴力的なエネルギーたるや圧巻の一言。

 竜巻から断末魔が聞えてくると霧が晴れた。


 エグい…。レオナルド半端ない。


 一瞬で目の前が爆撃をうけたような有様に、竜巻がゆるくなり天空に吸い込まれ消えると、土の破片がパラパラと雨のように降り注ぎ、巨木の残骸が落ちてくる。


 そして、最後に人が落ちて来た。



「びゃああああああ!」


 ドンっと最後に落ちて来たのは明らかに数日前には亡くなっているだろう死体だった。

 血が無くなった灰色の肌に後からついただろう傷からはぱっくりと切れているだけで一滴の血も出ていない。


「不死者だったか…」

「ふ、不死者?」


 初めて見る死体にガタガタと震えてしまう。


「稀に無残に殺されたり死際に恨みを強く持つと不死者という種族になるんだ」

「種族…」


 マジマジとその不死者の死体を見ると、自分の記憶に何かが引っかかった。


「種族と言っても子を成すこともない、自我を持つ者は長く活動出来るが、自我を持たないとこんな風に無差別に襲う化け物になる」


 レオナルドは熊の手を振り上げる。


「自我を保ち更に力が強大な者は不死王や始祖と呼ばれる者になり、自分の意思で不死者を増やせる」


 そのまま不死者の頭めがけて腕を振り下げた。ブンッと音がして巨大な風圧は不死者の頭をスイカのようにぐしゃりと潰す。


「そして不死者は頭を潰さないと消滅しない」


 頭を潰された不死者はサラサラと砂になり、砂は風に飛ばされていった。

 

「最後は砂になる」


 霧は晴れいつものあぜ道が見えた。

 そして思い出した、今の不死者の顔。変わり果ててたけど会ったことがある。

 …彼は勇者だった子だ。



◇◇◇◇



「どうしたミッファ?」

「ん、さっきの子」

「不死者か?」

「うん、レオと会う前に見た事ある」

「そうか…酷い目にあったんだろうな」


 もしレオと会わなければ、私も不死者になっていたかもしれない。そう思うと、元の世界と根本から違う事にショックを受けた。


 

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