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魔王、帰還す〜追放された傭兵は圧倒的な機動力と火力をもつ機体を駆り戦場を支配する  作者: 夜切 怜
強化計画

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懐かしの味

「……レイジ君。お帰りなさい」


 レイジが帰宅すると、イラ一家の馴染み客であるカンノナミが居間にいた。

 家族ぐるみの付き合いだ。


「ただいま。ナミ姉」


 物静かな少女は柔らかに微笑んだ。

 

「サイダーありますよ……」

「お、ありがとう」


 レイジがサイダーを飲んでいると、まだ幼い義妹チヒロも帰宅する。


「ナミちゃんだ! ただいまー」

「……おかえりなさい。チヒロちゃん」

「親父たちはまた飲み会か?」

「……はい。今日の夕食は私が作りますね」

「やったなチヒロ!」

「うん! ナミちゃんの作るお好み焼き大好き!」

「……ふふ」


 手慣れた手つきで台所に立ち、キャベツを千切りするナミ。

 エプロンは自宅から持ってきている。


「……先にこれを食べてね」


 とん平焼きと牛コウネの鉄板焼きが一品料理として出される。


「これこれ」


 レイジはこの一品も好きだった。家でお好み焼きを食べる機会は多かったが、料理担当はレイジで一品は牛すじだ。父親用の酒のつまみだ。

 この生活が唐突に終わるなどレイジは思いもしなかった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ナミとチヒロとユノの三人が協力して厨房に立っている。


「はい! お義兄様。ナミ姉ちゃんのとん平焼きと牛コウネの鉄板焼き。牡蠣料理だよ」


 隻翼とベルゼブブに一品料理が配膳される。


「レイジお兄ちゃんかお義兄様か統一しろ」

「気分の問題だからね?」

「あはは。チヒロ様はいつもそんな感じですねー」


 牛コウネの鉄板焼きを口にする隻翼。

 

「ほう。色々とあるもんだな。俺は少し機材をもってくる」

「摂るのはいいが、自分以外映すなよ!」

「そこらはプロだ。任せろ」

「悪魔が配信のプロを名乗るとは世も末だな」


 そんな他愛のないやりとりをしていると、ヒロシマのお好み焼きが運ばれる。

 ヒロシマ特有のマツカゼソースだ。カンサイのお好み焼きはクロヒゲソースを使う場合が多い。


「相変わらずのボリュームだ。さて」


 切れ目にそってお好み焼きの切れ端を口にする隻翼。

 幼少の頃が思い出されて、少しだけ遠い目になった。


「懐かしいでしょ!」

「懐かしいな。美味い」


 隻翼はしみじみと呟き、無言で料理を口にする。

 ナミの腕前は一切衰えていない。

 ふと遠い目をする。


「故郷の味は再現できるが、この味は無理なんだよな」


 しっかり味付けされた麺。ほどよく重ねられた四段階層のお好み焼き。混ぜ焼きと呼ばれるカンサイのお好みは作ってもヒロシマのお好みを作ろうとは思わなかった。

 作る気になれなかったといったほうが正しいのかもしれない。


 携行の録画機材のセッティングをしていたはずのベルゼブブがいつの間にか隻翼と一緒になってお好み焼きを食べている。


「配信はいいのか?」

「カインと食うときに配信する。お好み焼きパーティはさぞエル勢力が妬むだろうさ」


 ベルゼブブは下品な笑いを漏らす。


「天使を模した連中は今や味覚がある。妬み、嫉妬させる。『人はパンにのみ生きるにあらず』だな」

「いや、それは神の口から出る一つ一つのことばによって生きるものである、だろう。精神的な充足を刺す言葉だ。物欲に置き換えるなよ」

「肉体を持ち、快楽を知った。いわば禁断の実を口にした連中は欲求には逆らえないのさ。精神的な充足は欲求を満たすことで得られるんだよ。奴らにエイトリはまさに(エイトリ)を喰らって堕天したのさ」

「悪魔の思考だな」

「悪魔王だからな?」


 隻翼はふと気付く。


「ん? 録画されていないか?」

「切り忘れたか。ふん。あとで消しておこう。冷める前にお好み焼きを完食したい」

「携行可能な鉄板の持ち込みを考えるか」

「お兄ちゃん。ナミ姉が欲しいつまみないか聞いているよー」

「鉄板焼き幾つか頼むと伝えてくれ」


 鶏肉の炒め物や海鮮焼きが運ばれてくる。


「相変わらずナミ姉の料理は美味いなぁ」

「だったらどうして連絡しないかなぁ?」


 ナミがレイジを必死に探していたことをチヒロとユノは知っている。

 彼女たち自身も捜索していたのだ。


「ん。まあ迷惑をかけると思ったのと、気まずいのがあったな」

「そんな対応だから反応弾を撃ち込まれるんだよ!」

「聞いたのか。あれには驚いた」

「レイジさんとヴァーリじゃなきゃ即死したと思うよ?!」


 呆れたユノが嘆息する。


「私もまた食べたいんだから、たまにはナミ姉ちゃんにお願いしてよね」

「そうだな。おっと。逆に俺も造らないとな」

「そうだねー。レイジさんはナミさんにふるまうべきだと思うよ」

「エイルとロズルもいいって言ってたからさ」

「聞いたのか!」

「ヒロシマのお好み焼きとか、一品ものは全部お供えしたよ。その時聞いてみた」

「なんでそんなに仲がいいんだ」

「女の連帯感は怖いぞ、隻翼よ」


 ベルゼブブが余計なアドバイスをしてくれる。


「どこぞの誰かさんが朴念仁だからじゃないかなー」


 目を逸らしながらユノが小声で呟く。

 悪態をつくチヒロと言い返す隻翼。

 

 ベルゼブブは満足そうにお好み焼きを食べていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 試食というよりは宴会に近い夕食が終わった。

 洗い物担当は若い衆がやっている。これも修業だ。


「ナミの姐さんは休んでください」

「……ではお言葉に甘えて……」


 ナミの携帯端末が鳴り、表示を確認する。

 ナミはその足で、アルフロズルの情報室に向かった。


 情報室には先客がいた。ベルゼブブだ。


「よう。。ホーカー【ツバキ】。あんたがこの戦車に乗っているとは思わなかったぜ」

「お久しぶりです。ベルゼブブ。どうやら黙っていてくれたようで感謝します」

「お前を敵に回してもいいことはないからな。超越知能を反応弾で吹き飛ばした女はお前ぐらいだ」


 ふっと笑うベルゼブブ。


「確かに私は過去、あなたの依頼を受けた。仕事はやりましたよ」

「そうとも。きっちり仕事はこなしてくれた。だからな。ま、取引だ。やましいもんじゃない。内容はエイルとロズルが知っているものだ」

「取引? エイル? ロズル?」

『この悪魔は絶妙なところをついてきます。気を付けてナミ』


 エイルが警告を発する。


『私も抗うことなど到底無理でした』


 ロズルが無機質ながらも無力感をにじませる。


「何をもってきたというのです?」

「俺の取引は誰も不幸にさせないというのがモットーでね」


 ベルゼブブは小さなデータカードを取り出す。


「隻翼の横顔データ集。さっきお前の手料理を食べながら昔を懐かしんでいる姿ももちろん撮影してある。――お前は欲しくないのか?」


 ベルゼブブはいつになく邪悪な笑みを浮かべる。


「――ッこの悪魔! 欲しいに決まっている!」

「だから取引だ。ツバキ」

「言いなさい。あなたのことだからお金ではないでしょう? ましてや隻翼を害することではないはず」


 その点ではナミはベルゼブブを信頼している。悪魔は契約を重んじる。

 大義名分によって解釈が都度変わるEL勢力より、よほど信頼できる。


「俺はもう一つ。お前の裏の顔を知っている。お前。――だろ?」


 ベルゼブブは聞き慣れない単語を発した。

 ナミは平然としている。


「――それがどうかしましたか? そうですよ」

『ナミ。無理をしてはいけません。決めるのはあなたです』

『無理強いはできません』

「大丈夫ですよ。エイル。ロズル。私が欲しかったものはすべてこの艦にあるのです。このベルゼブブの協力も含めてね」


 ツバキは片目を隠したまま不敵に笑う。


「俺の力も必要か。貪欲な女だ」

「要りますとも。レイジ君にはあなたは必要です。ですから私への脅しは意味ありませんよ?」

「脅すなんて滅相もない。――俺の条件はこれだけだ。エイル。ロズル。そしてツバキの協力が必要なのだ」


 ベルゼブブは計画を語る。


「いいでしょう。応じましょう。確かに誰も不幸にならない取引ですね。しかし盗撮はよくありませんよ?」

「事前許可はエイルとロズルに取ってある。取引相手はこの場にいる三人相手のみだ」

「負けましたか……」

『ごめんなさい。負けました』

『抗うことなどできませんでした。データとしても貴重なものです』


 二人は盗撮を許可したことを認めた。


「こほん。はい。認めます。私としても是が非でも欲しいものです。プリントしまくって部屋中に張りまくります」

「ストーカーの部屋みたいになるからやめろ!」

「いいんですよ。レイジ君が私の部屋に来ることはありませんし」


 さすがに悪魔も良心の呵責を覚えたのか、ナミの行動を阻止しようとしていた。


「拗ねるな! 女なら色仕掛けで落とせよ!」

「エイルとロズルにすら手を出さなかったあの男が私なんかに……」

『おかしいですよね。ナミは黒髪ロング。清楚。幼馴染み属性。てんこ盛り。肉体があった私でもあやういのに』

「ヤンデレ属性があったらマイナス要因だからな? 手を出したら破滅だ」

『北欧の神々は全員破滅属性持ちみたいなもの。私たちにそこまでの魅力が足りなかったという点では認めざるを得ません』

「ああもう! お前ら本当に面倒くせえ! うじうじしているとマジでリリス呼ぶぞ! こら!」


 ベルゼブブもさすがに切れた。


 遠い場所でアルフロズルの状況を察知している者がいる。


『俺のストレスは減ったが。あの悪魔王とは早めに連絡を取ったほうがいいかもしれん。使える奴だ』


 ヴァーリの本体は、ベルゼブブとどう接触しようか思案しているところだった。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


実は作者は牛コウネ食べたことがないんですよ。中部は広島のお好み焼きに侵食されているのに何故……

というわけで次回のお好み焼き回に備えて下準備会です。

オタ○クソースや大○ソースとは書けないので、能面から取りました。自宅でお好み焼きを作る場合はオタフ○ソースです!

サイダーは普通名称化しているので問題ないはず。


ナミとベルゼブブは動かしやすいですね。

ヴァーリの気苦労も減ったようです。悪魔とはいったい。いや、しかしどう考えても天使のほうが怖いんですよね。すぐ軍勢作るし滅ぼすしで。

というわけで次回はカインとお好み焼き回です!


応援よろしく御願いします!

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― 新着の感想 ―
日本ではシードルの初期に色々あった上に英語圏でレモンライムとかレモネードと言われるものにサイダーと名付けちゃったしね いまやノンアルの透明な炭酸飲料の総称と化してるし それはそれでハーブ類を使った褐色…
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