有名配信者「美食野郎のグルメ旅」
「前向きな回答だな! ますます気に入った。確認してくれ。ダメなら諦める。――この施設とヴァーリを繋げた。ヴァーリ経由でアルフロズルと話せるぞ」
隻翼の前にディスプレイが出現する。ヴァーリのディスプレイを模したものだった。
触れるとコックピット同様触感もある。アルフロズルと通信を試みた。
『こちらロズル。緊急通信を受信しました。何が起こりましたか?』
「端的にいおう。超越知能ベルゼブブと遭遇した。アルフロズルの主砲を修復するヒントをくれた」
『なにをどうしたらそんな事態になるのでしょうか?』
『こちらエイル。私も経緯の説明を求めます。無人地下工場の地下には超越知能ベルゼブブがいたということでしょうか』
「地下にいたのは超越知能アスモデウスだった。本人の要求通り背徳メシを作ったら、助っ人を呼んでな。ベルゼブブが来たというわけだ」
「はじめましてかな。ロズル。エイル。君たちの大切な住人には指一本触れていない。安心したまえ。そも、俺たちには因縁も敵対の歴史もないのだから当然だろう」
いつの間にか背後に回っていたベルゼブブが、二人に声をかけた。
『悪魔が隻翼に何をそそのかしたのでしょうか?』
「聞いただろ。君の主砲修理をそそのかしたのだよ。辺境星系ノドの惑星カイン。あの場所ならアルフロズルの兵装も修復可能なはずだ」
エイルがロズルに変わって問うた。
『確かにあの星系ノドならば可能性はあるはず。しかしあなたがそこまで隻翼に肩入れする理由がわかりません』
「あるとも。EL勢力の敵対中だろう?」
『取引の対価に何を要求したのです?』
「俺のアルフロズル乗車だ。悪い取引ではないと思うがね」
「――あなたの戦術意図を看過いたしました。危険は少ないと推測します。ロズル。乗車を認めては?」
『隻翼。あなたの意見は?』
「辺境惑星ノド。見知らぬ星系に旅立つなら案内役はいてもいいはずだ。殺す気があるなら生身の俺なんぞ、とっくに殺しているだろう?」
『たやすく殺せるでしょうね。――隻翼が生きている。それが何よりの証拠でしょう。ベルゼブブ。乗車を認めます』
「交渉成立だ」
ベルゼブブが豪快に笑う。
取引を交わす瞬間こそ、最高に楽しいものだからだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アルフロズルの一室に、ベルゼブブ用のスタジオが用意された。
「銀河系に住むの者どもよ。よく聞け。俺はかの屋台集団、隻翼一家と旅をすることになった!」
カメラの前で不気味に笑うベルゼブブ。
「まずは前菜といこう。ヘイジ君。例のものを」
「どうぞ!」
ヘイジがベルゼブブのために料理を運ぶ。
「彼等はかの日本の伝統を受け継ぐ一流のシェフでもある。今日は俺のために厚切りカツ丼を用意してもらった」
スタジオの撮影現場周辺には見学者がいる。
「聞いたことがあるぜ。大人気配信番組【美食野郎ベルゼブブのグルメ旅】だろ! 俺達は生で見ることができるのか!」
「うっそ。あの人マジのベルゼブブ? うちの若頭、どこからあんな大物を引っ張ってきたのよ」
若者や女性陣も知っているグルメ配信者だ。
隻翼が隣にいるセンノスケに聞いた。
「ベルゼブブは有名人なのか?」
「美食野郎ベルゼブブ。今若者に大受けしている配信者ですぜ」
「そうか…… あいつ一応、超越知能なんだが」
「正体にびっくりですね。食に関する造詣も深い男です」
ベルゼブブが箸を自裁に操り、とんかつを一口食べてはリアクションをする。
味噌汁をすすり、如何に美味しい料理であるかこれでもかとアピールしている。
「厚切りカツ丼を用意させていただきましたが、あの大男。苦も無くかぶりつきますね。いい食べっぷりです」
厚切りカツ丼の料理人はセンノスケだったようだ。
「暴食を司る超越知能だからな。とくに暴食の逸話はないらしいが……」
小動物程度ならそのまま食ってしまいそうな大男だ、分厚いとんかつを口に放り込み、噛みしめる。
実に絵になる。
スタジオの片隅でハッピートリガーが同じ厚切りトンカツを用意してもらい、至福の表情でむさぼっている。
「……レイジ君…… エイルちゃんが呼んでいる……」
「わかった。すぐに向かう。ところでナミ姉。美食野郎ベルゼブブを知っているか?」
「……もちろん……」
ナミまで知っていたとなると、ますます超有名人だった可能性が高い。流行にうといことを隻翼は痛感した。
隻翼は別室の制御室に向かう。
「どうしたエイル」
『ホーカーズビューローよりEL勢力のラファエル、ガブリエル、ウリエルからクレームが入ってきました。どうして悪魔に美食を食わしているのか、という内容のクレームです』
「知るか。天使も悪魔もない。お前らは超越知能だろう」
『仰ることはもっともです。そのように回答します。ベルゼブブの狙い通り、実に効果的な精神攻撃です」
「ん? クレームは想定内だったのか?」
『美食野郎ベルゼブブは私も知っています。彼の狙いはただただ美食にありつくため。そしてEL勢力に美食を見せつけるため。私たちは彼を通じて隻翼一家の屋台料理を銀河系に宣伝できる。彼と私たちの利害は一致していたのです』
「そうか……」
ベルゼブブが意外と有名人だったことに隻翼は軽くショックを受けていた。
『彼の目的は食のみであるならば、敵対関係も発生しません。辺境星系ノドの座標もすでにデータとしていただいており、実に協力的です』
ロズルからも協力的という評価を受けている。
悪魔とは何なのだという自問に駆られそうになる隻翼だった。
「トラブルはなさそうならそれでいいんだが」
隻翼は何かを忘れてはいないか、少し心配になった。
『アスモデウスからも連絡がありました』
「あ。アスモデウス」
あという声が出てしまった時点で、すっかり忘れていた証拠だった。
『恨み言がきていますね。アスモデウスは地下工場と紐付けられている状態。乗車は無理だったでしょう』
「次いったとき、何か作ってやるといっておいてくれ」
『承知いたしました』
とりあえず雑用を終えた隻翼はスタジオに戻る。
固めのレトロ風プリンを食しながらこれも手振りを交えて味を実況している。
「思わぬ拾い物だったな」
隻翼は苦笑を隠さない。料理通のベルゼブブと隻翼一家の相性はいいようだ。知識を惜しみなく伝え、容姿とは裏腹に要望を行う場合も低姿勢で紳士的だ。
これで隻翼一家の名もさらに売れるだろう。
あとはベルゼブブの示した座標に従い、辺境惑星ノドに乗り込むのみだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
厚切りトンカツは日本橋で食べました。次は池袋の有名店に行きたいですね!
ロズルとエイルはベルゼブブとは敵対関係でもなく、女性問題もとくに発生せず、かつ有名配信者ということでさほど警戒はしなかったそうです。
利害関係が完全に一致しているので呉越同舟ですらありません。
両者の関係性は宣伝したい料理人と美食を食いたいレポーターです!
EL勢力はブチキレています。また争いの火種が…
そうそう。前回東京に取材旅行にいったとき、皆様は「美食戦隊薔薇野郎」というゲームの製作会社のウインズ様ともお話できました。ジークラフト様と同じくアークザラッドの会社でもあります!
いつもお世話になっているマグマスタジオ様もアークザラッドや超兄貴スタッフが多くいらっしゃますしね。
美食野郎、という単語がふと脳裏をよぎったのはそのせいかもしれませんw 取材が役立ちましたね!
応援よろしく御願いします!




