悪魔と相乗りをする気はあるか?
「カナン星系とはまた違うところだな」
「罪人の流刑地だからな。呪われ、忘れられた流刑地だ。神は殺人の罪によって人々が追放されたカインを迫害しても死なないよう、烙印を押したといわれているな」
ベルゼブブが説明を加える。
「辺境星系ノド。太陽系から見て、かじき座の方向だ。約百光年先に赤色矮星ノドがある。お前の目的地はノドを中心に公転している惑星だ」
「目的地か。その惑星にも名はあるんだろう?」
「あるぞ。お前の目的地である惑星カイン。そして敵対している惑星アベルだ」
ベルゼブブは隻翼の若干ひきついた顔を見て嗤う。
「一緒の星系にするなよ」
「兄弟だからな。惑星カインがスーパーアース。地球の1.2倍程度の大きさをもつ。惑星アベルは地球よりわずかに大きい惑星だ。両者は常に争っている」
「争いの原因はなんだ」
「惑星カインの超越知能カインが、惑星アベルを侵攻して超越知能アベルを殺したのだ。しかしアベルは破壊されても、その端末たちは生き残りカインの破壊を求めている」
「おとなしく神に召されろよ……」
「聖書の人物ではなく、あくまで超越知能だからな。エノク書ではアベルの魂はカインとその末裔の死を願い神に誓願し続けているとされている。復讐を、そしてのちに魂の審判者にまで格付けされた」
「そんなところまで倣うな!」
「そういうな。伝承を学習してこその超越知能だ。ついでにいうとカインは悪魔とイヴの子という伝承もあるが、アベルは天使ともされる。つまりカインは俺達寄り、というわけだ。話次第ではお前に手を貸してくれるだろう」
ベルゼブブは葉巻の煙を吐いたあと、含み笑いをする。
「惑星カインには何があるんだ?」
「超大型宇宙艦建造施設がある。太陽系の鉱物資源だけで今ある居住艦を賄えたと思うか?」
「そんな場所が……!」
「禁忌とされている場所だからな。知らぬのも無理はない。せっせと罪人となった人間を送り込んで、ノド星系も多くの人がいる」
「罪人か。きっとカミ系列やエージル系列のスフィアにいた人間もいるんだろうな」
多くの人間は第二次太陽系戦争で行方不明になっている。
捕虜になったという話も、殺されたという話も聞いたことはない。超越知能にとっても人類削減が目的ではないからだ。
「よくわかったな。EL勢力以外は異端扱いだからな。老若男女問わずノド星系送りになった。味方になってくれる人間もいるかもしれん」
「宇宙艦建造施設とは、何か伝承があるということか?」
第二世代ゲニウスはとくに、モチーフになった伝承に強く影響を受ける。
火星のテュールなどそのものだ。
「カインはノドで町を作った。カインの子孫のトバルカインは鍛冶師の祖ともいわれる。レメクは戦士だった。物騒な一族ということだ」
「カインの子孫はそういう道を辿ったのか」
「カインは農夫だったが、神の呪いによりカインが耕す地はカインのために実りを結ぶことはない、とな。つまりはカインとその子孫は殺しの知恵で狩猟するか、職人でもなるしかない。カインの名を冠した超越知能が宇宙居住艦や戦艦を作るのは道理だ」
「確かに。しかし旧約聖書由来の超越知能が、アルフロズルの主砲を修復してくれるだろうか」
「問題はそこだが、要求があれば向こうがいってくるだろう。断る理由も今は見当たらない」
「俺はEL勢力と敵対しているんだが、問題はないのか」
「サバオトたちは第一世代ELを偽りの神だと決めつけ破壊した。つまりカインにとっては父殺しになるわけだ」
アスモデウスの笑みが深くなる。
深淵を覗くかのような、見る者を飲み込む笑みだ。
「俺にとっても、な。第一世代ELを疑神化した者たちこそ人間であり、ELは常にシステムであり続けた。第三世代EL勢力こそ、ELの座を奪ったに等しい」
「ならば神の反相であるお前たち悪魔という超越知能はどうして生み出されたのか」
「試練だよ。よくいるだろ。悪役貴族とか、悪役令嬢とか。俺達は悪役精霊であり、悪徳教師だな。誘惑はするが、堕落するのは本人次第、神のご意志というわけだ。平和すぎても人間は堕落する」
「聖書の役割に準じる、と?」
「それだけじゃないな。法規を守るための悪役、お前の馴染み深い言葉でいえば獄卒だな。そして紛争を起こすための俺達だ。完全な統治はいずれ不満も溜まる。人間が自立するためには、適度の脅威が必要だ。その脅威として紛争を起こしていた敵役としての悪魔だったのさ」
「さっきから過去形だな? いわれてみれば近年悪魔の名を冠した超越知能が暴れたとは聞かないが」
「今この世に悪は満ちている。悪役を必要としなほど、な」
深淵そのもの嗤う。――言い知れぬ恐怖が隻翼を襲った。
EL勢力などよりもよほど本質的なものを、この超越知能は持っている。
「そそのかす必要すらない、か」
「ジーンを殺したものはなんだ? 悪魔か? 違うだろう。人やEL勢力の権力闘争――悪意だ」
ベルゼブブは隻翼とジーンのことまで把握している。当然だろうとは思う。
「言えている。俺はやはり異教の神や悪魔のほうが性に合う」
「奇遇だな。俺もそう思う。そこで相談だ。――悪魔と相乗りをする気はないか?」
「なにをいいだす?」
「俺をアルフロズルに乗せろといっている」
思わぬ要求に隻翼は一瞬固まる。
「――俺一人では判断がつかん。アルフロズル本人に確認したい」
隻翼は見知らぬ星系にいく場合、案内人はいたほうがいいと判断した。
まずは本人たちに確認を取るのみだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
何か合体して変身しそうな勧誘ですが、しません!
アスモデウスさんが寝込んでいる間にこっそりアルフロズル乗車を画策したベルゼブブ。
一枚上手そうですね!
アルフロズルたちの判断はいかに。
応援よろしく御願いします!




