背徳シェイク
「アスモデウス! 生きているか!」
そういって大男が部屋に入ってきた。
はげ頭にサングラスをしているいかつい姿だ。
「待っていたぞ。ベルゼブブ」
思わず破顔してしまうアスモデウス。
「あんたがベルゼブブか。よろしく」
隻翼も軽く会釈する。
「どういう状況だ?」
「頼む。このパフェを食べてくれ。お前が来ると信じて、口にしていない」
「パフェか。パフェ……?」
巨大なタワーを見る。一メートルの高さはあるだろう。
「太陽系記録でも目指していたのか?」
「アスモデウスは背徳的な食事をご所望だったからな」
「SNSにアップしたハンバーガーとカレーうどんだったか」
「残すなとうるさいのだ」
「その意見には賛成だ。仕方がない。俺が食ってやる。おい、魔王。俺の分のドリンクを頼む。熱いのがいいな」
「悪魔王たちに魔王と呼ばれる筋合いはないんだが……」
「こんなパフェを作る奴は魔王でいい。俺が認めてやる」
「ベルゼブブはサタンに次ぐ実力者、序列三位だ。仲良くしても損はないぞ」
アスモデウスがベルゼブブの地位を説明する。
隻翼は口にはださないが、正直なところ仲良くなりたいとは思えない体格だ。
「まあいい。アスモデウス用に作った背徳シェイクを用意する。今度の量は普通だ。チョコレートアイスを中心にピーナツバターと牛乳、砂糖がたっぷりだ。トぶぞ」
「俺は飲まないからな。そんなものを飲んだら俺の内臓がトぶんだってばよ」
「待て。確認しよう。そのシェイクのカロリーはどれぐらいあるんだ」
即座に拒否するアスモデウス。
不安な材料に、思わず確認するベルゼブブ。
「二千キロカロリーを少し超すぐらいだな」
「お前、俺を殺す気だったんだな」
「悪魔を過食で殺すとはやるな」
アスモデウスがしみじみと呟き、ベルゼブブはいたく感心している。
「なに。アスモデウスはともかく、かの暴食のベルゼブブならいけると踏んだ」
「暴食だからといって無尽蔵の胃袋をもっている逸話はないぞ? 普通の紅茶で頼む」
七キロのパフェに二千キロカロリーのシェイクなど甘さで死んでしまうと戦慄するベルゼブブ。
「了解した」
隻翼はアッサムティーを準備して煎れる。あえて甘めの紅茶である。
ミルクを添えてバルゼブブに提供した。
「暴食王ベルゼブブ。ハンバーガーとカレーうどんが食べたいなら同じものを作ろう」
「魔王よ」
「序列三位の悪魔に魔王呼ばわりは心外だ」
「機械の内蔵とはいえ限度というものがある。覚えておけ」
「そうか」
隻翼は作る方が楽しい男である。
少し残念だった。
「うむ。しかしパフェは美味いぞアスモデウス」
「カレーうどんにとろろご飯さえなければな! 俺も食べたかったぞ!」
「お前と一つのパフェを分け合うのはごめんだがな」
「同意見だ。パフェは一人で食うに限る。リリスでも呼ぶか」
「やめとけ。面倒なことになる」
どうやら女性型の悪魔王もいるようだ。
リリスという呼称は隻翼でも知っている。呼ばないとなると、癖強の性格をしている可能性が高いのだろう。
「あのカレーうどんはそこがいいんだ」
「地獄の釜の蓋とはとろろのことだったんだな」
「なんてことをいうんだ」
「ところでお前達はどうして食事をしてくつろいんでいるんだ。俺がいていいのか」
ベルゼブブが聞いた。
アスモデウスのヘルプで飛んできたが、経緯までは聞いていない。
「こいつはEL勢力に喧嘩を売っている。構わんさ」
「そうだな。背徳メシを作ったら情報はくれるらしいから提供した。それだけだ」
「そういうことか。ウリエルが魔王が呼んでも来ないとぼやいていたからな」
「俺はあいつの部下と一度戦闘しているんだが……」
「天使の名を冠した超越知能なんぞ身勝手なものだ。その点悪魔は契約を重視するからな」
「待て。EL勢力の名を冠した者たちは契約を重視するだろう」
「原則としてはだな。神話を紐解いて見ろ。ほとんどの場合、人間側が契約違反して神が罰している」
「悪魔は誘惑するものだしな」
「俺のモチーフなんぞ、後付けで色々盛られた上にハエの王だぞ。イラストはどうみてもスズメバチに近いのに!」
「神も魔も盛られるものだからな…… スズメバチからハエは嫌だな。どうだ。パンケーキでも追加するか」
「やめろ。俺の内臓も壊れる。人間なら致死量だからな? 俺は背徳メシなぞ要求していないぞ」
「暴食を司るというベルゼブブなら……!」
隻翼は何故か期待に満ちた目をしている。
「何を期待している。やめろ。お前はなぜEL勢力に喧嘩を売ったんだ」
これ以上の過食を防ぎたいベルゼブブが強引に話を変えた。
「第二世代超越知能が保有していたエイトリという物質を取り戻すためだ」
「エイトリか」
「さすがに知っているのか」
「当たり前だ。俺達と違って受肉はもう一段階、上位の事象だからな」
「上位の事象とはどういうことだ?」
「受肉はより尊いものだ。俺達のような機械の肉体を持つことを具象化と呼称するならば、エイトリを応用したEL勢力の肉体は人間の肉体よりも上位に位置する」
「寿命は人間より長いから上位になるわけか」
「超越知能なら肉体を喪失すれば作り直せばいい。エイトリは彼らにとっても奇跡同然ともいえる。それを奪い返すとなると相応の戦力が必要になるわけだが…… だからこの地下工場にきたのか」
「少しでも戦力の底上げをしたい。ヴァーリがあるとはいえ、俺の乗機だけではなんともならん」
「太陽の戦車アルフロズルにヴァーリか。個人にしては十分すぎるほどの戦力ではあるが、まだ不足か」
「不足だ。逆にたり得ると思うか?」
「いいや。思わん」
ベルゼブブはにやりと笑う。
「とはいえホークをいくら改良したところで限界があるだろう」
「レガリアやアーティファクトレベルの兵装ならどうだ。エイトリを奪って逃走するぐらいは可能だろう」
「貪欲な魔王だ」
くぐもった笑いを漏らすベルゼブブ。
「面白い男だろう?」
「そうだな。料理の腕前も確かだ」
隻翼は目を見張った。
ベルゼブブはいつの間にかパフェのほとんどを平らげていたのだ。
「ではレイジ。約束のものだ。これをもっていけ」
すっと奇妙な装飾の指輪がテーブルの上に置かれた。
「その指輪自体には何の意味もない。ヴァーリに取り込むといい。この場所への直通エレベーター使用権利だ」
「それは助かるな」
「お前の仲間も使えるぞ。しかし、だ。ヴァーリ以外の使用は勧めない。六階からは難易度が桁違いだからな。その分手に入るパーツは優秀だ」
「それは夢がある。感謝するアスモデウス」
「そうとも。全フロアを攻略してみるがいい。レガリアやアーティファクト級のパーツも見つかる可能性もあるだろう」
「挑戦する価値はあるな」
そのやりとりを聞いていたバルゼブブが口を挟んだ。
「魔王。もう一つのやり方はどうだ」
「もう一つのやり方?」
意味ありげなベルゼブブに、隻翼は興味が沸いた。
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まさかの背徳ドリンク回。
この背徳ドリンクもアメリカ発。日本では某コーヒーチェーンが約1000キロカロリーのドリンクを販売したこともありますが、期間限定でした。
続きがないところをみると……?
ハンバーガーはその後、アメリカで2万キロカロリーの「ハートショック」というそのまんまなラスベガスのハンバーガーショップで二万キロカロリーということでした。
何人か死人で出ているとのことで、アメリカに行く方は気を付けてください!
新キャラ超越知能ベルゼブブ君。
以外と小食です。
ハエのイメージは地獄辞典の挿絵で、スズメバチのようなハエとして描かれたこと。
神様としてはイスラエルの東、エクロンの町で崇拝されていたバアル・ゼブル。
語源的に「糞」「空を飛び回る者」という意味もあるからということでしょう。
ルシファーの副官になったのは16か17世紀ぐらい。だいたいこのあたりで盛られますね。
ちらっと名前の出たリリスはメソポタミア、紀元前700~1000年頃の文献に確認でき、8~10世紀あたりでアダムの妻になったとのこと。
出番はあるかなあ……
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