悪魔王顕現
睨み合いのような位置取りが続く。フロアガーディアンは牽制にビームを放つが、ヴァーリはシールドで防いでいる。
ヴァーリが先に仕掛けた。
移動用ではなく突進用の急加速でティルフィングを振るう。
フロアガーディアンは大型の盾で受け止めるが、ティルフィングはその盾を切断する。
「反応がいいなっ!」
振りかぶった刀をそのまま振り下ろす。フロアガーディアンは間一髪避けたが、胸部に大きな切れ目が入った。
盾を捨て、右拳で殴りかかるフロアガーディアン。
ヴァーリはその右腕ごと切り裂いた。
「さすが天使だな」
天使は格闘の逸話も多い。ネフィリムも格闘が多かった。
残り左腕部だけになったフロアガーディアンの首を刎ねるヴァーリ。
頭部を串刺し、稼働を停止させる。
「使える部品はもらっておくか」
リアクターやビームライフル、頭部のセンサーなど使える部品は多い。
アルフロズル所属のホーク強化に役立つはずだ。
「この機体はホークサイズではないな。残念だ」
めぼしい部品を抜き取り、背面のバインダーに格納すると隻翼はヴァーリを進ませる。
「まだ敵はいるか」
防御機構はまだ存在する。
六足歩行の戦車に、ステルスネリフィムの接近に備えてヴァーリはエクスプレスを構え、迎撃態勢を取るのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
地下6Fに到着したヴァーリは慎重に歩を進める。
神殿のような区画に到着した。どことなく火星の北極冠にあったテュールの住処を連想させる。
「古いものを模した、か」
『ご明察』
神殿の奥からホークサイズの機体が出現した。
赤黒い機体は、二本の杖状の武装で歩行している。脚部が破損しており、つま先は動物の蹄のような形状をしている。
『はじめまして。ようこそ第六階層へ』
「名を教えてもらおう」
『俺の名はアスモデウス。悪い超越知能ではないぞ』
名を聞いた瞬間、エクスプレスを構えるヴァーリ。
『待て待て待て。血の気の多いパイロットだな! 悪い超越知能ではないと言っているだろ!』
「アスモデウス。――正真正銘の悪魔王じゃないか」
『落ち着け。俺は無害なホーク型超越知能だぞ』
「嘘臭い」
隻翼は言い切った。
「旧約聖書から名が記されている悪魔。ゴエティエでは悪魔王の一人。キリスト教やイスラム教でも強大な悪魔。ユダヤ教やカバラでも悪の側にいるもの。七つの大罪では色欲を司る。そんなものを模していて何が悪い超越知能ではない、だ」
アスモデウスという悪魔の起源を察すると、由緒正しい悪魔王だ。異教の主神などより遥かに格上だろう。
『詳しいな!』
「EL勢力を敵に回したからな。聖書関連や悪魔伝承は頭に叩き込んでいる」
『敵の敵は味方ということで一つどうだ』
「セムの民の悪魔は甘言が上手いよな? 知恵の実しかり。堕落の象徴だ」
誘惑を行う悪魔は試練の一種。
悪魔は唯一神の遣いとも解釈は可能だ。油断はできない。
『詳しいな……』
隻翼は少しだけ躊躇し、ヴァーリのエクスプレスの銃口をやや下げた。
すぐに撃てる体勢は変わらない。
「聞きたいことだらけだが、なんで俺に接触した?」
『最後の第五層到着者は八年前だ。いい加減待つのも暇だ。ゲニウスを宿しているホークなんて滅多に来ないからな』
「難易度を上げすぎなんだよ」
『それは俺のせいじゃない。本来の管理者のせいだ』
「この施設は本来、誰のものなんだ?」
『管理者は第一世代ELに連なる端末であり超越知能だよ。天使ではなく人間を模しているんだ。名をトバルカイン』
「――聖書における最初の殺人者。永遠の放浪者の末裔。旧約聖書における刀工か」
『そう。アスモデウスはトバルカインと妹の間にできた子供という伝承があってだな。ラファエルが俺をここに押し込め、管理代行した』
「トバルカインはどうした?」
『ELからコンタクトが取れなくなって壊れた。正常の思考ができなくなり、人間に例えると錯乱している状態だな。このダンジョンを見ろ。何からなにまでデタラメだろうが』
「正気を喪ったから、ダンジョンがランダムになったか。何故アスモデウスが管理可能なんだ?」
『アスモデウスはソロモン神殿の建築した悪魔でもある。巨大構造物の管理はお手の物だ』
調子の狂う超越知能だったが、テュールたちよりも古い存在だ。
権能も強力だろう。
「わかった。信じよう。アスモデウス。力を貸してくれ」
『疑ったわりには割り切りが早いな。どういう風の吹き回しだ?』
「簡単な話だ。管理者のお前が本気になれば、俺とヴァーリなど簡単に殺せる。ネリフィムではなく、構造物の変化でな」
『冷静な分析だ。頭の良い人間は好きだぞ』
アスモデウスは大きな翼を広げよう。
『問おう人間。イラレイジとヴァーリよ。お前たちが地下工廠に欲する目的はなんだ?』
声音が違った。――威厳ある存在に。
名乗ってもいない隻翼の本名も知っている。おそらくヴァーリから割り出したのだろう。第一世代超越知能関連ならそれぐらい可能だと予想できた。
「その問いに答えようアスモデウス。俺の目的はゲニウスたちが保有していたエイトリと呼ばれる超越知能を受肉させる物質だ。その物質が第三世代超越知能であるEL勢力に奪われたので、取り返すための戦力をこの迷宮に求めている」
『ふむ。――偽りはないようだ。ではレイジよ。お前はヴァーリから降りて私に近付くことはできるか?』
隻翼はヴァーリのハッチを開き、床に降りた。
一種の賭けだが、これも試練の一種なのだろう。
『迷いがないな。合格だ』
アスモデウスの胸部が開いた。
壮年の男性が降りてくる。髪をオールバックにして薄い口ヒゲを蓄えている紳士風の男だ。
「無害なホーク型超越知能ではなかったな」
隻翼が薄く笑う。それぐらいしたたかではないと悪魔王ではないだろう。
「ははは。そういうな。では約束通りまず休息を提供しよう。地上の様子も聞きたいからね」
生体ゲニウスと同じ原理なのだろうか。表情には出さないものの隻翼は訝しむ。
第一世代超越知能であるELに連なるこの施設なら、その程度は容易いに違いない。
「助かる」
悪魔王のもてなしとはどんなものか。そちらのほうが気になる隻翼だった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
アスモデウスは描写的モチーフはホーク体は16世紀の小説から。二本の杖をついている脚の悪い羊脚の悪魔。別名二本杖の悪魔(The Devil on Two Sticks)です。
人間体はパリによく姿を出現していた紳士風の悪魔です。
人間体はパリによく姿を出現していた紳士風の悪魔です。
カインの末裔トバル・カインは刃物の祖とされています。カインが鍛冶全般ならトバルカインは刀工ですね。
今回は予約更新です! おそらく台風に負けずに帰宅を目指しているはずです!
台風なら素直にもう一泊します!
応援よろしく御願いします!




