一昨日きやがってくださいね!
天王星浮遊都市の屋台巡業が始まった。
キッチンカーには組立式の屋台が山ほど搭載された。
ラーメンやカレーなど少し手間がかかるものはキッチンカーで五種類の店舗営業。
折り畳み式の屋台を三十台展開している。
かき氷やりんごアメのオーソドックスな屋台から、アジア系ではハラール対応のカオマンガイやガイ・ヤーン。ナンカレー。南米系屋台ではタコスやサツマイモを揚げたピカロネスやパンに牛肉を詰め込んだエンパナーダまで地球に存在したあらゆる屋台文化を再現している。
「味噌ラーメン一丁!」
「味噌ラーメンお待ち!
チヒロが注文と配膳担当で隻翼がラーメンを調理している。
「噂通りめちゃくちゃ上手いな! なんだこのラーメン。芋と練り物が入っている?」
味噌ラーメンをフォークで食べながら、浮遊都市住人が舌鼓を打つ。
浮遊都市には熱々のスープ系食べ物が非常に珍しい。
「はんぺんという食べ物でございます。当店自慢の味噌ラーメンです」
チヒロが具材について解説する。箸が使えない客も多いため、フォークやスプーンも用意されていた。
「なんだこれめちゃくちゃうめえ! 濃厚なスープに、腰のある麺……」
「俺が以前食べたのと違う! こっちもうめえ!」
屋台飯に取り憑かれた別の浮遊都市住人が歓声をあげる。
彼は宇宙航路の舟を使い、浮遊都市を渡ってきた。
「え? 浮遊都市ごとにラーメンの味が違うのか!」
「俺が食べた時は塩スープだったぞ。あっさりして、麺も細かったな」
「やべえ、それも食いてえ!」
驚く客に内心ほくそえみながら、淡々とラーメンを茹でる隻翼。
外ではたこ焼きの鬼センノスケが怒濤の勢いでたこ焼きを焼いていた。
大量のたこ焼きに、最後は秘伝の出汁で仕上げる。
「へい! たこ焼き一舟お待ち!」
「これがたこ焼き…… ふわふわだ」
別の屋台では中はふわふわで外がカリカリの大粒たこ焼きや明石焼きも用意されている。
隣ではヘイジが牛串、焼きとうもろこし、フランクフルトを必死に焼いている。
「何を食べよう……」
「七色の綿菓子? ポップコーンもある。
「回転焼きもありますよ~」
浴衣の女子が回転焼きを作っている。餡子がたっぷりな回転焼きは子供たちにも人気だ。
「今川焼きでは……」
ハッピートリガーが訝しんだ。
「ハッピートリガーさん。一昨日きやがってくださいね!」
少女はにっこりと笑顔で×の字を作った。
「なんで?!」
「教育が必要ですね。おあずけは可哀想なので列の最後尾に並んでください」
「だからなんで?!」
少女から最後尾にいくように告げられ、哀しい顔で最後尾に回るハッピートリガーだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
牢獄では隻翼一家から宙賊たちに差し入れが送られた。
「お前らを捕まえた屋台職人たちからの差し入れだ」
割り箸の刺さった細長いきゅうり。キュウリの酢漬けだ。
菜食主義者にも対応した、れっきとした屋台料理だ。
「仕方ねえな」
宙賊の頭目はぽりぽりときゅうりを囓っている。
「お前ら! 俺達にも差し入れだってよ! 焼きそばにたこ焼きだそうだ!」
「やったぜ。いい香りだな。――うめえ!」
牢獄にも良い香りは漂ってくる。
「おい! てめえらだけ卑怯だぞ! これ拷問だろ!」
「お前達、差し入れもらってその態度かよ」
看守の一人がやってきた。
「……お前。何を食べているんだ」
「マンゴーたっぷりの雪花冰だが何か?」
「俺はココナッツジュースだ! 甘くてさっぱりして美味しいぞ」
別の看守も自慢しにやってきた。
「嫌がらせか!」
「おーい。牛串買って来たぞー」
「でかした!」
彼らが見ているなか、職務中にも拘わらず牛串を頬張る看守たち。
「……お前ら。今に見ていろよ……」
食べ物の恨みは怖い。
宙賊たちは再起を誓った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
天王星の浮遊都市巡業は大成功に終わった。
屋台職人どころか、凄腕のホーカーを擁しており宙賊を殲滅したという点で注目度が上がったこともある。
アルフロズル車内の格納庫では、クルー用の屋台市が開かれている。
今回も隻翼自らトレーラーハウスでラーメンを作る。
「……レイジ君のラーメン……」
「開店四時間前から並ぶもんじゃないだろ、ナミ姉」
ナミはキッチンカーの前で体育座りをして並んでいた。
「……レイジ君も早い……」
「仕込みがあるんだ」
「……ふふ。楽しそうでよかった……」
ナミが嬉しそうに微笑む。レイジが傭兵ではなく、屋台職人として充実している方が嬉しいのだ。
開店前にラーメンが二丁できあがる。
どんぶりを二つ手にもって外に出ると、ナミが一杯をさっと奪い去った。
「……エイルちゃんとロズルちゃん…… 私も一緒に運ぶよ……」
「頼む。ナミ姉」
二人で制御室に行き、祭壇と呼ばれる供物台にラーメンを捧げる。
『いつもありがとうございます』
『美味しそうですね』
「……感謝するのは私のほう…… レイジ君が楽しそうに料理する姿を見ることができた……」
「そうだな。久々だ」
隻翼は屋台職人としてはなく傭兵としての依頼しか来なかった。
『私たちも料理をする隻翼が好きですよ』
『はい。戦う姿よりよほど』
隣にいるナミが、力を込めて力説する。
「私たちが必ず食べさせてあげるからもう少しだけ辛抱してね……」
「ああ。必ずな」
『私たちも二人と食事する日を楽しみにしています』
『一緒にデザートを食べましょうねナミ』
「……うん」
「三人はすっかり仲が良くなってるな。二人も体を取り戻したい欲求が生じてくれた。ナミ姉のおかげだな」
「……もっと褒めていいよ!」
この三人は隻翼には違う種類の絆すら育んでいる。
『天王星領域ですが戦力の確認も行えました。星間巡航戦車アルフロズルのクルーは推奨される戦闘能力に達しています。またホーカーの水準も高く想定以上でした』
『巡業をしつつ、次の段階に移りましょう』
「血の気が多い連中が集まったことが幸いしたな」
隻翼は苦笑する。
思いの外、旧ニシノミヤ居住艦の人間は牙を研ぎ澄ましていたようだ。
「……レイジ君がいなくなって。チヒロちゃんも含めて、あんな思いをするのは嫌なんだよ。だからみんな強くなった……」
「そういわれると申し訳ないな」
隻翼が行方不明になった時、チヒロも必死に行方を追っていたことをナミは知っている。
「次の段階は?」
『さらなるアルフロズルの強化。そしてヴァーリを含めた所属ホークの強化です』
「人も揃った。次は俺が強くならないといけない。相手がEL勢力だからな」
隻翼は淡々と口にする。
ようやくさらなる強さを追い求めるための足がかりを得ることができるのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ようやく隻翼念願の屋台市を開くことができました。
ハッピートリガーはフラグ通り地雷を踏み抜きました。
一昨日きやがってくださいね! の少女は結構武闘派です。こういう子はおそらくのちにネームドに昇格します。
今回の屋台市は菜食主義者でも豚肉を食べることができない信条の人も安心! キュウリの酢漬けがあります!
まだ今年は雪花冰は食べていないです。ココナッツジュースは大昔、深圳で飲みました。
屋台でキュウリの酢漬けは食べたことありません。だって味が想像できるし!
肉巻きおにぎりとかはサービスエリアでも定番ですね。ただSAの屋台で食べるとお腹が下り気味になりやすいので我慢しています。
ナミは褒めると図にのるタイプですね!w
次回から次の章か、閑話を挟むか。東京取材のためにも書きためる必要があります。
予約投稿して旅立つ予定です!
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