戦車としてのアイデンティティ
宙賊たちは怯えていた。
キッチンカーから降りてきた男たちは彼等とは比べものにならないほど無法なのだ。
女たちはデーモンを連想させる恐ろしい吊り目の面を被り、人質を解放していった。
仲間は倒され、次々と捕縛されていく。
「賞金首狩りにでた連中を呼び戻せ!」
宙賊たちの頭目が配下に命じる。
「応答がないんです! 全機撃破された可能性も……」
「ちくしょう。では外のホークが落ちるのも時間の問題か」
「もう全滅していますよ……」
「なんだと? どっからやってきた?」
キッチンカーを拿捕した際、周囲に護衛などいなかったはずだ。
「装姿戦闘機にホークが数機。カットラスでは相手になりません!」
「なんでこんな連中が乗り込んできやがったんだ!」
怒鳴る頭目に爆破音が答えた。
「そりゃカタギに手を出したからだぜ」
ロケットランチャーを構えたセンノスケが宇宙艦の指揮所に悠然と乗り込んだ。
「てめえら。何者だ!」
「俺達は隻翼一家。みての通り、屋台職人の集まりさ」
「は? ふざけるな。荷電粒子砲を装備しているキッチンカーに乗った屋台職人がどこにいるってんだ!」
「ここにいるさ」
センノスケが嘯いた。
「選べ。――降参するなら殺しはしねえ。刃向かうなら徹底的にやる」
鋭い眼光が宙賊の頭目に突き刺さる。
こちらは銃。相手はロケットランチャー。背後にはミニガンを構えた男やライフルを構えた男、刀を担いだ男までいる。
「……てめえら。本当にカタギかよ」
「正真正銘カタギだぜ。だから投降を呼びかけている。殺すだけなら先制してらぁ。抵抗するなら簀巻きにして宇宙に放り出す」
「ち」
頭は舌打ちした。この連中はそうするだけの戦闘力がある。
「勘違いするなよ。てめえらが俺達を誘拐したんだ。俺達は被害者だぜ」
「どの口がいう。わかった。降参だ」
「賢明な判断だ。――おい、ふん縛れ」
センノスケの合図とともに宙賊たちは縛り上げられた。
艦内で抵抗した者も、頭目が投降したと聞くや降参した。
「これで宇宙艦を手に入れたな。あとはバラすだけだ」
「おいぃ? 宇宙艦をバラすのかよ!」
「おうよ」
あまりにも規格外な屋台職人たちに宙賊の頭目は何も言わなくなった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
宙賊たちは天王星の浮遊都市警備隊に突き出された。
誘拐されていた者たちも生きている者は全員連れ戻してきたという。
キッチンカーに連結されたコンテナのなかで、簀巻きにされた宙賊たちが無造作に積み上げられていた。
「ご協力感謝します! 人質の解放までしてくださるとは!」
「いえいえ。こちらこそ。屋台の良い宣伝にもなりそうですし」
浮遊都市警察の対応はチヒロが行っている。
「皆様、何者なのですか?」
「屋台職人のあつまりですよ。天王星の浮遊都市で巡業することになりまして。良ければ何か差し入れ代わりに作りましょうか? お仕事を増やしてしまいましたし。私達は天王星宙域であきないするので、お世話になる身として皆様をおもてなししたいのです」
警備隊隊長は上司に報告し、即席の屋台試食会を開くことを決定した。
むろん他の浮遊都市にいる警備隊幹部を誘わなかったらあとが怖いので、集められるだけ集めておいた。
「アルコール、勤務中の方のためにノンアルも用意しております」
キッチンカーを中心とした屋台村が即座に出来上がり、引き渡して一時間もしないうちの調理が開始された。
「センノスケさん。定番のものから、どの人にも食べやすいものでお願いします」
「わかってますって。ジャがバター、フランクフルト、焼きトウモロコシから焼きそばに鯛焼き。かき氷まで用意してますぜお嬢様」
センノスケが仕切り、屋台からいい香りが漂ってくる。
勤務中にも拘わらず、浮遊都市警備隊員たちはもう気が気ではなかった。
「フードペレットではありえない香りだ! お前どこからいくんだよ?」
「ノンアルビールにフランクフルトかな。箸巻きという奴がいい匂いだ」
「ラーメンだ! ラーメンの屋台まである! これにいかない奴は損するぜ!」
「俺は午後上がりだからビールでいくぜ」
「卑怯者!」
その様子を見ていた幹部が隣にいる警備隊員に聞く。
「なんで宙賊逮捕の功労者たちに我々は歓待されているのかね? 逆ではないのか」
幹部の疑問はもっともだ。。あれよあれよと彼等のペースに飲まれている。
宙賊は天王星領域でも頭痛の種なので、それだけでも表彰ものだ。
「天王星の浮遊都市で商いをするために、浮遊都市警備隊と親睦を深めたいそうですが、収賄になりますかね? いや、宙賊を撃破できる者たちが我らを収賄する意味は薄いはずなのですが」
「まったくだ。彼等はただの屋台職人で宙賊退治の功労者だ。我らは美味しい料理と宙賊という危機を排除された。彼等は我らと友好的にしたい。それだけなのだろう」
「いい人たちですね。宙賊の死人も少なかったですし。私達が宙賊とやりあえば双方の被害は甚大だったでしょう」
「ああ。敵に回したくない。色んな意味でな。そうそう。浮遊都市の記者もよびたまえ。宙賊退治の功労者が行う屋台を紹介してもらおう。彼等の宣伝になるならそのほうがいいさ」
「わかりました!」
警備隊と記者たちも集い、即席の試食会は大成功となった。
その後チヒロが長官に宙賊のホークと宇宙艦はキッチンカーで撃破してしまいましたと報告されても、幹部の一言によって不問とされた。
主犯たちは生け捕りであり、人質も解放されている。それ以上の成果を求めるほうが酷というものだ。
宇宙空間で現場検証など意味をなさない。
作戦は功を奏したのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アルフロズルに宙賊の艦が曳航されている。
チヒロの策により、宙賊艦はキッチンカーに撃沈されたことになっている。
ほぼ無傷なので売れば莫大な金額になるが、隻翼一家はそうしなかった。
「さて。やるか」
宙賊艦を解体する隻翼とヴァーリ。ビッグヴァルチャーやガンアックスが作業を補佐している。
細かい作業は宇宙服を着たセンノスケが現場指揮を執っていた。
「姐さんの主砲になる! ミスは許されねえぜ!」
「おう!」
早速主砲をアルフロズルに換装する。
『ようやく攻撃手段を取り戻すことができました。隻翼に心から感謝します』
ロズルの合成音声には感慨がこもっていた。
「全盛期の副砲にも及ばないだろうが、何もないよりましだろう」
『テュールスフィアはかつてエル勢力に敗北し、武装解除を命じられてアルフロズルの兵装はすべて破壊されました。砲一つなくて何が戦車でしょうか』
ロズルはようやく戦車としてのアイデンティティを取り戻したのだ。
「何を言っているんですか姐さん。こんなのはまだまだ序の口。どでかい砲は親分が用意してくれますぜ」
「センノスケの言う通りだ。こんなもので俺は満足していない。アルフロズルは最高の戦車だが、最強の戦車にしてみせる」
『ありがとうございます。隻翼。そしてみなさん』
「使えそうな武装はまだありますぜ。ロズルの姐さん。全部取り付けますのであと少し待ってくだせえ」
『はい』
隻翼一家は奮起し、宙賊艦の武装はすべてアルフロズルに移植された。
これによってアルフロズルは艦隊戦にも対応できるようになったのだ。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
宇宙空間に簀巻きで放り出されると酸素がない上に水分が凍って死にます。
というわけで宙賊たちは連結コンテナを用い、丸太のように押し込んで警備隊に突き出されました。
警備隊の人たちはペレット上の食事は味気ないので、屋台の誘惑には勝てなかったのです。
宙賊の宇宙船やホークは書類上消滅しました。現物がない上に、反抗に及んでいた組織はまるごと捕まっているので大事にはなりません。
誰かが気付くかもしれませんが、その時隻翼たちは現場にいないでしょう。誘拐された人々も救出されたので些細な問題です。
ちなみに現金代わりの稀少資源や宝石などの物資などもアルフロズルが回収しました。カタギではないので。仕方ありません。
アルフロズルもようやく兵装がつきました!
これで宇宙空間戦闘のみならず、地表での火力支援も行えるように。
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