仮面の少女
宙賊の宇宙船をキッチンカーと四機のホークで攻略中だ。
キッチンカーが戦力としてカウントされているのはいささか理不尽だとパイロットは思ったが、もっとも効果的に内部に潜入して内側から宙賊を殲滅している。
認識を改めざるを得ない。
「私も役に立たないと。このままではビッグマウス扱いだ」
目元だけを隠すヴェネチアンマスクを被った少女が搭乗している。淡い金髪に大理石を思わせる白い肌の持ち主だ。
愛機であるウルフベルトを駆り、砲塔付近を攻略中だ。
機体は純白。
砲塔を整備するためのホークサイズのハッチは、内部を制圧したチヒロによって展開されている。
内部にいた作業用のホークをビームライフルで撃破していく。
ホーカーネーム【オルレア】。本名はソルヴェイグ・リュディ。
「アルフロズルから追い出されることだけは避けなければいけません」
なんとしても砲塔を無傷で確保する。
ウルフベルトは剣を引き抜き、宙賊のカットラスと切り結んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
アルフロズルには、居住艦ニシノミヤとは縁もゆかりもない者も参加を希望する。
ハッピートリガーはその代表格で、彼は甘味のためという野望のためなら命を辞さないほどの熱量を持っていた。
エイルもロズルも隻翼たちが持つ甘味の技量を知っている。適性検査も合格して受け入れた。
しかし拒否された者もいる。仮面の少女オルレアがそうだった。
エイルとロズルがオルレアを面接すると言いだし、隻翼はあっさりと身を退いた。ナミの面接時も似たようなものだったからだ。
オルレアは、アルフロズルにある一室に案内された。
ロズルがオルレアに話し掛ける。
『ホーカーネーム【オルレア】。本名ソルヴェイグ・リュディ。乗車を拒否します。お帰りください』
「何故?!」
ナミや明らかに人種が違うハッピートリガーまで許されたのに、どうして自分がいきなり乗車拒否されるのか。
オルレアは抗議する。
『あなたはこのアルフロズルが、本来自分のものであると思考しています。だからです』
エイルの合成音声は明らかに冷ややかだ。同じことを口にしたナミ相手よりも比べものにならない。
「――私はテュールスフィアにいた住人の末裔。この戦車は本来私達のものだ! こんな日系だらけの住人に占拠されていいものではない!」
少女が叫んだ。
テュールスフィアは北欧系の住人が多かった。
『もとよりスフィアは人種によって縛られるものではありません。いいえ。違います。あなたたちはもう他のスフィアに移住したのです。テュールスフィアとは関係ありません』
ニシノミヤ居住艦の住人も日系のほかに台湾系、タイ系、インドネシア系などアジア人のほかにアメリカやイギリス、フランスからの末裔など多くの人種が混在していた。
「私達が戻って来なかったことを根にもっているの?」
『そうではありません。しかし私達は新たな住人を得てやり直しているのです。そんなところに所有権を主張する者が来られても迷惑なだけです』
『お互いが不幸になるだけでしょう。お帰りなさい』
エイルとロズルが根気よく伝える。
「私はお祖父様から聞いていた。この戦車は星々を駆ける星間巡航戦車。エーギル系でもエル勢力と渡り合った勇士たちの戦車だと。あなたたちは兵力を集めてエル勢力を戦うためではないの? 隻翼という男の目的はそうだと書いてあった!」
『誤解があります。隻翼の目的は私達を生体エルに戻すこと。EL勢力との戦いは避けられないだけ。私達はそもそもそんなことを望んでいません』
『旧ニシノミヤ居住艦の住人は戦闘には不慣れな一般人ばかりです。戦争をしたいわけではないのです』
「ならあの愛した女たちという文面は何なのですか? 超越知能二柱ともあろう者が肉体関係をもってほだされたわけではないで――」
オルレアが言い終える前にエイルが遮った。
『黙れ。――私達と隻翼はキスどころか手も握ったことはありません。下世話な勘ぐりなど、我らにとっても隻翼にとっても無礼千万。許されるものではない』
肉体を喪失しても残っていた少女らしさが一切なくなったエイルが糾弾する。
「え? そんな浅い関係でそこまでする男なんているわけがないでしょう」
信じられない面持ちのオルレアだが、相手が悪かった。
『隻翼と我らは卓を交えて食事して交流したのみ。私達が美味しそうに食事を食べるから。ただそれだけの理由で彼はEL勢力との戦闘まで決意してくれたのです。あなたには乗車資格を認めません。今すぐ降りなさい』
合成音声でも理解できる。
二人はいいがかりに激怒しているのだ。そしてその激怒の様相から、本当に隻翼が二人と食事をしただけであり、その関係性をもってエイルたちを再生しようとしたのだと信じることができた。
「失言でした。ご容赦を!」
慌てて言った。皮肉をいったつもりが地雷を踏んでしまったようだ。
『オルレアに比べたらツバキのほうがよほど可愛いですね』
「それこそ待ってください! ツバキのほうが可愛げがあるって。そんな! だって私は――」
オルレアはひそかにツバキをライバル視していた。そんな女のほうが可愛げがあると起源である超越知能にいわれてショックを受ける。
『私もエイルと同意見です。たとえあなたが私達の遠い親戚――生体超越知能の子孫でも、です』
言い終える前にロズルが断定した。
「そこまで知っていて!」
生体ゲニウスの孫娘という事実は彼女の由緒正しき血統であり、その心の拠り所になっていた。
そのゲニウスから拒否されたという事実は耐えがたいものだ。
『だからあなたには関係がない話なのです。我がテュールスフィアは血統主義は導入していません』
『あなたと同種であるノワールの英雄ジーンへの助力へも最小限でした。彼女自身は自分が生体ゲニウスの血を引いているとは知らなかったようですが』
「私はよく彼女に似ているといわれていました。そうだったのですね……」
オルレアは仮面を外す。
確かにオルレアの容貌や雰囲気がジーンに似ている。妹といっても信じる者はいるかもしれない。
「お願いします。私は生体ゲニウスたる祖父を誇りに思っているのです。そのルーツの一つともいえるアルフロズルに乗艦拒否されるわけにはいきません」
『なおのこと。あなたの祖父が生体ゲニウスだったということは内心アルフロズルの所有権が自分たちにあるという考えが変わるとは思えません』
「改めて非礼を詫びます。そして隻翼が正当なるこのアルフロズルの所有者だと認め、私も改めてテュールスフィアへの参入を希望します」
エイルの回答には一瞬の間があった。
『形だけテュールスフィアの住人になられても問題がありますね』
元ニシノミヤ住人たちはエイルとロズルを姐さんと慕ってくれている。
それどころか食事ができない彼女たちのためにお供えまで作って視覚で楽しませてくれている。ゲニウスにそこまでした住人など聞いたことはない。
「でもツバキがいます。ツバキはテュールスフィアの住人ではなく、ホーカーとしての乗車ですよね?」
『ツバキはテュール様の承認をもってスフィアの住人ですよ。生命と魂を賭して、隻翼とテュールスフィア、そしてこのアルフロズルのために尽くしてくれます』
一瞬、気が遠くなるオルレア。
引く手あまたの凄腕ホーカーが、まさか屋台職人に交じって無報酬の戦闘集団に参加しているとは思わなかったからだ。
『あなたはツバキにも思うところがある模様。乗車許可を出すわけにはいきませんね』
「ツバキよりも役立ってみせます! どのような要求でも任務でもこなします!」
このまま降車されたら祖父の墓前に報告もできない。
オルレアもまた必死だった。
『一つだけ要求します』
「どうぞ」
『その目元を覆う仮面は継続してください。それだけです。その条件を飲めば一時乗車を許可します』
「? はい。わかりました。それだけでいいのなら。お願いします」
ホーカーは身元が明らかになることを避ける。彼女の仮面はそのためのものだ。
エイルたちの思惑は違っていた。
『では働きぶりで私達の信用を勝ち取ってください。とくに隻翼の前では決してその仮面を外さぬように』
「承知いたしました」
彼女はジーンにうり二つだ。
隻翼の心を護る為に、仮面を要求したのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
砲塔を制圧したオルレアは艦内のチヒロに報告する。
「こちらオルレア。主砲の制御区画は占拠した」
「ありがとうございます。こちらも人質を解放して賊を殲滅中です」
通信を切って、オルレアはぼやいた。
「何が非戦闘員よ。非戦闘員の女性たちがあのレベルなら、あの元ニシノミヤは戦闘民族か何かかしら?」
ナイフや刀、銃撃戦にも慣れている元ニシノミヤ居住艦の女性たち。
あれで非戦闘員なら戦闘員の男たちなど心配する必要もないだろうと踏んでいた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
さて何名かいるホーカー二人目。温存していても良かったのですが宙賊狩りにでてこないのはまずい、ということで。
二人目は元テュールスフィア住人の子孫です。
今の状況はきっと面白くないでしょう。というわけで身元バレを防ぐための仮面を被った美少女です!
オルレアはセリ科の多年草です。
まだ仮メンバーです。エイルとロズルの心象はあまりよくありません。
ライバル視しているツバキは正式な分類ではホークではないですが戦闘機状態の活躍が凄いので有名人です。
旧ニシノミヤ居住艦には三人の福男を決める祭りがあったりなかったり……
荒事は多そうですね!
筆者が若い頃、鉄仮面だと顔も洗えないじゃないか! というツッコミがあったヨーヨーを武器にしたドラマがありましたね……
応援よろしく御願いします!




