その呼称はいけない
宙賊たちが逃げ惑っている。
「隔壁を降ろせ!」
「ドリルで突破されました!」
降ろした隔壁はキッチンカーのドリルによって破砕されていく。
「おい! ドリルってなんだよ!」
「みりゃわかるだろ! 回転するドリルだよ!」
巨大なドリルが二本、回転している。聞かれた宙賊もドリルとしか言い様がない。
「なんでキッチンカーにドリルがあるってんだ!」
「知るかよ!」
「人間用区画に逃げ込め!」
宙賊たちは人間用区画に逃げ込む。
「とりあえず、狭い場所には入ってこれないはずだ」
そう胸を撫で下ろした瞬間、扉はドリルによって破壊された。
「げえ!」
「なんだあいつら! 無法者すぎるぞ!」
破壊された扉から、何かが投げ込まれた。
「なんだこれは……」
転がった物体は目もくらむような目映い閃光を放つ。
「目が! 目が!」
「閃光弾かよ! あいつら屋台職人だったはずじゃ!」
「傭兵かなんかか? 退くぞ。人間サイズの通路に降ろした隔壁は破壊されないはずだ!」
人間用通路に緊急用の隔壁が降ろされた。
轟音とともに、扉は砕け散った。
「こんなところか」
舌打ちをするセンノスケがロケットランチャーを担いで宙賊に迫っていた。
「死ぬか降参するか。選ばせてやる。死にたく無いヤツは手を挙げて投降しろ」
宙賊たちは一も二もなく両手を挙げた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
チヒロが般若面を被り、女性クルー部隊を率いる。
全員可愛らしい浴衣姿に般若面という絶妙なアンマッチさを醸し出している。
「私達はまず通信室と機関室を抑えます。できるだけ戦闘は避けて」
「はい!」
般若面部隊は迅速に展開して、要所を押さえていく。
「私達は専守防衛がモットー。気付かれる前に無力化します」
「先制攻撃するんですよね?」
「攻撃ではありません。無力化です」
チヒロは無力化と言い張った。攻撃ではない。
区画にいた宙賊たちは躍り込んだ般若面の人影に驚愕し、反撃する間もなく電気ショック弾によって昏倒していく。
「ぐえぇ」
宙賊が呻く。チヒロは無言で電気ショック弾を撃ち込んだ。
一発で気絶できたものは幸運だ。この宙賊のように昏倒できなかった者は、気を失いかねない激痛に耐えないといけない。
ドゥリンが彼女たちのために用意した人道兵器である。
「この銃。便利ですわね。徹甲モードもありますし」
威力に全振りしたら反動が増えるものの、宇宙服を貫通するぐらいの威力は出せる。
「ドゥリンさんにもっと色々作ってもらおっと」
ユノも使い勝手のよさに感心する。
背中には大型の機関銃を担いでいた。
「通信室を確保しました。外にいるナミさんと連絡を取り、カタパルトハッチを解放します」
般若面のクルーが手際よくコンソールパネルを操作して、宇宙艦のカタパルトハッチを開く。
滑り込むようにビッグヴァルチャーが突入し、変形しながらビームライフルを連射して周囲を牽制する。
「……こちらミナ。カタパルトデッキ占領完了……」
「了解しました。――宙賊に捕まった人たちがいます。私達は解放しにいきますね」
「……気を付けてね……」
「はい!」
ユノが無理矢理宙賊を叩き起こすと、銃を突きつけて確認する。
「あんたたちは何人拉致しているの?」
宙賊は般若面に相応しい冷たい声音に怯えている。
「……し、しらねえよ! たくさんだ!」
「たくさんいるのね。あんたたちの戦力は? どれぐらいいるの?」
「しねえよ! たくさんいるに決まっているだろ!」
「たくさん、ね。良かったよ。――死ね」
ユノはそういうものの、殺しはしせず電気ショック弾を股間に撃ち込む。
激痛のあまり宙賊は泡を吹いて再び昏倒した。
「たくさんいるって。まだ油断はできないね」
女性クルーの一人が声をあげる。
「宙賊たちがこっちに向かってきています!」
「応戦しましょう。いきますよユノ」
「はいな。――抵抗が激しいようなら殺しちゃってもいいかな」
「人間を拉致している宙賊です。お兄様もとやかくは言わないでしょう」
「だよね!」
背中から機関銃を取り出す。
面制圧用のミニガンだ。狭い通路では劇的な効果を発揮する。
「待て! あいつらは!」
宙賊たちがユノの構えているミニガンに気付いた時は遅かった。
狭い通路に電気ショック弾がばらまかれ、激痛のあまり気絶できないような有様だ。
女性スタッフには狙撃の名手も多い。的屋だけに的撃ちは必須スキルともいえる。
ユノを背後から援護射撃し、宙賊たちを蹴散らす。
「まだ外にも戦力がいる。いけるかな」
「大丈夫です。アルフロズル所属の傭兵はナミさんだけではありませんから」
そういって微笑むユノ。
隻翼一家は頼れるホーカーが他にもいるのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
潜入したナミとビッグヴァルチャーだが、敵の数も多い。
スパタやカットラスなどを応戦している。
奇襲で三機ほど破壊したが、まだいるようだ。
「気合いが入っているな。【ツバキ】」
「あなたも仕事はしてくださいね。【ハッピートリガー】」
通信先の向こうには二メートル近い巨漢がいた。
浅黒い肌に金髪。四角い顔は厳ついともいえる壮年の男。
火力機であるガンアックスは右肩にレールガンランチャーを備え、ビームライフルとシールドにも射撃兵装を仕込んでいる。
加えて左肩には小型ミサイルを大量に搭載したローンチポッドを装備している。
「いくぜ。俺の――甘味のために」
ホーカーネーム【ハッピートリガー】は居住艦ニシノミヤ住人ではない。
「あなたぐらいです。デザートのため強引にアルフロズルに転がりこんだホーカーは」
ハッピートリガーが気に入っている屋台職人が全員いなくなり、行き先も同じだという。調べあげたハッピートリガーは屋台職人に頼み込んだのだ。
エイルは所有のホークとの戦力を考慮して乗車を許可した。
「この世あらゆるデザートを追い求める求道者と読んで欲しいんだが?」
「ただの甘党ですよね?!」
ホーカー【ハッピートリガー】は甘味のためなら世界を敵に回すと呼ばれるほどの甘党だ。
アルフロズルに搭乗した際も――
「シキタリ。カチコミ。オールオッケー。オヤブン。ヨロシクオネガイシマス」
ハッピートリガーは片言の日本語で、誠意をアピールしていた。
「カチコミはいいんだが……」
その時の様子では、隻翼も明らかに困惑していた。熱意は本物だ。いかに和製のデザートが素晴らしいか、早口でまくし立てていたからだ。
ハッピートリガーは隻翼の前では正座までしてみせて頭を深々と下げた。
様になっているが、ハッピートリガーが抹茶アイスのために正座をマスターしたという逸話は隻翼も聞いたことがあるほど有名だったこともある。
「見所はありそうですぜ」
センノスケの言葉に隻翼も頷く。
屋台の殿堂となる戦車は彼にとっての理想郷であった。
ハッピートリガーこと本名ジャック・ガーランドは通信を受け取ったアルフロズルのワープ後、戦闘宙域に駆けつけたのだ。
「これで仕事ができるな」
宙賊たちは慌てた。履帯を装備した謎の宇宙艦から三機のホークが攻撃してきたのだ。
完全な不意打ちで、反撃する間もなく五機のホークが宇宙の塵となる。
「デザートは今川焼きがいいな。アンコがたっぷりで。コーヒーと一緒に」
ハッピートリガーは食後のデザートを夢想した。例のお菓子のことである。
その呼称が戦争の火種になるとも思わずに。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
人質がいる→カタギの衆に手を出したということで隻翼一家の慈悲ランクが下がります。もともとそんなランクそこまで高くないのですが。
何人かいるという傭兵のホーカー、新登場です。他にもいますが、まずは一人目。ナミと同じくニシノミヤ出身ではありません。
個人名の由来はM1ガーランドというライフルから。
機体名のガンアックスは東欧でも使われたフリントロック式の拳銃と斧の複合武器です。
比較中世後期から近代の武器由来の命名ということで、つまりオーパーツの復元ではなく現行文明で頑張った高性能機ですね。
ハッピートリガーは禁断の言葉を口にしました。きのこ派とたけの派にも通じる、果て無き論争です。
筆者の地元では大判焼き。生まれ故郷では御座候か回転焼きですね。というか大判焼きの呼称で地域特定できるのはやばいです。
ニシノミヤの住人はあちこちに離散しているので必ずしもカンサイ派閥とは限らないということですね!
ベイクドモチョチョは未来まで生き残っているかなあ…… 今更ですね!
多分お好み焼きのヒロシマとカンサイのほうが戦争の火種になるので、小競り合い程度なはずです。
応援よろしく御願いします!




