宇宙空間戦闘のセオリー
ホークは装姿戦闘から発展した人型兵器だ。
戦闘機である性質は強く残してある。宇宙空間戦闘用のためだ。
隻翼はヴァーリに搭乗し、不規則衛星シコラクスの表面に立っている。
『放棄された基地は維持してください』
エイルの言葉に隻翼が答える。
「わかっている。宇宙空間戦闘では人型になり、重力下の状況を制圧する必要があるからな」
装姿戦闘に求められた性能は、ホークにも残されてある。
宇宙空間専用装備さえつければどのようなホークも宇宙空間対応になるのだ。
「敵ホークをヴァーリのレーダーで感知した」
『おおよそ十万キロメートルにいます。三十分後には会敵します』
宇宙空間の戦闘では天文単位を使うほどではない。
「了解した。では宇宙空間戦闘のセオリーに従うか」
迫り来る敵機がヴァーリのコックピット内に映し出される。
『――分析完了。ホーク九機の三個小隊です。敵機は賊らしく統一されていません。高性能機フラメンシュヴェルトからセミスパタです』
「フラメンシュヴェルトまで保有しているとは贅沢な賊だ。セミスパタはスパタの簡易量産機だな」
炎の剣はエル勢力下におけるホークの中でも特殊な高性能機だ。
フラメンシュヴェルトはドイツ語由来の刃が波打っている、刺突に目的とした長剣を由来としており高火力機体だ。
「宇宙空間戦闘でのセオリー。――それは圧倒敵に防衛側が有利だということだ。宙賊どもはホーク一機だと侮ったようだ」
『宇宙での戦闘行為は不規則衛生や基地機能を有した人工衛星などの重力施設が必須です。宇宙艦も存在しない宙域戦闘など自殺行為でしょう』
ビームを減衰する大気もなければ、軌道を逸らす重量もない。
重力が存在する拠点が必須であり、確保できなければただの自殺行為なのだ。
「重力下の拠点がある場合、圧倒敵に防衛側が有利だ。しかし簡単に釣れたな」
ヴァーリはシコラクスの地表に立っているが、内部は重力区画の基地となっている。
今はもう使われていない基地であり、無人作業機ネフィリムさえいないが基地機能は生きている。
宇宙で迷子になったとき、このような基地が活用されるのだ。
「戦闘開始だ。目標はセミスパタ二機、スパタ三機」
ヴァーリは片膝を付きエクスプレスを構える。
隻翼はセミスパタに照準を合わせ、エクスプレスのビーム弾を発射する。
続け様、隣にいるセミスパタとスパタに合わせビーム弾を連続して発射した。
三秒後にはビーム弾が敵ホークに着弾する。NM装甲でも無効化できないビーム弾のエネルギーによって敵機体は音もなく融解して、小さな爆発を起こした後に宇宙の塵と化した。
直後、残り二機も同様に融解、リアクターが小規模な爆発を起こして散った。
「宇宙空間戦闘はこれだからな。一方的だ」
エクスプレスとヴァーリの索敵能力もあってこそ。とくにヴァーリがもつ宇宙空間における索敵能力は桁違いだ。
『いかに重力地点を確保するか。宇宙戦ではもっとも重要なポイントです』
「宇宙から拠点に向かう場合、基本攻撃側は的だからな」
敵部隊はまったくの真空。
ヴァーリは不規則衛生上表面にいる。内部に基地があり、熱源も金属反応もあり偽装しやすい。
「くそ。まだ七万キロメートルはあるぞ! 回避行動を取れ」
「畜生! もう姿を隠しやがった!」
さっさと基地内部に移動しているヴァーリ。
宇宙空間で撃ち合うほど無謀ではない。
「魔王だぞ。やっぱりやべえ奴じゃないのか?」
「NM装甲の機体を一撃で破壊するあのビーム砲弾はなんだ!」
「たった一機のホークに多額の賞金でおかしいと思ったが…… 敵は遺宝のホークだな」
「レガリアでもあんな高性能なホークは聞いたことがないぞ!」
「だから魔王なんだろ。魔王はすぐにシコラクスの内部に逃げ込んだ。重力区画であれば、ここまで一方的な結果にはならない。あと二十分。回避行動を取りながらシコラクスに乗り込むぞ!」
フラメンシュヴェルトに搭乗しているリーダーが檄を飛ばす。
宙賊たちは隻翼の目的を知らないまま、シコラクスに取りつき、内部基地に乗り込んだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
宙賊たちが駆る六機のホークがシコラクス内部の基地に潜入した。
残ったホークはフラメンシュヴェルトの他には、カットラスという量産機だ。とくに宇宙空間戦闘に優れており、宙賊たちが好む。
「疑似重力はまだ生きている。助かるな」
「あの魔王。なんで俺達を撃破しなかったんだ?」
「あれだけの威力を持つビームライフルだ。連射など不可能なのだろう。金属イオンを用いて弾数制限があるのかもしれない」
「ヘビーイオンライフルか? NM装甲を貫通するんだ。ありえるな」
NM装甲を採用しているホークなら通常のビーム弾数発程度なら耐える防御力を備えている。
ホークを一撃で破壊するようなビームライフルは、金属イオンを用いた弾倉形式か、あるいは遺宝クラスの超兵器のどちらかだ。
「遺宝の武装なら、あれだけの攻撃で終わるわけがないからな」
「それはいえる。現行の技術でも、あの威力は生み出せるはず。そのかわり、弾数制限がある。魔王の機体はそうなのだろう」
「ホークの反応がないな。遺宝のホークならステルス性能も高いかもしれん。慎重に捜索しろ。火力では俺達以上かもしれん」
「なあに。やられたのは低性能のスパタとセミスパタだけだ。弱い奴から叩く。戦闘のセオリーだな。案外火力はしれているかもしれん」
五機が迷路のような廃棄基地の内部を進む。宇宙空間ほどではないが、基地中枢近くの重力区画ではない。少し跳ねただけで天井に頭をぶつける可能性もある。
大気もあるようで、ホークが歩行する音が響いた。
「待て。一機足りないぞ。ネルソンはどうした?」
「ネルソン? どこだ! 反応しろ!」
パイロットの名を呼ぶも反応はない。
レーダーから忽然と反応が消えた。
「ありえねえ! 反応もなく消えちまった!」
「V字隊形を取れ! お互いを見失うな!」
フラメンシュヴェルトを中心にV字陣形を取る宙賊たち。
右端にいたグラディウスがふっと浮いた。
「うわ、浮いている!」
そのまま頭上の通路に消える。
「何が起きた?」
「解析した! 特殊なワイヤーで上の区画に引き揚げられたようだ!」
フラメンシュヴェルトが解析できた。
天井から数本のワイヤーがグラディウスの四肢を縛り、そのまま吊り上げたようだ。
「スラスターを噴かせば、労せず上層にはいけるが…… 全力で帰投するという手もある」
「何をふざけたことを! ホークを五機喪失して帰投はできない!」
フラメンシュヴェルトのパイロットが一喝する。
「くそ! こんなことなら浮遊都市間を行き来するっていうキッチンカー鹵獲のほうにいけばよかったぜ!」
「冷静に考えろ。浮遊都市を行き来するキッチンカーがまともなわけがあるか!」
「魔王よりもましだろう。あちらは美人がたくさんいるらしいじゃないか」
「こんなところにいられるか! 俺だけでも引き返す!」
恐怖に駆られたカットラスのパイロットが来た通路を引き返す。
「おい! 馬鹿! 離れるな!」
数秒もしないうちに反応が消えた。
「まずいな。これは。進んでも退いても地獄。どういった理由でやられるかすら検討もつかん」
フラメンシュヴェルトのパイロットが冷や汗をかく。
傭兵から宙賊に転向して以来、初めての危機だった。
いつも応援ありがとうございます! 誤字報告助かります!
今回は宇宙戦のセオリー。久々の戦闘回です!
ホーカーたちの戦闘は宇宙艦の甲板、人工衛星、運ばれた不規則衛星、浮遊都市などの天蓋で戦うことになります。
そうでなければ長距離狙撃で近付くこともままなりません。艦隊戦はまた別のセオリーが必要になりますね。アルフロズルは戦車ですのでセオリー無視が可能です。
宇宙基地に選ばれた不規則衛星シコラクスは直系160キロメートル以上なので某ル○ツー以上でア・バウ(略)ではなく小惑星ジュノー以下の大きさなのでかなり大きいです。
形状はじゃがいも系ですね。球状になるためにはもう少し質量が必要です。
セミ(半分のラテン語)スパタ。スパタよりも安普請です。
フラメンシュヴェルトはドイツ語で炎の剣。由来こそフランス語のフランベルジュと同じですが、用途も形状も弱冠違うようですね。フランベルジュは蔑称としての要素もあったようです。
今回は登場していませんがフランベルジュという名のホークも存在します。
宙賊たちが消えていく。
そして狙われたキッチンカー!
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