甘味に負けた超越知能
アルフロズルにいる隻翼に、ホーカーズヒューローのミレーナから通信が入る。
「どうした」
「どうしたもこうしたもありません! 何を企んでいるんです」
「募集した通りだ。屋台巡業だが?」
「海王星付近にいって三日後にですか?」
「そうだ」
「ワープ航法でもない限り無理ですよ?」
「登録した戦車はワープできるんだ」
「戦車するワープなんて聞いたこともありませんよ!」
「落ち着け。ワープする戦車だ」
隻翼は激昂するミレーナを宥める。
「……失礼いたしました。それでは屋台巡業の屋号である隻翼一家というのは?」
「巡業で各居住艦を回るんだ。屋号の一つもないと不便だろう」
「それで?」
「ん? なんだ。含みがある言い方だな」
「屋台のホーカーにみせかけて、実体はニンジャや殺し屋ではないのですか?」
「そんな面倒臭い真似をするならホークで乗り込んで殺す」
「……あなた魔王でしたね。そうそう。賞金首がのんびり屋台商などしていてもいいのですか?」
「ホーカーズヒューローの手配ミスで賞金首になったことを忘れるなよ」
「普通、賞金首になる前に死んでいますから。――しかし何故ツバキまでがその戦車にいるのです?」
「同郷だ」
「同じスサノオスフィアですが、あなたは元居住艦ニシノミヤ。ツバキは別の居住艦出身のはずですが」
「年の違う幼馴染みだ。よく遊びにきていたんだよ。装姿戦闘機で駆けつけてくれた」
事実だけを述べる。
反応弾関連の戦闘はいわない。あんなものは子供の駄々っ子だ。昔からナミはそういう拗ね方をしていた。
「へー。年上の幼馴染みですか?」
ミレーナがジト目で隻翼を睨んでいる。
「そうだが、何か問題でも?」
「ツバキも凄腕のホーカーです。他にも何名か有力なホーカーがあなたの戦車であるアルフロズルに登録を移しました。戦争できる戦力ですよ?」
「せっかく屋台巡業できる環境が入ったんだ。元ニシノミヤ住人を集めただけだ」
「女性を侍らすんですか?」
「名簿ぐらい見ろ。むさ苦しいほどの男所帯だ」
隻翼としては完全な言いがかりに等しい。
「こほん。それもそうですね。ただ屋台のホーカー管理局からも悲鳴があがっていますよ。名だたる職人がテュールスフィアに移籍したと」
「屋台部門と傭兵部門の分離を勧める」
「一介のオペレーターではどうにもなりませんね」
「ホーカーズビューローの組織内の事情は関与できないぞ。屋台なんか問題になるのか?」
「なっているんですよ。あなたの出した巡業案内にも応募が殺到していますよね」
「問題ないだろ。どこに行くかは俺が決める」
「屋台巡業から除外されたEL勢力からはクレームもきているんですよ。どう回答するんです?」
「知るか。あいつらが俺を賞金首にしたんだが? 巡業する義理もない」
隻翼は呆れて思わず吐き捨てる。
どこの誰が敵地で屋台巡業などすると思うのか。
「当然ですよね。私が先立ってそう回答したところ、ガブリエルスフィアとラファエルスフィア、メタトロンスフィアは賞金首にした事実はないという回答でした。ウリエルスフィアは表向き賞金首にしたが来て欲しいという要望がありました」
「おい、ウリエルスフィア」
「あのスフィアは伝統的に二枚舌なので…… いや複数枚舌で空約束や暗躍を得意とするスフィアです。食事がまず……美味しくないという伝統もありますから切実なのでしょう」
そんなことをいわれても賞金首にされている以上、隻翼の知ったことではない。
「ガブリエル、ラファエル、メタトロンのスフィアには様子をみて衝突がなければ安全担保を条件に検討すると伝えておいてくれ」
「了解いたしました。ウリエルスフィアはどうしましょう?」
「放置してくれ。何かあったら直接いいにきそうだ」
考えるのも面倒だった。
「承知いたしました。ところでホーカーズヒューローで屋台をする気はありませんか?」
「どこにあるかもわからない本部に行く気はない」
ホーカーズヒューローは絶対中立を謳い、場所も不明だ。
絶対中立などあやしいものだと隻翼は思っている。逆に言えばおのれ以外敵という宣言外ならない。
「……どこか間借りして主催するのはありということですね」
「なしだ。ホーカーズビューローは中立勢力だろ」
「中立だって屋台ぐらい食べたいのです!」
「上司を説得してからにしろ」
「そんな…… せめて事前に場所を教えていただくわけには?」
「ダメだ。事前に漏れても面倒だからな」
「わたくしどもがそんなに信用ないということでしょうか?」
「信用できる仕事をしてから言え!」
隻翼は縋るようなミレーナの通信を切る。
「念のために聞くがエイルもロズルもEL勢力内での屋台巡業は反対だよな」
現在も屋台職人たちは腕を競うかのように大広間で調理している。
供物台に載せきらず、一時間ごとの交代制になったほどだ。もちろんそのあとはクルーたちが美味しく頂く。
『いいえ。殴るだけが戦争ではありません、敵にも友好的な勢力を確保するという目的であれば巡業も悪くありません。なにより超越知能の方針と人間はわけて考えるべきです』
『私の屋台職人たちを危険な目に遭わせたくはないですが』
『私達の、です。ロズル。珍しいですね』
「珍しいな。お供えが気に入ったのか」
『はい』
「そうか。それは何よりだ」
『前言を撤回します。食べたいです。まさか屋台料理にあれほどの種類のスイーツがあるとは想定外でした』
『私もです。味わってみたいですね』
『とはいえ隻翼が最優先事項には変わりません』
「食べたいと思わせたあいつらの勝利だ。俺は嬉しい」
にやりと笑う隻翼。
屋台職人たちが肉体を要らないといわせしめた二人の気持ちを変えたのだ。
自慢の同胞たちである。
『敗北しました。とくに台湾かき氷雪花冰日本アレンジなるものは計算しただけでも恐ろしい甘味です』
『私は巨大モンブランなるケーキをお供えされました。計算したところ満足度99点です』
二人の声音はもはや生体時に近くなっている。
甘味とは恐ろしいものだと思ったが、口には出さない
「拷問になるといけないから控えさせようか?」
『いいえ。どんなバリエーションがあるか追求してください』
『私はもっと世界が知りたい』
「わかった。バリエーションとかいいだすと終わるまで数年かかるぞ。気合いを入れてエイトリを探さないとな」
『エイトリ確保の重要性が増しました』
『テュール様にも食べさせてあげたいですね』
「同感だ」
二人をやる気にさせた屋台職人たちを隻翼は褒め讃えたかった。
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屋台巡業の募集。何故かホーカーズビューローから横槍が入ります。
本当にこの組織は中立なのか。ノワール戦役もあって隻翼はあまり信用していません。
そしてあまり肉体に固執していなかったエイルとロズルから意欲を引き出した屋台職人たち。
雪花冰は五年ぐらい前に逸りましたね。氷が練乳やミルクになっていることが特徴です。
昨年は純氷のほうがブームでしたね。屋台形式でも売っています。
巨大なモンブランは専門店ブームですね! 大須で食べにいきました。2k以上しましたね。
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