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魔王、帰還す〜追放された傭兵は圧倒的な機動力と火力をもつ機体を駆り戦場を支配する  作者: 夜切 怜
過去との対峙

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気まずい対話

 テュールスフィアの住人になった者たちは、端末に指示された部屋に移動する。

 個室は十分な広さであり、大部屋はプライバシーに配慮された大家族対応まである。


「え、おいらたちの家族がこんないい部屋に……」

「子供部屋がある戦車だなんて」


 子供が三人いる家族や、年老いた父を持つ者が愕然とした。


「こりゃ死に損ないの俺にはもったいねえや。対価には命を張らせてもらうしかねえ」


 年老いた父が呟くのも無理がないと思う息子。ニシノミヤ陥落の際、生き延びてしまった者は死に場所を見失ったと思い込む者は多い。


 アルフロズルはあくまで戦車であるが星間航行を行い戦闘をする以上、クルーの疲弊は限りなく抑える設計にされている。


 しかし広間に正座で座ったままの者もいる。

 女性陣だ。


「話があるんだろ。足を崩せ」

「義妹である私が代表してお話しましょう」


 チヒロが正座のまますっと前に(にじ)る。


「まずはお義兄様が息災であったこと、何よりも嬉しく存じます」

「堅苦しい挨拶はよせ。わざとやってるだろ。昔みたいにレイジお兄ちゃんでいい」

「ばれた」


 チヒロはにっこりと笑う。

 堅苦しい挨拶はレイジが苦手とするところだ。


「レイジお兄ちゃんを変えた人がどんな女性かと思いましたが、肉体を消滅してまでも寄り添う精神。これは分が悪いなあって」

「なんの勝負だ。俺達は兄妹だぞ。後ろに控えている子たちも幼馴染みだ。俺が十二の頃とは違うだろう。みんな美人になったな」


 やめろ! と強く心のなかのヴァーリが警告してくる。

 確かに今はタイミングが悪いかもしれない。


「お世辞も上手くなりましたね」

「いいたいことがあるならはっきりしろ」


 レイジがチヒロのことを妹としか認識していないことは誰の目にも明らかだ。


「エイルお姉ちゃんやロズルお姉ちゃんはこの戦車そのもの。レイジお兄ちゃんが惚れてしまうのもわかりますよ。えっと、すみません。エイルさん。ロズルさん」


 チヒロは昔からあざといところがある。

 隻翼と二人の絆が強いとみるや、あえてエイルとロズルをお姉ちゃん呼びしてみせた。

 ユノが引き攣った笑みを浮かべている。


『親しみを込めてエイルお姉ちゃんと呼んでくださいね』

『ロズルお姉ちゃんです。実に可愛らしいお嬢さんですね』


 チヒロの策略は奏功したようだ。流されやすい二人だと心のヴァーリが警告する。


「ええ。では本題を。――なにゆえカンノのお嬢様がレイジお兄ちゃんの背後に控えているのでしょう?」


 当然のようにレイジの背後に凜として正座しているカンノナミを睨み付けるチヒロ。

 

「……私は護衛……」

「お兄ちゃんは約束通り数の多い集団から迎えにいくと。ワープ航法によって大きな遅れもなく希望者を受け入れました。あなただけ特別扱いするとは思えないのです。――抜け駆けしましたね?」

「……本業のついで……」

「本業とはなんでしょうか」


 チヒロを制するかのようにユノが質問する。


「……私も……ホーカー……」

「ホーカーだな。装姿戦闘機で襲ら――いち早くアルフロズルに乗り込んだ」

「撃ち落とさなかったのでしょうか」

「なんでナミ姉を俺が撃ち落とさないといけないんだ」

「お兄ちゃん、ナミちゃんに昔から甘いですよね?!」

「落ち着いてチヒロさん。ナミさんはずっとレイジさんの行方を追っていたことは知っているし、場所が割れたらそれぐらいはしそうだなと思っていたよ」


 ユノが以前評したレイジを慕う過激派トップグループにナミも入っている。


「まあなんだ。同じ戦車クルーとして仲良くしてやってくれ」

「よろしくね…… チヒロちゃん……」

「えー! ナミちゃんは抜け駆けしたのに」


 昔から続くやりとりだが、隻翼は想わず口が滑った。


「――チヒロ。俺はお前を呼んでいない」

「うぐっ」


 図星を突かれてチヒロは涙目になる


「レイジさん。それはちょっと酷いなー」

「レイジ君ひどい……」


 二人がチヒロに駆け寄り、抱きしめる。


『隻翼。そういうところですよ』

『今のは隻翼がいけません』


 言葉に詰まる隻翼が、なんとかして取り繕う。


「女子供を危険な目に遭わせたくないんだよ」


 そう口にする隻翼だが、その言葉がユノの怒りに火を付けた。


「だからそういうところですよレイジさん。ボクまで女で子供扱いですか? いま、何世紀だと思っているんです。時代錯誤も甚だしい。女だって居場所を守るためには戦う時代ですよ」

「相変わらずだなユノ」


 ユノは物怖じしない幼馴染みだ。

 気まずい。


「あの時はボクだって戦いたかった。ニシノミヤ陥落のような思いは二度とごめんですね。レイジさんが女性のために死地にいくならなおさらね!」

「それはだな……」

「音のことだから関係ないって? 女絡みの戦争だから巻き込みたくなかった? それぐらい自分で判断するよ。ボクはともかく妹にぐらい連絡しなよ!」


 実に正論である。


「ユノちゃーんー!」


 ユノにすがりつくように泣くチヒロ。

 

「私はただお兄ちゃんとようやく連絡が取れて嬉しかっただけ…… 先にナミちゃんがいるとは思わないよ……」


 それはチヒロの本音であり、演技ではない。


「……ごめんね。チヒロちゃん…… 気持ちは痛いほどわかるよ……」


  怒りのあまり反応弾を撃った女がナミだ。


「私こそごめんなさい。ナミちゃんはずっとずっとお兄ちゃんを探していたもんね」

「……うん……」

「つまりレイジさんが悪いってこと! ――ボク達に隠れて仕送りまでして。みんな知っているんだからね」

「バレてたのか」


 隻翼は匿名で送金していたのでバレていないと思い込んでいた。


「私達に送金してくれるような住人って限られるよね。ホーカーなんて危険な仕事ををしているとは思わなかったよ」

「屋台のホーカーもしていたぞ」

「屋台で稼げる額ではないよね。とりあえず目の届く範囲にいるからこれ以上はいわないけどさ」


 背後の女性陣たちも同様のようだ。

 言葉に詰まる隻翼。


(なにをやっているんだ。お前はまず謝罪しろ!)


 ヴァーリが心のなかで語りかけてきた。

 いつものような感覚ではない。はっきりとした声だ。


(ヴァーリ。なんだ会話できるのか。何を謝れというんだ)

(連絡しなかったことへの謝罪だな)

(それか……)

(ホークのヴァーリから俺にヘルプが入ったんだぞ。まったく見てられねえってよ。とにかく謝れ! いいな!)

 

 業を煮やしたホークのヴァーリが、火星にいる本体に連絡したらしい。

 いつも心のなかで警告してくれたヴァーリはホークだったようだ。隻翼自身にも因子があるので、ホークのヴァーリと火星のヴァーリは連動しているのだろうことは推測できた。


(あとは自分でやれ)


 そう言い残すとヴァーリの気配は消えた。


「――その、なんだ。みんなに生存連絡をしていなかったことを詫びる。申し訳なかった」

「……これぐらいにしてあげて……」


 ナミも助け船を出した。


「そうだね。今日はこれで勘弁してあげる」


 ユノがみんなを代弁して告げる。

 ヴァーリの的確な助言により、隻翼は窮地を切り抜けた。


いつも応援ありがとうございます! 誤字報告助かります!


ヴァーリ 「まったく何やってるんだ! 戦闘には迷いがないくせに女相手には手も足もでないのかよ。俺の分霊にまで負担をかけるんじゃない」

テュール 「お前たち、本当に似たもの同士だよな」

ヴァーリ 「うるさい」

テュール 「我が思うに、お前が直接アルフロズルに乗り込む必要はありそうだぞ。謀略ではなく人間関係のサポートで」

ヴァーリ 「勘弁してくれ……」


ホークのOSを分霊といってもいいかどうかは不明ですが、ユニークであるヴァーリなので分霊といっても差し支えないでしょう。

いつもいる心のなかのヴァーリはホークのヴァーリ。今回は火星本体が初介入。両者は当然同期しています。万が一ヴァーリ同士の戦闘になっても本体は介入しません。


からくも窮地を乗り切った隻翼ことレイジ君。

戦闘よりもきつい心理戦が続きます。


応援よろしく御願いします!


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― 新着の感想 ―
百歩譲って縁が切れたと思ってた別の艦所属だったナミに連絡入れなかったのは良しとして(そう思っていたのはレイジだけなので当然良い訳なくナミは切れた) 家族とかに対してまで入れてなかったはまあヴァーリが警…
女にだらしない訳じゃない、と言うか誠実であろうとしてるのに女の敵と化してるな まあ千年くらい古い感性での行動だけど
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