戦乙女(ヤンデレ)同盟
アルフロズルに収容されたビッグヴァルチャーから降りたナミはエイルの指示された個室にいた。
「本当に大丈夫か?」
隻翼が不安げに尋ねる。
『お任せを。ビッグヴァルチャーは相当な戦力です。ミナがこのアルフロズルに乗車するに相応しいかどうか私とロズルが直接対話します』
「そうか」
何故か危険だと感じる隻翼だったが、乗車資格を二人が直々に審査するのだ。
万が一の時は神納の家に送り返すつもりだ。
「しかし……妙にざわつくな。何がいいたい、ヴァーリ」
おそらくざわめきの正体はヴァーリなのだろう。
しかし察することはできても何を伝えたいかは理解できない。あくまで勘のようなものだからだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気配を感じるナミ。
眼前のモニタが自動的に起動し、ナミに呼びかける。
『はじめましてカンノナミ。私はゲニウスのエイル。レイジのメールに記載されていた元女性です』
「もと?」
『今は肉体がなく、無機質な超越知能です』
『同じくこの戦車を司るアルフロズルを管理するゲニウスのロズルです』
「あなたたちの肉体を取り戻すためにレイジ君は戦うのですね」
顔をあげたナミは普通に会話している。
『そうです。あなたがこの戦車を奪おうとした理由を知りたいのです』
「パズルのピースをあてはめただけです。ホーカーズヒューローの高額賞金首とノワール戦役のスパタ。そして出現した魔王と呼ばれる機体と出現した巨大戦車。巨大キャリアーを手に入れたレイジ君。これだけの情報があれば自ずと答えは出せます」
『本気でレイジを殺そうとしていました。貴女はレイジが核反応弾程度で死ぬなどと確信してましたね』
「はい」
『万が一殺してしまった場合は自爆して一緒に死ぬつもりだったのですね。無理心中というそうですね』
エイルは推測では無く断定だった。
「はい」
『愛しているから?』
「はい」
躊躇することなく即答するナミ。
『貴女の心情を理解します。私は戦乙女の性質も併せ持つゲニウス。愛する者が他の者にわたるぐらいなら殺してしまう――もう心は手に入らないからです』
「超越知能は私のことまでお見通しなのですね」
『そうでもありません。ホーカーネーム【ツバキ】」
「私はホーカーネームまで名乗っていませんよね…… 怖いな……」
ナミは相手が超越知能だと実感する。
『私たちから貴女に依頼があるのです』
「なんでしょうか」
『イラレイジが長い旅路の果て。――私達の復活という望みが潰えた時、ナミが彼をこのアルフロズルから連れ出して欲しいのです』
「――」
ナミは真意をくみ取ろうと、無機質なスピーカーを見つめる。
『私達の肉体は限界でした。ともに食事をするだけの関係でしたが彼と一時過ごせただけ幸せでした。私達が再生するに必要な物質を手に入れるためにはEL勢力と苛烈な戦いを強いられるでしょう。もう十分にやったと彼が望んだ時、支える女性が必要です。私達は肉体がなく寄り添うことはできません』
「待って。でもあなたたちには心があるでしょう? 本当にそれでいいのですか?」
『レイジを想う心はありますが肉体喪失時に感情は消えました。それでも運がよいのです。これも気のいい二人のドワーフが自らを犠牲にして私達の記録を残してくれたからこそ』
『私達は自分の願いのために隻翼を危険な目に遭わせたくはないのです。かつて肉体をもっていたロズルが彼を愛している。今の私もそうですがそれは最適解ではないのです。私達は機械なのですから』
エイルの言葉をロズルが補足する。二人は今もなおエイトリ奪還という目標には反対だったのだ。
「あなたたちもまたレイジ君の幸せを願うものなのですね。無理心中しようとした私とは大違いです」
負けた、とナミは思った。
心をなくしても愛することなどできようか。そして幸せを願うことなど。
「依頼は引き受けました。――あえていいます。その上で私もまたあなたたちの肉体復元に力を尽くしたい」
『なぜあなたが? あなたはタイミングをはかってレイジを連れ出せばいいのです。二人の幸せを邪魔しませんよ』
「あなたたちがレイジ君を変えたのでしょうね。わかりますよ」
寂しそうに微笑むナミ。
「もしあなたの言う通り、戦いの果て疲れ果てたレイジ君があなたたちの復活を諦めた時は、もう心が死んでいますよ。彼は決して諦めない。心が死んだ彼を押しつけられても困ります」
ナミがはっきりと告げた。
レイジが諦めた時は死ぬときだけだろう。
『そういう可能性もありましたか。さすがは幼馴染みといったところでしょうか』
「はい」
やや自慢げなナミ。
『ずいぶん印象が違いますね。本当にビッグヴァルチャーのパイロットですか?』
「レイジ君と話している時が素です。この私はよそ行き用――作り物みたいなもの。数時間なら化けられます。疲れますけどね」
『今のナミならレイジの好感度も高くなるはずです』
今のナミは明るく闊達で、物腰も柔らかだ。
「それだと意味がないんです。私はレイジ君にとっては暗く陰気で、少々頼りないお姉ちゃん。私はレイジ君のなかにある女の子。思い出にいた延長上の存在でなければいけません」
『意味がない。――あなたはそこまで彼を想いますか。ニシノミヤスフィアの記憶から続く面影を演じるほどに』
「おおげさです。素の自分のほうが楽というだけですよ。それにいつまでも昔と同じではいられなかった。彼も私も」
『理解します。十四歳の貴女と二十三歳の貴女が同様なわけではないのです。人間は成長して社会性も身につけ立ち振る舞いも変わります。――そういうことにしておきましょう』
「かなわないなぁ。予想以上に強敵な恋敵です」
諦めてはいないのか、過去形ではないナミ。
『それはこちらのセリフです。では私達は戦乙女同盟を結び、お互いの勝利条件を目指しましょう。私達エイルとロズルとナミ、三者の同盟はレイジの心と生存を第一とします』
「素敵な勝利条件ですね。戦乙女の名など私には似合わないとは思いますがよろしくお願いします」
『ヴァーリからヤンデレ同盟というクレームがきています』
『無視してください』
ロズルの報告に、エイルが素っ気なく回答した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ナミが制御室に入る。
隻翼の姿を見るなり、抱きついた。
「……レイジ君…… 私、試練に合格した……」
「こら。いきなり抱きつくな。エイルとロズルが見ている」
「……見せつけているの……」
「やめろ。離れろ」
本気で嫌がる隻翼にしぶしぶ離れるナミ。
「人がいる前では隻翼と呼んでくれ。機体と戦車と同時に拝領した名だからな」
「うん……わかった……隻翼…… 今はレイジ君でいいよね……?」
「おう」
隻翼もそれぐらいは譲ってもいいと判断する。
「……私のホーカーネームはツバキ……」
「ん? 聞いたことがあるホーカーネームだな」
「……人前ではそう呼んで…… 私の顔を覚えている人もいるだろうけど……」
「わかった」
ナミ――ツバキも隻翼の意を汲んで自らのホーカーネームを告げたのだ。
「どんな試練だったんだ?」
「……内緒……」
「エイル?」
『問題ありません。彼女は良きクルーとなるでしょう』
「……エイルとロズル大好き…… 彼女たちとは仲良くなれそう……」
「本当に問題無いんだろうな!」
心のなかのヴァーリが手遅れだと断言する。
やはりヴァーリ本体を搬入する必要があると焦る隻翼だった。
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ドヴァリン『やばいぞ兄弟。俺達も記憶が残っているといえない状況だ』
ドゥリン 『俺達が女神や戦乙女と同じ容量なわけないもんな。』
ドヴァリン『悲しいことをいうな。まあいい。道具になりきろう』
ドゥリン 『装姿戦闘機だぜ! こりゃ改良しがいがあるな!』
アルフロズルは誰でも知っている女神なので、ゲニウスとしても格が違います。馬二頭分のデータ領域も独立しています。馬は嫌そうです。
装姿戦闘機はドワーフ的に面白いギミックなので喜んでいます。
ドヴァリンたちは馬部分に同居しているので、ロズルのなかにエイルがいるだけの状態です。万が一に備えてテュールが脅しすぎていただけです。
ヴァーリは……気苦労が一つ増えそうです。戦乙女といえばヤンデレですので。
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