疵痕
月の表面をクローラーで移動しているアルフロズルに遥か遠方から装姿戦闘機が飛来する。
ヴァーリはアルフロズルの甲板に立ち、迎撃準備をしていた。
「何故だナミ姉。俺はそこまで恨まれるようなことをしたか? 話し合おう」
隻翼は和解のための会話を試みた。
「何故八年も…… 私に連絡を寄越さなかった……」
地獄の底から響くような怨嗟の声。
「それは……便りが無いのは良い便りというだろう」
「私に乗車案内がなかった……」
「案内を出した人間はニシノミヤソフィアの男性住人だけだ。ナミ姉を巻き込むわけにはいかない」
「……私という者がありながら! 愛する女性二人とはなにごとしょうか……」
「俺達はそんな仲ではなかっただろう!」
「……え?」
「え、じゃない。俺十二歳で、ミナ姉は十四歳! 会うのも年二、三回程度だ!」
「……その会う時間がとても大切だった…… でもあなたはそうではなかったということですね……」
眼を再び見開き、宣言する。
「……モウコロス!」
ビッグヴァルチャーから巨大なビーム砲が飛んでくる。
ヴァーリのシールドで受け止める隻翼。
「なに?」
左右からもビームが撃たれた。
「なに?!」
『あの装姿戦闘機の追加ブースターは小型無人機オプション・トムティットです。ビックヴァルチャーを母機としてトムティットによる遠隔攻撃が可能です』
「分離兵装か!」
分離兵装。無人機のドローンと違う点は、分離前提として本体としての機能も持つ兵装だ。
「ヴァーリの装甲を貫通するほどの威力はない」
『牽制です』
「ちぃ」
トムティットに気を取られているうちに、ビッグヴァルチャーからビームが放たれる。
二連装のビーム弾を再びヴァーリの楯で受け止める隻翼。
コックピット内にアラームが鳴り響く。この二連ビームも牽制であり、本命はミサイルが迫りくる。
『ミサイル撃墜を。小型の反応弾です』
「そんなものまで!」
宇宙空間での目標を破壊するミサイルに使われる、超小型核融合反応弾ミサイルだ。トリチウムとヘリウムを反応させることで小型の高熱源を発生させる。
宇宙空間は大気がないので爆風などの被害はないが、EMP効果も期待できる。地上や居住区画では使用禁止だ。
アルフロズルは月面表面であり居住区画ではない。使用も認められる。
「本気で殺しにきたのか!」
隻翼はナミに問いかける。
エクスプレスのビーム弾でミサイルをすべて叩き落とす。
「……それぐらいでないと魔王は倒せない……」
ナミもまた悲愴な表情をしている。
ビッグヴァルチャーがトムティットを背面に装備し直して間近に迫っていた。
変形して剣とシールドを引き抜いて接近してくる。
「……あなたを殺して私も死ぬ……」
ナミの凄まじい殺気にも隻翼は動じることはない。
『確認しました。ナミは私の同種です。仲間にしましょう』
「おい、いいのか」
『彼女からは強いヴァルキリー属性を感じます。愛する者を殺し愛する者をヴァルハラにつれていく心意気です』
「いや、そうはならんだろ!」
そういいつつも隻翼も彼女を殺す気はない。
「――遊びは終わりだ」
ヴァーリがビッグヴァルチャーを上回る加速で間合いを詰める。
そのまま無造作に蹴り飛ばす。ビッグヴァルチャーは仰向けに転倒した。
「……足蹴にした…… かわっていない……」
「足蹴にしたことなんかないだろう! 存在しない記憶はやめろ。だいたいいつも変なタイミングで抱きついてくるからだ!」
レイジとて幼少期。残念系とはいえ年上の美少女にベタベタされるなど恥ずかしい以外なにものでもない。
涙目のナミは無言だった。
「さあ。殺しなさい」
「殺さない。どうしてこんな真似をした」
「……レイジ君が行方不明になって……ずっと探していたの…… 元ニシノミヤの住人に聞いても誰も知らなくて…… 大学卒業後、あなたを探すためにホーカーになった……」
「俺はずっと名無しのホーカーだったんでな。身バレは避けたかった」
「そう…… そこで魔王と呼ばれるホーカーの存在と……レイジ君が宇宙艦を手に入れてみんなを迎えるということ…… その中に私が入っていなかったこと……」
ナミが大粒の涙をこぼす。
「君がどこかで生きていると信じて…… 探して! 探して! 探して! 探して! ずっと探していたんだよ……」
「連絡しないで悪かったよ……」
さすがに隻翼も気まずくなる。
「……生きていて本当に良かった…… うぅ……もう満足。殺して……」
「殺さないって」
『隻翼。ナミを刺激しないように機体を車内に格納しましょう。彼女はあなたに殺されて疵になることを望んでます』
モニタにエイルがメッセージで警告する。隻翼もメッセージで問い返す。
「どういう意味だ」
『そういうとこですよ隻翼。あなたに殺されて心に疵痕を刻むことが彼女の願いです。私には彼女の気持ちが理解できます』
「よくわからん……」
『このままでは彼女があなたにとって二人目のジーンになるということです。自爆する前に早く』
「それは避けたいな」
ヴァーリがビッグヴァルチャーの腕部を掴む。
「帰るぞナミ姉」
「……え? どこへ……」
「とりあえず、今の俺の家にだ。来ないのか?」
「……行く」
ナミの涙は止み、ビッグヴァルチャーは抵抗するそぶりもなかった。
二機はアルフロズルに帰投した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ニシノミヤ居住艦のお祭りだった。
当時のナミは十三歳。
めったにない華やかな祭りに浮かれて、一人で屋台巡りをしていた。
「よぅ。姉ちゃん。可愛いな」
「俺達と遊ばないか?」
柄の悪い男二人に囲まれた。
「……いえ、親が待っていますので……」
「ああ?!」
大声を出されて固まるナミ。
「ほら。さっさと来いよ」
「楽しいことしようぜ」
怖さのあまり震えて膠着するナミ。腕を強引に掴まれた。
「……や、やめてください……」
「その程度なら合意だってことだな」
「い、いや……」
抵抗するかのように、その場に座り込む。男は強引に腕をつり上げようとした。
その時だった。
黒髪の少年が突如現れ、男を殴り飛ばす。
「ぐぇ」
「なんだ糞ガキが!」
もう一人の男が少年の襟首を掴もうとするが、少年は男の足の甲を踏みつける。
そのまま右拳を鳩尾に叩き込んだ。
「いてえ!」
「お前たち。伊良一家の客人に手ぇ出してただですむと思うな」
「へ? 伊良の客人?」
「す、すみません!」
「失せろ!」
少年が一喝すると、男二人は半泣きになりながら逃げ出した。
「大丈夫か。ナミ姉」
「……レ、レイジ君。ありがとう……」
「ほら」
座り込んだナミに手を差し出して、立ち上がらせるレイジ。
「帰るぞナミ姉」
「……え? どこへ……」
「とりあえず俺の家にだ。来ないのか?」
「……行く」
普段はつんけんとした少年だが、この時ばかりは優しかった。
あの時と同じ言葉。
レイジが意識したかどうか知る由もないが、ナミはそれだけで十分だった。
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ヴァーリ「隻翼がまたヤンデレ相手にフラグを立てやがった! テュール、どうにかしろ。戦闘で死ぬ前に女に刺されるぞ」
テュール「お前が乗り込めばいいではないか。許可するぞ」
ヴァーリ「嫌だ。あんな修羅場に巻き込まれたくない。エイルと同じぐらい重いぞあの女」
テュール「あやつらも、お前たちも似たもの同士だからな……」
ヴァーリ「どこがだ!」
隻翼の遺伝子情報にヴァーリは入り込んでいるので同期しています。
本体はともかく、隻翼の心の中のヴァーリは隻翼の知る語彙で話すので、口は悪くなります。
装姿戦闘機は様々なオプション機能がついています。本体はあくまで戦闘機ですが、頭部腕部脚部になる部品で主翼や補助スラスターになっているのです。
ビックヴァルチャーは分離兵装を持ち、相手の分離兵装を奪うことも可能という特殊効果もあります。
ワープ機能もあり、こんな構造なのでコストは跳ね上がりますが、人型でのホークとは同等程度の性能ということもあり、現在ではコスパの悪い機体ではあります。
オプショントムティット――tomtitは小鳥という意味です。シジュウカラやスズメなどを意味します。
やはり宇宙空間戦闘機にはオプションが必要! ということで!
タイトルはふと昔の同人仲間と再会したとき、一緒に参加したサークルの同人誌ジャンルを思い出して。
リー○の○です。読みはタイトルと同じ。まだ原稿が残っていてびっくりです。
ナミに手を出そうとした二人は後ほどセンノスケにきっちりとカタをはめられております。
祭りの治安維持は一家のお仕事! 客人などもってのほかなのです。
応援よろしく御願いします!




