装姿戦闘機【BigVultur]】
アルフロズルは月面都市に向かって降下中だ。
月面都市は巨大なドームになっており、このドームと地中だけが人類の生存領域となる。
「約束通り、人数が多い集団から迎えに行く。まずは月からだ」
隻翼は全員にメッセージを送る。
宇宙港は使えないので、大型の月面トレーラーをチャーターしているらしい。
アルフロズルは月面の中立地帯に着陸した。
『警報。高速に接近する機体あり。これはホークの前身にあたる装姿戦闘機です』
機影の姿がモニタに映し出された。
装姿戦闘機――LimbFighterと呼ばれる人型兵器ホークの前身だ。
減速はしているようだが到着は間もないだろう。
「性能はどのようなものだ?」
隻翼も装姿戦闘機の実物を見たことはあまりない。
『該当機体はグラディウス・ビッグヴァルチャー。この装姿戦闘機からホークの中でも名機といわれるグラディウスが開発されたとされています』
巨大な禿鷲。全長二十メートルを巨大なハゲワシの名に相応しい高性能戦闘機だ。頭部と腕部と脚部を取り付け12メートルサイズの人型兵器グラディウスに変形する。
この装姿戦闘機から可変機構を除外したものがホークのグラディウスであり、量産化されて現在も残るほど不朽している。
禿鷲はやがて小型のホークに。剣由来であり該当機体が普及した影響からホークの命名規則には古代の刀剣類が多くなったとされる。
グラディウスは量産数がもっとも多いホークの一つであり、バリエーションも豊富だ。
「装姿戦闘機としての戦闘力は?」
『グラディウス・ビッグヴァルチャーはあくまで移動用ですが負の質量によるワープが可能です。侮れません』
「近距離戦闘に使えないが、月の座標指定で大まかなワープができる機体ということだな」
負の質量理論が完成するために大きく貢献した事象がワープの提案だった。
ホークの装甲にも採用されているが、本来はワープ用途だ。
「敵ではないんだな?」
『該当機体からの信号はキャッチしました。搭乗希望者名簿に名前があります。カンノナミ。ホーク持ちの傭兵です』
「神納菜見か。懐かしい名だ。名簿でみた時は見間違いだと思っていたんだが」
『ミトヤというファミリーネームは日本系からみても稀少のはず。現実から目を逸らしてはいけません』
「そうだな」
エイルの指摘はもっともだ。
内心認めたくない隻翼が気のせいということで処理してしまったのだ。
『装姿戦闘機で奇襲をかけられるほど隻翼は恨まれているのでしょうか』
「恨まれてはいないはずだぞ。それにスサノオスフィアの住人ではあるが違う宇宙居住艦の住人だ。本人とはな」
『関係性は? モトカノですか」
「モトカノいうな。そんなもんじゃない。俺より二つ上の女性でナミ姉と呼んでいた。居住艦ニシノミヤが轟沈して以来、縁も切れたはずなんだが……」
『説明を求めます』
「彼女の両親がうちの屋台を気に入って何度も遊びにきていた居住宇宙艦ウンナンに住んでいた名家のお嬢様だな。装姿戦闘機ぐらい所有していてもおかしくはない」
『ウンナンは海王星付近にあるスサノオスフィア本拠地イズモ艦隊を構成する一隻ですね。わざわざ別の宇宙居住艦にやってきていたのでしょうか』
「やってきていたな。家族ぐるみの付き合いというヤツさ」
『どのような関係性だったのでしょうか』
「よく言えば頼りにならない隣のお姉さん的な」
『褒めてそれですか。正直に話してください』
「ダウナー系というか、イザナミ系女子というか。放っておけない感じではあったことは確かだ」
『厄いですね。ヴァルキリー属性をもつ私がいえたものではありませんが』
「毎回俺宛にお土産をもってきてくれていたよ」
『隻翼宛のお土産。推測完了。その方にニシノミヤ陥落後に隻翼は安否連絡しましたか?』
「していない」
若干気まずそうに隻翼がこたえた。
『そういうとこですよ隻翼』
「俺が悪いのか?」
『はい』
心のなかでヴァーリがフラグ建築士と呆れている。
そっと心の声に蓋をする隻翼。
『通信が届いています。繋げますか』
「繋げてくれ」
映像に映ったパイロットは通信がつながりヘルメットを外した。
長い黒髪。顔立ちは整っているが、前髪は左目を覆っており右目しか確認できない。切れ長で美しいが、下三白眼で迫力がある右目だった。
目の大きな女性といえば聞こえはいいが、無表情さも相まって生者とは思えない。
「久しぶりだなナミ姉。息災か」
隻翼は相手の女性を気遣う。
「勝負だ……魔王…… イラレイジ……」
女性パイロットは淡々と宣言した。
隻翼は知っている。これがナミの素だ。
「俺が魔王としっているのか。賞金が目当てか?」
「目当てはその戦車……」
「ほう」
相手の声も本気だ。隻翼も身構える。
「私が勝てばその戦車を頂きます…… レイジ君が勝てば配下になります。なんなら私を好きにしていいです……」
『条件が釣り合っていません。どちらにも相手に利があります』
エイルが思わず口を挟む。
「勝負に応じよう。俺が勝ったらナミ姉は三刀屋の家に帰れ。それでいいな」
「その条件は飲めない…… 配下になる……」
「帰れ」
「いやだ…… 私が負けた場合は機体ごと仲間にしなさい…… 戦力になります……」
「神納の親父さんやお袋さんに申し訳ない。わがままをいうな。帰れ」
みたび帰れと繰り返す隻翼。彼としても引くつもりはない。
ナミの両親とも顔見知りだ。二人の娘に何かあったら申し訳ないのだ。
「相変わらずつれない……」
ナミは嘆息を隠そうともしない。
「子供の頃からだぞ」
「そうだな…… 君はいつも私に塩対応だった!」
最後だけは何かを思い出したかのように限界まで瞳孔が大きく見開く。
無表情のまま瞳孔が開ききった瞳で隻翼を凝視し、ヘルメットを被り直したのちに通信が遮断された。
「相変わらず怒ると怖いな」
別の意味で、である。
『生きている方ですか?』
瞳孔散大は心拍停止と呼吸停止と並ぶ、生死の判断方法だ。
「生きているぞ。ああみえて根は優しいんだがな。誤解されがちなんだ」
『愛憎溢れる方ですね。私としては隻翼の対応に異論ありませんが女性相手としては最悪です』
エイルは合成音にも関わらず、しみじみと事実を述べる。
「仕方ない。ヴァーリで撃破してみんなを回収したあと、神納家に送り返すか」
『賛成です』
「やりにくいんだよな。ナミ姉は」
隻翼もため息を漏らす。
昔の知人と戦うことは想定していなかったからだ。
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ホークの前身である装姿戦闘機、人型の姿を纏う戦闘機です。英語の綴りはLim_Fighterとなります。
ノワール戦域で出したかったのですが、なかなかタイミングが合わずに今章です。
装姿戦闘機時代のプロットもありました。戦闘機がどうして人型になったのか、みたいな話ですね。
まさかイザナミ系女子がパイロットになるとは……
BigVulturは少し?古い横シューのオマージュです。ロボゲーでは戦闘機からいきなり人型になっていましたが、それでも20年以上前。
綴りはまったく違います! 似せているのは音だけです。
三白眼のダウナー系美女、神納菜見のモチーフはイザナミ。ナミだしね!
神納性はイザナミ由来の山からです。珍しい姓なので隻翼が悪いのです。
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