お供え
アルフロズルの指揮室から隻翼は火星にいるテュールにコンタクトを取った。
画面には巨像状態のテュールが映し出される。
「報告だテュール。以前のスサノオスフィア住人が二百人以上、アルフロズルへの乗車を希望している」
『それは何よりの朗報だ』
「住人が日系中心になるがいいのか?」
『構わぬ。スフィアが賑やかになれば、落ち延びた者の子孫が戻ってくることもあるだろう。その時は受け入れてやってくれ』
「もちろんだ。そこで相談があるんだが」
『聞こう』
「参謀が欲しい。ヴァーリの残骸をアルフロズルに搭乗は無理だろうか」
主に人間関係の、である。
『本人に聞いてみよう。――断る、だそうだ。俺を修羅場に巻き込むなと。仕事はしていると本人はいっている』
「仕事はしているな……」
『ヴァーリの働きを上回るような悪知恵を働くものがいるのか?』
「エイルの計算によって、警告に耳を傾ける余裕がなかった」
『察した。ヴァルキリー属性はそういうものだ。その想いの深さゆえに愛する者を殺めることさえある。諦めよ』
「わかった。こちらでなんとかする」
通信がそこで終了した。
とくにエイルからもロズルからもクレームはない。沈黙が不気味だ。
「エイル。怒っているか?」
ヴァーリを搭乗させたいと相談なしに進めたことに関して、エイルに思う所がないか心配だ。
『何を怒る必要があるのでしょうか。私の計算がヴァーリを上回ったという評価を頂き光栄です』
「そうか」
そうとしか言葉にできないやるせなさがある。
『希望者が三百人を超えました』
「送付対象者は百人だろ。家族持ちがそんなにいるとは思えん」
『隻翼に呼応したがっている人々が多かった証左でしょう。対応可能人数なので問題ありません』
「今の所、希望者が多いスフィアはどこかな」
『月です。水星と金星の人々は月に合流を試みていましたが間に合いそうにないので、宇宙空間で合流することになりそうです』
「そうか。月の代表者はセンノスケだな。相変わらずヘイジも一緒か」
隻翼は懐かしそうに目を細める。
『どのような方なのでしょうか』
「俺の五つ上の兄貴分でな。親父の右腕になる予定だった男だが、どうしても俺に若頭をやれと言い張っていた男だ。頼りになる」
『代貸なのですね』
「伊良一家が残っていれば、そうなるな。また代貸に戻ってもらおう。こいつらは異なるたこ焼き職人だ、エイルに喰わせてやりたい」
『調理したものが見たいです』
「……そのいいのか? 辛くないか。味わえないと」
『隻翼の心遣い、感謝いたします。しかし逆なのです。味覚がない現状、視覚情報は重要です。隻翼の料理は見て楽しむものでもありますよね』
「そういうことならあいつらに作らせる」
『何より我々の肉体を取り戻すという作戦立案に大きく影響します。人間ならモチベーションアップともいうべきものです。センノスケは何が得意なのでしょうか』
「センノスケは明石焼きとヒョウゴに伝わるたこ焼きが得意でな。ヘイジはオオサカ風だ」
『データベースにアクセス。――明石焼きとたこ焼きが別物だと理解しましたが、ヒョウゴとオオサカは同じカンサイ地方では?』
「細かいんだ、地球の日本は…… カンサイとひとくくりにするとキョウト人に殺される。戦争ものだ」
『解析。――そのようですね』
「地方や作り手によって変わってくるが傾向としてはヒョウゴのたこ焼きは小粒でたくさんのたこ焼き。オオサカは大粒のたこ焼きでボリュームがある。しょうゆ、ソースなど派閥もあるな。これは実際に見てもらったほうが早い」
『ロズル。たこ焼き一つで無限のバリエーションがありそうです』
『エイル。まず視覚情報を摂取して栄養素を解析して疑似味覚を試みることを提案します』
『提案を受諾。隻翼。彼等の腕前を私達に見せてください』
「ああ。任せろ」
隻翼はふと我に返る。
「これはお供えになるのでは……」
『お供えに調理する必要はありません。古来は酒や動物の肉でしょう』
「日本はお供え用に適した料理もある。お稲荷さんなどがそうだ。カミだけではなく、亡くなった人物の偲ぶ際、好物を作ったり、寿司で宴会したりな」
『我々はカミでも異端の神でもない超越知能に過ぎません。気にせずお供えを希望します』
「お供えしたものを人間が食べることもあるぞ。いいのか?」
『カミや死者なら食べることなど不可能でしょう。気持ちが大事ということですね。廃棄するだけなら無駄なく消費することは推奨されるべきでしょう』
「理解があって助かる。全員回収したら月で臨時の屋台村でも開くか。カグヤに打診してくれ」
『了解です』
隻翼がモニタの名簿に視線を落とすと、エイルから反応があった。
『カグヤ殿の許可が降りました。日程と出し物リストを希望するとのことです』
「五分経っていないんだが?」
『三分五十三秒後に返信がありました。超越知能と見紛う返信速度です』
食い意地といいかけてやめる隻翼。
「あとは人員だな。エイルたちも屋台に気が向いているが、回収した人員は戦車クルーになるんだろう? 多すぎということはないか」
隻翼としても艦船クルーといいたいところだが、戦車ゆえに違和感を押し殺す。
『主砲および副砲は喪失していますが、ホークサイズの銃眼が無数にあります。ホーク用の武装を銃架を取り付けて改装すれば人手は何人いても問題ありません』
「武装を掻き集めていつもりだし大丈夫か」」
ロズルが回答する。
『ホークも部隊運用できるようになるかもしれません。ホーク所有者の希望者も若干名います』
「掻き集めたか? 鹵獲したグラディウスもあるしな」
『パイロット訓練を行い、適性が高いものを養成していきましょう』
エイルの言葉にうなずいた。
リソースには限りがある。しかし人が増えることでアルフロズルという星間巡航戦車の運用は大きく変わるのだ。
お読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ヴァーリ全力の乗車拒否。
ヴァルキリー属性は厄介です。valrは死ですから。ヴァルキリーは古ノルド語でvalr+kjósa(選ぶ)とされます。
食べることができない超越知能に料理を捧げるってそれお供えじゃんって書いてて気付いたのでお供え回です。
人工物に調理したものを捧げるってパンと酒ぐらい? 焼いた肉?
生体ではないほうがロズルの計算も狂いません。多分。
主砲も副砲も封印されているアルフロズルですが、超大型戦車ゆえに銃眼がたくさんです。
Gunport格納された据え置き式の大型砲のイメージですが、アルフロズルは戦車なのでEmbrasure (エンブレジャー)です! ネイティブ発音はイムブレイジャーだそうで……
大人数運用前提。屋台も大事ですが戦車の運用方針も大事です。
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