太陽系に激震が走る(一部の住人のみ)
太陽系の各居住艦、ほんの一部の人々に激動が走る。
月面都市のある一画。職場に向かう途中、男が脚を止めて携帯端末に視線を落とす。
「若頭からメール?!」
その場に立ち止まり、電話をかけた。
電話に出た男も、歓喜のあまり泣いていた。
「俺もみた。幻想じゃねえんだな……ッ!」
別の場所では修羅場が発生した。
「離婚したい」
妻に離婚を切り出した男もいる。
「あんた! 子供も生まれたばかりでどうすんのさ!」
「レイジさんは子供の頃、俺の飴細工を凄く褒めてくれたんだ…… もう一度、ついていきたいが、お前たちを危険な目に遭わせるわけにはいかないんだ」
「馬鹿! ソウジの親父に助けてもらって、生き延びて添い遂げた私達がいるんじゃないか! 私もいっしょにいくよ! レイジさんが惚れた女のために戦うってんなら命だって惜しくはないね!」
「おまえ…… そうか。一緒にいくか」
「あたりまえだよ! もう一回、屋台をやるんだよ!」
地球のある都市では、道路を爆走している男がいた。
「待っていたぜ……! この瞬間《とき》をよぉ!」
いつの間にか併走するバイクがいる。
「おい。どこに集まるんだ!」
「決まってらぁ! 代貸んところに決まってんだろ!」
残された時間は三十日。覚悟を決めた男たちはすみやかに身辺整理を始めたのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
太陽が眩しい。
砂漠の中を歩く、眼鏡をしてきつい目付きのスーツ姿の男が、携帯端末の文面を見て歓喜のあまり震えていた。
「若…… 生きてらっしゃった。しかも宇宙船まで手に入れて……」
眼鏡を外して涙を拭う青年。感極まったのだ。
「お見事です。よくぞここまで。ソウジの親父もあの世で喜んでいることでしょう」
涙目にながらも不敵な笑いが浮かぶ。
「惚れた女のためにEL勢力にカチコミかけるなんざぁ、立派ですぜ。ついていきますよ。――むろん、死ぬまで」
携帯端末から驚くほど連続にメッセージが入ってくる。
そのうち、着信が鳴り響く。
「俺だ」
「代貸!」
「今は代貸じゃねえ。名前で呼べ。じきに代貸に戻るかもしれんがな」
「へい。センノスケの兄貴。若からのメールの件でしょう?」
「わかっている。てめえら。おやじと若に救ってもらった命を今こそ返す時だ。ありったけ集めてこい。ヘイジ。今月にいるのか?」
眼鏡の男は鞍馬仙之助。電話先は岩下平治。
居住艦が墜ちた際、玲司とその父親である誠司の奮闘で命を繋いだ者たちだ。
「月の衆たちも盛り上がっています!」
ヘイジはツクヨミスフィアの月面居住都市カグヤにいる。
ヒノミヤから避難した人間も多い。
「なるはやで集めろ。水星の連中と金星の連中もコンタクト取っておけ。若は人が多い順で迎えにいくっていっているからな。相変わらず公平な判断してやがる。水星、金星の連中の尻を叩いて足並みを揃えろ。海王星の連中に後れは取るな」
「へい!」
頭上を見上げるとティルトローター輸送機が迫ってくる。
「俺達の頭はあんたしかいねえんだ。若頭。よくぞ声をかけてくださった」
両端の回転翼を垂直に向け、空中でホバリングしている。男に向かってロープラダーが投下された。
「祭りの時間だ。連中に御礼参りも兼ねてそうだな」
男を回収すると、巨大なビルが転々としている砂漠地帯からティルトローター機は離脱した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
端末画面に視線を落としていた黒髪の美少女が怒りに震えている。
「お兄様。何故私に声をかけてくださらないのでしょうか――惚れた女二人って何でしょうか。殺らねばいけない泥棒猫がいるんですね!」
転送された文面をみて、少女は静かに殺意を剥き出しにしている。
「チヒロ様。落ち着いてください。兄妹でしょうに。惚れた女を殺ったらレイジさんに嫌われちゃいますよ」
「ユノ」
隣にいた茶髪でショートカットの少女がチヒロと呼ばれた少女を宥める。
ユノと呼ばれた短髪にスーツを着た美麗な少女が、やれやれとお手上げをして首を横に振る。ジャケットは羽織っておらず、ネクタイもしていない。
「私達は血は繋がっていませんからね」
玲司の父伊良宗司は戦災で夫を亡くした母小夜子と結婚した。血は繋がっていないので手続きさえすれば結婚は可能だ。
「義妹なんて流行りませんよ。ここは幼馴染みのボクがいきます。泥棒猫という表現はそうですね。同意せざるを得ないです」
「私の愛を流行で判断しないで」
「しかし参ったなあ。ボクにもメールは来なかったんですよね。――あの薄情者」
怜悧な美貌に殺意に似た何かが宿る。銃を指にひっかけてくるくると回していた。
「何か条件があるのでしょうか?」
「どうやら児童と女性全員は除外されているようですね。ボクのこと弟扱いしていたくせに、こんなときだけ女扱いされても嬉しくないなあ」
桜庭悠乃は伊良玲司の幼馴染みである。
「もっともチヒロさんやボクよりも怒り狂っている過激派はいそうだけど。あーあ、知らないっと」
「お兄様、にぶかったですからね」
呆れたように嘆息するチヒロ。
「あのときレイジさん十二歳でしたっけ。恋愛以前の問題かも」
「それはそうですが。私達もその戦車とやらに乗り込めるんですよね?」
「はい。ヘイジさんを締め上――納得するまで説得したので」
「よかった。ヘイジさんが説得に応じてくれて。穏やかに話し合いすると誠意は通じます」
そのヘイジがさるぐつわを噛まされて縛られていた。地面に転がっている。さるぐつわはユノのネクタイだった。
二人の少女は月の住人。とりまとめのヘイジと話し合いをするため、多少荒っぽい誠意で説得することにしたのだ。
「うごー。うごー」
「何よヘイジさん。まだ異論あるの?」
殺傷能力があるコイルガンを頭に突きつけるユノ。
首をぶんぶん横に振るヘイジ。
「何日後にセンノスケさんと合流するのでしょうか」
「ヘイジさん。いつ代貸と合流するの? 首を振って。まず十の位。終わったら頭を床につけてまたあげて。次に一の位ね。ゼロなら首を横に振って」
手慣れた様子でユノはヘイジを尋問する。ヘイジを殺すつもりはないが、舌を噛まれると困るからだ。
ヘイジは首を二回縦に振り、その後横に振った。
「二十日後みたいですね」
「人数が多い集団から迎えに来るとあります。水星圏や金星圏の人間も月に集まるようですね」
「地球はエル勢力が強いですからね。月のほうが安全です」
「お兄様に会えるだけでもよしとしましょう」
ユノは銃をしまい、席に座って脚を組む。男装の麗人のような優雅さだ。
「幸い愛する女性二人と書いてあるってことは――三人も四人も変わらないってことだね」
「そうですね。すでに二人いるなら今更です。ええ、その席に入れないほうが問題なだけで。あの朴念仁のお兄様の心を開いてくれた女性たちに感謝するとしましょう」
「女っ気なかったからなー、レイジさん」
十二歳でもレイジはモてたが、本人が気付かなかっただけだ。
「この拳銃もレイジさんが勧めててくれたのになぁ」
「あら意外ですね。お兄様はドス派かと思いました」
「女が荒事をするな。スマートにって。だからボクもスマートに尋問しているんです。あの当時でも一応女の子扱いしてくれたってことですね」
ヘイジに化け物をみるかのような視線でユノを見上げていた。
お読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
不良漫画や極道漫画のオマージュ回?
とはいっても反応はおそらくこのまま。テキ屋さん一家なので極道はいないはずです。多分。
各スフィアにちらばった屋台職人たちは浮き足だっています。
今回特筆すべきは義妹のチヒロよりも幼馴染み枠のユノでしょう。
負けヒロイン系ですが荒事に手慣れており戦力になるでしょう。
ユノ十八歳、チヒロ十六歳です。当のレイジが十二歳なので、彼女たちがそんな重い感情を持っていることなど知りません。
ヘイジの運命は如何に?!
エイルは察していたようです。
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