親愛なる皆へ
『参照までに人々の以前の得意分野を教えてください』
「屋台だよ。スサノオスフィアの祭りがあると聞きつけたら、俺達が駆けつける。それぞれ屋台のプロフェッショナルだ」
『それほどの重要スキルの持ち主ならなんら問題はありません。アルフロズルは新たな屋台の殿堂になるべき戦車です』
『戦車としては否定したいところですが、私としても歓迎いたします』
エイルの言葉にロズルが承認してしまった。
「そこでだ。連中を迎えに行くにしても、俺は生存報告すらろくにしていない流離い人だ。戦術支援システムとして、どのような解決作があるか聞きたい」
『隻翼の同じ故郷だった人々がどこにいるかわかりますか?』
「だいたいは把握している。主力は海王星の衛星付近にあるポセイドンスフィア管轄の居住宇宙艦に。残りは金星のアフロディーテスフィア、地球の地下。つまりスサノオスフィアの管轄だ。残りが月付近にあるツクヨミスフィアと水星のメリクリウススフィア。それぞれ数百程度の集団で、合計千人もいない。そして避難先はすべてゲニウスだ」
居住宇宙艦は数万単位で居住できる。隻翼がいた居住艦が大量に死傷者を出したことを意味していた。
『隻翼はどのような理由でホーカーになったのでしょうか』
「金が必要だ。スサノオスフィアに避難した人々には元手もない。俺は避難時にスパタを手に入れてからホーカーとなって稼いで匿名で避難先に送金していたのさ」
難民を受け入れるにも金がいる。宇宙は水も酸素も必要なので無限に受け入れてもらうわけにもいかない。
隻翼は大きな金が入った仕事をこなした後は匿名で避難民に送金し続けていた。
『個人IDはわかりますか?』
「旧スサノオスフィアの居住宇宙艦ニシノミヤIDを持つ人間に送付する。もうIDを消去している者には送付されない。辛い思い出だろうし、IDまで消したなら巻き込みたくはないな」
感傷めいた言葉であるが隻翼の本心でもある。無理矢理クルーにするつもりはなかった。
『把握いたしました。――それではまず提案です。では旧ニシノミヤ艦IDにメールを送信しましょう。メールなら同時です』
「文面はどのようなものがいい?」
『安否の連絡が遅れた謝罪。次に宇宙艦を手に入れて隻翼――イラレイジ一人だけだと。最後に仲間になって欲しいけれど現在登録しているゲニウスへの許可を取る必要があること。EL勢力との戦争になり大変危険な旅路になることを伝えましょう』
「当然だな」
『次に期限を切ります。三十日後にして応募者が多い集団から迎えに行くというのはどうでしょうか。散った先々の人々が合流して待っていても構わないと追記してください』
「ん?」
『序列問題の次善策です。最善ではありませんが、本人たちにも考えてもらうのです。いち早く合流したい人間がいたとしても最大母数の集団には勝てません。主力という海王星は最大数ですが、付近の宇宙艦は少ないはず。その点月、地球、金星、水星などは合流しやすいはず』
「やる気があるなら、自らを最大母数の集団にするか。そして事前の通達通り、公平に人数の多い集団から迎えに行けばいい」
『すでに生活基盤を整え、アルフロズルのクルーにはならない者の方が多いかもしれません。たとえ一人でも希望者がいれば必ず迎えに行くと記載してください』
「その案でいこう」
『もう一点確認です。隻翼の家業は組という看板は掲げていない。一家と呼ばれるものではないでしょうか?』
「よくわかったな。伊良一家だな」
『当時はみんな、伊良一家にとても熱心な方々ではないでしょうか』
「そうだ。親父が避難しろと叫んでも、一蓮托生と叫んで包丁もってホークに立ち向かおうとした連中だ。喧嘩も祭りの花ってな」
『どうやって避難させたのです』
「俺と一部の若い衆がぶん殴って気絶させて脱出艇に放り込んだ。ホーク持ちならともかく包丁だと単なる自殺だからな。頭に血が上ったら…… ま、そういう連中だ」
『問題ありません。テュールスフィアはバーサーカーじみた方々が多く所属していました。相性は良いと思われます』
「そうなのか?」
『頭に血が上ったら戦闘をやめません。ゆえに火星のテュールスフィアは全滅したのです。隻翼が生き残ったといいうことは冷静な判断を下した人物がいたのでしょう』
隻翼も彼等を悪くいいたくはないのだろうが、歯切れが悪い。
バーサーカーじみた気質があるような集団だ。確かにテュールスフィアと相性はいいかもしれない。
「親父は俺を予備機のスパタの中に放り込んで宇宙空間に放り出した。残った連中は女子供を最優先に逃がした。四十歳以上の男はあらかた死んだ」
『把握しました。では追記もしましょう。家族友人に無理強いしないようにと』
「助かる。その懸念は正しい。おっと忘れてはいけないな。女子供は除外してくれ」」
EL勢力との戦いに備えるという戦車に巻き込まれた妻子はたまったものではないだろう。
『私はその意向に大賛成ですが、禍根が残りませんか?』
「大賛成なら問題ないだろう。なんの禍根があるというんだ」
『過ぎた真似でした。謝罪します。女性と今年十二歳以下の子供は除外します。女性と子供を私闘ともいえる戦争に巻き込みたくはありませんよね』
ふと心の中のヴァーリが、隻翼に警鐘を鳴らしている。
気のせいだろう。エイルにが彼を罠にかけるはずもない。懸念を押し殺すことにした。
「本当にな。クルーにはやる気がある男だけでいい」
『では次に文面の草案を提示します。あとは隻翼あなた自身の言葉を加えてください』
文面を読んだ隻翼は若干顔が暗くなる。
「なあエイル…… 愛する女性二人を救うために俺個人の戦闘に付き合わせるわけにもいかない。これ本当に必要か? しかも救援を否定しているぞ」
『違うのでしょうか?』
合成音のくせに哀しげな回答をするエイル。
「い、いや。違わないが……」
『では問題ありませんね。いわゆる一家という社会集団は情に脆いという傾向にあります。あえて個人的な願望で戦争をするという大前提を提示したのち、愛する者を救うためにという大義名分で情に訴えるのです。本音としては巻き込みたくないという隻翼の本心を明かしておきましょう』
「事実、巻き込みたくないし俺の私闘だが。確かに見知ったヤツにこんな文面を寄越されたら、俺でも断りにくいな」
隻翼は口にこそ出さないが、エイルの最大の目標は伊良一家に周知させることで、外堀を埋めにきたと警戒している。埋められても構わないが、本音をいえば少々怖い。
文面をエイルと考え、推敲を重ねる。
「愛するはやっぱり照れくさいな」
『よりフランクな言い方に変更してはいかがでしょうか。惚れた女でいきましょう』
『ロズルの提案を推奨します』
突然ロズルからの提案があり、エイルがすかさず賛同した。
「圧を感じる二択はやめろ」
戦術支援コンピューターエイルと星間巡航戦車ロズルは、隻翼の悲鳴にも動じない。
『完成ですね。メールはホーカーズビューローを経由して発信源を辿れないように処置いたします。よろしいですか』
「あ、ああ」
本当にこの文面を送ってもいいのか。
隻翼の本能が大音量のアラームを鳴らしている。
『――送付完了です』
「そうか」
生返事が了承と解釈され、送信されてしまった。
『送付対象者は百名前後になります』
「それぐらいだろうな。十分の一。十名集まれば御の字だ」
『私もそう願っております』
賽は投げられた。
メールは隻翼が把握している個人IDあて対象者に、メールは一斉送付された。
その内用は太陽系の一部を揺るがすに十分なものだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『親愛なる皆へ。
伊良玲司だ。俺はまだ生きている。皆は元気にやっているだろうか。
さて突然の話になるが、俺はホーカーとなって太陽系を巡っている。
俺はスサノオの承認によってテュールというゲニウスと契約してテュールスフィアの住人となった。
一機のホークと宇宙を巡る巨大キャリアーを与えられている。居住艦とまではいかないが、それなりの収容人数を持つ。
俺は惚れた女性二人を救うための戦いを始める。過去の遺恨もあるし皆の力を借りたいところだが、あくまでこれは俺個人の私闘だ。皆を巻き込みたくないという本音もある。
EL勢力の全面戦争に突入する可能性は高い。俺は既に凶状持ちのお尋ね者もなってしまっている。
ついてきてくれとはいえない。今ある生活を大切にしてくれ。妻子持ちは参加禁止だ。
このキャリアーに搭乗するにはテュールスフィアの住人となる必要がある。皆が今住んでいるゲニウスの許可も必要だろう。
それでも俺に力を貸してくれる人間が一人でもいる限り俺は迎えに行く。比喩では無く、一人でもいるなら必ず迎えに行く。一緒に戦って欲しい。
ただし家族友人を決して巻き込んではならない。志願者のみだ。
それだけ過酷で、危険な旅路になるということだ。
一ヶ月後、数が多い仲間から迎えにいく。誰もいない場合、返信も不要だ。
皆の平穏と健康を願っている。
伊良玲司より』
お読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
エイル 『計算通りです!』
ヴァーリ『警告はしたからな! けじめは自分でつけろよ!』
一章と温度差はありますが本来はこんな感じです!
応援よろしく御願いします!




