そんな香具師はいない
『あのオペレーターは隻翼のサポートする資質を持ち合わせていないと分析します。あざといです』
戦術支援システム【エイル】が忌憚のない意見を隻翼に述べた。
エイルから話し掛けてくることはかなり珍しい。よほど思うところがあったのだろう。
「そういうな。あいつのミスでエイルたちに巡り会えたようなもんだ」
『その点についてだけは感謝するとしましょう。しかし隻翼の生命に関わるミスをしたオペレーターです』
隻翼は指摘こそしないが、エイルは元の人格や記憶を多少なりとも有しているようだ。
話し掛けると会話に応じてくれるし、エイルらしい反応を返してくれる。
「昔からだな。ミレーネとの突き合いは四、五年か。何度死地に追いやられたか、わかったもんじゃない」
『笑っていうことではありません。スパタの記録を参照しましたが誇大表現ではなさそうです』
隻翼の相棒だったスパタには数年間の記録が残されている。
「あれだ。頼りにならない隣に住む姉さん的な。だからあんな悪態じみた会話ができる」
『微妙なたとえですが、その方と違って私達は信頼できる仲間という評価なのですね。嬉しいです』
「そうだとも」
隻翼の評がエイルたちも嬉しかったようだ。
『ところで隻翼に話があります』
「どうした」
『隻翼との会話を繰り返すうちに、どうやらあなたにはアルフロズルのクルーになりそうな個人、もしくは集団に心当たりがあると予想します』
「あー……」
指摘された隻翼は額をかく。図星だった。
「あるにはあるんだ。あるにはあるんだが……」
『隻翼がアルフロズルのクルーにしてもよいと考える人間を推測すると、裏切る可能性が低い人間たち。――かつてのスサノオスフィアにいた人々ではないでしょうか?』
「そうだ」
『しかし隻翼の居住艦は破壊されたと聞いています』
「俺が生きているんだ。多少は他にもいるさ」
『その集団が築いた人物の生活基盤を乱したくないという理由でしょうか』
「それもある。しかし問題の本質が別だ。エイル。俺個人の心情だな」
隻翼は両手に顔を埋める。
『説明を求めます』
「耐えられないんだ…… 俺への呼称が」
『どのような呼称なのでしょうか』
「いくつかあるが……」
『すべてを教えてください』
「若」
『若』
「若頭」
『若頭』
「ぼん」
『ぼん』
「復唱しないでくれ……」
エイルに悪意はないのだろうが、どんどん気が沈んでいく隻翼。
復唱されると呆れられている気がするのだ。
『若頭を検索しました。古代日本から伝わる反社会的集団の頭目の跡継ぎや、集団を取り仕切る子分筆頭に使用される用語です』
「だいたいあっている。本当の意味での若頭は別にいるんだが、そいつが俺を若頭といって聞かなかったんだ」
『その若頭代行はどのように呼ばれていたのでしょうか』
「代貸だ。その男が本来の意味で若頭になる」
『隻翼の一族は暴力で地域を支配する反社会的集団の一族だったのでしょうか。それとも秘密裏に動く暗殺集団的な』
「違う。それは極道と忍者だ。そんな香具師はいない。香具師――テキ屋だ。祭りの屋台を生業としていた。ほんの少しだけ荒事の解決にも駆り出されてはいたが」
隻翼が珍しく一指し指と親指を使ったジェスチャーでほんの少しを強調する。
エイルはほんの少しではないと看過した。
『テキ屋。香具師。縄張りを仕切る屋台商ということでしょうか』
「そうだ」
『サカヅキを交わしたりはしないと?』
「杯なんざ交わさない。テキ屋だからな。看板を掲げた組でもない。平凡な屋台職人の集まりさ。居住艦自体が闇市みたいなものだったが……」
『察しました』
「察してくれるか。まあ、俺が屋台にこだわっていた理由がそれだな。家業さ。美味しい屋台料理を再現したいんだ」
『素敵です』
「戦術支援システムの言葉とは思えないぞ」
『事実です。つまり隻翼はかつての取り巻きから若頭という反社的な呼称で呼ばれることを恐れているのですね。彼等に悪意はなく、むしろ敬愛をもってそう呼んでいるはずです』
「悪意はないんだよな。それはわかっているし、取り巻きというのもなんだけどな…… そんな感じだからなあ、あいつら……」
珍しく歯切れが悪い。
『何が問題か教えてください』
「まずここ五年ほど、一切連絡していたなかった」
『隻翼が悪いですね』
「う…… 次に大きく分けて五箇所にいる。それが問題だ」
『アルフロズルならほぼ時差なしで移動可能です』
エイルではなくロズルが応答した。
「違うんだ…… その連中は序列を気にする。誰が最初に迎えにきてもらったか、そんな話で喧嘩が始まりかねない連中なんだ」
『人々の感情は理解します。私なら最後から二番目だと怒ります』
「なんで最後から二番目で怒るんだ?!」
エイルの思わぬ回答に驚きを隠せない隻翼。
『最初なら一番嬉しい。最後なら、ゆっくり再会を味わえます。いわばオオトリです。当たり障りのない真ん中に近いほうが嫌ですね』
「そんなものか。わからないでもないが……」
本当に超越知能か疑う、極めて人間臭い理由をエイルが述べた。
『序列は人間社会に応じて生じるもの。みなが平等など個人差がある限り不可能です。隻翼がその人々を大切にしているからこそ、気にするであろう懸念も理解します』
「エイルは俺の良き理解者だな」
『お褒め預かり恐縮です』
若干の間があき、エイルが応答する。
どこかの箱を開けたら、生体のエイルが隠れているのではないかと錯覚しそうだ。
しかしそんな夢を見ている暇ははない。そんな悪戯を再現するためにも、一刻も早くエイトリへの道筋を模索しなければならない。
『焦らないでください。私は常に貴方の傍に』
『私達は、です。戦術支援システム【エイル】』
『失礼しました【ロズル】。私達は常に貴方の傍に』
ロズルに訂正されてしまうエイル。
「そのためにもクルーは必要だ。しかしあいつらも苦労しているだろうし、何より今の得意分野がわからん」
『戦闘だけがクルーではありません。あなたには人間の同胞が必要です。女性は遠慮願いたいですが、この際構いません』
「安心しろエイル。俺にそんな女性はいない」
『その言葉を信じて安心――できませんね。隻翼がにぶいだけの可能性はありますので油断はできません』
「ひどいな」
隻翼が苦笑する。
エイルはどこまでもエイルだった。
お読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
隻翼の今後について、やはり過去に焦点を当てねばということで。
宇宙屋台をするにもクルーがいります。無人化が進んでいるといえど限界もありますし、ホークも二機あまっています。
タイトルの「そんな香具師はいない」は古のインターネット語ではなく、正しい用法なはずです。
というわけで隻翼の一族は香具師、つまりテキ屋でした。そのまんまですね! 宇宙でお祭りがあるたびにそこに屋台営業するという感じです。
隻翼の一族は敵対した組織の宇宙船に乗り込んでいきなりロケットランチャーぶちこむような喧嘩が好きな人たちで、危険人物が大量にいますが温厚な方です。
前章でもそれとなくほのめかしていましたが、今回は断言です。
やのつく方々と違います。昔、ゲームショップ経営者はテキ屋さんが多かったのです。
任○堂の問屋さんも初○会でしたし。もともと玩具ルートで仕入れしやすかった面もありました。問屋さんではFC、SFC、PCエンジンあたりは扱っていたはずです。
今回「ぼん」を念のために調べ直しましたが、これ関西方言だったんですね。中部で聞かないはずです。隻翼は明石あたりがルーツになりそうですね。
戦後の闇市みたいな居住艦のイメージは阪神市場と阪急市場といってもうありません。
エイルが生体時よりもヴァルキリーっぽくなっていますが気のせいではありません。
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