追放者から賞金首へ
隻翼が駆るヴァーリは地球のアフリカ大陸にいた。
この場所には宇宙資源を回収する軌道エレベーターが天を貫く高さを誇っている。
『進入制限区画に到着しました』
アルフロズルは宇宙にいる。エイルがナビゲートしてくれていた。
多くの第一次太陽系戦争の先史文明が眠っている場所でもある。
「複雑怪奇なこの変形地下工場――アンダーグラウンドファクトリーがなければな」
『十二層ある地下工場は現在も稼働中です』
ヴァーリのAIが隻翼の呟きに応じた。
「そうだ。いまだに新たな兵器が新造されている。ただし、防御機構も生きているし、地下構造さえ変動している」
当時最新鋭だった防御機構は、工場の区画ごと移動して、決して同じ構造にはならない。
侵入者が発見されるたびに、区画が変動し同じ位置には戻らないのだ。
多くのナイトホーカーには宝の山であり、墓所でもある。
喪失した新造兵器が入手可能だが、防御兵器も数多く製造されるからだ。
「防御兵器が勝手に新造の兵器を装備してやってくるが――深層になるほど強くなる。古代のゲームかと思わせるほどだ」
防御兵器はネフィリム。火星でもやりあった相手だ。
このような変形地下工場は世界各地にあり、該当のスフィアによって立ち入り禁止になっている。
「スパタでは二層がやっとだった。表層が安全で小遣い稼ぎはできたからな。ヴァーリなら五層にいきたいところだ」
隻翼の乗機だったスパタでは、地下工廠ならぬ表層区画がやっとであった。
変形地下工場内では弾薬の補給ができることもあるし、武装も奪い取ることができる。しかし装甲の修理は困難だ。
また進入する際にはホーク一機が原則だ。二機以上は進入部隊と見做され下層からより凶悪な兵器が出撃してくる。
その時コックピットからアラームが鳴り響く。
「同業者か」
同業者のナイトホーカーだろう。こういう場合は何もせずやり過ごすか、一戦交えて適当なところで退く。共闘は部隊と見做されるため厳しい。
交戦していれば、部隊と見做されないので防御機構は働かないのだ。
「ロックオンアラームだと」
すかさずシールドバインダーを構えて防御行動に移るヴァーリ。
当然ナイトホーカーが強盗に変貌する場合もある。しかし今のヴァーリは何も戦利品がない。
構えたシールドバインダーにビームが直撃し、閃光が迸る。
『敵ホーク識別確認。グラディウスです』
グラディウスもスパタと同年代の古い高性能量産機だ。人気も高く、民間に払い下げられた機体がホーカーの手に渡っている。
ヴァーリはすかさず腰を落として最大加速して体当たりをして体勢を崩した。有無をいわさず拳を振り抜く。グラディウスは為す術もなく仰向けに転倒する。
「武装を使うまでもないか」
これだけの動作で戦力差は相手にも伝わっただろう。
パイロットもやられっぱなしではない。倒れたままビームライフルの銃口をヴァーリに向けようとしていた。
「動くな」
隻翼は冷徹にグラディウスのパイロットに言い渡す。
手に持っているライフルをシールドバインダーのビームで破壊する。
コックピットあたりを踏みつけるヴァーリ。
「収穫もないこの機体にいきなり奇襲とはいい度胸だ。圧死するか即死するか選べ」
隻翼は淡々と奇襲してきたパイロットに告げる。
「た、助けてくれ! すまねえ! この通りだ! あ、あんたは…… あんたのその機体は賞金首だったんだ」
「賞金首?」
心当たりしかない。
追放者から賞金首とは順当なジョブチェンジだ。
「賞金首なら賞金を出している連中がいるだろう。吐け」
「ミカエルスフィアとウリエルスフィアだ」
予想通りの回答だった。
「そうか。――まあいい。殺すのはやめてやる。機体を置いていけ」
「は?」
ホークはホーカーにとって命と全財産そのもの。機体を喪失すると傭兵としてのホーカーに復帰することは困難だ。
「聞こえないのか。コックピットから出てさっさと失せろ。そのまま死にたいなら踏み殺す」
グラディウスのコックピットあたりにヴァーリの踏む足底部の圧力がかかる。
軋むような音が響いて、本機であることを窺わせる。
「おい! てめえには血も涙もねえのか!」
「殺そうとしてきたのはお前のほうだろ。俺が賞金首ならどのように呼ばれているか聞いていないのか?」
「ちぃ! くそったれ! 地獄に落ちろ! 魔王」
「魔王は地獄にいてこそだぞ?」
隻翼は飄々と言い返す。殺害してきた相手などにかける情けは持ち合わせていない。
「二度と地上にでてくんな!」
罵倒も隻翼には届かない。この男はすべてを失った。それぐらい許してやるつもりだ。
「待て! 足をどけてくれ! 出るから!」
ヴァーリが無言で足を腰あたりに移動させる。ここを踏み潰すとリアクターが爆発する。
コックピットハッチが開き、男が慌てて脱出した。後ろをなんども振り返りながら名残惜しそうに走り去る。命あっての物種だ。
「エイル。聞こえるか。降下したばかりだが、一機無傷のホークが手に入った。帰投する」
『了解しました。アルフロズル、降下します』
降下してきたアルフロズルに向かって、強奪した機体を抱えて飛翔するヴァーリ。
空を見上げた逃走中のパイロットは呆気にとらえる。通常のホークでは不可能な芸当だ。
「機体を手に入れてもパイロット不足だな。売るか?」
『とくに慌てる必要もありません。しかし人材も集める必要がありますね』
エイルと会話しながら、ヴァーリは格納庫に収まる。
「手をだすんじゃなかった。身ぐるみ剥がされたようなもんだぜ」
後悔しても仕方がない。相手が悪すぎたのだと自分に言い聞かせる。
再び蒼空に消える巨大な戦車らしき物体を眺めながら。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ぼちぼち再開したいと思います。不定期になります!
隻翼は追放された者から賞金首にクラスチェンジしました。
賞金首を返り討ちにして追い剥ぎですが、傭兵だしなあと。イジェクトパンチが欲しい所です。
容赦なしですが命を取らないだけましかもしれません。
アルフロズルにクルーがいないという状況で、最優先事項はクルー集め。
巨大宇宙戦車に戦車長?一人というのはあまりにも運行に支障をきたします。砲手と操縦手が欲しいところです。通信士はエイルがいますので。
この章は隻翼の過去に触れます! 珍しく主人公ピックアップですね!
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