誰がための復讐か
『余人は知らず。今は忘れられた歴史だ』
ヴァーリの合成音声は過去に思いを馳せるかのような、郷愁の響きがあった。
「EL勢力とゲニウスの戦争がメギドという惑星で?」
『第一次太陽系戦争の第三世代超越知能EL勢力と第二世代超越知能ゲニウスの戦争はカナン星系から発生した技術争奪戦でもあった』
「そんな真実、どこにも伝わっていないな……」
失伝した文明の一端なのだろう。
『第三世代ELサバオトの意志だ。銀河を巡ることさえ可能だった多くの技術は喪失、またはEL勢力によって秘匿された。今やカナンの存在さえ知る者はEL勢力内でも少ないが、今なおEL勢力のなかから選抜して人員は送られている。その逆も然り。選抜された者のみがカナンに行ける』
「太陽系の人間がメギドに? 選抜とは選民に他ならないのではないのか」
『お前はジーンから聞いているだろう』
「一部の高等教育を施された文明継承者層のことだな。その中から選ばれし者か」
『地球、火星、水星、エウロパ。人類の居住権からの代表者が移住している。エイトリは惑星メギドに運ばれた可能性が高い。生体ELはメギドから送り込まれている。これがエイトリはカナン星系にあるという根拠だ』
「しかし他星系に行く手段があるとは思えない」
『本当にそう思うか? お前はすでに手に入れているぞ』
「――星間巡航戦車アルフロズル。他星系に遠征可能な戦車だったということか」
隻翼は言葉の意味をよく理解していなかった。
火星や金星などに渡る戦闘宇宙艦だと思っていたが、違ったようだ。
『答え合わせが完了したな。アルフロズルは宇宙艦にあらず。負の重力質量を使ったワープ航法と、そのための兵力を搭載する戦車ゆえに星間巡航戦車なのだ』
「他星系を巡航し戦場を圧倒するほどの機動力と火力を有する戦車、か」
『アルフロズルは主砲も使えない状態だ。実際エイトリがカナン星系にあるとは限らん。どこか俺達も知らない別星系にいった可能性もある。アルフロズルの全機能を復元してみせろ。遺跡漁りならやれるだろう?』
「俺の仕事だ」
ヴァーリもまた超越知能。人を導く役割を担っているのだろう。隻翼の道を指し示している。
(必要な要素は揃っている。あとは時間との勝負だ)
他星系など、本当にいくことが可能なのかもわからない。どんな世界かも不明だ。
それでもそこにエイトリがある可能性があるなら、いくしかあるまい。
『すべて可能性の話だ。何を、どれからやるかはお前が決めろ』
隻翼はヴァーリを見上げる。
(ヴァーリにはもう一つの思惑がある。それは――)
すべてはこの地下墳墓が物語っている。
「お前は俺だったな。お前の代わりに俺が復讐してやる」
隻翼は微笑む。
このゲニウスは悪者を演じているだけだ。
『――利用されていることに気付いたか』
「利用されてなどいない。俺の復讐は俺のものだ。俺とお前が共有する意志だ。たとえお前が俺ではないと言い張っても、今更遅いだろ。お前は伊良玲司と同調した」
隻翼は後ろを振り返り、廃墟を見渡す。
「本来この場所には人間の住人がいたのだろう。エージル系のゲニウスたちと人間が暮らしていたはずだ。そしてこんな有様だ。ゲニウスの居住艦生まれだった俺が何も思わないと思うか?」
『俺の復讐にお前を付き合わせるだけだ。テュールや他の四人もそんなものを望んでいない』
「いいや? 結局はエイルやロズル。ドヴァリンとドゥリンは延命できなかったんだ。俺の復讐だ。咎人には罰を。奪われたものは本来あるべき場所へ。司法とは功罪の天秤。公平性だ。そうあるべきだろう」
『その通りだ』
ヴァーリは同意した。この根幹こそ彼等を繋ぐものだったかもしれない。
『俺の誘導に気付いたお前は讐心を煽り立てられて、エル勢力との闘争を仕向けたと怒る権利がある』
「怒っているさ。EL勢力にな。忘れていないか? 俺の居住船はEL勢力によって轟沈して、両親や友人は死んだ。俺の復讐はそこから始まっている」
隻翼の笑みは不敵なものに変わっていく。
「お前のいうとおり、俺は戦場に舞い戻る。希望が見えた。感謝するよヴァーリ。みんなとまた会える可能性だけでも大きな前進だ」
『だからゲニウスに深入りするなといったのだ』
ヴァーリは隻翼を戦場に誘導したいのか、遠ざけたいのか。彼自身の葛藤が垣間見ることができる。
「ヴァーリ。お前はなんだかんだいっても優しいよな」
『突然何をいう。お前を利用しようとしたゲニウスに』
隻翼の指摘にヴァーリは動揺している。思わぬ不意打ちだった。
「トリックスターを捕縛した神を模倣しているんだろ。それぐらいしたたかでないとロキは生け捕りにできないだろうさ」
『つくづく救えない男だ。そんなにエイルとロズルが気に入ったのか?』
小馬鹿にしているように聞こえるが、隻翼には照れ隠しにしか聞こえない。
彼は自分なのだ。
「そうだな」
自分に隠し事をしても仕方がない。
『あっさり認めるな。とくにエイルは戦乙女だ。どう表現しても死神に属する』
「俺と同調しているヴァーリに隠し事をしても仕方ないだろ。そしてお前はそうだな。――友人だな」
ヴァーリは回りくどい忠告を交えながら、隻翼が進むべき道を示してくれた。
これが友人でなくてなんだろうか。
『友人は選んだほうがいいぞ』
ヴァーリは気まずいのか、本気で忠告した。
「テュールもだ」
『俺達はしょせん無機質の超越知能だからな? お前は独りだ』
「念押ししなくてもわかっている」
隻翼が苦笑する。実際ヴァーリのいう通り、隻翼は独りなのだろう。
それでもみんなは彼を支援するためにシステムとなってくれた。それが答えだ。
「無機質と言い張るなら有機生命体にすればいいだけだ。そうすれば一人ではなくなる。――生体のヴァーリと対面する日を楽しみにしておくさ」
『俺は生体になんぞならないぞ』
「なれないのか、ならないのか。どっちだ?」
挑発するかのように隻翼が問い質す。
『ならない!』
ヴァーリは声を荒げて否定する。
「では改めてその時に聞くとする。お前がいったんだぞ。会いたい連中を生体にしろってな。お前も含んでいる」
ヴァーリから返答はなかった。
隻翼が機体に乗り込み、ホークであるヴァーリが歩き出す。
『エイルたちを復活させたいならまずは戦力を増やせ。EL勢力相手に一人ではすぐに限界がくる。孤軍の戦士では戦争などできん』
「ヴァーリ。お前、世話好きだよな」
おそらく、そういうところも似ているのだろうと隻翼は察した。
『うるさい』
「そうだ。一つ尋ねたい。地下墳墓で眺めの良い場所を教えてくれ」
鋼の巨人は腕部を動かして、北のほうを指差す。
隻翼が向かう先で行う意図を察したのだ。
「助かる。――またな」
また、という言葉に固まるヴァーリは、少し間を置いて言葉を発した。
『また会おう。伊良玲司』
ヴァーリは己の名がついた機体を見送った。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
・惑星カナンで起きたメギドの戦争の呼称はArmageddonしかなさそうです。
・文明継承者層の真実は選ばれし者のさらなる選抜。現代に例えるとガラスの天井でしょうか。世界中の富は数%の人間が牛耳っている構造です。
ジーンの話は単なる文明設定ではなく、世界の根幹に繋がる話だったのです。
・星間巡航戦車はその名の通り、星を渡るヴァイキング精神溢れた戦車です。
ヴァイキングはキリスト教とガチった戦闘民族ですね。名誉を重んじ、舐められたら殺す! という感じです。どこかで聞いたような話ですね!
部族同士の全面戦争のイメージが強い彼等ですが、法理は整っていたともされます。
ヴァイキングの特性は技術的優位。キリスト教圏よりも航海術や地理、冶金などの工業技術に優れていました。
しかし彼等はキリスト教圏の防疫で不平等な商取引を強いられ苦しんでいたともされます。
12世紀には北欧のキリスト教化も終了して、異教が残る東欧に北方十字軍が攻めいったというのが歴史の流れです。
作中ではこの状況をテュールスフィアと重ねています。
余談ですがカミ系のスフィアはきっとアマノトリフネ。
ヴァーリが生体になったら体躯のよい金髪青年。正確は皮肉屋で美味しいところをもっていくタイプになりそうです。
次回、第一章完結です!
毎日更新は明日で終わりで少し休憩をいただきますが、連載はしていきたいと思います!
応援よろしく御願いします!




