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魔王、帰還す〜追放された傭兵は圧倒的な機動力と火力をもつ機体を駆り戦場を支配する  作者: 夜切 怜
【ノワール戦役】

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朽ちた復讐神

 以前のような明晰夢を見た。今回は明確だった。もう一人の自分はとある座標を告げて、最後に一言だけ残した。

 来い、と。

 それは確かに、隻翼が旅立つ手がかりだった。


「ヴァーリが呼んでいるな。地下墳墓か。いってみるか」


格納庫に到着して機体を確認すると、ヴァーリのマニピュレーターに見知らぬものが置かれていた。何かは一目瞭然だった。

 隻翼はキッチンに引き返し、冷蔵庫から取り出したものを保冷鞄に詰め込んだ。

 大量に作っていたためか、少し減っていることに気付く。エイルとロズルが食べたのだろう。

 嬉しくもあり、寂しくもある。


「……もう減らないか」


 もう作り溜めしても減ることはない。ぞっとするほどの寂寥感を覚えた。

 気を取り直して隻翼はヴァーリに乗り込んで地下墳墓に向かう。

 地下墳墓に到着して周囲を見回すと、古戦場という名に相応しい、戦争の爪痕が刻まれていた。


 多くのホークだったであろう兵器や巨人を模した機械の残骸が転がっている。

 しかし住人でもない侵入者が入るたびに彼等のリアクターには火が入り、戦い続けるのだ。


「この座標だったか」


 夢でみた地下墳墓の座標に向かう。障害もなく、到着した。

 片膝をついて、巨大な砲身に寄りかかる機械の巨人がいる。頭部には目も口もある。厳めしい青年のような顔だ。


「これがヴァーリの本体か」


 一目見て直感した。ヴァーリから降りて、足元に立つ。


『そうだ。俺の名はヴァーリ。司法と復讐を司るゲニウスだったものの残骸だ』


 機械の巨人から声がした。


『俺は警告したぞ伊良玲司。ゲニウスに肩入れするな、とな』

「後悔はない」

『断言したな? ならばお前が今抱えている感情はなんだ』

「無力感だ」


 隻翼は力のない苦笑を漏らす。

 ヴァーリとの夢でのやりとりを思い出したのだ。


『まだ一人遊びが足りないのか。お前は奴らに取り憑かれたのさ。かつて生きた(ゲニウス)としてこれからもお前について回るだろう』

「なんとでもいえ。俺はその事実が救いになっているし、生体だったみんなにもまた会いたい」

『そうきたか』


 ヴァーリは少しだけ沈黙して、言葉を紡ぐ。


『まずは詫びよう。沈黙のゲニウスたるテュールは言葉が足りん。この俺が見ていられなかったぐらいにはな』

「どういうことだ?」

『エイルたち生体ゲニウスを元に戻す手段がある。奴はそれさえも口にしなかった』

「なんだと……」


 隻翼が絶句した。すぐに思い直す。


「いや待て。テュールも理論上は可能とは以前言っていた。リソースが足りないと。つまりリソースさえあれば可能か」

『そういうことだ』

「リソースを調達してこいと命じてくれたら良かったのにな」

『テュールの判断を責めないでやって欲しい。それはお前を終わりなき闘争にいざなうものだからだ』

「承知した。リソースはどんなものだ?」


 テュールにも考えがあってのことなのだろう。隻翼はヴァーリのいわんとすることを読み取った。

 それよりも生体ゲニウスを作り出せるリソースの存在が気になった。 


『生体ゲニウスの原料はエイトリという。それさえあれば生体ゲニウスは製造可能になるが、北極冠には存在しない物質だ』

「エイトリとはなんだ」

『エイトリは万物を構成する毒にちなんで名付けられた物質。エイトリは生体ゲニウスを成立させるバイオコンピューターを内包した高性能人工細胞だ』

「その物質にもやはり由来があるのか?」

(エイトリ)だ。エイトリから巨人ユミルが発生して、ユミルから巨人が生まれた。そのユミルの子孫である巨人と原初の神の息子がオーディンであり、オーディンたちが殺して解体して世界を創造してドワーフに生命を吹き込んだもの』

「万物を構成する物質か」

『生体の俺達は毒で出来ている。お前はすでに毒に浸されている』


 ヴァーリの皮肉を、隻翼は受け流す。


「生体ゲニウスを作り出すためのエイトリはもう生産できないと」

『この場所が陥落した時すべてEL勢力に奪われた。その合同軍の名はノーザンライトクルセイダース。テュールスフィアを壊滅させたEL勢力の連合軍だった』

「ドヴァリンに聞いた。ここまでの惨状とは思わなかった」


 周囲は廃墟そのもの。残骸は眠っている機体でありゲニウスが宿っているのだろう。 

 侵入者が出現した場合、彼等は朽ちた機械の体をもって排除するのだ。


『生体ゲニウスも、エイトリも、技術も施設もすべてだ。奴らは数で押してきた』

「あいつらはどこまでいっても絶対者気取りか」

『個の戦力でいえは俺たちのほうが精鋭揃いではあったが、物量に押し負けた』

「一切合切奪っていったという奴だな。生体ゲニウスまでも奪ったのか」

『その通りだ。エイトリを奪い返すということはEL連合との全面戦争になる。アルフロズルに取り込まれた連中も、お前にそんな危険を冒して欲しくない。だからこそテュールはエイトリのことを話さなかった』


 再び不気味な沈黙が訪れる。

 隻翼はエイトリや生体ゲニウスに関する何かだろうかと予想した。


「何をためらっている? 今更だ。すべてを教えてくれ」

『俺は復讐を司るゲニウスだ。テュールがあえて言わなかったもの。それでもよければ真実を教える』


 ヴァーリの無機質な口元が邪悪な笑みのような形になるが、隻翼は迷わなかった。


「聞こう」

『ジーンの父は生体ELなどではない。生体ゲニウスだ』

「え? しかし…… いやつじつまは合うな」


 思わず隻翼が絶句する。

 その答えがすべてだったのだ。

 瞬時に理解した。不自然な状況と、あり得ない絵面のピースが埋まった。

 理不尽な追放と処刑。英雄ジーンがEL勢力によっていかに目障りだったか。すべてに納得ができるのだ。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


いよいよヴァーリ本体の登場です。

ヴァーリは皮肉屋ですが、面倒見のいいヤツです。やれやれ系に近いかも? 敵への容赦のなさは、北欧神話を模したゲニウスでも随一です。


ゲニウスは基本金属体ですが装姿戦闘機、いわゆるホークの前身を流用しています。動けますからね。装姿戦闘機とホークの区分は曖昧です。

変身する逸話を持つゲニウスの多くは変形可能でした。ヴァーリも狼に変身という逸話がありますので変形可能だったのです。


・エイトリ。毒です。同名のドワーフもいるのでややこしいですが、古ノルド語で毒という意味です。生命の源、というニュアンスもあります。毒にも薬にもなる、ですね。

・この十字軍は北方十字軍をモチーフです。十二世紀あたりで、歴史では北欧のカトリック連合がバルト海の異教や正教会の排除を目的とされました。 

 西暦1054年にカトリックと正教会が別れました。「大分裂」という名前です。以降カトリック諸国から正教会も敵対組織とされたのです。

 結果としてキリスト教圏の団結が弱まって弱体化を招き、15世紀にはオズマン帝国によって東ローマ帝国は滅亡。イスラム勢力は拡大していきます。

 EL勢力の内紛はこれらの流れも参考にしています。


英雄ジーンの死。ヴァーリによって真相が明らかにされます! 

ジーンの死は設定上だけではなく、ゲニウスと政争を結びつける作中のトリックでもあったのです。


応援よろしく御願いします!

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― 新着の感想 ―
なんというかどこまで行ってもELはキリスト教なぞるなぁ 欧州の文化を破壊したり汚染するところまで
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