64話 女王の帰省
こんにちは!作者です!地味に1ヶ月1話投稿を頑張っております。
今回はエアル視点の夏休みでございます。
──皆様に、少しでもワクワクできる時間を。
スノウと共にザーパトウェスト首都ヨロパと帰省してきたエアル。到着早々メイド長であるハーグに見つかり、ダイヤモンド城へと戻ることとなった。
謁見の間。玉座に座すは、ザーパトウェストの元国王にしてエアルの父親──アルバーノ・フィン・ダイヤモンドである。
玉座前の階段を下りた先には娘であり、現女王であるエアルが立っていた。
「お久しぶりです、お父様。お体は大丈夫ですか?」
アルバーノは不治の心臓病を患っており、余命宣告をされている。去年のクリスマスの大乱闘前までは父親のことを毛嫌いしていたエアルだが、流石に身内の余命宣告を知って憎まれ口は叩けないようだ。
「ああ。心做しか体調は優れている。」
「そう、ですか。良かったです。」
ここで会話が終えた。それもそうだ。去年のクリスマスまで険悪な関係性だった親子が、いきなり仲良く会話が弾むとは思えない。
互いに気まずい空気が流れているのは察しているが、会話の切り出しが出来ないエアルとアルバーノ。
エアルの少し後ろで待機していたハーグは2人の状況に見兼ね、助け舟を出す。
「エアル様、せっかく帰省されたのです。カルラ様のお墓参りなどいかがでしょうか?」
「お母様のお墓参りか……うん、そうだね。」
ハーグからの提案にエアルが乗る。
──『カルラ・フィン・ダイヤモンド』
アルバーノの妻であり、ザーパトウェストの王妃、そしてエアルの実母となる女性。エアルを産んで数年後に病を患ってしまい、そのまま回復せず亡くなった。
エアルはカルラと外出したり遊んだりは出来なかったが、楽しく話をしたり、簡単な手遊びをする時間が、窮屈な日常生活の中で何よりも楽しい一時であった。
「そうだな。カルラも喜ぶだろう。」
アルバーノもハーグの提案に乗り、墓参りに行くように促す。
「では、行って参ります。」
エアルは深々と頭を下げた後、謁見の間を後にした。
「ハーグ、少しいいか?」
アルバーノが去ろうとするハーグを呼び止めた。
「何でしょうか?」
「墓参りが終えたら、エアルに『アレ』を渡してくれないか?」
「私からお渡ししてもよろしいのですか?」
「ああ。アレは私よりお前からのほうが喜ばれるだろう。」
「左様でございますか。では、責任を持ってお渡しさせてもらいます。」
ハーグは深々と頭を下げた後、謁見の間を去っていった。
ダイヤモンド城内には教会が建っている。中の構造は一般的な教会と変わりない。最奥にはマントを翻し、高らかに剣を掲げる男の銅像が祀られている。
この銅像の男の名は『マールス・フィン・ダイヤモンド』。ザーパトウェストを築き上げた初代王である。
そんな教会の隣に1つの墓がある。装飾は最低限、素朴でありながらとても手入れが行き届いているその墓には、王妃であり、エアルの実母にあたる女性──『カルラ・フィン・ダイヤモンド』が眠っている。
エアルは母親の墓の前で屈んで目を閉じ、手を合わせた状態でいる。ハーグはその姿を少し後ろで立って見守っていた。
数分後、目を開けたエアルが立ち上がってハーグのほうに振り返る。
「私、お母様との記憶ってベッドの上で座るお母様と手遊びやお喋りをしていたくらいなんだけど、王妃をしていたお母様ってどんな感じだったの?」
「そうですね。民の前に立つ凛としたその姿は、正に王妃を体現していた人でした。」
「そうなんだ。なんかあんまりそんなイメージはないなぁ。」
エアルは幼い頃の記憶を思い出すが、そのような雰囲気を纏う母親は見当たらなかった。
「ふふ、そうでしょうね。あくまでその凛としたお姿は民や騎士の前でのみです。私やアルバーノ様など、親しい者しかいない場所では、甘えるような態度をしておりましたから。特にエアル様が産まれた後は、本当に溺愛しておりました。あのお姿を民や騎士が見ると仰天するでしょう。」
ハーグが昔を思い出しながらクスッと微笑む。
「そうなんだ。なんか…ちょっと照れるなぁ。」
エアルはエヘヘと照れ笑いする。
「ではエアル様、カルラ様の部屋にも行きませんか?」
「お母様の部屋に?」
「はい。アルバーノ様より『とある物』をお渡しするように伺っております。」
「ふーん…お父様から…。分かった。」
エアルが提案になると、2人はカルラの部屋へと移動するのであった。
全体に暖色を基調としているため、明るい印象を持つカルラの部屋。奥の壁にはエアルと同じオレンジ色と髪と赤色の瞳をもち、凛とした顔立ちの女性──カルラの肖像画が飾られている。
「少しお待ち下さいませ。」
ハーグはエアルを待たせると、化粧台の棚からオレンジ色の指輪ケースを取り出してきた。そしてエアルの前で開けると、そこにはダイヤモンドが埋め込まれた指輪が入っていた。
「これって…指輪だよね?」
エアルが確認するように尋ねる。
「はい。こちらはカルラ様が身に付けておられた『ヴィーナスリング』という名の指輪でございます。この指輪には装着した者の光属性の魔力を高める魔法陣が彫られています。」
よく見ると、ダイヤモンドの裏側の部分に精巧な魔法陣が彫られている。
「そんな指輪を何で私に?」
「カルラ様はご自身の死期を悟った頃、こう仰いました。『この指輪の力はもう私には無意味だ。だからエアルが大きくなったら、この指輪を渡してほしい。きっと力になるから。』と。」
「そうなんだ。」
「エアル様、これはカルラ様──貴女のお母様からの遺言であり、願いです。受け取っていただけますか?」
「……勿論だよ。」
エアルは母親からの遺志を受け止め、ヴィーナスリングを手に取ると、右手の薬指にはめた。
次の瞬間、体がポウッと熱くなり、魔力が高まっていることを感じ取れた。
「何これ…!?すご…!」
己の内より湧き上がる魔力に、エアルは戸惑いながらも高揚感に浸る。
「大丈夫ですかエアル様?」
ハーグが問う。
「うん、大丈夫だよ。でも、ちょっと疲れてきたみたい…。」
エアルは指輪を外すと、ヘナヘナとその場に座り込んだ。ハーグは即座に近寄ると、優しく肩を抱いてエアルの体を支える。
「成る程。魔力が高まる代わりに、魔力消費が激しくようですね。冷静に考えれば、デメリットなしで強化するアイテムなんて、そんな虫のいい話なんてありませんね。」
ハーグはエアルの状況から、ヴィーナスリングの効果を分析する。
「お母様は常にこれを付けてたの?」
エアルがヘナヘナ状態で尋ねる。
「病にかかってからは外されておりましたが、それまでは付けておられましたね。」
ハーグは返答しながらエアルをベッドに座らせる。
「はぁ〜〜…お母様、すっご。」
母親の凄さを実感したエアルは指輪を外してケースに戻した。
「でも、この指輪があったら皆に追いつけそうかな。」
エアルが指輪を眺めながら呟く。
「皆、というのはシャイン君とかですか?」
ハーグからの問いに、エアルが頷く。
「うん。去年のクリスマスのあの戦いからちょっと思っているんだよね。私って皆の足を引っ張ってるんじゃないかなって。」
「何故そのようなお考えを?」
「シャインやレビィの戦いを間近で見ていたら誰だってそう思っちゃうよ。あぁ…私ってホントに無力って。」
「そんなご謙遜を。エアル様は回復魔法が使えるではありませんか。」
「そうだけどさぁ…それでも結局出来るのは支援くらいだもん。いずれは来る革命軍との戦いの日に、今のままの私だと絶対役に立てない。──でもさ、指輪の力をちゃんと使いこなせれば、皆の隣に立てると思うんだ。」
エアルは覚悟を決めた瞳になると、ベッドから立ち上がってハーグに体を向ける。
「決めた!私、指輪の力を使いこなせるまでこの城にいるね!」
「左様でございますか。では、早速泊りの準備を致しましょう。」
「うん!よろしく!──あっ、スノウに連絡しとかなきゃ。」
エアルはスマホを取り出すと、スノウに連絡をとる。
エアルが連絡している間に、ハーグは他のメイドを呼ぶと、的確な指示をだして宿泊の準備を始める。
「──と、いうわけだからさ、スノウも適当に夏休み満喫してて良いから。じゃーねー。」
エアルが連絡を終えた時には、
「エアル様、泊まりの用意が完了しました。」
ハーグはエアルの泊まりの準備を終わらせていた。
「はや!でも、ありがとう!──さて、すっごく意気込んでみたけど、具体的にどうやって使いこなそう?」
エアルがう〜んと考える。
「では、騎士団長のパランディアなんてどうでしょう。彼は能力解放になれますので、大いなる力を使いこなす方法を知っているかもしれません。」
「成る程!じゃあ早速訊いてくる!」
エアルはすぐにカルラの部屋を飛び出し、パランディアの元へ走り去っていった。
元気よく走り去るエアルの背中を見送るハーグは、若き頃のカルラの姿を重ねた後、部屋の中の肖像画に視線を向ける。
「カルラ様、貴女の最愛の子はご立派に成長されております。安心して天国から見守ってあげて下さい。」
ハーグは優しい声で呟いた後、部屋の掃除を始めるのであった。
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では、次回もお楽しみに!




