デブトレーニーはデートをする
「あー…外で会うの久々だから何か緊張するな…」
大学が夏期休暇に入りバイトとボディメイクを思う存分できるようになったある日。
僕は愛梨さんと出かける為に駅前に来ていた。
こんなに暑いのに通りを歩く人は多い。
「そういえば、前ほど汗かかなくなったなぁ。というより筋肉がベタつかなくなったって感じ?」
以前までの僕だったらこの季節、ちょっと外に出ただけで肌がベタついてたような気がする。
「これも体が変わったお陰か…やはり筋トレは素晴らしい。」
現在の体重は89kg、BMI28.4、体脂肪率24%だ。
約三ヶ月で16kgの体重減少。
減量のスピードとしてはなかなか理想的ではないだろうか。
筋力の伸びも悪くない。
BIG3の記録もだいぶ良くなった。
スクワット115kg、デッドリフトは140kg。
そしてベンチプレスはついに100kgを挙げることができた。
体重のせいもあるが、初めて三ヶ月にしてはかなり伸びが早い方だと愛梨さんにも褒められている。
BIG3が全て100kgを超えたご褒美として、今日は愛梨さんがおすすめのトレーニング用品店に連れていってくれる事となったのだ。
もちろん筋トレだけではなく食事も少しずつ変えてきている。
今は一日の摂取カロリーを2400〜2800kcalにしている。
ジムで筋トレをする日は2800kcal、しない日は2400kcalだ。
PFCのバランスだが、タンパク質と脂質は筋トレするしないに関わらず摂取量を変えていない。
タンパク質は体重の約2.8倍gで250g、脂質は80gを摂取している。
タンパク質は1gで4kcal、脂質は1gで9kcalなので、僕はタンパク質と脂質で1720kcal摂取している事になる。
あとは残りのカロリーを糖質で摂る感じだ。
2800kcal摂る場合は1720引いて1080、糖質は1gで4kcalなので、1080を4で割って270。
2400kcalの場合は680を4で割って170だ。
つまり、筋トレする日は糖質を270g、しない日は170gを摂取しているという事だ。
「じーんくんっ!なに観てるのー?」
「ぅわっ!」
愛梨さんを待つ間、スマホで黒人ボディビルダーのハードコアな筋トレ動画を観てニヤニヤしていると、後ろから唐突に肩を叩かれて竦み上がった。
「あ、愛梨さん…」
「やっほ!」
「こんにちは。早いですね。」
約束の時間まであと20分ほどある。
「えへへ…なんか楽しみすぎて早く出ちゃった。」
くっ……可愛い。
「てか、じんくんの方が早いじゃん。」
「僕も、その……楽しみで、ドキドキしちゃって…」
「も、もぉ可愛いなー!ほれほれ、お姉さんとデートできて嬉しいかい?」
人差し指で頬っぺたをうりうりされる。
やめて下さい、惚れてまうやろ。
というか愛梨さんもちょっと照れてるように見えるのは僕の妄想でしょうか。
「ここだよ!大きくはないけど良い感じでしょ!」
「お、おぉ凄い……筋肉の薫りがする…」
電車で三駅移動したところにあるビルの一角にあるお店。
そこはトレーニングウェアやリフティングベルトなどのトレーニングギアを販売している専門店だ。
「この店は品揃えも良いしギアの試着もできるから、凄くおすすめだよ!ネットでも買えるけど、やっぱり試してみた方が良いからね。」
ということで一通り店を見て回る。
今日の目当てはリストラップだ。
リストラップとは手首や肘に巻いて関節を保護するもので、ベンチプレスやショルダープレスなどのプレス系の種目で使う。
今まではジムのものを使わせてもらっていたが、ジムにあるのはあまり硬くなくて短めのものなのでこれ以上の高重量には向かないのだ。
ベンチプレスが100kgを超えたということで、そろそろ自分のを持った方が良いと愛梨さんに言われた。
「どう、良いのあった?」
「これとこれで迷ってるんですけど…」
見たいものがあると言って別行動をしていた愛梨さんが戻ってきたので、僕は持っていた二つのリストラップを見せる。
一つは黒地に赤のラインが入ったもので、ジムで使っていたものより少し長い程度で手首を二周するくらいの長さ。
もう一つはダークトーンの緑で手首を三周できるくらいのもの。
「おーかっこいいね!着け心地はどうだったの?」
「こっちの黒いのは着けやすいけどもうちょっと長さが欲しいかなって思いました。こっちの緑は長さは良いんですけどちょっと硬いような気がして…。」
「んー、なら緑の方が良いんじゃないかな。硬いのは使っていればそのうち慣れるし馴染んでくるよ。でも長さはどうしようもないし、これからも重量上げていくならやっぱり長い方が保護力があって良いしね。」
「なるほど……うん、こっちにします!」
ということで緑を購入。
ふふふ、これで思いっきりプレスできるぜぇ。
「買い物に付き合ってくれてありがとうございました。」
「どういたしまして!私も久々に行けて楽しかったよ!」
店を出てカフェで一息。
二人とも余計な糖質や脂質を摂らないようブラックコーヒーを飲む。
「それで、愛梨さんは何を買ったんですか?」
店で聞いても『ぬふふ…それは後でのお楽しみ!』と言われた袋を見て聞いた。
「それはねぇ…じゃじゃーん!」
愛梨さんが悪戯っぽく笑いながら元気いっぱいに袋から取り出したのは、黒地に濃緑で雄牛が描かれたタンクトップだった。
愛梨さんのものにしては明らかにサイズが大きいし見るからに男物だ。
これってもしかしなくてもプレゼント…?
「これ、僕に…ですか?」
「もちろん!これからも筋トレ頑張ってもらおうと思ってね!」
「愛梨さん…」
やばい、嬉しい。
嬉しすぎるし愛梨さん可愛いし笑顔が眩しい。
何故か泣きそうになった。
「僕…僕、愛梨さんに会えて良かったです。」
「え、えへへ…そういう風に言われると照れちゃうね。」
「これからも…ボディメイク頑張ります!」
「うん!一緒に頑張ろーね!」
この笑顔を見られるなら、僕はいくらでも頑張れる。
そう思った。
【教えて、愛梨せんせー!!】
「愛梨さん、ジムが家の近くになかったりしてなかなか通えない人っているじゃないですか?そういう人って家で筋トレしてたりするんですよね。」
「いわゆる宅トレってやつだね。器具を揃えてホームジムを作ってる人もいるよね。」
「家でも器具さえあればちゃんと筋トレはできるんですか?」
「ダンベルとベンチがあれば胸、肩、腕は結構鍛えられるよ!バーベルがあればなお良し。」
「脚や背中は難しいんですかね?」
「脚はパワーラックやハーフラックがあればスクワットができるけど、なかなか簡単には置けないよねー。」
「場所取りますし、重いですもんね。」
「まぁ脚はダンベルを使ってブルガリアンスクワットやランジはできるから、鍛えられないことはないよ!」
「背中はどうなんですか?」
「ローイング(前や下から引く)系の種目はできるよ!ワンハンドダンベルローとか、バーベルがあればバントオーバーローもできるし!」
「プル(上から引く)系の種目が難しいってことですかね?」
「そゆこと!ラットプルマシンを置けたら良いんだろうけど…」
「なかなか難しいでしょうね。」
「そうなんだよねぇ…だからおすすめとしては懸垂かな。懸垂台だったらパワーラックやラットプルマシンほど場所取らないし、めちゃくちゃ高いものでもないから。」
「あのぶら下がり健康器みたいなやつですね。」
「そうそう!あれで懸垂やって、ダンベルでローイングすればそれなりに鍛えられると思うよ!」
「懸垂台はどんなのが良いとかあるんですか?」
「使える面積とかお金にもよるけど、余裕があるなら懸垂だけじゃなくてディップスやレッグレイズもできるものが良いよ。そしたら大胸筋や腹筋も鍛えられるし。」
「密林で調べてみます。」




