小さな一歩が、冒険の始まり
森に入り、川に沿って下って街に向かって歩く。途中で休憩して昼ご飯を食べ、また出発する。日が暮れてきた。森の中は暗くなるのが早く、しかも肌寒い。私は鞄から上着を取り出した。
「夜の森は寒いからね、これも持って行ってね」と、出発前日にメアリーおばあちゃんが言いながら、この厚い上着を渡してくれた。
ふぅ〜、森の中って本当に寒いね〜。でも、この上着のおかげで少しは暖かく過ごせそうだ。
周りが暗くなってきたので、初日の冒険は川のそばで泊まることにした。何時間も歩いたから疲れたし、お腹もペコペコだ。歩く途中で採った果物を川で洗い、持ってきたお弁当と木の実と合わせて今日の晩ご飯にした。村を出る前に作っておいた虫除けを体に塗り、防虫剤を寝袋の近くに置いた。
森の夜は思った以上に恐ろしい。虫の鳴き声があらゆる方向から聞こえて体が震え、狂ってしまいそうになる。毎日森で遊んでいたけれど、夜の森に入るのは初めてだった。あぁ、おしっこが漏れそう‥‥‥。
とりあえず目を閉じて何も見えないようにすれば、少しは恐怖を感じなくなるだろうと思った。でも耳が敏感になり、余計な音が次々と耳に入ってくる。い、今、誰かの話し声がしたかな‥‥‥? 余計に怖くなり、私は必死に目を閉じて、畑のトマトの木を数えながら眠ろうとした。
あぁ友達が本当に欲しい。
翌朝、体の時計通りに目が覚めた。まだ真っ暗だったので火を熾す。昨日の恐怖はすっかり消え、時間と心に余裕ができたから、近くに生えた珍しい植物の絵を描き、のんびり朝ごはんを食べ、小動物たちと遊ぶ。明るくなると、再び歩き出した。
その夜は、リスちゃんたちと鳥ちゃんたちが私のそばにいてくれたおかげで、少し恐怖が和らぐ。私は心から邪念を追い払うため、熾し火をじっと見つめ、無心になった。寝るときは畑の白菜を数え、目を強く閉じて眠りについた。
この状態を三日間続けた。
四日目、川を下って歩いていると、二匹の真っ白な大きい犬ちゃんに出会った。犬って普通、森の中で生息するのだろうか‥‥‥と思いつつ近づくと、犬ちゃんたちは私に気が付いた。
「こんにちは。どうして君たちはここに?」
『ぐううううーーッ』と女の子の犬ちゃんが低く唸った。どうやらこの二匹の犬ちゃんはあちこちを旅しているらしい。
「そうなんだね〜。私はリーマというの。これから君たちはどこを旅するの? 私はトレストという街に行くんだけど、一緒に行かない?」
犬ちゃんたちはしばらく迷っていたが、警戒心なく私に体をすり寄せてきた。私はしゃがんで犬ちゃんたちをワシャワシャすると、犬ちゃんたちは私のほっぺにキスしたり舐めたりする。
尻尾も激しく振っているので、一緒に来てくれる前向きな答えだということにした。
私はリーマだから、男の子の犬ちゃんを「リオ」、女の子の犬ちゃんを「リア」と名付けた。
最初の三日間は独りぼっちだったから周りを観察する気持ちが全くなかったけど、今リオとリアも一緒だから心に余裕ができた。
「うわっ!さすが森の奥だね!珍しい植物がたくさん生えているじゃないの!ね!リオ!リア!わっはぁぁ!」
珍しいものを見つけると、その植物に飛びつき、鑑賞したり絵を描いたり、どこで会ったか記録したりする。森のどこにいるのか正確にはわからないので、全部「西の辺境森」と書いておいた。まあ、二度目に来られるかどうかはわからないけど。
おじいちゃんに植物を教えてもらった最初の頃は、植物の違いを見分けるのがなかなか難しかった。どうすればいいか悩んでいると、おじいちゃんが「絵を描くと物の詳細まで頭に残るかもしれんぞ」と勧めてくれた。
そこで、私は植物の絵を描くように頑張った。最初は私の描いた植物がミミズにしか見えなかったけれど、だんだん枝がちゃんと枝に見えるようになり、やがて植物らしく描けるようになった。少しずつ絵も上達し、植物を描くことが私の習慣になった。
そんな私は、森で植物を見つけるたびに絵を描く。あまり先に進まない気もするけれど、リオとリアがいるから安心だ。この子たちは私を守ってくれるし、夜の森や街のことも、もうあまり心配しなくていい気がする。
もはや、森で暮らしてもいいんじゃないかな? 川のそばで生活すれば、水の心配もないし、洗濯もできるし、料理も作れる。道に迷った〜と言って村に戻っても、おじいちゃんに怒られないかもしれない。どうしても街に行けと言うなら、今度こそおじいちゃんも一緒に行くように、死ぬほど強請ろう。おじいちゃんも一緒なら心強いし、やる気も出る。うんうん、そうしよう!
森での生活六日目。適当に森を歩いていると、少し先に鹿ちゃんが二匹いるのを見つけた。
『ヒュー!』と口笛を吹いて鹿ちゃんを呼ぶ。
この口笛は、以前ニックお兄ちゃんが吹くのを見てカッコいいなと思い、三か月かけてやっとできるようになった。
「剣術も武術もこれぐらい頑張ってほしいんだが」――おじいちゃんの呟きは、聞こえなかったことにした。
鹿ちゃんたちは私の口笛を聞くと振り向き、二匹とも歩いてきた。
「こんにちは。君たちはどこに行くの?夫婦かな?」
私が鹿ちゃんたちに話しかけると、二匹は頷き、私にすりすりしてきた。可愛い〜。
『ゴローッ』とリオとリアが鹿ちゃんたちに威嚇すると、鹿ちゃんたちは少し怖がり、逃げようとした。
「リオ、リア、やめて! 鹿ちゃんたちをいじめないであげて」
私が注意すると、リオとリアはちゃんとやめてくれた。この子たちは本当に大人しくていい子だ。
「もう大丈夫だから、怖がらなくていいよ。リオとリアはいい子だから、安心してね」
念のため、鹿ちゃんたちにリオとリアのことも紹介しておいた。
「私はトレストまで行くんだけど、一緒に行く? 私とリオとリアだけだから寂しいの」
私がそう言うと、鹿ちゃんたちは何度も頷いた。一緒に来てくれるみたいだ。
旅の仲間は四匹になった!
そんなこんなで、私たち一人と四匹は森の旅を続けた。
「うわっ!あそこにもある!すごっ!みんなこれ見て!」
こんなふうに飛び跳ねたり観察したりしていると、リオとリアの眼がだんだん冷たくなった気がした。まあ、きっと気のせいだろう。だって鹿ちゃんたちは相変わらず澄んだ瞳で、私を見守ってくれているのだから。
「あっこれ虫除けの材料だよ。持っているものはそろそろ無くなっちゃうから、ちょっと採るね。みんなちょっと待っていてね」
私は遊んだり、真面目に植物を採ったりしながら、そんな日々を過ごして、この森で十日目を迎えた。
村を出発して十日目の夜。私たちはご飯を食べ、体と髪の毛を洗ってさっぱりし、川の近くでリオ、リア、鹿ちゃんたち、そして他の小動物たちと一緒に寛いでいた。
しかし、森に入って初めてのピンチが、ついに訪れた。
四人の男が現れたのだ。




