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王都に戻る

「リーマ、大丈夫だった?一人にしてしまってごめんね。‥‥‥ってこの剣はどうしたのか!?何かあったのか!?」


 カイテルさんが私に気付くとすぐ私のところに走ってきて、私の手にある剣を見て血の気を引いた。カイテルさんは相変わらず過保護だけれど、心配してくれて嬉しい。


 私はカイテルさんに言われるまで自分がまだここの人の剣を持っていたことを忘れていたわ。


「あっ、これはここの人たちの仲間のものです。外でも四人寝ています」私は自分が持っている麻薬団員の剣を見ながら話す。


「??寝てる?どういうこと?」


「あの四人、いきなり現れましたから、びっくりしちゃいましたけど、リアと私で休ませてあげました」


「‥‥‥そ、そうなのか?怪我してない?」


 カイテルさんが血の気を引いたまま、私の肩を掴み、ざっと私に怪我はないか確認し、そして安心したかのように嘆息した。


「よかった。リーマが無事で」と言って私の頭を撫で、「剣を使えるんだね、すごいね。一人にしてごめんね。怖かった?」


「全然大丈夫ですよ!リアもいましたし、こう見えても私はそこそこ強いですから!」と国の騎士の前で偉そうに言う私。


 カイテルさんが私の答えを聞くと、柔らかく優しい眼をして、頭を撫でてくれた。


「外に四人いたの、リーマちゃん?ちょっと縛ってくるね〜。私に任せて〜」


 アレックスさんが話しながら、ひっそりカイテルさんを突き飛ばし、カイテルさんはよろけて手が私の肩から離れてしまった‥‥‥


 アレックスさん‥‥‥何をやってるの?カイテルさんの顔を見てください。いつも優しいカイテルさんが今は鬼より怖いんじゃないの。



 そんな私の気持ちに気付くことなく、アレックスさんがよろけていたカイテルさんに一ドヤをした後、

「ザイン!外にもこいつらの仲間いるぞ!リーマちゃんが戦ってくれたから早く来い!」とザインさんを呼んだ。


 アレックスさんとザインさんが外に行き、大人しく静かに眠っている四人の男を縛り上げた。


「小屋の裏にはもう誰もいません。全部で十一人いますね。さっきのこいつらの寝床もそれぐらいの人数のものでした。これで全部ですね」ザインさんがタイラル隊長に報告する。


「他にもこいつらの巣がまだあるかもしれん。油断するな。しっかり見張をしろ。これほどの麻薬の数、これから俺たちは忙しいぞ」タイラル隊長は顔を顰めて話す。


 タイラル隊長、アレックスさん、ザインさんとカイテルさんはまた話し合い始めた。誰が騎士団本部に報告するか、ここをどう調査するか、十一人の麻薬団員はどうするか、麻薬の処分はどうかとか何とかがチラッと聞こえた。



 リオとリアはこの麻薬の臭いが嫌いで外で待機し、見張りをしてくれている。


 私はやることがないから、マスクをつけ、小屋の中をぶらぶら歩き回ることにした。もう一度詳しく小屋の中を見ておきたい。


 小屋には彩の麻薬の瓶がたくさんある。小屋の真ん中に大きな作業台があり、作業台の上にイベルリアやナイトテイルなどの植物と道具、空瓶が置かれていた。それ以外は特にこれといったものはない。


 ふーん、麻薬を作るのにこういう道具が必要なのね?調薬と同じじゃないの。じゃ私がやろうと思えば麻薬を作れちゃう?というくだらないことを私はすぐ頭から消した。



 あっ!あれは!?あれはイブニングローズじゃないの!?


 イブニングローズはきれいな紫色の珍しい薔薇だ。しかも回復薬の原材料としても使える。すごくきれいだから観賞用としてももちろん問題なし!欲しいなぁ〜。後でカイテルさんにお願いしたら、一本ぐらいくれるかな〜?


 それにしてもイブニングローズは珍しい薔薇なのに、なぜここに何十本もあるのだろうか?麻薬の材料としても使えるのかしら?


 ふむふむ!?あれ?回復薬の材料が全てこの作業台に揃っているんじゃないの?あの回復薬も作っているの、ここの人たち?すごいね〜そんな簡単に作れるものじゃないのに〜。

 

 でも何のために作るの?もしかしてここは麻薬だけの工場じゃないのかしら?でもあの回復薬で儲けようとしても儲けないんじゃないかな?あの回復薬を好き好んで飲もうとする人は私以外、この世の他にいないんじゃないかしら?


 そもそもこんな大量の麻薬、国中の人たちに麻薬を盛らせるつもりなのかしら?こんなたくさんの麻薬が外に出てしまったら、国が滅びてしまうんじゃないかしら?何を考えて麻薬を作るの?そんなにお金が欲しいの?


 私はそう思うと体が震える。こんなもの、見つかってよかった‥‥‥村の外、物騒すぎる‥‥‥


「リーマは俺と一緒に王都に戻るよ」


 騎士の話し合いが終わり、カイテルさんは小屋のあちこちを探索している私のところに近づいてくる。


「タイラル隊長たちは戻らないですか?」


「タイラル隊長、アレックスとザインはここで待機と見張をするんだ。俺はリーマを屋敷に送ったら、騎士団長に報告して増員を連れてくる。俺たち四人だけでは、どうしようもない数の麻薬と麻薬団員だからね」


「なるほど。そうなんですね。わかりました」


「リーマさん、このホワイトウルフたちもここに残してもらえませんか?万が一麻薬団の仲間がまだ残っているかもしれないから、我々が捜査している間、見張りを頼みたいです」


 タイラル隊長がカイテルさんと私のところに歩いてきながら、リオとリアのことを聞く。もちろん判断するのは強き誇り高きあの二匹ホワイトウルフだ。


「聞いてみますね」



 私は小屋の外にいるリオとリアに行き、ここに残って、見張をしてもらえないかと聞いた。


(メンドクサイワネ)と嬉しそうに尻尾を激しく振りながら、思ってもいないことを唸る。


 全く‥‥‥この子たちは自分たちが強き誇り高きホワイトウルフということ以外は素直じゃないわね。森にいっぱいいられることに喜んでいるのに、文句を言うとか‥‥‥。私はリオとリアのさっきの文句をこの子たちの寝言だということにした。


 太陽が西に傾きつつある頃、私とカイテルさんは森の小屋から森の入り口に向かって出発した。帰りは道が分かっていることもあり、来る時より速く前に進んでいる気がする。しばらく歩いたら今朝キルモンキーちゃんに会ったところまで着き、あと少しで森の入り口に辿り着くのだ。朝来た時より歩くペースが速い。


 カレル森はイベルリアの繁殖地のようで、帰りにちょっとイベルリアの花を採って持って帰ろうと思っていた。しかしカイテルさんはなんだか急いでいるように見える。大量の麻薬を見つけてしまったから、一秒でも早く騎士団本部に報告しなければならないだろう。花を採って帰りたいなんて呑気なことを言えず、私はイベルリアの採取を諦めることにした。


「リーマ、疲れてない?少し休む」といつも優しいカイテルは時々優しく声をかけてくれる。


「全然大丈夫ですよ!早く王都に戻りましょう!」


 もちろん急いでるカイテルさんを見ると、休みたいですなんてことも言えない。そもそもそこまで疲れてるわけじゃないしね。


 リオとリアがこの森に狩りに来る時、私へのお土産としてイベルレアを持って帰るように頼もうかな?


 森を出ると、ザインさんが隠蔽魔法で隠していた馬車に乗って王都へ向かう。


「俺は先にリーマを屋敷に送るから、今日はもうゆっくり休んでね。朝からずっと歩いていたから、疲れたんだろう?」


 ガタガタ走った馬車の中でカイテルさんが心配そうに言った。


 私は十日も森の中を歩いていた女ですよ、カイテルさん!


「全然大丈夫ですよ!私も騎士団本部まで行かなくても大丈夫ですか?麻薬のこととか植物のこととかの報告は?」


「俺が報告しとくから心配しなくても大丈夫だよ。リーマに聞きたいことがあったら屋敷で聞くからね。騎士団本部に来なくても大丈夫だから今日はゆっくり休んでね」


「‥‥‥そうなんですか。わかりました‥‥‥」


 カイテルさんは何だか私に騎士団本部へ行ってほしくないように気がする。どうしてだろうか?気のせいかも。


 馬車の中でゆらゆらしていると、王都に入り、そのまま屋敷に向かって走り続ける。


「じゃ行ってくるね。リーマはたくさん休んで」

 

 カイテルさんは屋敷の玄関まで私を送り、頭をなでなでして、そのまま馬車で一人で騎士団本部に向かった。


 カイテルさんと一緒に騎士団本部に行けなくて残念。本当はカイテルさんの職場を見てみたかったんだよね。騎士団本部と聞いたら、なんだか重苦しい場所だと想像してしまうんだけれど、お兄さんたちもさっきのタイラル隊長もアレックスさんもザインさんもそういう重苦しい人じゃないみたいだから、実際はどんな場所なのか興味があるんだよね。


 植物の報告とかの理由でもしかして騎士団本部へ連れて行ってくれるかもと思っていたけれど、ダメだった‥‥‥。まあ、確かに私が一緒に行ってもできることもないし、ただの邪魔だろうから、しかたがないよね。カイテルさんが飼育場に連れて行く日についでに騎士団本部にも連れて行ってくれるかも?


 仕方がない。今日の残りの時間はお父様からもらった保健省の医療部採用試験の問題集を勉強しよう。


 しかし日が沈んで夕食の時間になっても、私がお腹がいっぱいになるまで夕食を食べ終わっても、そろそろ私の寝る時間になっても、カイテルさんもお父様もリオもリアも戻ってこなかった。今日のカレル森のことでどうなっているのか気になってみんなに聞こうと思っていたけれど、カレル森の捜査のことで忙しいのかもしれない。残念。


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