怪しい小屋
結局カイテルさんがリオと一緒に前方を歩き、カイテルさんの後ろにタイラル隊長が歩いている。
私がその二人の後ろでリアと一緒についていき、隣にザインさんがいて、更に後ろにアレックスさんが歩いている。
この采配位置はどうやって決めたかというと、アレックスさんとザインさんはコイン投げで決めていた。アレックスさんがザインさんに負けてかなり悔しがっていた。騎士というのは一般人のように普通に遊び心がある人たちだ。
アレックスさんとザインさんの配置が決まった後、タイラル隊長は「いい加減にしろ!またこんなくだらないことしたら団長に報告するぞ!」と怒鳴り、アレックスさんとザインさんは顔を真っ青にした。ちょっと笑い出しそうになったけど、我慢した。
カイテルさんが風の魔法で臭いを消しながら、先へ進んでいる間、何度もイベルリアが見つかった。
イベルリアは別に毒花や危険な花ではなく、正しく調薬すれば鎮痛剤が作れるし、煎じてお湯に入れたら心を安らぎにしてくれるお茶になるし、お風呂にイベルリアを入れたら疲れをいやしてくれるから万能な花なのだ。
しかしイベルリアを潰し、数種類の毒草に混ぜると麻薬になる。その麻薬を燃やしたら人を誘惑するような甘い香りが漂い、その甘い香りを吸ってしまうと夢見心地になる。これはイベルリアによる心を安らぐ効果なのだ。
その甘い夢にハマってしまうと現実を見られなくなる。そしてその夢を見るためにその麻薬を服用し、数回服用するだけで依存してやめられなくなってしまう。
最悪なのはその麻薬の材料のほとんどは珍しいものでもなく、植物と農作業の知識があれば誰でも栽培できるものばかり。その知識もあって更に土の魔法も持っていれば麻薬作り放題だ、というこの話は完全におじいちゃんからの受け売り。
この世界にはたくさんの麻薬があるみたい。しかも全ての麻薬は一目見ると害のないようなもので、服用後に変な勇気を与えたり、幻の幸せを見せたりするものが多い。それが危険だと知らずに服用して服用しすぎて死んでしまう人がたくさんいるから、妙によさそうな薬を見たら絶対に手を出すな、気を付けろ、薬が必要なら自分で調薬しろと、村を出る前におじいちゃんが厳しく忠告していた。
はぁ‥‥‥やはり村の外は物騒で残忍で残酷な場所だ。
今回は麻薬が関係なかったら嬉しいんだけど‥‥‥まさか田舎娘の私が王都に来て三日目にこんな物騒なことに巻き込まれてしまうとは‥‥‥
早くおじいちゃんに会いたいなあ。会ったらこの素晴らしいお土産話をしてあげるよ。
しばらくカイテルさんとリオについていくと、ボロボロで簡易的な小さな小屋を二軒見つけた。いかにも怪しい小屋だった。
カイテルさんがタイラル隊長に視線を送り、タイラル隊長が頷く。カイテルさんが剣を取り出して先へ進み、他の騎士も続いて剣を取り出す。
リオが先方に歩き出し、一番手前の小屋を警戒し臭いを嗅いでそのまま通り過ぎる。次に左側の小屋に近づき、先ほどと同じように小屋の周りを嗅ぎ、そのまま通り過ぎる。この二軒の小屋には誰もいないようだ。
カイテルさんたちがそれぞれ小屋を調べ始めた。一軒目の小屋には寝具や生活用品がいくつか置かれていて誰かがこの小屋で生活していたようだ。ざっと見る限り十人ぐらいいたんじゃないかな。こんな狭い小屋に十人も住んでいるなんて‥‥‥この人たちがよくこんな過酷なところに住んでいるんだね、大変だね、と私は他人事のように考える。この小屋には寝具と生活用品以外特に目ぼしいものはなかった。
もう一軒の小屋にたくさんの植物が置かれていた。おじいちゃんに教えてもらった通り、麻薬の材料の毒草がたくさん置かれていて、他の何種類もの植物もあった。さっきの臭いは本当に麻薬の臭いなのだろう。
私たちが植物の小屋を出るとリオとリアがいきなり唸り、リオがもっと奥の森のほうへ向かって走って行き、タイラル隊長たちもリオについていく。
「リーマ、奥に何かあるはずだ。俺の近くにいてね。離れないで」
「わかりました」
カイテルさんが前の方に歩き、私は必死にカイテルさんについていき、リアは余裕でカイテルさんについていく。こんな早歩きするカイテルさんは初めて見た。こんな早歩きする私も初めてだ。
疲れたよっ!
西の辺境森にいた時、カイテルさんはあんなに緩やかに歩いてたんじゃないのっ!?あれは何だったのっ!?
しばらく必死にカイテルさんについていたら、また小屋を見つけた。さっきの小屋と同じくボロボロだけど、さっきより大きい小屋だった。
リオが小屋の入り口で待っていて、タイラル隊長たちが静かに小屋に近づき、入り口に立ち止まる。私は疲れを隠そうと深呼吸して息切れを我慢してカイテルさんについていき、小屋の入り口に近づいていく。
タイラル隊長たちとカイテルさんは特に何も話さず、お互いに視線を送り、頷く。
今の視線、どういう意味だろうか。
ザインさんが入り口を静かに小さく開け、中を覗き、そして手をグーにしたりパーにしたりしてカイテルさんたちに合図を送り、タイラル隊長たちが険しい顔で剣を握り締めた。
今のグーパー、どういう意味だろうか。
カイテルさんが私に向き、
「俺たちが侵入する。リーマは外で待っててね。リア、リーマを守って。頼んだぞ」と小さな声で言った。
リアが(イワレナクテモシッテルワッ!)と唸った。
「はい」
アレックスさんが先に中に入り、ザインさん、タイラル隊長、カイテルさんも続いて中に入り、リオもついていく。
しばらく外で待っていたら、『あぁぁぁッ!』の叫び声や『キンキン』と金属がぶつかり合った音、何かが倒れた音、リオの咆哮などが聞こえてきた。私とリアは中の様子が気になり、扉の隙間から中を覗いてみると、相手が七人ぐらいいて、それぞれカイテルさんたちと交戦している。が、全く相手にならないように見える。さすが騎士だ。めちゃくちゃ余裕だね。リオもリオで元気よくイキイキと相手を一人一人蹴飛ばしたり嚙みついたりして倒していく。さすがホワイトウルフだね。
「おまえは誰?何をしている?」
いきなり後ろから声が聞こえ、私は驚いて叫びそうになり血の気が引いた。
おずおずと後ろを見ると四人の男が立っていて、怖い顔をして私に剣を突き出していた。
リーマ大ピンチ!
(ニンゲンメッ!)とリアがすぐ剣を持っている一人の男を蹴りつけ、男の足を噛みつけて突き飛ばす。その男は思いっ切り木に当たって地面に倒れこんで気絶した。
瞬殺だった‥‥‥さ、さすがホワイトウルフだね。仕事が早すぎて容赦が無さすぎる。
残りの三人がリアの攻撃に狼狽している間、私はさっきリアの獲物が落とした剣を没収し、もう一人の男が握っている剣を落とし、その男の股間を思いっきり蹴りつけ、廻し蹴りしてきれいに顔面を命中した。
「このヤロー!」
三人目の男が叫び、剣を構えて私にかかってくる。私はそれを剣で受け止め、きれいに反撃した。数回剣を交わしていると、この男がだんだん苛立ち、集中力が欠け始める。私がそのスキに身体を低くし、この男の足をひっかけ、男がよろけて倒れた。
この技、数年前私がおじいちゃんにやられたことがあった。あの時私は派手に地面に倒れ、お尻が何日間もずっと痛くて痛くて、おじいちゃんにやり返そうと決めていた。
だがしかし、何度挑んでも全くやり返せずであった‥‥‥お陰で今すごくカッコよくできるようになったけどね。
その男が倒れたそのスキに私が男の手から剣を落とし、お腹を思いっきり蹴りつけ、剣の持ち手の先端で顔を叩き、三回パンチして気絶させた。
ふぅぅ、私は今まで木刀で模擬戦しかやったことがないから、真剣を使うとかなり緊張する。間違って誰も斬っていないみたいだからよかったわ。たくさん血が出ると、死んじゃうかもしれないからね。
おじいちゃん!武術を教えてくれてありがとう!あの時は筋肉痛で死ぬほど辛かったけどよっ!
リアはどうなっているのかと思い、リアの方を見るとすでに四人目の男を倒していた。リアがその一人の男の体の上に寝そべって爪を掃除している。さすがホワイトウルフだね。余裕すぎるよ。
私は小屋の中を覗き、カイテルさんたちもすでに中の人たちを倒していた。アレックスさんとザインさんが犯人を縛り上げていて、タイラル隊長が小屋の中の薬物を調べていて、カイテルさんが小屋の奥を調べていたのか、奥の扉から出てきてタイラル隊長と何かを話している。さすが国の騎士だわ。みんな強い〜。
リオはどこにいるのかざっと探すと、リオが両方の前足と裏足でここの人たちの顔をぱんぱん叩き、笑いながら楽しそうに人間の顔面で遊んでいる。あっちのホワイトウルフも余裕すぎて容赦がなさすぎるよ。
小屋の中の戦闘はもう終わったとわかり、私はリアを呼んで一緒に小屋に入った。小屋の中を見回わすと、壁一面に瓶がたくさん並べられていた。
これは全部麻薬なの?すごいなぁ。麻薬がもっと毒々しい薬物だと思っていたわ。しかし瓶の中身は普通にきれいな色の粉ばかりだよ。真っ白な粉、青色の粉、黄色の粉、淡い紫色の粉もある。この麻薬を開発した人は植物の知識が半端ないんじゃないかな。
これが本当に麻薬なの?薬じゃないの?この麻薬は見た目からして全く有害なものには見えない。だからたくさんの人が麻薬の危険さに気づかずに服用していたんだ。気づいた時はもう麻薬に依存してしまって、やめられなくなってしまったんだろうね。私だって事前に麻薬が関係しているかもと気付いてなかったら、ただの粉薬だと思って思いっきり吸っていたかもしれない‥‥‥。
だからおじいちゃんがあんなに忠告してくれたのね。私は麻薬のことを考えながら、ぼーっと大量の麻薬瓶の壁を眺める。




