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カレル森

 私たちがキルモンキーちゃんの指さした方向へ歩いていると、途中騎士たちが人が通った痕跡を見つけ、タイラル隊長たちが立ち止まった。


「地面に足跡はないが、木の枝や草に何かが通った跡があるな。隠蔽魔法を使ったんだろうな」


「えぇ、私の隠蔽魔法と同じような痕跡がありますね。だんだん薄れてきている感じはしますが、確かにあっちのほうに向かっているみたいですね」


「さっきまで何の痕跡もなかったのに、今だんだん出てきたんですね。ここは森の入り口からかなり遠いから、油断して隠す気がなくなったんでしょうね」


「こんな森の奥に何を隠しているか知らんが、いいもんじゃないな」


「おまえら気を付けるように。リーマさんに何かがあったら、アーロン大臣が我々を絞め殺すから、リーマさんのこともしっかり守るように」タイラル隊長がアレックスさんとザインさんに命じた。


「「はい!私の命にかけてリーマちゃんを守ります!」」アレックスさんとザインさんがシンクロした。


 アレックスさんとザインさんがそう言ってくれたけれど、でもカイテルさんもリオもリアもいるから、アレックスさんとザインさんの命までかけなくても大丈夫だと思う。


「リーマのことは私が守りますから、皆さんは任務に集中してください。私はリーマを守るために今ここにいますから」カイテルさんが言いながら、アレックスさんとザインさんを睨みつける。


「いや、リーマちゃんのことは俺が守るから、おまえは黙っていろ。ってか帰れ!」


 ザインさんがそう言うとカイテルさんがギョッとザインさんを睨む。もともと仲が悪いのかな?


「カイテルさんもリオもリアもいますから、私は大丈夫ですよ。ザインさん、ありがとうございます」


「‥‥‥そ、そう?リーマちゃんがそう言うなら、しかたがないな。何かあったら私に言ってね〜」


 ザインさんが私に言うと、カイテルさんを一睨みをして前のほうへ歩いて行った。カイテルさんが呆れたかのように顔を横に振りため息をつく。この二人、相当仲が悪いかもしれない。


 再び歩き出し、かなり森の奥まで行くとキルモンキーちゃんが(コノサキ、シラナイ)と私に言った。


「この先に行ったことないの?」


 キルモンキーちゃんが不安げな顔をして(イキタクナイ)と鳴く。


 私は「そうなんだ〜。あそこに行きたくないのね〜」と言いながらキルモンキーちゃんの頭を撫でる。


 今度はキルモンキーちゃんがバツ悪そうにまた頷き(ゴメンネ)と謝った。


「ふふっ、大丈夫だよ~。ここまで連れてくれてありがとうね〜」


 キルモンキーちゃんが嬉しそうに私をギュッと抱きしめ、ほっぺにキスをし、(ジャネ)と鳴いて、木に登ってさっき来た方向へ戻って行った。


「キルモンキーちゃんが連れてこれたのはここまでです。この先は知らなくて行きたくないみたいです」


「そうですか‥‥‥ここからが本番なんだろうな。ではここで一旦休憩しよう」


 タイラル隊長はアレックスさんとザインさんとカイテルさんを呼び、少し離れたところで話し合い始める。


 私はリオとリアと一緒に近くの木の下に腰を下ろした。


「リオとリアはこの森が好き?この森は王都から近いから、たまにはこの森に狩りに来てもいいよ?」


 私はカイテルさんたちをチラ見しながら、リオとリアの狩りのことを話す。


(ホントウニイイノカッ!?)リオが尻尾を激しく振る。


「もちろんいいよ。リオとリア次第だよ。でも街の人は絶対に絶対に危害を加えちゃダメだからね。街の人に何かあったら、いくらお父様が味方になってくれても、リオとリアを助けられないからね」


(ウルサイワネシッテルワヨ)とリアがうるさがっているように唸る。安心していいかな、これ?


 リオとリアは今朝と比べてめちゃくちゃ上機嫌になった。この子たちはよっぽど屋敷に引きこもるのが嫌らしい。私のせいでリオとリアはずっと我慢していたのね。反省反省。


 カイテルさんたちが真剣に何かを話している。恐らくこの森の捜査のことなのだろうが、そんな真剣なカイテルさんたちを見て、私は不安になり、リアをギュッと抱きしめた。


 この森に何があるのだろうか。さっきのキルモンキーちゃんもこの先を嫌がっていて怖がっていて震えていた。明らかにこの先へ進みたくない様子だった。人間たちがこの森の奥で何をしているのかな‥‥‥


「リオとリアはこの先何があるかわかる?」


(シラン)とこの子たちは頭を横に振った。


「ふーん、ホワイトウルフでも知らないことがあるんだね〜そうかそうか〜知らないのか〜ホワイトウルフなのにね〜ホワイトウルフが知らないならしょうがないね~」


 リオとリアがムッとして(ココカラサキハアタシタチニマカセナサイッ!)と低い声で唸り、前足を地面に叩く。ホワイトウルフって本当に単純な動物だね。ちょっと揶揄っただけなのに。可愛いやつめ。


 カイテルさんたちがなかなか話が終わらないから、私は近くで植物を観察して時間を潰すことにした。この森に入ってからここまで歩いてもあまり珍しい植物が見つからなかった。あちこちにある樹々は街の公園でもあるような普通の樹々ばかりで、全くワクワクさせてくれない森だった。


 凶暴な動物が棲んであまり人間が入って来ない森だと聞いたから、未知な森で珍しいものが多いと勝手に決めつけていたわ。西の辺境森のほうが珍しいものが多くて、毎日ワクワクさせてくれる森だったよ。


「リーマお疲れ。水を飲んで。お腹すいた?」


 私がこの森のことを考えている間にいつの間にかカイテルさんがタイラル隊長たちとの話し合いが終わり、私の隣に腰を下ろして水と携帯食を私にくれた。


「カイテルさんお疲れ様です。大丈夫でしたか?ずっとタイラル隊長たちと話していましたが‥‥‥」


「大丈夫だよ。ただこの先のことを話し合っただけ。危ないと思うが、心配しないでね。俺はリーマを守るから」


「ありがとうございます」カイテルさんもリオもリアもいるから、もはや私は一番安全だと思う。


 しばらく携帯食を食べて座っていたら、再び出発した。


 リオとリアはさっき(マカセナサイ)と言い張った通り、タイラル隊長より前の方を歩き出し、周りを警戒して先を進めていく。


 何か怪しい痕跡を見つけると、『ぐるうぅ〜ッ!』(ココッ!)と唸り、タイラル隊長たちに知らせる。もちろんタイラル隊長たちはその唸りの意味が分からず、私が訳しなければならない。


 あの子たちはいつの間にか人間と一緒に平和にスムーズに行動できるようになったのね。いきなり成長したリオとリアを見て私は感心した。やはりやればできる子なのね、リオとリアは。


 前方を歩いているリオとリアが急に立ち止まり、すごく嫌そうな顔をする。何か大事な痕跡を見つけたのかな。


「リオ、リア、どうしたの?何か見つけた?」


(クサイ)とリオとリアが唸った。


 リオとリアの唸りを聞いて、私はほんのり甘い香りがし始めた。リオとリアがこの香りが嫌いなんだとすぐわかった。周りを見回すと、この甘い香りを漂わせるようなものがないように見える。本当にほんのりだから、香りの出所がもっと先のところにあるかもしれない。


「カイテルさん、何か甘い香りがしませんか?」


「うーん、確かに甘い香りがするな。なんの香りだろう」


「このまま進むぞ。あと少しで何かを見つけるだろうから」


 タイラル隊長が言って、アレックスさんとザインさんは険しい表情で剣を握りしめる。


「リオとリアはすごくこの臭いが嫌いです。この先危ないかもしれません‥‥‥」


 私はもう一度周りを見回し、少し離れたところでイベルリアという花が見えた。この森はイベルリアの繁殖地なんだろうね。森に入ってから何度も見かけた。イベルリアが一面にきれいに咲いた真っ白な花園のようなところもあった。帰りに余裕があったら、ちょっと採って持って帰ろうかな。


「あっ‥‥‥」


 自分がつい声を出してしまったことに気付き、私はすぐ手で口を覆う。


 イベルリアを見ておじいちゃんの植物の授業の一つを思い出した。もしかしてこの甘い香りは‥‥‥


「リーマ、どうした?」


「えーと、おじいちゃんの話を思い出しただけです‥‥‥でも違うかもしれません‥‥‥」


 話した方がいいかな。ただイベルリアが咲いているだけだから、絶対そうだと確信がない‥‥‥。でもリオとリアがこの臭いを嫌がっているから、これは動物の本能というものなのかな‥‥‥。


「どんな話?この香りのこと?言ってみて」


「‥‥‥あの白い花。あれはイベルリアというんです。毒花とかじゃないし、役に立つ花なのですが、他の植物と混ぜたら麻薬になるんです。その麻薬を燃やすと甘い香りがするみたいです‥‥‥でも私は実際その麻薬を見たことがないから、この香りがその麻薬かどうかわからないんです‥‥‥違うかもしれません‥‥‥」


 私はイベルリアを指さしながら話した。カイテルさんたちが聞くと眉をひそめた。


「麻薬か‥‥‥本当にそうだったら許せないな。もっと進んで捜査しよう。我々四人で抑えられるようだったら、突撃して麻薬拠点を潰す」タイラル隊長はとても憤慨している。


「承知しました」カイテルさんたちが返事した。


(オイッ!)そこでリオとリアが唸り、私に前足でちょんちょんしてくる。


「えーと、ホワイトウルフのリオとリアもいますよ!」


 私はタイラル隊長に言った後、リオとリアに冷めた視線を送り、嘆息した。


 リオとリアは畏怖されるべきホワイトウルフの自分たちが忘れられていることに大変ご不満。全くホワイトウルフというのは‥‥‥。


「そうだな。こっちにはホワイトウルフもいるから、余裕だろう。とりあえずこの先に何があるか調べよう」


「あのう、この臭いが本当に麻薬の臭いなら、私たちも危険です。たくさん吸ってしまうと依存してしまいますから‥‥‥」


 私は言いながら、鞄からマスクを取り出して全員に渡し、みんながマスクをつける。どれだけこの臭いを防げるか分からないけどないよりマシだ。


「臭いは風の魔法でなんとかできると思うから安心して」カイテルさんが言った。


 やはり魔法の出番が出てくる。羨ましいなぁ。


「じゃカイテル、おまえが前方を歩け。リーマちゃんは俺が守るから安心しろ」


 アレックスさんがニタっとして言うと、カイテルさんがアレックスさんを睨みつける。


「おまえらいい加減にしろ。仕事中だぞ」タイラル隊長が呆れたようにため息をついた。


 もしかしてカイテルさんはアレックスさんとも仲が悪い?自分が所属する隊の人間じゃないと犬ちゃん猿ちゃんの仲になっちゃうのかしら。


 私たちはマスクをつけ、再び出発した。


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