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キルモンキーちゃん

 翌朝、私とカイテルさんはメイソン家の屋敷から馬車に乗り、直接カレル森に向かう。


 街の人をホワイトウルフに怯えさせないように、リオとリアは屋敷から街まで一緒に馬車に乗ってもらったけれど、街を出るとあの子たちは(オレタチハシッテクッ!)と唸って、馬車が止まっていないのにイキイキと勝手に馬車を飛び降り、先陣を切ってカレル森へ走っていく。


 さすがホワイトウルフちゃんだね。あの子たちは久しぶりの森散策に大変ご満悦のようだ。


 ガタゴト馬車に乗って王都を出、そのまま馬車でカレル森に向かうと目的の森が見えてきた。カレル森は本当に王都に近いわね。この森に危険な動物がたくさん棲んでいるとお父様たちが話していたけれど、動物たちは森を出て、王都を襲ったりしないのかしら?街の人は心配しないのかしら?


「カレル森は本当に王都に近いですね。動物たちが街の人に襲ったりしないんですか?」


「王都の壁は頑丈に作られたんだ。百人もの強化魔法の魔法使いに強化魔法もかけられている。凶暴なブラックベアが群れで襲ってきても壁は簡単に壊されたりしないんだよ。それに壁の周りに警備の騎士は常時警備するから、街は安全なんだ」


「なるほど。強化魔法?便利ですね〜。その魔法でおじいちゃんの小屋の屋根を強化してもらいたいですね~。大雨が降るといつも雨漏りしちゃうんですよ」


 雨漏りすると、おじいちゃんが何とか屋根を補修して、私は水汲み用のバケツをそこに置き、掃除しなければならないから面倒なのだ。その雨漏りは畑用の水やりになるからいいけど。


「はははっそうか?そうなんだね〜ふふふっ」


 カイテルさんは口を覆って笑いを堪えようとした。大貴族のカイテルさんはおそらくその時の面倒さを想像できないと思う。



 カレル森の入り口に到着すると、カイテルさんが先に馬車を降り、私をエスコートしてくれた。近くにはなんだか人の気配を感じ、そこに目を向けたら、カイテルさんが今着ているような騎士の鎧を着た三人の男は険しい表情でリオとリアに向けて剣を持ち、戦闘に入ろうとしている。


 リオとリアは尻尾を激しく振り、(ニンゲンブットバスゾッ!)(コイッ!バカドモッ!)とイキイキと鳴き、人間を襲うこの機会にとても喜んでいる。結構溜まっているのね、君たち。


「ちょっ、リオ、リア、やめて!襲わないで!何もしないで!」


 私はリオとリアを止める。リオはすぐつまらなそうな顔をし、激しく振るっている尻尾を落とす。


(ナンデナノッ!?)リアは不満な顔で私に向けて唸る。


「この人たちはカイテルさんのお友達‥‥‥‥‥‥ですか?」私は一応カイテルさんに確認する。


「この人たちは騎士だ。安心して。リオとリアに襲わないように言ってくれる?」カイテルさんがふふっと笑った。


「カイテルさんのお友達だから、何もしないでね!」


『ぐるぅぅぅぅっ!』と二匹とも不満に唸る。


「おはようございます。騎士団本部騎士団一番隊のカイテルです。アーロン大臣の命令によりリーマを連れてきました。私とリーマとこの二匹のホワイトウルフも本日の捜査に参加します」


 カイテルさんはお友達に挨拶した。カイテルさんの仕事モードを見るのは初めてだ。すごく新鮮で、すごくカッコいい。


 三人の騎士はお互いに目を配り、剣を鞘に収める。


「おはようございます。騎士団本部騎士団二番隊隊長のタイラルです。話を聞きました。リーマさんですね?本日はよろしくお願いします。そのホワイトウルフはリーマさんのホワイトウルフですね?失礼しました。こちらにものすごい勢いで走ってきたから、襲われると思っていました」


 いえいえいえ、私があと少し遅かったら、本当に襲われていたと思います、タイラル隊長。こちらこそ、失礼しました。


「こちらこそよろしくお願いします」


「この二名の騎士は二番隊隊員のアレックスとザインです」タイラル隊長が後二人の騎士を紹介した。


「「‥‥‥‥‥‥」」


 うん??


 騎士団二番隊のアレックスさん、ザインさん。この二人の騎士は頬を染め、何も言わずに目を見開き私をじっと見る。あれ?私の顔に葉っぱでもついているかしら、と不安に思い、さり気なく自分の顔に触れてみる。何もついてないみたいだが?


「えーと、よろしくお願いします‥‥‥」


 気まずい雰囲気の中で私は何も言わなかったアレックスさんとザインさんに先に挨拶することにした。


「おい」とタイラル隊長がドスの効いた声で二人の部下にかけた。


「「‥‥‥っ!はい!よろしくお願いします!」」


 二人の騎士は我に返り、急に元気に挨拶をした。どうしたのだろうか?私がチラッとカイテルさんを見ると、カイテルさんがじっとアレックスさんとザインを睨みつける。


 馬車からこの騎士がいるところまで歩いた間、私は何か見逃したのかしら。


「リーマちゃん、俺がリーマちゃんを守るから、安心してね〜」アレックスさんが話しかけてくる。


「このホワイトウルフはリーマちゃんのペットなんだね〜ホワイトウルフをペットにするとか、リーマちゃんぐらいだよ。すごいな~」


(ダレガペットダッ!バカヤロー)とリオが怒り始めた。


「ち、違います!ペットじゃないです!友達です!ね!?」私は慌てて否定し、最後にリオとリアに同意を求める。


(ソウダッ!トモダチダッ!)とリアが満足に鳴いた。


 この誇り高き二匹のホワイトウルフをペットだとか言ったら、拗ねられちゃうよ。




 馬車は森の入り口近くに留まり、ザインさんの隠蔽魔法で隠れた。


 魔法って便利すぎない?何でもありじゃないかよ‥‥‥ちょっとムカつく‥‥‥。


 そして全員カレル森に入り、早速捜査仕事が始まった。タイラル隊長が先方を、アレックスさんとザインさんは左右に音を立てないように歩く。


 この森にいる動物は凶暴な動物が多く、他の人間がどこにいるのかわからないから、相手が私たちの存在に気づかせないようにしないといけない、と私の隣を歩くカイテルさんが教えてくれた。


 問題は、音を立てない歩き方を訓練されていない私は森の中で音を立てないような歩き方ができないことだ。私たちの存在がバレてしまったら‥‥‥それは私のせいだね。襲われたらごめんなさい、先に謝ります。


 リオとリアは私の前と後ろを歩き、イキイキと獲物を探している。今日は狩りではなく、人間がこの森のどこにいるのか捜査すると説明したんだけどな‥‥‥。


 まあ、ホワイトウルフちゃんだからね。むしろ私は今までリオとリアに無理矢理狩りをやめさせてしまったんじゃないの‥‥‥。反省反省。


 今日はリオとリアに自由にしてもらおう。この森は王都から遠くないし、狩りをしたかったらここに来てもいいと後で言っておこう。


 私はタイラル隊長の後ろからついて行き、森の周りを見回すと、なんと木の上に一匹の動物が木の実をかじっているのが見えた。


 見たことがない動物だ。なんと言う動物だろう?私と仲良くしてくれるかな?


『ヒューーーッ!』


 私は早速口笛でその動物を呼んでみた。


 その動物が木の実をかじるのを止め、音のもとを探すようにあちこち周りを見回す。


『ヒューーーッ!』と私はもう一回口笛を吹き、大きく手を振る。


 その動物は私のことに気づくと、すぐ木の上から降りて、私のところに走ってくる。木登りが上手な動物ちゃんなのね〜。えらい~


 ふふふっ、この動物ちゃんとも仲良くなれるわね~嬉しい〜。


 私はその動物を抱き上げた。この子は茶色の短い毛並みをして、腕が人間の腕ぐらいの長さなのに、足が短い。目が大きくてキラキラしている。体がリオの四分の一ぐらい小さいから、まだ子どもなのかな。それともこれは通常サイズなのかな。


 ふふふっ、小さくて可愛い〜。


『ぐるぅぅぅぅっ!』(コノチビッ!)

とリアは羨ましそうに唸る。リオとリアは大きすぎるから、さすがに抱き上げられないよね。


「どうしてキルモンキーがリーマちゃんに‥‥‥?」


 アレックスさんが首を傾げ、私とこの動物を不思議そうに眺める。


「これはリーマさんの能力だ」タイラル隊長がアレックスさんに言った。


「すげぇ~さすがリーマちゃんだ〜可愛い〜」ザインさんは目をキラキラさせる。


 ふふふっ、まあねぇ〜


「キルモンキーというの?初めてキルモンキーを見たよ。可愛い〜」とキルモンキーちゃんを褒めると、この子は手で顔を隠し、照れ始めた。あらあら、恥ずかしがり屋なのね〜。キルモンキーの可愛さに私はギュッと抱きしめた。


「この森に人がたくさん来ていると聞いたんだけど、どこにいるかわかる?」


 私が聞くとキルモンキーちゃんが東の方を指さし、(アッチにタクサンいる)と鳴いた。


「人があっちにいるのね?連れて行ってくれる?」


 キルモンキーちゃんが(イイヨ)と頷いた。


 私たちは再び歩き出し、キルモンキーちゃんの指さす方へ向かう。


「さすがリーマだね。キルモンキーも手懐けるなんてね」


 カイテルさん曰く、キルモンキーちゃんはかなり気が短くて人間だけではなく他の生き物を襲ってしまうらしい。このキルモンキーちゃんはまだ小さく、恐らく生まれて数週間しか経っていないだろうから、私たちに襲ってこなかったとのこと。


 だからアレックスさんとザインさんはキルモンキーちゃんが私に懐いているのを見てあんなに不思議がっていたのね。



 やはり私は天才じゃないかな~。


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