ダイニオウジ??
私はフクロウちゃんを抱きながら、カイテルさんと一緒に屋敷の廊下を歩き、庭に向かう。
「カイテルさん、マーティスさんとジルさんのお父さんはここにいますけど、どうしてファビアンさんのお父さんは今日来ていないんですか?」
私はフクロウちゃんを抱きながら、カイテルさんに聞いた。あの無駄に広い部屋にいた時から気になっていたけれど、聞くタイミングがなかった。もしかして体調が悪いとか?それともファビアンさんのお父さんとお母さんがすでにこの世から‥‥‥‥‥‥いやいや、そんな縁起の悪いことを考えるのをやめよう。ファビアンさんに失礼だ。
「ファビアンのお父様とお母様はどこにも気軽に行けるようなお方じゃないから、大事な用事がなければ来ないんだ。まあ、大事な用事があったら、お父様たちのほうから会いに行くけどね」
「どうしてですか?お父様たちの方から会いに行くって体調が良くないとかですか?」
「うぅん、違うよ。ファビアンのお父様とお母様はこの国の王様と王妃様だからだよ。ファビアンは第二王子なんだ」
「‥‥‥‥‥‥はい?だ、だいに‥‥‥なんですか‥‥‥?」
私はついに幻聴が聞こえてしまったようだ。王都への旅でよっぽど疲れたみたい。
「ふふふっ、ファビアンはこの国の第二王子だよ」
「‥‥‥‥えーと、ダイニオウジとは王様の二人目の息子の意味‥‥‥‥‥‥じゃないですよね?」
「ふふふっ、その意味で合っているよ」カイテルさんは笑いながら言った。
私はここで歩みを止める。
「ちょっと‥‥‥えっ‥‥‥ちょっと待って‥‥‥か、か、カイテルさん!も、も、もしかして今度私が王城に行くのって‥‥‥し、死刑を‥‥‥受けるために‥‥‥?」
私は食堂でファビアンさんに対する自分の言動を次々と思い出す。いくら私はファビアンさんに頼まれて素直に正直に嘘をつかずに、自分の気持ちをファビアンさんに伝えたとしても‥‥‥
えっ!?これ、死刑確定なんじゃ‥‥‥王都は私の死ぬ場所なの‥‥‥?やっと王都に辿り着いたというのに、早速死んじゃうの‥‥‥?おじいちゃん、外の世界は残酷だよ‥‥‥‥‥
「はははっ!ち、違うよ。本当に飼育場に行くよ!」
カイテルさんは爆笑した。
私の命に関わる大問題なのに、爆笑されるとか‥‥‥悲しい‥‥‥
「も、もしかして飼育場で‥‥‥死刑‥‥‥?動物たちに囲まれて‥‥‥死ぬ‥‥‥?」
「ふふふっ、安心して。そんなことは絶対ないから。それに俺も行くから、何をしてでも俺はリーマを守るからね」カイテルさんは笑いながら私の頭を撫でる。
「ほ、本当の本当の本当に?」
「本当の本当の本当にだ」カイテルさんはまた笑いながら私の頭をなでなでして頬を優しく触れる。
うんうん、だ、大丈夫‥‥‥大丈夫‥‥‥私はまだ死なない‥‥‥よね‥‥‥?
「リーマ、明日中央街に連れて行くから、楽しみにしていてね」
「はい!ありがとうございます!もう楽しみです!」
王都の散策、ワクワク!
まあまあ、まず私はまだ死なないみたいだし、ファビアンさんのダイニなんとかは後で考えよう。
カイテルさんが嬉しそうに笑った。
私たちは庭に着き、フクロウちゃんを木の枝に留めて、「たまには遊びに来てね」とフクロウちゃんにバイバイした。
翌日、保健省の採用試験の応募のためにカイテルさんは朝から王城に出かけた。
私とリオとリアはこの屋敷のどこにでも自由に行けるようになったから、カイテルさんを待っている間に、私たち人間一人とホワイトウルフ二匹は一緒に屋敷の外庭のあちこちを探索してみた。
すると裏庭のもうちょっと深いところに広い畑を見つけた。ここには野菜やハーブ、花がたくさん植えられている。バーナードさんという庭師の職場だった。
「あのう、畑の手入れを手伝いましょうか?私、やったことがあります」私は久しぶりの土いじりに目をキラキラさせて、バーナードさんに声をかけた。
「‥‥‥いや、ダメだ。お嬢さんに手伝ってもらったら、わしは旦那様に怒られる」
「‥‥‥えーと、そ、そうなんですか‥‥‥?じゃもし許可をもらったら大丈夫ですよね?後で聞いてみますね」
まさか断られるとは!?やはり自分の畑だから、神聖な場所だから、他人に入らせたくないのかな?
「許可を取ったら、下りるに決まっているんだろうが‥‥‥」
バーナードさんは困った顔をした。お手伝いというのは逆に迷惑なのかな?こんなに立派な畑があるのに、村にいた時みたいに土いじりができなくて残念に思った。後でカイテルさんにバーナードさんの手伝いができないか聞いてみよう。
私は特にすることがなく、もちろん畑のお手伝いもできないから、午前中ずっとバーナードさんの土いじりを見守っていた。
昼前ぐらいにリオとリアが屋敷の庭で我が庭のように気持ちよさそうに寝そべった。その頃カイテルさんが屋敷に戻り、早速私を中央街に連れて行き、中央街で昼ご飯を食べることになった。
「この焼き魚はすごく美味しいです。私はよく焼き魚を作りましたけど、こんなに美味しくない‥‥‥どうやってこんな美味しい味が出せるんですか?不思議です」
「よく料理を作るのか?食べてみたいなぁ」
「料理は私の担当でしたから、村にいた時毎日作っていました。でもこの店みたいに美味しくないから、カイテルさんは食べない方がいいと思いますよ。恥ずかしいし」
「それでも食べてみたいなぁ。今日作ってくれる?」
「‥‥‥はい。でもちょっとだけですよ。本当に本当に人に自慢できるようなものじゃないですから」
「楽しみだ」カイテルさんは嬉しそうに言った。
昼ごはんを食べ終わった後、カイテルさんがドレスの店に入り、店員に私のドレス仕立てを注文しようとした。そんなカイテルさんを私は全力で止めた。ジョアンナお嬢様が言った通りカイテルさんは本当に私にドレスを買うつもりらしい。
「カイテルさん、私は服がいりませんからね。昨日お姉様からたくさんもらいましたから」私はカイテルさんの服をちょんちょんと引っ張って小声で言った。
「でも古いものばかりだろう?新しいものを買おうよ」
「全部新品のようにきれいなものばかりですから、新しいものは本当にいりませんよ」
「でも店に入ったんだし、買わないとダメだよ」
「まだ店から何ももらっていないんじゃないですか?今店を出ても問題ないでしょう?本当に大丈夫ですから。出ましょう?」
「でもせっかく来たんだし、一着ぐらい‥‥‥」
「買ったら、二度とカイテルさんと一緒に出掛けません」
「‥‥‥‥‥わ、、わかった‥‥‥買わない‥‥‥‥‥」
カイテルさんが肩を落とし諦めてくれると、私はすぐカイテルさんの手首を掴み、カイテルさんを引っ張って店を出た。
*店長と店員*
「あのお客様、メイソン伯爵家のカイテル様だわ。でもあのお嬢様は誰かしら。見たことないわね」
「どこかのご令嬢じゃないですか?恋人ですかね〜?美男美女で羨ましいですね〜」
「カイテル様に婚約者などいないわよ。どこかのご令嬢かしら?あんな美しい人と会ったことがあったら、覚えているはずだけれど、記憶にないわね。それにしてもきれいな人だね〜ドレスの仕立て甲斐があるわよ。ちょっと声をかけ‥‥‥」
「あっもう出て行っちゃいましたね~残念です~」
「‥‥‥えっ?なぜ‥‥‥?は、伯爵家のご子息がなぜ何も買わずに‥‥‥せっかく大貴族がこの店に入ったというのに‥‥‥」店長のパレナが悔しそうに呟き、その二人のお客さんが出て行った扉を眺める。




