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未来の嫁

 今、アーロン、ジョゼフィン、バロウズ、ロランと四人の騎士はメイソン家の屋敷の居間で寛ぐ。


「見すぎ!」


「いてぇ!」


 カイテルが庭にいるリーマを気にしてずっと窓越しに庭の様子を見ていたから、ファビアンは我慢できず、カイテルの頭を強めに叩いた。


「ジョアンナ姉さんはリーマに何もしないから、安心しろ」マーティスは言った。


「知っている!」


「ふふふっ、リーマに会ったから任務の帰りが四日も遅れたわけね。心配していたわよ」ジョゼフィンは伯爵夫人らしく、優雅にソファに座り、息子に話した。


「はははっ、リーマは森の中でずっと植物やら花やら動物やら毒草やらで遊んでばかりで、植物の効果まで私たちに説明していましたから、全く前に進まなかったんです。マイペースすぎて時間がかかりました。あれは絶対に森を出る気がなかったんだと思いますよ」ジルは笑いながら話した。


「毒草?」ジョゼフィンは首を傾げた。「毒草で遊ぶとはどういう意味かしら?」


「リーマは毒がある植物を見つけたら、いつも近づけようとしていましたから、私たちは毎回毎回全力で止めていましたよ。触ったら秒速で死ぬ猛毒キノコを見つけて、イキイキしてそのキノコに飛び込んだんですよ。私たちは心底ヒヤッとしました」


「まあ‥‥‥」


「リーマが十日も森を歩いたおかげで私はリーマにやっと会えましたから本当に良かったです。リーマがどこにも寄らずに歩いてたら、私は二度とリーマに会えないかもしれません‥‥‥ずっとこの国にいたとは‥‥‥こんなに近くにいたのにどうしてもっと早く会えなかった‥‥‥?私はもっと早く会いたかったのに‥‥‥」


 カイテルが庭にいるリーマを眺めながら悲しそうに言った。ジルたちはお互い顔を見て肩をすくめた。幼馴染をなんと慰めればいいのかわからない。


「まあまあ、奇跡的に会えたから良かったじゃないか。すぎたことはもういい。これからどうしたらリーマにずっとここにいてもらうか考えろ」アーロンはカイテルに言った。


「皆さんはあまりリーマを甘やかさないでくださいね。あの子、会った瞬間から本当に生意気ですから。いてっ!」ファビアンがそういうと、カイテルはファビアンの頭に風魔法の風球を投げ放った。


「リーマは何をしたというんだ?」


「まずおまえからだよ!あの子を甘やかすな!」


「まあ四人の男がいきなり現れたから、あんなに警戒して当然だよ」マーティスが言った。


「っていうかあの時のおまえはリーマを攻めすぎだよ!めちゃくちゃ警戒されまくってんじゃないか?おまえが一番怪しかった!」ジルはカイテルを睨みながら言った。


「‥‥‥‥‥‥」


「カイテル、あなたは何をした?」ジョゼフィンは自分の息子に向けて聞いた。


「こいつ、森で会った時から、ずっと一緒に行こう一緒に行こうってしつこすぎですよ。リーマが我慢できなくなってホワイトウルフたちに一言でも命令していたら、今の私たちは死んでいたかもしれません」ジルは言った。


「‥‥‥しょうがねぇんだろう?あそこで別れてしまったらどうする?」


「そもそもあのホワイトウルフたちはリーマを過保護にしすぎですよ。ドラゴンたちも」マーティスは言った。


「どういうこと?」ロランは言った。


「トレストのドラゴン小屋でリーマは管理人に怒鳴られたんですけど、ドラゴンたちがその管理人に怒って襲おうとしたんです。幸いドラゴンが鎖に付けられたから、管理人は無事でしたけど」ファビアンさんは言った。


「強盗に襲われた時もリーマが四人の強盗に襲われそうになって、二頭のドラゴンと二匹のホワイトウルフがあの四人の強盗をボコボコにしました‥‥‥あれはさすがに可哀想でしたね‥‥‥」ジルは言った。


「自分がホワイトウルフに守られているから、調子に乗りすぎるよな、いてぇ!」マーティスがそういうとカイテルはマーティスの頭に風球を投げ放った。


「トレストのあの騒ぎ、俺がいなくて残念だったよな。はぁ‥‥‥先に食堂に行かなきゃ良かった」ジルはつまらなそうに肩をすくめた。


「トレストに何があった?」ロランは息子のジルに聞いた。


「リーマは当たり屋にあって、どこかに連れて行かれそうになったみたいです」


「あの当たり屋は騎士だったんです」マーティスが言った。


「えっ!?き、騎士?騎士がなぜそんなことを!?」アーロンは驚いた。


「うーん、まあ‥‥‥リーマの魅力に当てられたんじゃないですかね〜。結局警告処分されたみたいですが」


「あぁなるほど‥‥‥でもまさか一般市民に危害を加える騎士がいたとは‥‥‥騎士の規則と行動に厳重注意しなければ‥‥‥うーん、時間を見つけて偵察もしたほうがいいだろう‥‥‥」アーロンが呟き、右腕のウイリアムズに向き、「予定を組んでくれ。他の街もだ」と命じた。


「承知いたしました」ウイリアムズが恭しく頭を下げた。


「可愛い可愛い田舎娘が無防備にあちこち歩き回っているのが見えたから、一か八かあの田舎娘に接近した。しかしホワイトウルフに突き飛ばされ、あの田舎娘に群衆の前で馬鹿にされて警告処分か‥‥‥ある意味であの騎士も被害者だったかもしれませんね。可哀想に」マーティスが言った。


「リーマにあんなことをしたから、当然だ」カイテルが言った。


「『私があなたとぶつかって別に痛くもかゆくもないのに、あなたはそんなに痛いの?騎士なのに、体が弱すぎない〜?それでも騎士なの~?騎士なんかやめて家でおばあちゃんと一緒にお裁縫でもやればいいんじゃないの~?』」ファビアンはリーマの物まねするかのように小さく高い声で言った。


「「ふふふふふっ!」」カイテルとマーティスは笑い出した。


「うん?なにそれ?」ジルが聞いた。


「リーマが群衆の前であの騎士をバカにした一部の言葉だ。その後もずっと天然発言を連発してあの騎士をコケにしたんだよ。おまえがあの場にいなくて残念だったな。あの騎士はめちゃくちゃ街の人に笑われ、もう二度と家から出られないんじゃないかな。これからずっとおばあちゃんかおじいちゃんと一緒にいないといけないかもしれん」ファビアンさんはクスクス笑いながら言った。


「「はははははっ!」」マーティスとカイテルがあの時のリーマの天然発言を思い出してまた笑い出した。


「あれ、ふふふっ、天然なのか悪意なのか判断できねぇのはタチが悪いよなはははっ!そもそもなんであの騎士がおじいちゃんおばあちゃんと暮らしてる前提で話したのか謎だ!」


「あの子、めちゃくちゃ上から目線だよな。あの時何を考えているのか知りてぇよははははっ!」


「ふふふふっ」カイテルは笑いを我慢しようとしている。


「えーーっ!なにそれ!?そんなに面白いことあったのかよ‥‥‥?先に食堂に行かなきゃよかった‥‥‥」


「トレストの騎士‥‥‥まったく私に仕事を増やすな」アーロンは険しい表情で呟く。


「いえいえいえ、むしろあの騎士の方が可哀想でしたよふふふっ」マーティスがまた笑い出した。


「あの子、めちゃくちゃ楽しんでいましたよ。『街は意外と面白いところですね~もっと早く知りたかったです~』と嬉しそうに言っていましたね」


「ふふっ私の未来の嫁はやるじゃない〜。それにしてもあの子はあんなにきれいな子だと思わなかったわ。カイテル、あなたは美人が好みだなんて知らなかったわよ。化粧や着飾りをしていないのにね〜。社交界でもあんなきれいな人をあまり見ないわよ。だから今までのお見合いはダメだったのね」


「私はリーマの見た目で好きになったわけではありません。リーマの中身が好きなんです」


「「「「ゲホゲホっ!」」」」


「‥‥‥あらそう」ジョゼフィンは冷めた目で自分の息子を見た。


「これからたくさんの人に手出しされそうだから、おまえがリーマを誰かに奪われたくなかったら、しっかり掴むようにしなさい」


「もちろんです」


「王様と王妃様に報告したか?」


「はい、お二方は早くリーマに会いたいと仰っていました」


「うーん、さすがに今王様と王妃様に会わせるのは‥‥‥まだダメだな。リーマが驚くんだろう」


「はい、私もそう伝えましたが、とりあえずできるだけ早く、と‥‥‥」


「その時はその時だな。王様と王妃様に待ってもらうしかない」


「あの子の力はなんなんだろうね?動物を支配する能力とか聞いたことない。カッコいいよなぁ。うらやましい~」ロランはうらやましそうに口を尖らせた。全く年に合わない仕草である。


「ですよね〜魔法より便利な力ですし」ジルは指先に水をぺちゃぺちゃと出しながら、何度も頷く。


「やはり特別な子だな~いいなぁ~リーマちゃん、テレンズ家の嫁になってくれないかな~チョイスが三つもあるんだから、メイソンより選択肢が幅広いよなぁ~」


「ダメです」

「ダメですわ」

「ダメに決まってんだろう」

とメイソン親子が息ピッタリだった。


「絶対飼育場のほうがいいですよ。あの能力を使わないともったいないです。保健省の試験はやめましょう。カイテル、おまえもリーマに飼育場に入るようにって言えよ。俺が推薦する」

「俺はリーマがしたいことがあればどんなことでも応援する」

「だ・か・ら・甘やかすな!」


『コンコン』


 扉の叩く音がすると、ジョアンナとリーマが居間に入ってくる。ジョアンナの腕には小さなフクロウが留まっている。


「皆さん見てください。この子、可愛すぎませんか?この子はたまにここの庭に遊びにくるみたいですよ。リーマちゃんがこの子を呼んで私の手に留まらせたんです。可愛い〜」ジョアンナが嬉しそうに言った。


「まあ本当に可愛いわね〜。庭にフクロウがいたなんて知らなかったわ。私の腕にも留めてくれるかしら?」


 ジョゼフィンが言うとリーマは小さなフクロウをジョアンナの腕からジョゼフィンの腕に留まらせた。


「もう〜お目目が大きくてくりくりしていて可愛いわね〜」ジョゼフィンが頬を綻ばせた。


「どうしてたまに来ると知ってるんだ、リーマ?」ファビアンが言った。


「教えてくれたからですよ」


「具体的にどうやって教えたんだ?あのフクロウちゃんは話せないだろう?」


「うーん‥‥‥フクロウちゃんが鳴ってそれで私はその意味が分かったんです‥‥‥」


「へぇ‥‥‥簡単だな‥‥‥」


「まあ、目の前であの会話を聞いてもいつその質問に答えたのか私にはさっぱりわからなかったけどね。会話というよりリーマちゃんが一人で喋っているようにしか見えなかったわ」


「ここの庭にたくさん小動物がいるんですよ。みんなと仲良くなりたいです!」リーマが楽しそうに言った。


「ならずっと俺と一緒にここに住んでね」

 そんな楽しそうなリーマを見てカイテルは頬を緩めた。リーマが幸せなら、カイテルも幸せだ。


「「「「「ゲホゲホっ!」」」」」


 リーマは首を傾げ、急に同時に咳をした人たちを不思議に見る。みんな同時に空気が変なところに入ったのだろうか?


「後であのフクロウを俺の腕にも留めてくれ」ファビアンは言った。


「リーマ、このフクロウをこの屋敷で飼ってもいいよ。どう?」カイテルは常にリーマを甘やかしている。


「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。この子には家族がいますから、家族のところに戻らないといけないです」リーマはカイテルに答えながら、フクロウをファビアンの腕に留めた。


「家族がいるんだね。この庭に?」


「王都近くの森に住んでいるみたいです。でも最近その森に人間がたくさん入ってきていて、危険だから他の森に逃げたがっているんです」


「王都の近くの森ってカレル森のことか?あの森は危険な動物が棲みついているから、普段人が入らない森なんだが?」ロランが眉間に皺を寄せた。


「うーん、思い過ごしだろうが、気になるなぁ。明日一応騎士に調べてもらうのはどうだ、アーロン?」


 バロウズがアーロンに言った。ロラン、アーロン、バロウズがそのまま仕事の話を展開し始めていく。


 リーマがそんなバロウズたちを交互に見て、そしてチラッとカイテルを見た。ただただフクロウちゃんが王都近くの森に住んでいると言っているだけなのに、なぜそんな話になったのだろうか。


「お父様たちは常日頃仕事のことを考えてしまう体質だから気にしないで」


 カイテルが苦笑してリーマに耳打ちした。リーマは納得したように何度も頷いた。


 みんなフクロウと遊んだ後、

「ではフクロウちゃんを庭に戻してきます」とリーマがフクロウちゃんをジルから受け取りながら言った。


「じゃ俺も行く。一緒に行こう?」カイテルはソファから立ち上がり、リーマと一緒に居間を出る。


‥‥‥‥‥‥‥‥


「ねぇ、アーロン様。カイテルがあんなにリーマに惚れ込んでしまって大丈夫でしょうか。もし振られたら、どうなるでしょうか‥‥‥?また離れてしまったら‥‥‥想像もしたくありませんわ」ジョゼフィンがため息をついた。


「今度こそ立ち上がれないでしょうね~」ジョアンナがソファに優雅に座り、呑気に言った。全く弟を心配していないように見える。


「振られないように離れられないようにあいつがなんとか頑張らないといけないから、私たちが何かできるわけじゃないよ。あいつに任せよ。やっと出会ったんだからさすがに手放さないだろう」


「そうですわね‥‥‥リーマはいい子みたいでよかったです。本当はカイテルからあの子に森で会ったと聞いた時、どんな人なのかすごく心配していましたわ。今まであの二人は会うことはないと思っていましたから、気にしたことがなかったんですが‥‥‥」


「そうだな。頭も礼儀もよさそうだ。思った通り特別な力も持っているから、メイソン伯爵家にとってなにかしら役に立つんだろう。リーマの場合は動物の支配能力か‥‥‥。聞いたことも見たこともない能力だから面白いな。あまり心配しなくていいと思うぞ」


「リーマちゃんはいい子ですよ。さっきお庭でお話ししたら、ギュッと抱きしめたくなるぐらいすごく明るくていい子ですよ〜。早く妹になってほしいですわ」


「それはよかったわ。後は社交界のこととマナーのお勉強をさせなければ。どの先生がいいのかしら?ウイリアムズ、あなたはどう思う?」


「アレマン伯爵家のクレスティーナ伯爵夫人はいかがでしょうか?社交界の中では所作が美しいと評判されていますし何人もの貴族のご令嬢にも礼儀作法を教えていますし実績があります。それにメイソン家と良好な関係を持っていますから」


「まあそうね。三女のソフィア嬢はリーマと同い年ぐらいだし、今後の付き合いも期待できるわね」


 メイソン伯爵夫妻と長女のジョアンナはメイソン家の未来の嫁のお勉強についてしばらく話し合っていた。


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