平和な村の日常
2025.11.30 編集いたしました。
私の水汲みを手伝ってくれる熊ちゃんのブランちゃんはブラックベアという動物らしい。ブランちゃんは毛並みが真っ黒で大きくて爪が長くて尖っていて見た目はかなり怖い。でも本当はとても大人しくて頼もしい熊ちゃんだ。
しかしブランちゃんが初めて村に現れた時、村のおじいちゃんおばあちゃんたちの何人かは気絶してお姉ちゃんお兄ちゃんの何人かは世の終わりという顔をして倒れていた。
私もその大きい熊ちゃんを見てすごく驚いたけど、不思議と怖い気持ちは全くなかった。私と熊ちゃんと目が合った途端‥‥‥
あら不思議。
熊ちゃんが私にデレデレして可愛い顔をし始め、照れながら少しずつ私に近づいてくる。私も熊ちゃんに近づくと、熊ちゃんが私のほっぺにチュッとキスした。
デレデレした熊ちゃんは可愛すぎて私はつい思いっきり熊ちゃんに抱き着いてたくさんなでなでした。
「あなたはブラックベアちゃんだよね?じゃこれからブランちゃんって呼んでもいいかな?」
そう聞くと、ブランちゃんは嬉しそうに何度も頷いた。どうやら名前を気に入ってくれたみたいだ。可愛い。
「この村はおじいちゃんおばあちゃんが多いから、この村を守ってくれると安心するね〜」
そう言ってから、ブランちゃんはこの村の近くに住みつくようになった。
私はこの村でおじいちゃんと一緒に暮らして三年が経った。どうやら、私はどこからともなく、この村に現れたらしい。
ある日、目を覚ますと見覚えのない小屋のベッドに横たわっていた。名前も知らないし、記憶もない。
あの日のことを後で聞いた。おじいちゃんがたまたま森で薬草を探しているとき、崖の下まで歩き、そこで休憩しようとしたら、私が倒れているのを発見したという。そして小屋まで運んでくれた。
私は三日間、ずっと眠っていたらしい。記憶がないことがわかると、おじいちゃんは私のことを気の毒に思い、この小屋で一緒に暮らすことを決めてくれた。
おじいちゃんは、帰る場所がなく途方に暮れていた私に、とても優しく接してくれた。
私の名前、リーマもおじいちゃんが名付けてくれたものだ。
クーリッジはおじいちゃんの苗字。
昔、おじいちゃんには娘がいた。だが四十年前、流行病で亡くなってしまった。その娘さんの名前もリーマだったという。
おじいちゃんは、私にこの名前をくれたとき、その話も少ししてくれた。悲しく微笑んだ顔を、今でもはっきり覚えている。こんなに大切で素敵な名前を私にくれたことに、私はおじいちゃんへ深く感謝している。
私が住んでいるこの『西の辺境村』は、とても小さな村だ。人口は三七人で、ほとんどがおじいちゃんやおばあちゃん。私が最年少だから、村のおじいちゃんやおばあちゃん、そしてお姉ちゃんやお兄ちゃんたちに、すごく可愛がられている。
でも来年の春には、私は西の辺境村で二番目に若い人間になる予定だ。なぜなら、お隣の家のジゼルお姉ちゃんが来年の春に出産するからだ。村にとって数年に一度の祝いごとになるし、私はジゼルお姉ちゃんとすごく仲がいい。やっと私も “お姉ちゃん” になれるのだと思うと、とても楽しみだ。
タイミングを見て、ジゼルお姉ちゃんに私を名付け親にさせてくれないか頼んでみようかな?
ジゼルお姉ちゃんとニックお兄ちゃんが許してくれる……はず!
朝食の後、私は小屋の近くの畑に向かった。
この村は自給自足の小さな社会だ。小屋の隣には小さな畑があり、トウモロコシ、じゃがいも、白菜、トマト、キャベツを栽培している。この畑で育った野菜は、私とおじいちゃんの食料になる。たまに村の人にもお裾分けをする。こんな小さな村だから、みんなで助け合ったり、食料を分け合ったりするのは当たり前のことだ。
私が畑でリスちゃんたちにトウモロコシの収穫を手伝ってもらっていると、村長の奥さん、メアリーおばあちゃんが通りかかるのが見えた。
「メアリーおばあちゃんおはよう!」
メアリーおばあちゃんは、私がこの村に住み始めたころ、一番私を気にかけてくれた人だ。私が女の子だから、六十歳のおやじに任せられないわよ、と言って、女の子の服や下着をたくさん作ってくれた。今私が着ている服も、メアリーおばあちゃんが作ってくれたものだ。
メアリーおばあちゃんは面倒見がよく、お母さんのような存在だけれど、もう七十歳になっている。
「リーマちゃん、おはよう。収穫かい?毎日偉いわね〜。頑張ってね〜」
相変わらず優しくて、可愛い笑顔で私に声をかけてくれる。
畑の栽培担当ももちろん私。三年前、私が最初に畑の担当になった時、野菜が枯れた経験があった。おじいちゃんと全く同じやり方をしているはずなのにと不思議に思った。
「野菜は土から養分をたくさん吸収するからな。ちゃんと土をかき混ぜないとな。肥料も必要だぞ」
「そ、そうなの?じゃどうすればいいの?結構枯れちゃってるけど‥‥‥おじいちゃんごめん‥‥‥シク‥‥‥」
「大丈夫だ。じゃいま肥料を土に混ぜて、もう一回土をかき混ぜてみろ。泣くことはないよ」
「うん、わかった‥‥‥」
きれいに育っていた野菜が枯れたとき、さすがに私は焦った。食料がなくなるし、おじいちゃんがあんなに丁寧に育てた野菜を、私の手で無駄にしてしまったと思うと、泣きそうになった。っていうか、実際に泣いた。
でも、おじいちゃんに教えてもらってからは、畑の手入れも上手くなり、私はちゃんと野菜を育てられるようになった。
私の毎日はほぼ決まっている。水と薪を準備し、朝ごはんを食べて畑仕事をして、森で薬草を探す。
その後はおじいちゃんと一緒に護身術、武術、剣術の模擬戦をし、薬の授業を受ける。
残った時間は森で動物たちや鳥たちと遊ぶのだ。
この村は平和で居心地がよく、村の人たちも優しい。私はずっとここに住みたいと思っている。
私がふうぅとため息をつき、畑作業を一旦やめて畑近くで休憩すると、鳥ちゃんたちが私のところに集まり、『チュッチュッ?』(ダイジョウブ?)と声をかけてくれた。
私が急に座ったから、心配してくれたみたい。優しいなぁ〜。
「ふふっ大丈夫だよ〜。心配してくれてありがとうね〜」私は微笑んで優しい鳥ちゃんに答えた。
『チュッ!』(ヨカッタ!)と鳥ちゃんたちが安堵した。
「リーマ、どうして鳥がこんなにあなたに群れているのよ?」
私が十匹ほどの鳥たちに囲まれているのを見て、通りかかったジゼルお姉ちゃんは驚いた顔で声をかけてきた。
「私が畑作業の休憩でここに座っていたら、心配して来てくれたの」
「鳥が?どうしてあなたを心配するの?」
「私が座っていたから、体調が悪いのかなって思って心配してくれたんだよ〜。優しい子たちだよね~」
「‥‥‥心配した私がバカだったわ」
ジゼルお姉ちゃんはため息をつくと、そのまま家に歩いて行った。今、私が悪かったのかな。




