田舎娘がお嬢様??になった件
私とお兄さんたちは裏庭へ向かい、そのまま裏庭の小屋に着いた。
「リーマ、俺とファビアンたちは任務の報告で騎士団に行かなきゃいけないから、ちょっと行ってくるね。何か足りないものがあったら、メイドの誰かに言えばいいから。
あと、リオとリアは一旦この裏庭にいてもらうけど、いつでも会いに来ていいからね」
騎士団に向かう前、カイテルさんが念入りに言い聞かせる。
「はい、わかりました」
カイテルさんがいないと不安だから、私はリオとリアと一緒にこの裏庭で過ごすことにしよう。
お兄さんたちは「また後でね〜」と手を振りながら、揃って屋敷の正門へ向かっていった。
……気づけば、私は、ぼっちになった。
ホワイトウルフは凶暴な動物とされているため、屋敷の人たちに周知が行き届くまで、リオとリアは裏庭の小屋で待機することになった。
私もメイドさんに呼ばれるまで、二匹と一緒に裏庭で過ごすことにした。
お菓子とお茶を楽しみながら、のんびりとした時間を過ごしていると——
「お嬢様、お待たせいたしました。お部屋の準備が整いましたので、ご案内いたします」
メイド服を着た女性が、優しい笑みと声で小屋まで知らせに来てくれた。
……けれど。
「……?」
誰に話しているのかよくわからない。
「お嬢様?部屋へご案内いたしますよ」
「……オジョウサマ……?は誰ですか?」
「リーマお嬢様のことですよ」
メイドさんが微笑んだ。
‥‥‥私が、お嬢様?
王都の「お嬢様」のレベルって、低いわね?
誰でもお嬢様と呼ばれてしまうの?
それとも、私の「お嬢様」のレベルが高すぎるだけなのかしら。
「……わたしはただの田舎娘なんですから、リーマって呼び捨てで呼んでもらえたほうが、気が楽なんですけど……」
「ふふっ、これは奥様のご命令です」
そう言って、メイドさんは柔らかく微笑んだ。
「さあ、リーマお嬢様。お部屋へ参りましょう」
私はよく理解できないまま、大人しくメイドさんについていき、部屋の前に着くと、
「そちらの隣のお部屋は、カイテル様のお部屋ですよ」とメイドさんが教えてくれた。
ほう〜?
扉と扉の間、広くない?
中の部屋はどれだけ広いのかな。
バク転は何回までできるのかしら……。
早く見てみたいかも。
私はそんなどうでもいいことを、心の中でこっそり呟きながら、メイドさんの後について部屋に入った。
案の定、広すぎる。
メイドさんがあれこれ案内してくれて、
「足りないものがありましたら、何でも言ってくださいね」
とニッコリして部屋を出ていった。
私は一旦ソファに腰を下ろして、一息つく。
ふぅぅ。今日は特に何もしていないのに、なんだかものすごく濃い一日だった気がするわね。
つい何日か前まで森で暮らそうと思っていた、この田舎娘が、なぜ今お貴族様のお屋敷……豪邸?の、豪華なソファの上で優雅に座っているのかしら。
私はもう一度息をついてから浴室に入り、体をきれいに洗ってさっぱりすると、メイドさんが用意してくれたドレスを着用した。
このドレスは半袖で、膝より少し長く、きれいな淡い青色。肌触りは滑らかで、とても着心地がいい。
お金持ちと田舎者の服は、雲泥の差みたいね。驚いちゃったわ。
あっ、メアリーおばあちゃん。
いくらこのドレスがすごくきれいで、すごく滑らかで、すごく着心地がよくても、私はメアリーおばあちゃんが作ってくれた服が一番好きだからね。拗ねないでね。
私はドレス姿の自分を、鏡越しでもう一度確認する。
このドレス、屋敷の誰かのものだろうか。
私は生まれて初め……じゃなくて、私の記憶ではこんなにきれいなドレスを着たことがないから、なんだか恥ずかしい。
夕食の時間はまだ先だし、髪型をいつもの後ろ結びではなく、少し緩めの三つ編みにした。
ジゼルお姉ちゃんがいろいろ教えてくれたのだ。
村にいた時は、ジゼルお姉ちゃんの髪と自分の髪でたくさん練習して、ジゼルお姉ちゃんのおかげで、私はこういういろんな可愛い髪型ができるようになった。
「女の子は、こういう可愛い髪型ができたら、絶対に損はないからね」
ジゼルお姉ちゃんがよく言っていたもんね。
まあ、いくら可愛い髪型を作っても、その髪型を見て褒めてくれるのは、村のおじいちゃんやおばあちゃん、お姉ちゃんやお兄ちゃんぐらいだけど。
まさか、その可愛い可愛い髪型を村の外の人に見せる日が来るなんてね〜。
私は支度を終え、もう一度部屋を見回す。
それにしても、お母様が準備してくれたこの部屋は、すごく広い。
カイテルさんの部屋の扉と、この部屋の扉の間の広さ通りだったわ。
ベッドもソファも浴室も、部屋の中にすべて備えてある。
これは王都の家々の標準の部屋なのかしら?
それとも、メイドさんが部屋を間違えたのかしら?
もっと質素な部屋でもいいのに。
むしろ、私はリオとリアと一緒に小屋で暮らしてもいいぐらいだ。
ただの居候なのに、こんなにいい部屋に与えられると、なんだか厚かましい気がする。
そもそも、なぜお嬢様なのかしら。
私は準備が終わると、部屋を出て一人で裏庭に向かおうとした。
だがしかし、この屋敷が広すぎて、さっきどうやって裏庭から部屋までたどり着いたのか覚えておらず、どうしようかとわからず、しばらく逡巡していた。
適当に廊下を歩いていると、一人のメイドさんを見つけ、そのメイドさんに裏庭の小屋まで連れて行ってもらった。
私は夕食の時間まで、裏庭の小屋でリオとリアと一緒に過ごすことにした。
「リーマ、やはりここにいたんだね」
太陽が空からそろそろ消える頃、カイテルさんが裏小屋に入ってきた。
屋敷を出た時の服装ではなく、普段着のような格好だった。
カイテルさんは、森を歩く姿でも、ドラゴンちゃんに乗る姿でも、街を歩く姿でも、屋敷でリラックスしている姿でも、どの姿でもカッコいいわね。
「カイテルさん、お帰りなさい。いつ戻ってきたんですか?」
「ついさっきだよ。着替えが終わったら、すぐリーマに会いに来たんだ」
カイテルさんは私の隣に腰を下ろし、
「ドレス、すごく似合ってるよ」
と褒めてくれた。
「ほ、本当ですか?ありがとうございます。
こんなきれいな服を着るのは初めてで、なんだか恥ずかしいです。
これは誰のドレスですか?」
「うーん、多分俺の姉かな?結構服を残しているって言っていたから。
髪はメイドにやってもらったのか?可愛いよ」
へぇ〜、カイテルさんにお姉ちゃんがいるんだ〜。
絶対きれいな人なんだろうな。
「ふふっ。これは自分でやりましたよ。村のお姉ちゃんに教えてもらったんです」
「器用だね」
「ありがとうございます。カイテルさんの仕事は大丈夫でしたか?」
「うん、いろいろ報告事項があったから、思ったより時間がかかったんだ。
一人にさせてしまってごめんね」
カイテルさんは私の頭を撫でながら謝った。
「全然大丈夫ですよ!ここの人たちは優しいし、リオとリアと他の動物もいますから」
私がニッコリしてそう言うと、カイテルさんは安心したように微笑む。
「そうか、よかった。そろそろ夕食だから、食堂に行こうか?」
「はい」
カイテルさんは立ち上がり、私に手を差し伸べた。
私はその手を取って立ち上がると、
「後でね〜」
とリオとリアに手を振りながら告げ、カイテルさんと一緒に屋敷の食堂に向かった。




