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人の多さに驚くうちは、まだ田舎娘

‥‥‥‥‥‥

「お母さん!さっきこの鳥を見つけたの!すごく怪我をしてる。治るかな?すごく痛そうなの!」


「あずか、水とタオルを持ってきて」


お母さんはそう言って薬箱を取りに行き、あずかは急いで水とタオルを持ってきた。


しばらく鳥の手当をして、ひとまず無事に終わった。


「明日になってもよくならなかったら、病院に連れていこう」


お母さんはそう言った。


翌朝、その鳥はまだ眠っていたが、傷で苦しんでいる様子はなく、あずかはほっと胸をなで下ろした。


「昨日の鳥、もう大丈夫みたいだよ!

ねえお母さん、その鳥、飼ってもいい?飼ってもいいよね?いいよね!?」


あずかはお母さんに抱きつき、甘えるようにねだった。


「自分でちゃんと面倒を見るのよ」


「もちろん!お母さん、ありがとう!」


あずかはその鳥に「ソラ」と名づけた。


そのあと鳥かごと餌を買いに行き、鳥との生活を楽しむようになった。

‥‥‥‥‥‥



私はふと目を覚ました。夢を見ていた気がする。


けれど、その内容はすぐに思い出せなくなってしまった。


昔から夢を忘れてしまう体質だ。


まあ、忘れてしまうなら、それでいいか。


――そうだ。今日は王都に到着すると、カイテルさんが言っていた。


どんな街なんだろう。トレストより、どれくらい広いのかな。


そんなことを考えながら、寝袋から這い出る。


「マーティスさん、おはようございます」


外に出ると、見張りをしているマーティスさんが見えた。


あくびをしながら目をこすり、声をかける。


「おはよ。相変わらず朝早いな。もう少し寝ててもいいぞ」


「大丈夫です。もう起きます。その辺を少しぶらぶらしますね」


「ああ。あまり遠くに行くなよ」


「はーい」



マーティスさんと話した後、私は顔を洗いに行き、お兄さんたちが起きるまでの間、植物の絵を描いたり、動物たちとじゃれ合ったりして時間を潰した。


お兄さんたちが起きると、みんなで朝ご飯を食べ、ドラゴンちゃんに乗って王都へ向かった。


ドラゴンちゃんの背に乗り、下に広がる景色を眺めていると、


「リーマ、あの大きな壁が見える?あれが王都だよ」


カイテルさんが顔を近づけて、教えてくれる。


ドラゴンちゃんの背中から遠くに見えた王都は、とても幻想的だった。


圧倒されるほど大きくて、美しい。


「カイテルさん!王都、すごくきれいです!」


「ふふっ。気に入ってくれて、嬉しいよ」


カイテルさんは、穏やかに微笑んだ。


こんな景色を見られるのは、人生でこれが最初で最後じゃないかしら。


‥‥‥また、上から王都を眺めてみたいかも。


王都が近づくにつれ、ドラゴンちゃんの羽ばたきがゆっくりになった。


風の音も、少しずつ穏やかになっていく。


「そろそろ着陸するよ」


カイテルさんが、静かな声で言った。


「揺れるから、体は前に。それから、手はここ。鱗の隙間に指を掛けて」


そう言って、私の手を取り、ドラゴンちゃんの鱗の隙間に導いてくれる。


不思議と、体が安定した。


「力は入れなくていい。 落ちそうになったら、僕が支えるから、安心してね」


いつも頼もしいカイテルさんがそう言って、私の腰のあたりにそっと手を添えた。


ドラゴンちゃんは大きな体を少し傾け、ゆっくりと高度を下げていく。


羽ばたきのたびに、背中がふわりと上下する。


頬を撫でる風が、すごく気持ちいい。


すごい~。


小さい頃からドラゴンちゃんを教育すると、こうも大人しく、しっかり動いてくれるものなのね。


「もう少しだよ」


その声を聞いた直後、ガイルちゃんの足が、地面に触れた。


軽やかな着陸だ~



私たちが王都の正門でドラゴンちゃんから降りると、騎士駐屯地の騎士がドラゴンちゃんたちを連れていった。


あれ?、と思っていたら、


「ドラゴンは大きいからさ。街に連れて行ったら、大渋滞になるんだよ」


ジルさんがそう教えてくれた。


強盗団を引き渡すため、役所までは歩いて行くらしい。


確かに、いくら王都でも、大きなドラゴンちゃんが二頭も歩いていたら、建物が壊れてしまうかもしれない。


リオとリアは荷箱から出ると、

すぐに体を伸ばし、ルンルンした様子で正門の中を覗き込むように首を長く伸ばした。



「リオとリアも一緒に行っても大丈夫ですか?

この子たち、昨日からずっとルンルンで、王都を楽しみにしているんです‥‥‥」


私がそう聞くと、ファビアンさんは少し考えてから、渋々といった様子で口を開いた。


「‥‥‥じゃあ、トレストにいた時みたいに誤魔化せ。

その姿のままで、ちゃんと面倒を見るんだぞ。

街の人間に危害を加えないよう、きつく言い聞かせておけ。

もし何かあったら、いくらお前が頼んでも、ホワイトウルフは絶対に許されないからな」


「はい!」


ファビアンさんがしぶしぶ許してくれたおかげで、

毛布と上着でぐるぐる巻きにされたリオとリアも、初めて王都の街並みを拝見できることになった。


「リオ、リア。大人しくしていてね。街の人たちに何もしないでね。

何かあったら、私もお兄さんたちも助けられないからね。分かった?」


そう言い聞かせると、ホワイトウルフちゃんたちは、


『ぐるぅぅぅ』

(うるさいわね)

と文句を言ってきた。


‥‥‥これ、本当に安心していいのかしら?



そして、国の騎士と田舎娘と、ぐるぐる巻きにされたホワイトウルフちゃんたちは、王都の正門をくぐった。


役所へ向かう途中、私とリオとリアは、王都の街並みを見て思わず立ち止まりそうになるほど驚愕した。



「こ、これが‥‥‥おう‥‥‥と‥‥‥?」


『ぐるぅぅぅーーーーッ!!??』

(ホワイトウルフ、いないノカッ!!??)


『ごろぉぉぉぉーーーーッ!!』

(ニンゲンばかり、キモチワルイッ!!)



田舎娘一人と、ホワイトウルフ二匹が、それぞれ思い思いの反応を示す。


私はカイテルさんに手を握られたまま、呆然と王都の風景を眺めつつ、お兄さんたちの後ろについて歩いた。



‥‥‥ここ、トレストより十倍は栄えていると思う。


空から見た景色とは、まるで別物だ。


こ、これが王都?


さ、さすがだわ。


どこを見ても人、人、人、人。


人が途切れることなく行き交っていて、私はまた眩暈がしてきた。


さっきガイルちゃんの背中から見た王都には、街の人なんてほとんど見えなかったから、少し安心していたのに‥‥‥。


まさか、こんなにも密集しているなんて‥‥‥。


私、本当にこれから王都に住むの?


無理じゃない?


トレストに戻‥‥‥れないわよね‥‥‥。


私はドラゴンちゃんを持っていないし‥‥‥。


ガイルちゃんにお願いすれば、トレストまで送ってくれるかもしれない。


でも、いつも優しいカイテルさんのドラゴンを、自分のドラゴンみたいに扱うのはよくないわよね。


おじいちゃんに知られたら、三日三晩ノンストップで説教されちゃう。


王都の道は、とにかく広い。


馬車がすれ違っても余裕があり、しかも何台も行き交っている。


道の両側には屋台がずらりと並び、どこかでは芝居が行われ、楽団が演奏している。


‥‥‥こんなに店が多いのに、どうして馬車が普通に走れるの?

すごいね。さすが王都だ。


建物も大きい。しかも、ずらっと並んでいる。


病院、宿、役所、売店、お土産屋、飲み屋、食堂‥‥‥。


へぇ〜。王都には診療所じゃなくて、病院があるんだ。


しかも何階もある建物だ。すごい〜。


中、見てみたいな。どんな病気でも治せちゃうのかしら?


もしかして、あそこが私の未来の職場だったりして?



そういえば、カイテルさんは王都には仕事がたくさんあると言っていた。


これは‥‥‥確かに多い。


むしろ、王都にない仕事なんてあるのかな。



あ、あの建物、「演劇場」って書いてある。


演劇場って何だろう?


芝居とか、見せ物とかをする場所かしら。


見てみたいな〜。



わぁ〜、あの店、食堂みたいだけど、すごく大きい。


トレストの食堂より、ずっと大きいわ。


もし薬の仕事や、さっきの病院の仕事が見つからなかったら‥‥‥あの食堂の看板娘になるのもありかも。

なれるかな。


できれば住み込みがいいわね。


あれくらいの大きさなら、従業員の寝床くらいありそうだし。


そしたら宿代の心配もしなくて済む。



「リーマ、どこか店に寄ってみる?何か見てみたいものある?」


ぼーっとしている私に、カイテルさんが優しく声をかけてくれた。


でもね、カイテルさん。


店が多すぎるからこそ、逆にどこにも入りたくなくなるの‥‥‥。


「大丈夫です。店が多すぎて、何を見ればいいのかわかりませんので‥‥‥」


「ふふ、そうか。じゃあ、また今度街に連れてくるよ。

これだけ店があれば、リーマの好きなものも、きっと見つかる」


店も人も多すぎるけど‥‥‥楽しいかもしれない。


楽団も芝居も見たことがないし、人生で一度くらいは見てみたいな。


「ありがとうございます。

あの‥‥‥カイテルさん。どの宿も高そうですけど、安いところを知っていますか?

例えば、あそこの宿、すごく高そうですし‥‥‥。

おじいちゃんのお金、足りないかもしれません」


「‥‥‥まずは、俺の家に行こう。

そこでゆっくり落ち着いてから、一緒に考えよう?心配しなくていいからね」


「‥‥‥はい」


もし私が王都に住むことになるなら、確かにカイテルさんの家を知っておいた方がいいかも。


万が一、助けを求めたくなった時、会いに行けるから。


役所に到着し、強盗団の引き渡しが終わると、私たちはドラゴンちゃんたちを迎えに、再び正門へ戻った。


そのままドラゴンちゃんに乗って、カイテルさんの家へ向かう。


ドラゴンちゃんのおかげで、ほぼ一瞬で到着した。


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