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初ドラゴンにして、心躍る田舎娘

トレストで昼食をとったあと、お兄さんたちは街のドラゴン小屋に連れて行ってくれた。


ドラゴン小屋とは、ドラゴンちゃんを預かり、世話をしてくれる場所のことだと、カイテルさんが教えてくれた。


私は「小屋」と聞いて、村にあるような小さな建物を想像していた。


けれど、実際に目の前に現れたドラゴン小屋は、想像していたよりもずっと広く、大きかった。


お兄さんたちはドラゴン小屋にドラゴンちゃんを預け、街の外で仕事をしているらしい。


私が中に入ると、そこには四頭のドラゴンちゃんがいて、ちょうど昼ごはんのお肉を食べているところだった。



リオとリアは、中に入った途端、すぐに反応した。


『ごろぉぉォォォーーーーっ!』

(コイツら、ドラゴンカッ!)


『がろぉぉぉぉぉッ!』

(カカッテコイッ!)


「リオ、リア!ちょ、ちょっと落ち着いて!」


私は慌てて二人を宥め、どうにか落ち着かせてから、改めてドラゴンちゃんたちに目を向けた。



ど、ドラゴンちゃんって――


おーーーーっきぃぃぃぃぃぃぃーーーーーっ!


だからドラゴン小屋がこんなに大きいのねっ!


村の小屋の三階分くらいあるよ!大きいよ!感動したよ!


ドラゴンちゃん、私と仲良くしてくれるかなっ!?



私は胸の前で手を組み、うっとりとドラゴンちゃんたちを眺めていた。


すると、昼ごはんを食べていたドラゴンちゃんたちが私に気づき、

みんな一斉に燥ぎ出して、大声で鳴き始めた。



まあ!



この子たち、私に会えて喜んでいるんだわ!


ドラゴンちゃんとも仲良くなれちゃうのよ!



――ドラゴンちゃんは、珍しくて気性の荒い動物だ。


小さいころからきちんと教育しないと人間の言うことを聞かないため、大人のドラゴンちゃんを見つけても、人間は近づこうとしない。


その一方で、ドラゴンちゃんの卵や幼い個体が見つかると、国を挙げて保護され、丁寧に育てられ、やがて国の戦力になる――そんな話を聞いたことがある。


けれど、ドラゴンちゃんの卵を手に入れるのは、とても難しい。


ドラゴンちゃんが、自分の子どもを人間に譲るはずがないからだ。


だからどの国でも、ドラゴンは希少な存在なのだと、おじいちゃんが言っていた。



それなのに――



そんな希少なドラゴンちゃんが、ここに四頭もいるなんて!


この国、すごいわねぇ!


ドラゴンちゃんたちが突然鳴き始めたため、ドラゴン小屋の管理人さんは驚き、慌てて彼らを落ち着かせようとした。


しかし、今のドラゴンちゃんたちは管理人さんの言葉をまったく聞かない。


私が一番近くにいるドラゴンちゃんへ歩み寄ろうとすると、カイテルさんが私の手を掴んだ。


「リーマ、危ないよ。ドラゴンに近づかないで」


「大丈夫ですよ。この子たちは、私に何もしませんから」


私はカイテルさんの手をそっと外し、一番近くのドラゴンちゃんの前まで行った。


するとそのドラゴンちゃんは、大きな体を低くして頭を下げ、私にすりすりと擦り寄ってくる。


「これがドラゴンちゃんなんだ〜。可愛いね〜」


ドラゴンちゃんが私の頬をくんくんと嗅ぎ、ちゅっとキスをすると、他のドラゴンちゃんたちがさらに大声で鳴き始めた。


どうやら、みんなこの子を羨ましがっているみたいだ。


私は最初のドラゴンちゃんから離れ、次のドラゴンちゃんのところへ向かおうとした。



その時、騒ぎに我に返った管理人さんが、

「ドラゴンに近づくな!」

と怒鳴った。



「ひゃっ‥‥‥」

私は思わずビクッと肩をすくめた。

ドラゴンちゃんに夢中になりすぎちゃった‥‥‥。


『がおっーーー!』

(ダマレッ!)


さっきまで私と戯れていたドラゴンちゃんが咆哮し、管理人さんに襲いかかろうとした。


管理人さんは驚いて後ずさりし、そのまま尻もちをついて怯えてしまう。


幸い、ドラゴンちゃんの首には首輪がつけられていて、それ以上近づくことはできなかった。


管理人さん、本当にごめんなさい‥‥‥。


「みんな、いい子にしてね!管理人さんを驚かせないで!」


私がそう言うと、ドラゴンちゃんたちはぴたりと大人しくなった。


‥‥‥ドラゴンちゃんのどこが気性が荒いというのだろう。


こんなに素直で、おとなしくて、優しい子たちなのに。


次のドラゴンちゃんも、最初のドラゴンちゃんと同じように体を低くし、頭を下げて、私に撫でさせてくれた。


少しじゃれ合ってから、さらに次のドラゴンちゃんのところへ行く。


三頭目のドラゴンちゃんは、私とカイテルさんを交互に見つめたあと、翼でカイテルさんを指し示し、


『ぐるぅぅぅ!』

(あるじだ!)

と、私に教えてくれた。



「まあ!この子、カイテルさんのドラゴンちゃんですか!?とってもお利口で、可愛いです!」


私がそう言うと、カイテルさんは一瞬固まった。


「‥‥‥‥えっ?あ、あぁ‥‥‥‥そ、そうだ。そのドラゴンは、ガイルというんだ‥‥‥‥」


‥‥‥‥なんだか、カイテルさんの顔が引きつっているような?


きっと、私がドラゴン語を理解していることに驚いているんだわ。



ふふっ、私、すごくすごいでしょう?



「ガイルっていうの?カッコいい名前だね、ガイルちゃん」


ガイルちゃんは、恥ずかしそうに私にすりすりしてくる。


可愛い。


私は最後のドラゴンちゃんのところへ行って少し戯れ、これでドラゴンちゃんたちへの挨拶は終わりだ。


「あれ?マーティスさんたちのドラゴンちゃんはいないんですか?」


「‥‥‥えっ。あ、あぁ‥‥‥ドラゴンは持っているんだが、今回は一緒に来ていないんだ」


「そうなんですね〜。会ってみたかったです〜。あ、私はどのドラゴンちゃんに乗るんですか?」


「リーマは、俺と一緒にガイルに乗るよ」


「ありがとうございます!リオとリアは、どうやって乗るんですか?」


「ドラゴンは大きな荷物を運ぶこともあるから、問題ないよ。

リオとリアには、あの荷箱に入ってもらう。荷箱ごとドラゴンに乗せるんだ」



なるほど!


ドラゴンちゃんは大きいから、荷箱が三つでも四つでも余裕なんだねっ!


よかった!



――ところが。


リオとリアは、「強き誇り高きホワイトウルフである自分たちが荷箱に入る」という事実に、相当な屈辱を覚えたらしい。



『ぐるぅぅぅぅるるぅぅぅーーーーっ!!』

(のらんっ!オレたちはホワイトウルフだゾッ!!)



『ごろぉぉぉぉぉおぉぉぉーーーーっ!!!』

(アタシたちは走っていくっ!ホワイトウルフなめんナっ!!)

などなど、唸り声を上げて全力で拒否している。



そこで私は、

「荷箱に入るホワイトウルフって素敵よ!」

「ドラゴンちゃんに乗るホワイトウルフなんて、この世界でリオとリアだけだよ!」

「さすがリオとリアだねっ!ホワイトウルフ、カッコいいっ!!素敵!!」

‥‥‥などと、今思えば意味不明な言葉を並べ立て、全力で二匹を持ち上げた。


その結果――


強き誇り高き二匹のホワイトウルフは、やっと折れて、渋々ながらも荷箱に入ってくれたのだった。



いよいよ、ガイルちゃんに乗る時が来た。


マーティスさん、ジルさん、ファビアンさんは、同じドラゴンちゃんに乗るらしい。


私はカイテルさんと一緒に、ガイルちゃんに乗ることになった。



――いざ、ドラゴンちゃんの背へ。


「きゃあっ!」


足を掛けた瞬間、体がつるりと滑る。


思わず息を呑み、視界が一瞬ぐらりと揺れた。


「リーマ!大丈夫か!?」


カイテルさんが慌てて後ろから抱きとめてくれた。


「怪我してない!?」


「だ、だいじょうぶです。ちょっと滑っちゃっただけで‥‥‥」


初めてドラゴンちゃんに乗るのは、思っていたよりもずっと簡単じゃなかった。


ドラゴンちゃんたちは、できるだけ私が楽に乗れるようにと、身を低くし、踏みやすいように前足をそっと差し出してくれていた。


それでも最初はうまくいかず、何度か足を滑らせてしまう。


カイテルさんがずっと私を支えてくれた。


もう一頭のドラゴンちゃんに乗るお兄さんたちの様子を見て、それをそのまま真似してみる。


すると今度は、うまくいった。


「‥‥‥あ、乗れました」


ゆっくりと腰を下ろすと――意外にも、乗り心地はとてもよかった。


私は前のほうに、カイテルさんは私の後ろに座る。


リオとリアの荷箱は、さらに後ろのほうに載せられている。



『ぐるぅぅぅっ!』

(バカヤロウ!ゆっくりハコベ!)


『がろぉぉぉっ!』

(セマスギヨッ!)

と、少し不満そうに唸っている。



ドラゴンちゃんに乗れば、すぐ王都に着くから、二匹とももうちょっと我慢してね!


やがて、ガイルちゃんが大空へと飛び立った。


下に見える街が、だんだん小さくなっていく。


ワクワク‥‥‥!


空を飛びながら見る景色は、本当にきれいだった。


街並みはおもちゃみたいに小さくて、可愛くて、私は夢中で景色を眺め続ける。



「どう?気に入った?」


カイテルさんが、少し顔を近づけて聞いてくる。


「はい。景色がすごくきれいです。街も小さくて、可愛いです」


「よかった。俺は、リーマがまだ見たことのないものや、行ったことのない場所に、全部連れて行ってやりたいんだ。だから――ずっと一緒にいような」


そう言って、カイテルさんは私の頭を優しく撫でた。


その優しさに、胸がじんわりと温かくなる。



村を出て、こんなに優しい人に出会えるなんて思ってもみなかった。


カイテルさんは、本当に優しいお兄ちゃんだ。


もし私に本当のお兄ちゃんがいるとしたら――カイテルさんみたいな優しいお兄ちゃんがいいなぁ。



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