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百二十六話 街道上での戦闘

昨日は失礼いたしました。

今回は大丈夫なはずです!

 街道を寸断している森に分け入っていく。

 何年前に閉ざされてしまったかは知らないけれど、中はすっかりと普通の魔の森だ。

 下から生えてきた木に押されて、森に飲み込まれた街道の石畳は、持ち上がったり、ひっくり返ったりしていて、無残な様子になっている。

 俺は弓矢を準備すると、携帯食を買った店の店主に言われた通りに、森の中を進むことにした。

 十分に街道から離れてから、クロルクルがある方向に歩き始める。

 ときどき街道の石畳を目で確認して、方角が逸れていないことを確かめつつ進む。

 森の中を歩いていると、多くの気配が察知できた。

 野生動物か魔物かは分からないけど、何事もなくクロルクルへ行くことは無理そうな感じだ。

 俺は周囲を警戒しながら、その気配にこちらの存在を気づかれないよう注意して歩いていく。

 少し進み、街道を見やって、方角を確認する。

 それを何度となく繰り返して進んでいると、遠くの街道上に人の姿が見えた。

 男性三人、女性二人。武装していることから、冒険者たちのようだ。

 彼らは、木々でメチャメチャになった街道の上を、ゆっくりと進んでいる。

 どうやら俺以外にも、クロルクルへ行こうとする人がいたみたいだ。

 彼らに声をかけようかなって、ちょっと考える。

 けど、ちょっと離れた位置にいるし、あの店主の助言を守るため、彼らに近づかないことにした。

 周囲を警戒しながら進みつつ、ときどき小休止を入れ、水を飲み、携帯食を食べる。

 自分一人だけの状態だから、余計に森歩きで無理はしない。

 少しでも疲れを感じたら休むのも、故郷で狩人のシューハンさんから教わった知恵だしね。

 休憩で疲れを癒して、さて行こうかと腰を上げる。

 そのとき、行く先の方向から、戦う音が聞こえてきた。

 弓矢を番えて軽く引きながら、周囲を警戒する。

 ――俺の近くに、魔物や野生動物がいる気配はない。

 休憩場所から出ると、木々の陰に身を隠しながら足早に進む。

 戦闘音が段々と大きくなってきた。

 大きな木の後ろに隠れながら、音がする場所を窺う。

 先ほど見た五人の冒険者たちが、魔物と戦っているようだ。


「ゴブリンどもに、やられるオレたちじゃねえぜ!」

「ついでに、ダークドッグにもな!」

「それにしても、次から次に現れてくるわね!」


 喋り合いながら、背中合わせになって、襲ってくるゴブリンとダークドッグたちと戦っている。

 危なげない戦いぶりだし、手助けの必要はなさそうだ。

 けど、彼らの戦いを見て、違和感を覚えた。

 それがなんだか考えて――ゴブリンとダークドッグの数がおかしいことに気がついた。

 どちらも、とても数が多い。

 まるで、あの場所に誰かが通りかかるのを、集団で待ち伏せていたかのようだ。

 そこで、あの店主の助言を再び思い出した。

 森の中を進めと教えてくれたのは、街道を進むと魔物に待ち伏せされるという意味だったんだな。

 よくよく考えれば、待ち伏せは当然なように思えた。

 だって、冒険者の多くは、あの森に飲まれた街道を歩いて、クロルクルに行くはずだ。

 人が確実に通る道があるなら、人を襲う魔物だってその道の周囲に集まるに決まっていた。

 特に、ここは魔の森――魔物や野生動物が支配する領域だ。

 平原にある街道と同じ感覚で進んでいたら、あっという間に餌食になってしまいかねない。

 そんな普段とは違った状況に気づき、驚きと緊張が俺の体に走る。

 けど、すぐに体の強張りを解く。

 街道の近くだと思うからいけない。

 魔の森の中だと思えば、そんなに状況の違いはない。

 そうやって考えを改めてから、もう一度、五人の冒険者たちの様子を見る。

 危なげなく対処できているから、冒険者たちのほうが、襲ってくる魔物より、実力は上なようだ。

 けれど、森の中での戦闘に不慣れなのか、魔物への反撃が疎かだ。


「どおりゃああ! くそっ、ちゃんと援護してくれよ!」

「分かっているわよ! けど、木々が邪魔をして、なかなか思うように攻撃できないの!」

「あっ、くそ! また木の後ろに隠れやがった!」


 追い討ちをかけようとしたときに、木や草に隠れられて、魔物を仕留める段階まで持っていけていない。

 いや、ゴブリンとダークドッグたちの、逃げる動きが上手いんだ。

 不用意な攻撃はせずに、攻撃を受けそうになったら迷わず逃げる。その逃げた魔物の穴を他の魔物が補い、冒険者たちに攻撃を続けている。

 それは明らかに、相手が疲れるのを待っている、持久戦の動きだった。

 どうやらこの森の魔物は、いやらしい戦い方をするようだ。

 あの道を通る冒険者相手に戦って、自然と身についたのか、指示を出す役目の魔物は存在していないように見える。

 その上、持久戦になって戦闘音を響かせ続ければ、それは新たな魔物を呼び寄せることに繋がるのだから、始末が悪い。


「げっ!? 森の奥から、他の団体がきやがった!」

「ゴブリンだけじゃない! あの猪顔――オークの姿があるわ!」

「くそっ、まだまだ街道に入った序盤だってのに!!」


 ここで全力での撤退を選べば、逃げ切ることは出来るはずだ。

 それなのに、冒険者たちは足を止めて、新たな魔物たちも撃退する気でいる。

 その姿を見て、どうしようかなって、俺は頭を指で掻く。

 見知らぬ人たちとはいえ、見捨てるには気分が悪いので、助けることは決めている。

 問題は、その後。

 彼らと一緒に行動して、クロルクルを目指すかどうかだ。

 ……まぁ、なるようになるか。

 俺は木の陰から少しだけ体を出して、弓矢を引き絞る。

 そして、走り寄ってきている、新しい集団の先頭に狙いを合わせた。

 射線が通った瞬間に、矢を手放す。

 弓から放たれた矢は、木々の間を縫うように飛び、走っていたゴブリンの頭に突き刺さった。

 死体となったゴブリンは、足を滑らせたような姿で、仰向けに倒れる。

 後続の魔物の数匹が走る勢いを止められずに、その死体を踏んづけて体勢を崩し、走る勢いのままに前に転んだ。

 前進する勢いが弱まったところを狙い、俺は次の矢を射ち込む。

 また一匹、ゴブリンが頭を射抜かれて、死体に変わった。

 三本目の矢を番え、次の獲物に狙いを合わせていく。

 そのとき、苦戦を強いられていた冒険者たちが、息を吹き返すように一転攻勢を魔物に仕掛けた。


「誰の仕事か知らねえが、魔物のヤツら混乱してやがるぜ!」

「今が好機よ! 一気に倒すわよ!」

「倒せなくても、数を減らせ! 減った数だけ、戦いが楽になる!」


 体力を全て使い果たすような勢いで、近くにいる魔物に切り込んでいく。

 その後先考えない戦いぶりを見て、あることが不意に思い浮かんだ。

 それは前世で、俺を馬鹿にしたヤツに、勝てないと分かっていても喧嘩を挑む光景。

 ガムシャラに戦う彼らの姿に、前世での俺の姿が少し重なり、ちょっとだけ親近感を抱いた。

 なら一層、あの人たちのことを助けないとな。

 再び矢を放ち、今度はダークドックの横胸を射通す。

 さて四本目と弓に番えようとしたところで、オークの一匹が鳴き声を上げ始めた。


「ブヒオォォォォォ!」


 また新たな仲間を呼ぶ気かなと、周囲を警戒する。

 けど、近づいてくる気配はないため、杞憂だと分かった。

 なら何の合図かと様子を見ると、五人の冒険者に群がっていた魔物たちが、一斉に逃げ出した。

 それも、木々の陰を巧みに使った、見事なぐらいの逃走だ。

 冒険者たちは追いかけようとする素振りをするが、あっという間に木々の向こうに消えていくので、追うに追えないようだ。

 俺も矢で射殺すには、あの逃げっぷりだと、ちょっと難しい。

 それよりも、俺の近くを、逃げる魔物のどれかが通るかもしれない。

 弓矢を置いて、鉈を構え、不意の遭遇に備える。

 少しして、木に隠れる俺の目の前を、ゴブリンとダークドッグが一匹ずつ横切った。

 その二匹は通りがかりにこちらを見ると、驚いた顔をして、俺の手にある鉈が届く距離から跳び退いた。


「ギャギャギィ!?」

「ワフッワフン!?」


 警戒する声を上げ、ジリジリと離れようとする。

 一方で俺は、ここでこの二匹を倒すことは簡単だけど、戦闘音で他の魔物がきたら面倒だなと考えていた。

 通じるかどうか分からないけど、顎で向こうにいけと指示してみる。

 すると、俺が見逃す気だと分かってくれたようで、二匹とも一目散に逃げていった。

 そのことに安心しながら、また魔物がきやしないかと、周囲の気配を探ってみた。

 少し遠くに、潜んでいるような感じがする。

 たぶんだけど、街道での待ち伏せを、俺たちがいなくなったら再開する気なんだろうな。

 なら今のうちに、この場から離れるとしよう。

 弓矢を拾って、また森の中を進もうとすると、街道上から大声がやってきた。


「おーい! オレたちを助けてくれた誰かさん! 一緒に行かないか!」

「人数が多いほうが安全だし! 手助けし合いましょう!」


 魔の森の中で、大声を上げるなんて、魔物を呼び寄せる行為だ。

 彼らの正気を、俺は疑いたくなった。

 いや、それだけ彼らが、森の中に不慣れなんだろうなって、思い直した。

 さて、このまま放置して、立ち去るのもアリだ。

 でも、折角助けたというのに、すぐに死なれてしまったら目覚めが悪い。

 どうするか少し迷い、どうせ行く先は同じなんだから、道案内ぐらいはしてやることにしようと決めたのだった。


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