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聖女という名の職業

僕の言葉を聞いてぽかんとした表情を浮かべるエレナ。

先に反応をしたのはレナードだった。


「なんてことを言うんです! 聖女を辞めろだなんて……失礼極まりない!! 彼女は神に選ばれたんです! 撤回して謝罪なさってください!」


激昂するレナードにちらりと視線を遣りながら、僕は再び口を開く。


「たしかに聖魔法を与えられたことに関しては神の采配なのかもしれません」


世の中には、生まれながらに決まっていて自身の努力だけではどうにもならないことが結構ある。

例えば性別であったり、生みの親であったり、容姿や才能だってそうだろう。


「だったら……!」

「でも……聖女なんて、ただの職業の一つでしょう?」

「は……?」

「エレナ様は、ただ聖女という名の職業に就く適正があっただけです」


そう。聖女となるには聖魔法を使えることが絶対条件。

しかし、適正があるからといって、必ずしも聖女になる必要はないってことだ。


「メルソーナ王国では、聖魔法の遣い手は必ず聖女にならなければいけないんですか?」


今度はエレナに問いかける。


「それは……その、そんなふうに考えたことがなくって……聖女に選ばれるのは名誉なことでしたから……」


どうやらメルソーナ王国では聖女以外の選択肢はなかったらしい。


ちなみに、我が国でも聖魔法の遣い手が聖女になることは多い。

男ならレナードのように神職に就く。


ただし、聖女の防壁魔法を国の守りの(かなめ)にはしていない。


メルソーナ王国と同じように、リシャグーノ王国だって領土の一部がギイザの森に面しており、森に住み着く魔物の脅威に晒されている。

そんな魔物から領土を守っているのは筋肉……いや、純粋な武力だった。


森に住み着く魔物は群れをつくらない。

そして、強者には歯向かわずに避ける習性を持つ。


だから、ダルサニア騎士団はその武力をもって魔物たちを徹底的に制圧してきた。

建国以来ずっと、その『強さ』を森の中の魔物たちに誇示し続けてきたのだ。


そのためのノウハウもダルサニア騎士団には引き継がれており、エレナを保護した森の見回りもその内の一つで、定期的に森に入り、見かけた魔物を片っ端から駆除している。

我が国の中では対魔物のエキスパートのような立ち位置なのだ。


ただ、そのせいでダルサニア騎士団は野蛮で恐ろしいというイメージを持たれやすく、クレイブの『猛獣辺境伯』という悪名が広まった原因の一端でもあった。


つまり、現時点で我が国がエレナの聖魔法を何が何でも欲しているわけではない。


「でも、追放されたってことはメルソーナ王国から聖女を解雇されたということですよね?」

「えっと……」

「それに聖魔法が使えなくなったのなら、我が国から聖女になるよう要請されても断ることができるし……ちょうどいいじゃないですか。これで遠慮なく別の職業に就けますよ?」

「別の……?」


エレナの大きく見開いた瞳にわずかな光が宿る。

しかし、レナードが再び口を挟んできた。


「そんな……そのような非常識な話は聞いたことがない!」

「非常識だろうが何だろうが選ぶのはエレナ様です」

「だが……!」

「何を勘違いしているのか知りませんが、これはあなたの人生じゃない。エレナ様の人生ですよ?」

「…………」


そこまで言って、ようやくレナードが口を(つぐ)んだ。

すると、エレナがぽつりと言葉を零す。


「私に何ができるでしょうか?」


これまで暮らしていた国から謂れのない罪で追放され、なぜか聖魔法を失い、不安でいっぱいの日々を送ってきたのだろう。


だから、エレナを安心させるよう、僕はとびきりの笑顔を彼女に向ける。


「何にでもなれますよ。ちなみにオススメは僕の恋人です」

「ふふっ……」


小さく笑うエレナ。ようやく笑顔を見せてくれたことに僕も嬉しくなる。


(まあ、今のは冗談じゃなくて本気(ガチ)なんだけどね)


聖女なんて辞めて、僕の隣でドロドロに甘やかされる日々を送ればいいんだ。

読んでいただきありがとうございます。

今日からパートが3連勤のため、ちょっと文字数減っちゃうかもしれませんが、なるべく毎日投稿頑張ります!

(そうじゃないと年内に完結しなさそうで……)

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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