追放された聖女③
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助かっております。
赤みがかった朽葉色の髪に焦げ茶の瞳を持つ少女。
年齢はフェリシアと同じくらいだろうか……。
髪と瞳の色のせいで地味な印象を受けるが、丸くて大きな瞳にすっと通った鼻筋と小さな口は素朴で愛らしいと僕は思った。
「は、初めまして」
僕の姿を見た途端に、少女は慌ててソファから立ち上がる。
「初めまして。僕はアイセル・ダルサニアと申します」
「ダルサニアってサディアス様の……?」
「ええ。サディアスは僕の叔父です」
立ったままの彼女に座るよう促し、テーブルを挟んで向かい合う形で僕もソファに腰を下ろす。
すると、レナードが彼女の左隣に座り、僕の右隣にはダナが当たり前のように座る。
護衛見習いが主の隣に座るのはどうなのだろうと思ったが、誰も何も言わないのでとりあえずはスルーをした。
「聖女様……とお呼びしてもよろしいですか?」
「……はい」
そう切り出した僕に返事をしながらも、目の前の焦げ茶色の瞳が自信なさげに揺れている。
緊張しているのもあるだろうが、おそらく『聖女』と呼ばれること……それが彼女の心を曇らせているようだ。
「聖女様と呼ばれるのはお嫌ですか?」
「あ……その……聖女と呼ばれる資格が私にあるのかと思ってしまって」
僕が盗み聞きをしたサディアスの話によると、聖魔法の中でも防壁魔法に特化していた彼女は、メルソーナ王国を守護する役割を担っていたそうだ。
具体的にいうと、防壁魔法によってギイザの森に巣食う魔物たちの侵入を防いでいた。
しかも、たった一人で……。
(国そのものを護る。それを一人でやってのけるなんて恐ろしいほどの魔力量だ)
まあ、実際のところは彼女を含めた数名の聖女が担う仕事を、彼女一人に押し付けられていたらしい。
その理由は、おそらく嫉妬によるもの。
彼女は平民出身でありながら希少な聖魔法と膨大な魔力量のおかげで聖女となり、さらに第二王子の婚約者に選ばれたというのだから、他の聖女たちに妬まれ、孤立するのもわからなくもない。
しかし、いくら膨大な魔力を保持していたとしても、一人きりで防壁魔法を維持し続けるのは難しい。
ある日、体調を崩したせいで防壁魔法に綻びが生じ、魔物の侵入を許してしまったそうだ。
運よく魔物はすぐに退治され大きな被害はなかったが、なぜか彼女の職務怠慢だと判断され、第二王子からは婚約を破棄され、そのまま追放を言い渡されたという。
(可哀想に……)
これまでの努力も献身も全てを蔑ろにされ、どれほど傷ついたことだろう。
そして、ギイザの森で魔物に襲われた彼女は、防壁魔法で必死に魔物の攻撃に耐えていた。
そこを通りがかったサディアスたち騎士団一行に助けられ、そのまま保護されたというわけだった。
だけど、それ以来、なぜか彼女は聖魔法が使えなくなってしまったそうだ。
(だから、聖女と名乗ることに迷いが生じているんだろうね)
憂いを帯びた瞳に沈んだ表情、そんな彼女に僕はどうしようもなく惹かれてしまう。
またしても僕の好みど真ん中だった。
「実は、聖魔法が使えなくなってしまったんです。お医者様に診ていただいても原因がわからなくて……」
そこへ司祭のレナードが口を挟む。
「おそらく一時的なものでしょう。あなたが聖女であることは間違いありません! 私が保障いたします!」
熱の籠ったレナードの瞳が彼女を見つめる。
(あれ……?)
一瞬、レナードが彼女に恋情を抱いているのかと思ったが、すぐにそれではないと気づく。
(これは……)
前世でもレナードのようなタイプを見たことがある。
恋情よりもはるかに厄介な執着……まるで信仰対象のように相手を崇拝するのだ。
(ただでさえ不安定になっているだろうに)
レナードのような奴が側にいれば、余計なプレッシャーを彼女に与えるだけ。
そんなことにも気づかず、レナードは熱弁を振るう。
レナードも聖魔法の遣い手だという。
ただし、簡単な治癒魔法が使える程度。
それでも救護役としてサディアスたち一行に同行し、ギイザの森の見回りにも参加していた。
そこで彼女の凄まじい聖魔法を目の当たりにしたのだという。
「あなたは神に選ばれし存在です!」
断言するレナードに、彼女は浮かない表情になる。
「ところで……まだお名前を伺ってませんでしたよね」
「え?」
「教えてくださいませんか?」
あえてレナードの熱弁の腰を折るように話しかけた。
戸惑いながらも彼女は口を開く。
「エレナと申します」
「エレナ様……可愛らしいお名前ですね」
すると、なぜか隣のダナが「ダナもかわいい?」と、謎の対抗心を燃やし出した。
適当に「可愛いよ」と返し、改めてエレナと向き合う。
「それじゃあエレナ様。聖女を辞めてしまうのはどうでしょう?」
読んでいただきありがとうございます。
ダナは可愛い。
次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




