追放された聖女➁
さて、いくら人族より身体能力が高い獣人でも、ダナは全く戦闘経験のない素人。
そもそも、闇オークションの商品として粗悪な環境で過ごしていたからか、身体は僕よりもガリガリ。
こんな状態で僕の護衛が務まるはずもない。
というわけで、ダナをダルサニア辺境伯家の私設騎士団に放り込み、鍛え上げることにした。
団員たちは幼いダナの入団に驚いていたが、狼獣人の強さに興味を持った者や、単純に庇護欲に駆られた者たちの助けを得て、ダナは護衛騎士になるべく訓練に励む日々。
おかげでフェリシアと過ごす時間は僕が独り占め。
(よし、作戦通り!)
フェリシアはダナの入団に少々ガッカリしている様子だったが、そんな心の隙間は僕の溢れ出る愛で埋め尽くす予定なので問題ない。
それからは、以前のようにフェリシアの気を引こうとするクレイブを僕が煽り倒す穏やかな日常が続いた。
そして半月が経った頃、久しぶりに叔父のサディアスが我が家を訪れる。
といっても、寡黙で無愛想なサディアスは、僕やフェリシアに型通りの挨拶をすませると、すぐに父の執務室へと直行した。
(あーあ、勿体無い)
野性味溢れるワイルドな顔立ちのクレイブとは違って、僕ほどではないが塩顔イケメンのサディアス。
彼の容姿ならば女性にモテるだろうに、無愛想過ぎていまだに婚約者もいないのだという。
(それにしても……)
サディアスがクレイブのもとを訪れた理由が気になった僕は、スキルを使用して盗み聞きをしようとサディアスの後を追った。
◇◇◇◇◇◇
僕たちを乗せた馬車がダルサニア辺境伯家を出発し、ゆっくりと街道を走っていく。
「あいせる……ダナ、きもちわるい」
「まだ出発したばかりなんだけど」
「ゆれるのにがて」
「だったらどうしてついてきたんだよ……」
呆れる僕に対して、ファニーが咄嗟にダナのフォローに回る。
「いいではありませんか。ダナ様だって訓練ばかりじゃ気が滅入ってしまいますし」
今日の僕の目的は、ギイザの森で保護された聖女に会いにいくこと。
聖女が身を寄せている神殿に向かうとファニーに告げ、護衛騎士二人が現れたと思ったら……なぜかダナもくっついてきたのだ。
どうやら僕が出掛けると聞き、護衛見習いの自分も同行すべきだと思ったらしい。
だが、神殿にダナを連れていく必要性を感じられず、僕が留守番を言い渡したところ、見る見るうちに落ち込んでしまったダナ。
その姿を見たファニーが「ダナを連れていってはどうか」と口を挟み、護衛の二人までもが「自分たちがダナの面倒を見るから連れていってあげてほしい」と言い出した。
「ねぇ、ちょっとダナに甘すぎない?」
「アイセル様と違って子供らしいダナ様の言動が新鮮で可愛らしくって、つい……」
「…………」
まるで僕の言動は可愛くないみたいじゃないか。
久しぶりに会ったダナは以前よりも背が伸び、身体つきもしっかりしてきたように思える。
(さすがは獣人)
しかし、中身はあまり変わらないようだ。
そんなわけで、馬車には僕とダナとファニーの三人が乗り込み、護衛騎士二人は馬に乗って並走し、目的地である神殿にたどり着く。
「ようこそいらっしゃいました」
出迎えてくれたのは、白の神官服に身を包んだ若い男。
柔和な笑みを浮かべる顔立ちは整っており、左目下にあるホクロのせいか色気も感じる。
僕ほどではないがキラキラとした華やかなイケメンだった。
彼の名前はレナード。
この神殿の司祭を務めているのだという。
(へぇ……こんなに若いのに……)
もう少し年を召した者をイメージしていたので驚いた。
「どうぞこちらへ。聖女様がお待ちになっております」
そう言って、レナードは僕たちの前を歩いていく。
ちなみに、こんなにも話がスムーズなのは、先触れを出しておいたからだ。
それともう一つ、訪問理由を『寄付』だと伝えておいたので、絶対に断られない自信があった。
そのまま僕たちは応接室へ案内され、扉を開けるとそこには一人の女性がソファにちょこんと座っていた。
(彼女が聖女……?)
読んでいただきありがとうございます。
なんとか聖女のもとへ辿り着きました(ギリギリ)
次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




