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こんなはずじゃなかった

もう一度よく見てみる。

うん。僕と同じモノがダナの股間にも付いている。揺れている。


つまり、ダナの性別はオスというわけだ。


(誰だ……髪を伸ばしてダナにワンピースを着せたやつは!?)


おかげで性別を間違えて連れ帰るという大失態を犯してしまった。

見知らぬ誰かに向けて悪態を吐きまくっていると、半泣きのダナが走り寄ってくる。


「あいせる〜!」

「ダメですよダナ様! お身体を拭いてからです!」


ついにファニーに捕獲されたダナは、バスタオルに(くる)まれ、わしゃわしゃと濡れた身体を拭かれている。


「申し訳ございません! 急に浴室から飛び出してしまいまして」


謝罪をするファニーに、ダナはまた不安そうに紅い瞳を揺らす。


「あいせる……」


そして、僕の服の裾をきゅっと掴んだ。


「まあ、この子が……?」


すると、フェリシアが興味深そうにダナを見て、その場にしゃがみ込むと、目線の高さを合わせる。

慌ててファニーがバスタオルをダナの身体に巻いて大事な部分を隠した。


「初めましてダナちゃん。私はフェリシア」

「ふぇり……?」

「ええ。フェリと呼んで」

「うん」


ダナがコクリと頷く。

すると、クレイブの表情が強張った。


どうやらフェリシアを愛称で呼ぶことが気に食わないらしい。

相変わらず器の小さい筋肉だ。


そんなクレイブの気持ちに気づくことなく、フェリシアはダナとの会話を続ける。


「ダナちゃんは犬の獣人なのかしら?」

「ちがう。ダナはオオカミ」

「そうなの?」

「ほら」


そう言ってダナは振り向いて、フサフサの尻尾をフェリシアに見せた。

もちろん、後ろからもダナの大事な部分が見えないようファニーがバスタオルでカバーしている。


「ふわぁ……! たしかに素敵な尻尾だわ」

「ダナのしっぽ……すてき?」

「耳も尻尾もとっても素敵よ!」


フェリシアは珍しくうっとりとした表情でダナの耳と尻尾を褒め倒している。


(狼獣人だったのか……)


てっきり犬の獣人だと思っていた。

そして、ダナが売れ残った理由を察する。


獣人の中でも狼は好戦的で気性の荒い種族だ。

それでもオークションの商品に選ばれる程に人気なのは、その美しい毛並みが理由だった。

ただし、人気なのは銀狼と呼ばれる銀色に輝く毛並みを持つ種族。

ダナは黒狼で、しかも左耳の一部が欠けており、性別もオスとなると買い手がつかなかったのも頷ける。


「あの……撫でてもいいかしら?」

「うん」


許可を得たフェリシアはそれからずっとダリの尻尾を撫で続け、僕とクレイブは置いてけぼりを食らうのだった。



◇◇◇◇◇◇



「ダナちゃん。気分はどう?」

「うーん……。まだきもちわるい」


王都を出発し、ダルサニア辺境伯領へ向かって街道を走る馬車の中、僕の向かいの席ではフェリシアの太腿にダナの頭が乗せられている状態。

つまり、膝枕をされていた。


そんな光景を僕とクレイブが並んで見守るという地獄のような状況だ。


(王都へ向かう馬車の中じゃ僕が膝枕をしてもらっていたのに……)


ギリぃと奥歯を噛みしめてダナを睨みつける。

だが、ダナは目を閉じているため僕の怨嗟は届かない。


どうやらフェリシアはダナの尻尾のようなモフモフしたものに目がないらしく、その寵愛っぷりは凄まじかった。


(こんなはずじゃなかったのに……)


闇オークションで美少女獣人とエンカウントするはずだったのに……。


すると、隣のクレイブから「なんであんな奴を拾ったんだ」という視線が僕に向けられる。

僕も「だったらお前が返却してこい」と視線を返す。


本音を言うと、闇オークションの連中を探し出してダナを返却することを考えなかったわけではない。

ただ、ダルサニア辺境伯領でトラブルが起こったため、王都の滞在期間を伸ばすわけにはいかず、ダナを連れて王都を出発することになってしまったのだ。


そのトラブルの内容を僕の前でクレイブが口にすることはなかったが、僕はスキルを使ってすでに把握済みである。


隣国から聖女が追放され、ダルサニア辺境伯領内で保護されたのだと……。


読んでいただきありがとうございます。

ラストの追放聖女編が始まりますので、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです!

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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