お友達
読んでいただきありがとうございます。
ちょっと短めです。
「り、留学……?」
「はい」
「一体どうして……?」
「ユージン様との婚約を破棄して、これからのことを考えた時に思い出したんです」
幼い頃から外国に憧れがあったこと。
しかし、ユージンとの婚約が決まり、その夢はすっかり『なかったこと』にして諦めてしまったのだとディアナは言葉を続ける。
「貴族たるもの、家のために我慢するのが当たり前だと教わって生きてきました。だけど、思いのままに行動するアイセル様を見ていると新しいことに挑戦してみたくなったのです」
そして、集団婚約破棄の件で周りが騒がしい今、ほとぼりが冷めるまで留学したいと父親に訴え、無事に説得することに成功したそうだ。
(なんてことだ……!)
まさか、ディアナを婚約破棄させるための僕の行動が、彼女にこのような影響を与えてしまうなんて……。
マーサガラ王国は、この国から南へ遠く離れた場所。
さすがに遠距離ハーレムは無理がある。
(どうにか考え直してもらえないだろうか?)
新しいことに挑戦したいというディアナの気持ちを尊重してあげたいところだが、ハーレムの一員になってほしい僕の願いも叶えたい。
「ディアナ様が遠くに行ってしまうなんて……僕、寂しいです」
これ見よがしに肩を落とし、うるうると瞳を潤ませ、泣き落としでディアナの同情心を誘う。
「アイセル様……」
「これからディアナ様ともっともっと仲良くなりたいと思ってたのに……」
「それはわたくしもですよ」
そう言って、ディアナが優しく微笑む。
「離れていても、わたくしたちはずっとお友達です」
「ぐはっ!」
ディアナの『お友達』という言葉が僕にクリティカルヒットする。
男女の友情は成立するのか?
前世でも意見が分かれる問題だった。
僕は成立するんじゃないかと思っているが、だからといって好みの女性と友情を成立させたいわけじゃない。
普通に恋人としてイチャイチャしたいんだ。
しかし、僕の願いも虚しく、ディアナは留学をしてからの未来の話を楽しそうに語るのだった。
◇◇◇◇◇◇
社交シーズンもそろそろ終わりを迎える。
王都に滞在している間は、ほとんどの時間をディアナのために費やしていた。
そして、見事にユージン有責の婚約破棄を勝ち取る。
そのお礼がしたいとディアナから申し出があり、僕は『欲しいもの』を彼女に伝えた。
今日はその品を受け取るために装飾品店を訪れているのだ。
今日の僕は一目で貴族令息だとわかる格好をしており、護衛二人とファニーを引き連れて店内に足を踏み入れる。
すると、すぐに一人の店員が僕に近づいてきた。
「いらっしゃいませ。本日はどのような品をお探しでしょうか?」
「継母へブローチを贈りたいんです」
「でしたら二階へどうぞ。ご案内いたします」
そのまま店員とともに階段を上り、二階の応接室へ案内される。
「ああ、君たちはここで待機しておいてくれ」
「え? ですが……」
「ファニーもここで待っててくれる?」
「坊ちゃま。それは……」
「一人でゆっくり選びたいんだよ」
護衛とファニーを扉の外に無理やり置き去りにして、僕一人だけで応接室の中へ入る。
部屋の真ん中にはテーブルを挟む形でソファが置かれており、そこに座っていた男が僕の姿を見るなり立ち上がった。
「アイセル・ダルサニア辺境伯子息様ですね? お待ちしておりました。私はオーナーのメレディス・エスコットと申します」
年齢は三十代半ばくらいだろうか。
藍色の髪を後ろに撫でつけ、にっこり笑うと焦げ茶色の瞳が三日月形になり、柔和な印象を与える
「アシュベリー伯爵様からのご紹介だと伺っておりますが……正直、ダルサニア辺境伯子息様のような年齢のお客様は初めてでして」
「まあ、そうでしょうね」
平然と返す僕をメレディスは探るように見つめる。
「失礼ですが、ここがどういった店であるかを理解なさっておられますか?」
「もちろん。王都で知りたいことがあればここを訪れればいいと聞きました」
表向きは装飾品店を営んでいるが、この店は『情報屋』という裏の顔を持っていた。
ディアナに答えた僕の『欲しいもの』とは、情報屋を紹介してもらうことだったのだ。
ディアナ……婚約破棄を宣言されるシーンから始まる悪役令嬢ものの主人公。しかし、破棄される前にアイセルと出会ったことで、婚約破棄を言い渡す側になる。
マーサガラ王国へ留学予定。
褐色肌のメカクレ男子生徒……婚約破棄された悪役令嬢を助けるヒーローになるはずだったマーサガラ王国からの留学生。
アイセルを助けたことがきっかけでディアナと知り合い、マーサガラ王国への留学を彼女に勧める。
ディアナの留学時期に合わせて自分もマーサガラ王国へ帰る予定。意志の強い女性が好み。




