やっぱりアレだよね?
学園の保健室で事情を説明すると、すぐに魔力残滓の測定が行われた。
そして、学園長立ち会いのもと生徒全員の魔力登録データと照らし合わされ、僕の火傷に残る魔力残滓がユージンのものであることが証明される。
(これ、マニュアルあるな)
それほど学園側は手慣れた素早い対応だったのだ。
考えてみれば生徒は貴族の子息子女だらけ、きっと創立以来様々なトラブルに見舞われてきたのだろう。
例え生徒間の諍いであったとしても、家同士の問題へと発展してしまう。
だからこそ、責任の所在をはっきりさせるよう徹底しているのだと感じた。
(よし、これで一歩前進だね)
その後、僕はタウンハウスに戻り、学園での事の顛末を父とフェリシアに話して聞かせる。
「だから厄介事に首を突っ込むなと言っただろう! 火傷まで負って……」
「僕の若さならこんな火傷くらい秒で治ります」
「少しは申し訳なさそうにしてくれ!」
激昂するクレイブに続いて、フェリシアも口を開く。
「アイセル様がお怪我をなさったことをクレイブ様は心配されているのですよ」
「心配されるなら筋肉ダルマよりもフェリシア様がいいです」
「もちろん私もアイセル様の怪我が心配です。あまり危険な真似ばかりしないでくださいね?」
眉根を寄せ、少し怒った表情になるフェリシア。
そんな彼女を安心させるため、僕も真面目な顔で答える。
「ええ。フェリシア様を娶るまで若く健康な身体を維持することをお約束します」
「待て待て待て待て!」
「ああ、そうだ。父上にお願いがあるのですが……」
「…………」
なぜかクレイブはぐったりしながら「何だ?」と返事を寄越す。
「僕に怪我をさせた相手へ『抗議』をお願いします」
僕の言葉にクレイブは眉をピクリと動かす。
「メインは僕に直接手を出したアクロイド侯爵家へ。あとは僕に暴言を吐いた件とアクロイド侯爵子息を止めなかった件について軽く……」
ミアを含めた逆転ハーレムメンバーの家の名前を挙げ、抗議を父に頼む。
これはあえてトラブルの内容を広めたい時に使う手だ。
さらに上の手段になると『賠償』が絡んでくるが、今回そこまでは必要ないと僕は判断する。
あまりやり過ぎるとこちらのイメージが悪くなってしまう。
「これは我が家にとっても必要なことですから」
「何?」
社交シーズンに合わせ、父とフェリシアはあちこちに顔を出しに出掛けている。
だけど、まだ幼い『アイセル』の存在は謎のまま。
若いイケメンと駆け落ちした母親譲りの容姿。
さらに後妻となったフェリシアとクレイブの仲睦まじさをアピールすればするほど、『アイセル』がどのような扱いを受けているのか邪推する者も多いはず。
現に、以前も街でユージンに実母を引き合いに出されて嫌味を言われている。
「勝手なことを言う奴らは放っておけばいい」
「そういうわけにはいきませんよ。僕はダルサニア辺境伯家の後継者ですから。しっかりと抗議をして、僕が大切にされていることをアピールしてもらわないと」
父はどうでもいいが、僕自身が舐められるわけにはいかない。
「フェリシア様も噂を流すことに協力してもらえませんか?」
「ええ。もちろんです。お茶会や夜会でアイセル様のお話をすればいいんですね?」
「きっと話を聞きたくてうずうずしている連中がいるはずですから、満足いくまで聞かせあげてください」
社交界ではまだまだ我が家が話題の中心になりそうだ。
こうして、僕が学園内で火傷を負った事件はあっという間に社交界へ広まった。
それに付随するようにミアの逆転ハーレムの件についても噂は広まり……ついにユージン側の有責でディアナとの婚約が破棄されたのだった。
◇◇◇◇◇◇
(まさかこんなに何もかもがうまくいくなんて……!)
僕はウキウキ気分で目の前のケーキを頬張る。
ディアナの婚約破棄をきっかけに、芋づる式に婚約破棄が続き……そう。例の作戦がうまくいったのだ。
現在、前代未聞の集団婚約破棄騒動にゴシップ好きの社交界は大いに盛り上がっている。
心配していた被害者の会の令嬢たちへの反応だが、ほとんどが同情的なものばかりだった。
逆に、逆転ハーレムメンバーたちは、元平民の女に手玉に取られた挙句、婚約者に見限られたと嘲笑の的になっている。
まあ、どれも紛うこと無き事実なので仕方がないだろう。
そして、加害者側で起こっているのは罪の擦りつけ合いだった。
そこで諸悪の根源として吊るし上げられているのがハーボトル男爵家。
爵位も低く、後ろ盾も持たないハーボトル男爵家は為す術がなく、おそらくミアは領地に押し込められ、適当な商家の後妻として嫁がされ、二度と王都に足を踏み入れることはないだろう。
(ディアナ様もすっきりとした表情になってる)
現在、テーブルを挟んだ僕の向かいにはディアナが座り、僕と同じようにケーキを食べている。
ディアナから話があるとカフェに呼び出されたのだ。
(話って……やっぱりアレだよね?)
それは婚約破棄をしたディアナのその後について。
「ユージン様との婚約を破棄できたのも全てアイセル様のおかげです」
「そんなことはありませんよ」
「いえ、お世辞などではなく……あの時、アイセル様と出会わなければ今のわたくしはありませんでした」
「僕こそディアナ様と出会えてよかったです」
そう。ディアナとの出会いは偶然じゃなく必然……いや、運命のようなものじゃないだろうか。
(まさにハーレムの神のお導きだよね)
そんなことを考えながら、僕は本題を切り出す。
「その後はいかがですか?」
「何度かユージン様から復縁を希望する手紙が届きましたが、全て父がきっぱりと断ってくれました」
「…………」
あの男……よく復縁したいだなんて恥知らずな真似ができたな。
「有り難いことに他家からも婚約の話をいくつかいただいたのですが……全て断りました」
「それは……どうして?」
ディアナの瞳が柔らかく細められ、僕を見つめる。
(これってやっぱり僕と一緒にダルサニア辺境伯領へ……って話だよね?)
僕はゴクリと喉を鳴らす。
「実はわたくし……マーサガラ王国へ留学することに決めたんです」
「へ………?」
読んでいただきありがとうございます。
次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。
よろしくお願いいたします。




