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被害者

「お、おい……!」

「殺されちゃうぅぅぅ! 誰かああああ!!」


僕のクソデカハイトーンボイスが中庭に響き渡る。


なんせ僕は子供だからさ。

誰かさんの嘘泣きと違って、喉がちぎれるくらいに泣き叫んでも許されるんだよね。


慌てたユージンが、僕の胸ぐらを掴んでいた右手を離そうとする。

そうはさせてなるものかと、今度は僕がユージンの右腕にしがみついた。


「助けてえええええ!!!」


そして、叫ぶ。

力の限りに叫ぶ。


すると、僕の泣き叫ぶ声が呼び水となり、人の集まる気配がして……。


「やめろ! 離せっ!!」


半ばパニックになったユージンは僕をなんとか黙らせようと、空いていた左手を僕に向けて伸ばした。

だが、その左手は炎を(まと)ったままで……。


(あっ……!?)


炎が顔の間近に迫り、ヤバいと思った瞬間……僕の身体はひょいっと持ち上げられ、目の前のユージンが吹っ飛ばされた。


(え……?)


一体何が起こったのかわからずに呆然とする僕。


「大丈夫か!? 怪我は?」


そんな僕は黒髪の褐色肌の青年に優しく抱えられていた。

しかもお姫様抱っこだ。


(えーっと……誰?)


長い前髪のせいで顔ははっきり見えないが、制服を着用している姿からこの学園の生徒であることは理解した。

そして、地面にはユージンが倒れており、ミアが慌てて駆け寄っている姿を視界の端で確認する。


(ということは……)


どうやらこの男がユージンを吹っ飛ばし、僕を助けてくれたらしい。

そしてお姫様抱っこだ。


「大丈夫だよ。ありがとう」

「そうか……よかった」


そこへ血相を変えたディアナが僕の名を呼びながら走ってきた。


「アイセル様!」


よく見ると、騒ぎを聞きつけたらしい生徒たちの姿もちらほら見える。


(おっと、こうしちゃいられない)


僕は褐色肌の男の腕の中から抜け出し、ディアナのもとへ駆け寄ると、もう一度クソデカハイトーンボイスで嘘泣きを披露する。


「うわぁぁぁぁん! ディアナ様ぁぁぁ!」

「え? え? 一体、何があったのですか!?」

「あのね……ディアナ様の婚約者が他の女の人と遊んでたんだ。だから、それはダメなんだよって僕が言ったら怒りだして……」


そのまま多くは語らずに爆泣きをする僕。

一体何事だと、どんどん生徒たちが集まってくる。


「あの男がその子の胸ぐらを掴み、火魔法で攻撃しようとしていた」


泣きすぎで説明ができないと思ったのか、褐色肌の男が僕の代わりに状況を説明してくれた。


なんて素晴らしいタイミング。

褒めてやろう。


「まさかユージン様がそんなことを……」


ショックを受けたようにディアナは両手で自身の口元を押さえる。


(うん。さすがだね)


今日、僕が王立学園へ訪れることをあらかじめディアナには伝えてあった。

そして、昼休憩はミアたちの近くで待機するようお願いしておいたのだ。


ただし、ユージンを煽って僕自身に危害を加えさせるつもりだとは言えなかった。

計画を止められるかもしれないし、新鮮なリアクションが得られないかもしれないからね。


だから、ディアナが僕を心配して駆けつけてくれたのは彼女の本心による行動だ。

そして、途中からは僕の意図を正確に汲み取ったらしい。


ディアナは慈しむように僕の頭をそっと撫でると、しっかりと背筋を伸ばしてユージンのもとへ歩いていく。


「クソっ! 何だってんだ……」

「ユージン様! 大丈夫ですか?」


ミアに支えられながら、ようやく上体を起こしたユージン。


「ユージン様」

「ディアナ? どうしてここに? まさか、またお前が仕組んだことなのか!?」


怒鳴りつけるユージンを、ディアナは冷めた目で見下ろす。


「わたくしは騒ぎを聞きつけて駆けつけただけです。それより、どうしてアイセル様に暴力を?」

「はあ? 暴力を受けたのは俺のほうだぞ!?」


どうやら褐色肌の男に吹っ飛ばされたことを言っているらしい。


「あの方はアイセル様を助けるために動いてくださったのです。そもそも、ユージン様がアイセル様の胸ぐらを掴んで魔法で攻撃しようとなさったことが問題です」

「それはあいつがミアと俺のことを馬鹿にしたからで……」   

「それだけのことで……?」

「それだけだと? あいつは「すぐに股を開く女」だとか「尻尾を振る」だとか下品な言葉で俺たちを侮辱したんだぞ!?」


すると、ディアナが呆れたように溜息を吐く。


「そんな嘘まで吐くなんて……」

「嘘なんかじゃ」

「アイセル様がそのような下品な言葉を使うはずがありません」

「あいつの口が達者なのはディアナもよく知ってるだろ!」

「何をおっしゃっているのかさっぱり……」

「おい!」

「だってアイセル様はまだ子供(・・)ではありませんか」


しかも、ミアのような元平民ではなく、生まれながらのれっきとした貴族。

さらに、僕の容姿は黙っていれば天使のように愛らしいとファニーからもお墨付き。


そんな美少年な僕がユージンを相手に下品な暴言を吐くだなんて、この学園の生徒たち……つまり、僕と初対面の目撃者(・・・)たちが信じるはずもないよね。

端から見れば、僕はミアとは比べものにならないくらいに『被害者』だった。

読んでいただきありがとうございます。

次回は明日の朝8時頃に投稿予定です。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
可愛い、格好良い、美人は正義なので! 裏で何やってようと見た目のイメージが正義です
でっかいブーメランをぶっ刺してるなぁw 続きも楽しみにしてます。
やはり見た目・・・ 見た目が正義なのだ・・・
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