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第20話 限られた命、永遠の愛

クリスマスまで、あと4日

 咲希さんは、早速ケーキを一口食べる。

 

「これ美味しい! このクリームが甘すぎなくてメッチャクチャいけちゃう!」

 

「でしょ? 厳選フルーツを使ってるから言う事なしだよ」

 

 僕はそう自慢する。

 

「なんだか負けた気がするから、今度は私が悠斗くんになにか奢るわよ?」

 

 咲希さんが少しすねている。

 

 僕は少し勝ち誇る。

 

 会計を済ませて店を出る。

 

 時刻は午後1時を回っていた。

 

 天気はやや下り坂。

 

 予報では、今年1番の寒波が来るそうだ。

 

「ねぇ、せっかくだから病院に戻るまで高輪ゲートウェイシティへ行ってみない?」

 

 咲希さんがこんな提案をする。

 

 近年話題の商業施設で買い物というのも悪くはないな。

 

「父さんたちにもいい買い物がしたいし」

 

「私も、撮影会の差し入れに良いものを買いたいから」

 

 そして、僕たちはタクシーを呼んでJR浅草橋駅へと向かった。

 

 そこから中央・総武線各駅停車で秋葉原まで行き、そこで山手線に乗り換える。

 

 高輪ゲートウェイに向かう途中、僕はこっそり終活アプリをインストールする。

 

 病院に戻ったらまずやるべきことだ。

 

 自分のデジタル回りを整理しないと、後々厄介なことになるからね。

 

 まずはインストールをして病院に戻ったらいつでもできるようにしないと。

 

 僕はひとまずインストールはしておいた。

 

 あとは、最後の撮影を楽しむだけだ。

 

 僕はそう思った。

 

「ねぇ、悠斗くんはどんな子がタイプなの?」

 

 いきなり咲希さんが質問してきた。

 

「まぁ、咲希さんのような優しくて気が利くタイプかな?」

 

「なるほどね。でも、どうせ結婚するくらいならお金持ちよりも楽しい人のほうが良いな」

 

 咲希さんの結婚相手になる人は、金持ちよりもそばにいて楽しい人がいいらしい。

 

「でも、イケメンハイスペックも捨てがたいよ?」

 

「ああいう能書きやエリートなんてつまんないし、お金を持っているだけでも吐き気がするよ」

 

 そう言えば、お金持ちに激しい嫌悪感を持っていたのをすっかり忘れてた。

 

「それに、顔がいいからと行って、チヤホヤされたいだけの感じ悪い存在よ。やっぱり結婚するなら、庶民的で趣味の理解が良くて優しい人が好みかな?」

 

 やっぱりそう来るか。

 

 僕はそれに納得した。

 

 そんなこんなで、高輪ゲートウェイに到着した。

 

「ここ、前から気になっていたのよ!!」

 

 咲希さんは興奮している。

 

 近年できた新しい駅ナカ施設だけあって、多くの人々で賑わっていた。

 

「さきさん、ここのスイーツは絶品らしいですよ!」

 

「じゃぁ、撮影が終わったらかいましょう!」」

 

 咲希さんは早速噴水をバックにポーズを取る。

 

 僕はそれをファインダーに収めていく。

 

 かなり出来のいい写真がたくさん出来上がっていく。

 

 次は建設中に発見された鉄道遺構に向かう。

 

 時折、当時の汽笛が再現された音が流れている。

 

 僕はカメラを構える。

 

 咲希さんが旨を強調するポーズでアピールする。

 

 咲希さんはモデルとしても大活躍だからなぁ。

 

 起業コラボの動画を撮ったり、パチスロ店でのゲスト出演を果たしたりで、忙しい日々を過ごす傍ら、撮影会やカフェの運営もこなす。

 

 そんな咲希さんを僕は心から愛している。

 

「悠斗くん! ちゃんと撮ってね!」

 

「あぁ! やってるよ!」

 

 これは、流石の僕でも撮影に集中せざるを得ないな。

 

 僕は撮影に集中していくことにした。

 

 そして夕方病院へと戻る道のり、

 

「楽しかったね」

 

 咲希さんは悲しげにつぶやく。

 

 それでも、後悔はない表情だった。

 

「僕も楽しかったよ」

 

 僕は咲希さんを励ました。

 

「でも、悠斗くんはもうすぐいなくなってしまう」

 

「ごめんね。でも、これは僕が決めたことだから」

 

 僕の心には後悔も何もない。

 

 僕の身体が消えても、必ず咲希さんのところへ戻る。

 

 そう決めていた。

 

「でも、僕はいなくならないよ」

 

「え?」

 

 咲希さんは、僕の言葉にきょとんとした。

 

 無理もない。

 

 あの日訪れたジュエリーショップでその手続を済ませ、澪を通じて帰ってくるようにしておいた。

 

「たとえ僕がこの世からいなくなっても、魂と心はずっと一緒だから」

 

 とりあえず、最期のサプライズは隠し通せた。

 

 来年11月の咲希さんのバースデーには、間に合うようにしておいたから。

 

「悠斗くんは優しいのね」

 

 咲希さんは涙を流す。

 

 心はずっと一緒だとわかってくれたのか、安堵した表情だった。

 

「これだけは約束して」

 

「なに?」

 

「クリスマス配信、見るまで死んじゃだめだよ!」

 

 それは、思わぬ約束だった。

 

「わかった。必ず見るから!」

 

「約束だよ!」

 

 そして、病院へと戻った。

 

「さてと、終活を始めるか」

 

 僕は携帯電話にインストールしたアプリを起動した。

 

 入れてあるのは、エンディングノートアプリ。

 

 身分証明が要らない、簡単なアプリケーションで僕はそのノートを書き始める。

 

「まずは佐伯先生あてのノートを」

 

 僕は、佐伯先生に僕がなくなったらSNSのアカウントを削除してほしいという遺書を書き記した。

 

「そして、父さんたちにもだ」

 

 僕は静かに泣きながら父さんと母さん、そして澪あてにそれぞれのノートを書いた。

 

 澪には、ビスキュイの住所と咲希さんのメールアドレスを添えて。

 

「後は咲希さん」

 

 僕は咲希さん宛のノートを書き記した。

 

「これで、よし」

 

 僕はもう、思い残すことはない。

 

 時刻はもうすぐ夜9時。

 

 僕は、聖夜のきらめきを横目に眠りについた。

 

 夢を見る。

 

 死神が僕の眼の前に現れた。

 

「まだ時間じゃないのに」

 

「なに、君の最後の聖夜を共に過ごしたくてな」

 

 病室の片隅で、僕と死神は座った。

 

「明日の夜11時、迎えに行く。よく、頑張ったな」

 

 死神は少し僕をねぎらった。

 

 ちょっと嬉しいな。

 

「明日の夜に、僕は死ぬんだね?」

 

「あぁ。それと、君は遺骨宝飾に生まれ変わるのを希望しているが?」

 

 死神は書物を読みながら僕に尋ねた。

 

「そうなんだ。咲希さんとずっと側にいたいから」

 

 それが僕の最後の望み。

 

 僕自身が決めたことだった。

 

「なるほど。究極の愛だな」

 

 死神が納得した。

 

「今まで悲恋を遂げる者たちを見てきたが、こういうケースは稀な話だ」

 

「そうなのか?」

 

 僕は首を傾げた。

 

「大天使様もお前のことを気にかけていてな。死後形を変えて愛するものへと戻るというのは、類を見ないケースだ」

 

 そうなると僕は考えてみる。

 

 僕が死んでも良いように手は打った。

 

「それに、終活を終えた君のことだ。配信が終わる明日夜11時に肉体が永眠するようにしておく」

 

 そう言うと死神は去っていった。

限られた命で貴方はどう生きますか?

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