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片翼のドラグーン  作者: 八月 あやの
第四章 動き出す世界
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第28話 ラース砦攻防戦

 深い森を突き進む、魔物たちの一団。それも、ゴブリンやオークどころの騒ぎではない。体長数メイルほどもある巨大なさそりや蜘蛛、緑の肌と尖った耳、二メイルを超える筋骨(たくま)しい体躯を持つ巨人トロル。空を往くのは女の顔と上半身、鳥の下半身に翼と化した両腕を羽ばたかせるハーピーに、獅子の体躯に蠍の尾をした翼ある怪物、マンティコアだ。いずれも、人間が一人や二人で相手取るのはやや厳しいランクの魔物たちだった。

 彼らを駆り立てるのは、森の一角から漂ってくる血の臭い――そして、同じ方角から聞こえてくる音だ。風に乗り高く低く、呼び声のように響くその音を聞いていると、なぜか血が沸き立ち、何を置いても駆け付けなければならないような焦燥しょうそう感が湧き起こってくるのだった。

 そうして惹き付けられた魔物たちは、その本能と欲望のおもむくままに、それらの源を求めて森を突っ切って来た。そしてもうすぐ、広大な樹海を抜けようとしているのだ。

 遥か古代から佇むとおぼしき古木を薙ぎ倒し、時に魔物同士で小競り合いなども繰り広げながら、その一団はついに森を抜けた。その眼前に広がるのは、月明かりに浮かび上がる広々と開けた空間。その彼方に、明らかに自然のものではない巨大な建造物が建つことに気付いた魔物は、どれほどいただろうか。

 ともあれ、森を抜けた解放感とさらに強くなった血の臭い、そして彼らを惹き付けてやまない音に、魔物たちは快哉かいさいにも似た咆哮をあげると、地面を踏み鳴らし、あるいは翼を羽ばたかせて進撃を開始した。空を飛ぶハーピーやマンティコアは、一足――というか一飛びというか――先に音と血の臭いを辿って速度を上げ、気付いているのか否か、森と人の領域とを隔てる巨大な砦へと向かっていく。

 だが――突如(はし)った一条の光芒こうぼうが、先頭を行く一体のハーピーに突き刺さり、その身を火達磨ひだるまに変えた。

「……ギャアアァァァ!!」

 断末魔の悲鳴をあげて墜落するハーピー。その身が地上にちるが早いか、もう一度光芒が閃く。今度は地を這うように奔り、当たった大蠍ジャイアントスコーピオンの左半身を消し飛ばした。


「――とりあえず、止まっとけよ……っと!」


 砦から全速で駆け付けたアルヴィーは、三度みたび右腕を振るう。《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》が地面を薙ぎ、圧縮されていた膨大な炎が一気に解放されて、爆発を引き起こした。いきなり眼前の地面がぜ、炎の壁が立ちはだかる光景に、魔物たちは反射的にその歩みを止める。深い樹海にむ彼らは、これほどに強く激しい炎を見たことがなかったのだ。

 だが、上空にいるハーピーやマンティコアには、せいぜい熱気が襲い掛かる程度で、さしたる効果はない。それでもアルヴィーを脅威と認めたのか、口々に奇声や咆哮をあげながら襲い掛かって来た。

 ……アルヴィーが、それを待っていたとも知らずに。


し潰せ、《重力陣グラビティサークル》!」


 アルヴィーの重力魔法が発動し、半径十メイルほどの範囲が通常の数倍の重力となる。そこへ突っ込んだハーピーやマンティコアは、いきなり倍加した重力に捕まり、空から引きずり落とされた。

「ギャアッ!?」

 何が起こったのか分からず、悲鳴をあげながら墜落する魔物たち。落ちる時に運悪く、翼を損傷したものもいる。そういった魔物は、魔法の効果が切れても再び空に舞い上がることは叶わず、せめてもと威嚇いかくの声をあげながら爪や毒針を持つ尾などを振りかざした。

 しかし――アルヴィーに向けて振るわれたそれは、赤熱する深紅の刃によって残らず斬り飛ばされた。

 《竜爪ドラグ・クロー》で魔物たちの最後の武器も斬り飛ばしたアルヴィーは、空を振り仰ぐ。墜落を免れた魔物たちは、何とか体勢を立て直し、アルヴィーから逃れるように砦の方へと飛び去ろうとしていた。

「ちっ……!」

 まだ騎士たちは追い付いて来ない。撃ち落とすべく右腕を掲げた時。

 キュオン、と咆哮のごとき鋭い音、次いで爆音。彼方から飛来した矢が一体のマンティコアを貫き、爆発したのだ。砦から二ケイル近く離れたこの位置の魔物を正確に射抜くことができる人間を、アルヴィーは今のところ一人しか知らない。

(確かシルヴィオとかいったっけ……すげーな、いくら月が出て明るいっていっても、こんなとこまで見えるのかよ)

 数ケイル先まで手に取るように見えるという“千里眼”を持っていると聞いたが、大したものだ。この分なら、砦に辿り着くまでに撃ち落としてくれるだろう。空を飛ぶ連中は砦の迎撃部隊に任せることにして、アルヴィーは森の方へと向き直った。

 《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》で作り出した炎の壁はやや威力を弱めてはいるが、砦から駆け付ける騎士たちには充分な目印となるだろう。その向こうの魔物たちは、炎の壁を避けるべく右往左往しているところだった。

(これで終わりってわけもないだろうしな……ここにいる分だけは、片付けといた方がいいな)

 アルヴィーは自らが作り出した炎の壁を飛び越え、向こう側――つまり魔物がひしめく只中ただなかに着地。たまたま傍にいた大蜘蛛ジャイアントスパイダーが、動きを封じようというのか大量の糸を噴きかけてくる。

 だがそれは、アルヴィーが右手に生み出した渦巻く炎に呑み込まれ、逆に蜘蛛の方が炎に焼かれた。たじろぐ魔物たちに、アルヴィーは炎を纏った右腕の《竜爪( ドラグ・クロー)》をたずさえて突っ込む。振り抜いた《竜爪( ドラグ・クロー)》がトロルの腹を易々と斬り裂き、大蠍の鋏を斬り飛ばした。トロルは回復力に優れているが、それでもアルヴィーのように炎に耐性があるわけではない。傷口を高温で焼かれては再生もできず、血とはらわたを撒き散らしながら倒れる。

 鋏を斬り飛ばされた大蠍が、反撃とばかりに尾の先の毒針をアルヴィーに向けてきた。毒液を飛ばそうとしたが、それすらもアルヴィーが放った《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》で毒針ごと消し飛ぶ。唯一残った右の鋏以外の武器をすべて失った大蠍の頭に飛び乗ると、金属並みの硬さを誇る甲殻をものともせず、その頭部に《竜爪( ドラグ・クロー)》を突き刺し止めを刺した。

 大蠍を沈め、アルヴィーは残りの魔物たちに向かう。この手の魔物は魔石の他に素材も採れるそうなので、《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》で丸ごと消し飛ばすのは最後の手段だ。

 と、


「――斬り裂け、《風刃エアブレイド》!!」


 炎の壁を突っ切り吹き抜けた、熱を帯びた風の刃が、一体の大蜘蛛の胴体を深々と斬り裂いた。

「――ルシィ!?」

 炎の向こうに見えるのは、紛れもなくルシエルとその小隊だ。

「ディラークとカイル、シャーロットはトロルに当たれ! ジーンとクロリッドは大蜘蛛を! 大蠍は僕とアルで片付ける! ユフィオとユナは援護だ! いいか、必ず一体ずつ相手をしろ!」

「了解!」

「押し流せ、《水渦ヴォーテクス》!」

 ジーンの魔法で炎の壁の一部が消され、そこからルシエルたちはこちらへと突入して来る。そして彼らはルシエルの命令通り三手に分かれ、戦闘を開始した。

「はぁぁぁっ!!」

 シャーロットが振るったバルディッシュが、トロルの腕を握った棍棒ごと斬り飛ばした。間髪入れず、ディラークとカイルがトロルの左右を走り抜けざまに得物を一閃。大槍がトロルの頭蓋を叩き割り、長剣が胴を両断する勢いで深く斬り裂いていく。

「焼き尽くせ、《炎撃爆雷バーニングマイン》!」

 止めとばかりにカイルが放った魔法が、トロルの足下で炸裂、その巨躯を炎に包んだ。

「わたしが足を止める、その隙に仕留めて!」

 一方大蜘蛛の方は、ユナが続けざまに数発、魔法小銃ライフルを発砲する。銃口から放たれた炎弾が、大蜘蛛の左の四本の足に殺到し、関節部を直撃した。足をやられて、大蜘蛛の動きが鈍る。

「――貫け、《雷槍サンダースピア》!」

「撃ち抜け! 《氷弾アイシクルバレット》!」

 そこへクロリッドの雷撃魔法。一瞬麻痺したところ、ジーンの放った氷の弾丸が正確にその頭部に叩き込まれた。大蜘蛛はトロルほどの超回復力も、大蠍のような硬い甲殻も持っていない。図体の割に素早い動きで相手を翻弄、止めに糸で絡め取ってしまうのが主な戦法なので、その前に動きを封じれば決して勝てない相手ではないのだ。

 そして剣をも通さない甲殻を持つ大蠍には、竜鱗の剣を持つアルヴィーとルシエルが躍り掛かった。

「っ、らぁっ!」

 振り回される鋏を飛び越え、アルヴィーが振るった《竜爪( ドラグ・クロー)》が、尾の先の毒針を斬り飛ばす。ルシエルは《イグネイア》に魔力を通し、振り上げられた鋏を掻い潜って大蠍の懐に飛び込んだ。

「阻め、《二重障壁ダブルシールド》!」

 ルシエルに振り下ろされようとした鋏は、だがユフィオの魔法障壁が受け止める。その寸隙を逃さず、ルシエルが振り下ろした《イグネイア》が見事に大蠍の頭部を両断した。わずかな手応えだけをルシエルの手に伝え、《イグネイア》の刃は容易く大蠍の頭を二つに断ち割る。

「――隊長、上!」

 その時カイルの声が響き、振り仰いだ先には一体のマンティコアが、尾の毒針をこちらに向けている。マンティコアは体内で毒針を生成し、尾の先から飛ばすことができるのだ。

 だが――次の瞬間、地上から奔った光芒がマンティコアを斜めに両断した。毒針はマンティコアの下半身ごと消し飛び、蝙蝠こうもりのような翼の半ばまで蒸発するように消えたむくろが、どしゃりと重い音を立てて地面に墜ちる。慌ててマンティコアを撃墜したアルヴィーが、ルシエルに駆け寄った。

「大丈夫か、ルシィ!」

「ああ、でも……」

 ルシエルはマンティコアが飛来したであろう、《魔の大森林》の方角を見やる。

「げっ、また来た……!」

 それにならい、クロリッドが呻くような声をあげた。空にはまたしてもハーピーとマンティコアの連合軍。地上にはトロル、そして大蠍と大蜘蛛に加え、一際目立つ巨体の大百足が、土煙を上げてこちらへと驀進ばくしんして来る。しかもその数が、十や二十ではきかない。本格的に大暴走スタンピードが始まったのだ。

「ちっ……ルシィ、俺が数を減らす! 抜けた奴を仕留めてくれ!」

 そう言い置いて、アルヴィーが前に出る。ルシエルが止めようとした時、彼はその右腕を大きく二度振るった。


 天地を奔る死の光。

 ただそれだけで、押し寄せて来ていた魔物たちの過半が吹き飛んだ。


 連鎖する爆音、そして炎。《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》に触れただけで、魔物たちは炎を噴くように爆発的に燃え上がり、等しく地に伏せる。空を舞い、地上の魔物たちより機敏に動けるものたちさえ、圧縮されて光と化した炎の速度からは逃れられない。爆炎が連鎖し、月明かりよりなお明るく、地上を赤々と照らし出す。

「…………!!」

 凄まじい威力に、ルシエルたちは息を呑んだ。

 “生きた戦略兵器”。

 アルヴィーがそう定義された理由、それが今、眼前に広がる光景なのだ。

「……すごい……」

 ユフィオの思わずといった呟きに、ルシエルははっと我に返る。見惚れている場合ではない。

「――行くぞ! 撃ち漏らしを片付ける! 割り振りはさっきの通りだ! いいか、絶対に一対一で相手をするな!」

「はい!」

「了解!」

 部下たちの応答を背に、ルシエルは親友を追って、新たな戦場へと飛び込んだ。



 ◇◇◇◇◇



 遠い空の一角を照らし出す炎と、腹の底に響くような爆音。それを横目に、一人の少年が砦の窓辺で小さな笛を吹いている。

 若い――というより、幼いといってもいい年頃の、まだ小柄な少年だった。上に見積もってもまだ十代半ばに届くかどうかというところ。明るい砂色の髪は月明かりを跳ね返して鈍く輝き、伏せられた双眸は若葉のような緑色だ。

 彼が吹く笛は、楽器のそれではなく、どちらかといえば獣の調教に使うようなものだった。一見細い金属の筒にしか見えないそれは、吹きこなすには相応の修練を必要とするだろう。数ヶ所に空いた穴に巧みに指を滑らせ、吹き込む息に強弱を付けることで、高く低く音の波が生み出され、微風そよかぜに乗って《魔の大森林》へと流れていく。

「――そろそろいいかなー」

 彼は笛を唇から離し呟いた。しゃらん、と細い鎖が揺れる。鎖は笛に繋がれ、少年の首に掛かっていた。彼が持つ笛はこれだけではない。まるで装飾品か何かのように、彼の胸元にはやはり鎖に繋がれた多数の笛が揺れている。

 少年は窓越しに、遥か彼方の戦場を見晴るかすように目を細めた。

「しっかし、派手だよねー。あんなのの暗殺任務なんて、大丈夫なの」

「だからおまえの手を借りているんだ、《魔物使い》」

「ちょっとー、せめて《魔獣操士ビーストマスター》って言ってよねー」

 少年は口を尖らせ、《黒狼》を睨む。《魔獣操士( ビーストマスター)》とは、その名の通り魔物や獣を操る術者の総称だ。音に魔力を込めて操ることが多く、少年も多聞に漏れず笛を使う。彼は若いながらも《魔獣操士( ビーストマスター)》としての腕は確かで、魔物を操る暗殺者として活動していた。今回、《魔の大森林》で事に当たるということで、随員に加えられたのだ。ちなみに他の随員は、他の騎士たちの目を誤魔化すために出撃していた。といってもファルレアンのために命を張る気はないので、適当にそれらしく振る舞ってさっさと身を隠すのだが。

 しかし彼ら二人だけは、魔物をこの砦に向けて呼び寄せるという目的のため、密かに砦に残っていた。

「僕は魔物だけじゃなくて、幻獣も操れるの!」

「普段使うのは魔物ばかりだろう」

「仕方ないじゃん。幻獣は血を嫌う奴もいるからさ。こんな稼業やってれば、そりゃ魔物の方が使い勝手は良いよ」

 そう肩を竦めて、《魔物使い》と呼ばれた少年は再び窓の外に目を向けた。

「……で、どーすんの? とりあえず、そこそこの奴は呼んだよ?」

「ああ、それで良い。だが、もっと強い魔物は呼べるか? それこそ、ベヒモス辺りでも良いが」

「他の魔物を追って近くまで来てるだろうし、呼ぶだけなら何とかなるかもだけど、その後は責任持てないよ。それだけのレベルの魔物だと、多分呼び寄せるだけでやっとになるから。その後大暴れし出したって止められない。僕だって無節操に何でもかんでも操れるわけじゃないんだからね」

「制限があるのか?」

「……あんまり強過ぎる奴には、それだけ干渉が弱くなる。高位の幻獣とか魔物とかだと、まず干渉自体が無理だから。あとは、使い魔(ファミリア)になってる奴も大体ダメ。ああいうのはもう術者が術式仕込んでたりするから、僕の術が弾かれる」

 やはり自身の手の内を明かすようなものなので、あまり言いたくはないのだろう、彼の返答には一瞬の間があった。だが同時に、可能なことと不可能なことのラインをきっちり明確にしておくことが、今回の任務では必要なのだ。それは少年も分かっている。だからこそ彼は答えを返した。

「にしても、森の中まで届いているようには思えんがな、その笛の音では」

「あのさ、魔物と人間とじゃ可聴域が違うんだよ。人間の耳にはほとんど聞こえないけど、魔物には充分聞こえてるから。これ、かなり遠くまで音が飛ぶように作ってあるし」

「なるほど、ならその笛の大きさがバラバラなのは、もしかして音域が違うのか」

「そーゆーこと。あと、種類によって興味を惹かれる音も違うからね。金属の鋭い音が気になるのもいれば、木や土笛の柔らかい音が好きなのもいる。まずは相手の気を惹けないと始まらないし」

 少年の胸元を飾る多数の笛は、大きさから素材までバラバラで、およそ統一性というものがない。だが、操る対象によって聞こえる音域や好む音が違うのなら、それも納得が行った。

「とにかく、魔物を呼び寄せて《擬竜兵( ドラグーン)》を戦場に引きずり出し、疲弊させる。いくら強大な戦闘能力を持っていようと、本人は年端も行かない若造だ。戦場に立ち続ければそれだけ精神的な消耗も大きい。その上で、全力を出し辛い場所におびき出し、仕留める。ついでに、魔物とぶつけることで騎士団の損耗も狙えるしな」

 《黒狼》は、とにかく標的である《擬竜兵( アルヴィー)》のコンディションを乱す作戦に出たのだ。強力な魔物が押し寄せれば、アルヴィーは必然的に最前線に立ち続け、魔物を掃討することとなる。戦場――それも、次々と魔物が押し寄せ連戦を強いられるような現場では、例え本人は気付かなくとも神経をすり減らすものだ。それは疲労となり、やがてアルヴィーにのし掛かってくる。体力的な疲労はさして残らずとも、精神面での疲労はいくら竜の細胞を移植していようと軽減はされない。まして相手はまだ精神的に未熟な若者。付け入る隙もできるだろう。

「ま、僕は実際に戦うわけじゃないし、魔物を呼ぶくらいならいくらでも」

「よし、なら今の戦闘が一段落したら新手を呼べ。とにかく《擬竜兵( ドラグーン)》を休ませるな」

「はいはい。戦況見るからその双眼鏡貸してよ」

 《魔物使い》は胸元の笛を弄りながら、《黒狼》が手にしていた双眼鏡を求める。それを目に当て、遠く前線の監視を始めた。いくら月明かりがあるといっても、昼間に比べれば格段に暗いため、戦いの火蓋が切られると程なく、視界確保のため屋上の魔動兵装から魔法の光球が射出されている。そのため、辺りはそれなりに明るい。

 そんな外の様子を眺めながら、《黒狼》は思案する。

大暴走スタンピードの終息は流動的だ。いくらこの砦の人数が多く紛れ込みやすいといっても、さすがに敵国に長居はしたくないからな。魔物を呼び寄せて早めに終わらせ、さっさと引き揚げた方が無難だろう)

 《黒狼》の計画では、《魔物使い》の力で魔物をおびき寄せて大暴走スタンピード自体を早々に終息させ、その際に《擬竜兵( ドラグーン)》も暗殺してこの砦を後にするつもりだった。いかに上手く紛れ込んでいても、ここが敵地であるには違いないのだ。あまり長逗留ながとうりゅうをしていて、万が一怪しまれたら逃げ場がない。

(後は、このナイフがどれだけ効くかというところか……)

 腰に差したククリナイフの感触を確かめる。《擬竜兵( ドラグーン)》が常人離れした回復力を持つことは、《黒狼》も承知の上だった。逸早いちはやく仕留めるか、最悪でも重傷を負わせなければ、反撃されてこちらの方が危なくなる。通常の武器では斬った側から回復するそうだが、唯一の例外が竜から採取した素材を使った武器だ。このナイフと暗殺者としての自身の誇りに掛けて、失敗は許されなかった。

「……お、そろそろ向こうは片が付くかな?」

 その時、双眼鏡を覗き込んでいた《魔物使い》が声をあげる。そういえば、さっきから爆音も聞こえなくなっていた。

「よし、次はもっと強力な魔物を呼べ。《擬竜兵( ドラグーン)》でなければ相手にならないようなものをな。ベヒモスやサイクロプス程度では、《擬竜兵( ドラグーン)》には相手にもならんだろうが、何体か呼び寄せて同時にぶつければ、さすがに一人ですべての相手はできまい」

「はいはい、っと!」

 《魔物使い》は双眼鏡を《黒狼》に投げ渡すと、笛の一つを取り上げた。先ほど使ったものとはまた別の笛だ。彼は大きく息を吸い、笛に息を吹き込んだ。

 人の耳には聞こえない音――だが、確かにその音は戦場の空気を通じて森に届き、普段は深奥に棲む、強力な魔物たちの耳を掠めていった。ぴくり、と顔を上げたそれらは、その源を探すように進み始める。

 だがごくわずかな人間以外、まだその存在を知る由もなかった。



 ◇◇◇◇◇



「――これで、終わり……っと!」

 アルヴィーが振るった《竜爪( ドラグ・クロー)》に、大百足が頭部を半ばまで両断されて地に伏す。それに巻き込まれないように飛び退いて、彼は大きく息をついた。

「うはー……さすがにキツイな、これ。――おーいルシィ、そっち大丈夫かぁー?」

 発動しっ放しで凝ったような右腕をぐるぐる回しながら、こちらも息を切らしているルシエルたちに歩み寄る。

「ああ……何とかね」

「ったく、これじゃ王都戻ったら特別手当でも出して貰わなきゃ合わねーぜ」

「ホント、疲れた……」

 魔物たちの波状攻撃を凌ぎきった騎士たちは、一様に疲れ切った様子で、それでも何とか五体満足で生還できたことに安堵の息をつく。それは第一二一魔法騎士小隊ばかりではない。あちらこちらで同じような光景が見られた。砦に常駐している騎士なのか、例年と比べても異常な数だとぼやく声も聞こえる。

「魔物の襲撃も山を越えたようですし、一旦退きましょう」

 シャーロットの提案に、ルシエルは頷いた。

「そうだな。少し休んで、体力を回復しないと……ポーションを使う暇もなかったからな」

「体力もそうですが、さっきまで気を張り詰めっ放しでしたからね。そちらも休めないと」

「確かに。もう精神的にクタクタだよ」

「僕も……」

 ディラークが付け加え、クロリッドとユフィオの同期組が心の底からといった様子で同意した。攻撃魔法を連発していたクロリッドはもちろん、ユフィオも魔法障壁で他の面々を援護していたため、精神的・魔力面での疲労が大きいのだ。

 何より、この場の全員が大暴走スタンピードを経験するのは初めてだった。レドナで魔物の群れと遭遇エンカウントはしたが、あの時はすでにアルヴィーの一撃の巻き添えでほとんどの魔物が満身創痍まんしんそういだったので、ここまで神経をガリガリ削るような場面はなかったのだ。

 そんな中、黙々と魔法カートリッジの入れ替えや確認を済ませたユナが、アルヴィーをつついた。

「……あの」

「ん? 何か用?」

「……砦に戻ったら、あの子と遊ばせて」

「ああ、フラムか? 別にいいけど」

「…………!」

 無言ながら輝く笑顔になったユナの後ろで、シャーロットが手を上げる。

「ずるいです、わたしも可愛いカーバンクルちゃんで癒されたいです」

「あ、僕も」

 ユフィオも参戦し、順番待ち再びだ。

「いいわよねえ、あの子。呑気な顔してるもの、和むわー」

 さらにジーンまで参戦。確かにあの小動物のいかにものほほんとした姿は、戦闘でささくれ立った神経を休めるのにはもってこいかもしれない。

(……あいつ今日、部屋に戻って来れっかな……)

 今頃、砦の一室で惰眠だみんを貪っているであろう小動物フラムにちらりと思いをせた時、アルマヴルカンの声が聞こえた。


『――主殿』

(ん? 何だ?)

『音が聞こえるか』

(音?)


 首を傾げつつ、アルヴィーは耳を澄ます。と、ほんのかすかながら、確かに何かの音が聞こえた。風の音というほどには、今夜の風は強くない。戦闘が下火になり、辺りがやや静かになりつつあったからこそ、聞こえた音だった。

「……ほんとだ。何か聞こえる……」

 アルヴィーの呟きに、小隊員たちと話していたルシエルが振り返った。

「アル、どうかした?」

「いや――何でもない」

 とっさにそう言って誤魔化し、アルマヴルカンに尋ねる。

(……何の音だ?)

『自然の音でないことは確かだ。音に魔力が乗っているからな。先ほどから聞こえてはいたが、どうやら人間には聞こえ難い音のようだな』

(早く言えよ!――にしてもそれじゃ、これ、誰かがわざと?)

 こんなところで呑気に楽器を奏でる人間がいるはずもない。一体誰の仕業かとそっと周囲に目をやる。だがもちろん、周囲にいるのは得物片手のファルレアンの騎士ばかりだ。怪しい人物は特に見当たらなかった。

 と、一羽の白い鳥が飛んで来て、ルシエルの肩に留まった。《伝令( メッセンジャー)》だ。魔法で形作られた鳥は、迎撃部隊の撤収・交代指示をルシエルに告げてそのまま霧散する。

「――砦からの指示だ。交代の人員に後を引き継いで、戻るぞ」

「よっしゃあ、休める!」

 カイルが快哉を叫び、空気がほっと緩んだ。

 やがて、砦からの交代人員がやって来る彼らに後を引き継ぎ、砦に戻るため歩き出す――と、またしてもアルヴィーの中のアルマヴルカンが、何かを感じ取ったのか声をかけてきた。

『待て。主殿は戻らん方が良いかもしれん』

「……どういうことだ?」

『来るぞ』

 アルマヴルカンが告げた次の瞬間、戻ろうとしていた砦の方が何やら騒がしくなった。


「――待って! 前線で余裕ある人、まだ戻んないで! 何かデカイのが来る!」


 魔法騎士団の制服を着たまだ若い騎士が、必死の表情で叫んでいる。彼に、アルヴィーは見覚えがあった。

「なあ、あれ、確か第一三八魔法騎士小隊の……」

「ああ、イリアルテの部下だ。確かカシム・タヴァル」

 ルシエルたちも、国境で共同作戦を執っただけに、互いの隊員は見知っている。第一三八魔法騎士小隊は遠距離特化の小隊だが、彼――カシムは近距離の白兵戦を得意とする騎士なので、地上の方に応援に回っていたのだろう。そして、その彼が人並み外れた聴力を誇るということもまた、ルシエルの知るところだった。

「何か聞こえたのか?」

 ルシエルが声をかけると、カシムは見知った顔を見つけたせいか、ほっとした顔になる。

「クローネル小隊長! 森ん中からヤバイの来そうなんすよ! もう足音聞こえてる!」

「……そんなの聞こえるか?」

「いや……」

 周囲の騎士たちは首を傾げたが、アルヴィーは耳を澄ました。確かに、遠くかすかながら、地面を踏みしめる重々しい音が耳に届き、彼は表情を厳しくしてルシエルに囁く。

「本当だ。俺にも聞こえるし、アルマヴルカンもそう言ってる」

 その情報にルシエルは息を呑む。森の方角を振り仰ぎ、そして部下たちに指示を出した。

「――総員、戦闘準備だ。来るぞ!」

 鋭く辺りに響くルシエルの声に、部下たちはもとより、他の騎士たちも戸惑いながらもつられたように武器を手にする。その時、木々を無理矢理へし折る音と、鳥たちの狂ったような鳴き声が聞こえ、森が大きく揺れるのが夜目にも明らかに分かった。

 そして――月明かりの下、“それ”は姿を現す。


「……ベヒモスが……二体だと!?」


 誰かが絶望の呻きを漏らした。

 小山のような巨躯きょくを揺らし、悠然と森を出て砦に向かって歩いて来るのは、魔物の中でもトップクラスの頑丈さと体力を誇るベヒモスだ。しかも番か何かなのか、二体寄り添うように現れた。

「じょ、冗談だろ……! 二体もどうしろっていうんだ!」

「お、屋上! 魔動兵装だ! 撃て、撃てぇっ!」

 上ずった声が聞こえたのかどうか、屋上に設置された魔動兵装が続けざまに攻撃魔法を放った。ベヒモスの体躯のあちこちに命中するが、ベヒモスはまったく意に介した様子もなく、逆に牙を剥き出して咆哮する。そして後足で地面を掻き、突進する気配を見せた。その行く手を見て、シャーロットが声をあげる。

「あそこに――まだ人が!」

 彼女が指差す先、ベヒモスの進路にいるのは、さっき後を引き継いできた小隊だ。それを見た瞬間、アルヴィーは地を蹴っていた。

「――アル!?」

 ルシエルの呼び声も置き去りに、アルヴィーは地を駆けながら右腕を振り翳す。

「させるかっ……!」

 ベヒモスが身を低くし、突進するまさにその寸前――アルヴィーの放った《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》が、ベヒモスの片方の頭を撃ち抜いた。さすがに《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》は効くようで、頭を撃ち抜かれたベヒモスは頭部の半分ほどが爆砕、残った部分も炎に包まれながら、地響きを立てて倒れる。

「ド、《擬竜騎士ドラグーン》……!」

 一撃で斃されたベヒモスを呆然と眺めていた騎士たちが、アルヴィーに気付いて目を見張った。小隊の前に立ちはだかる形で、アルヴィーは戦闘形態の右腕を構える。

「あいつは俺が相手するから、あんたらは下がれ!」

「あ、ああ、すまない――」

 はっと我に返った騎士の言葉を断ち切るように、生き残ったベヒモスの咆哮。巨木のような前足を振り上げ振り下ろす、ただそれだけで地面が揺れる。憤怒に両眼をぎらつかせたベヒモスは、標的をアルヴィーに変えて突進して来た。

「ちっ――!」

 まだ騎士たちが退避していない。アルヴィーはベヒモスの注意をさらに引くべく、その足元に《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を撃ち込み、騎士たちとは逆方向に駆け出した。爆炎を踏み越えて来たベヒモスは、その挑発に見事に乗り、鼻息も荒くアルヴィーの方に進路を変える。

(――まさか、レクレウスの時の経験がここで活きるなんてな)

 レドナに投入されるさらに前、アルヴィーたちは国内随一の魔物多発地帯・サーズマルラで、連携訓練と銘打って魔物を討伐していた。それこそ、ベヒモスやサイクロプスといった魔物たちをだ。ただ、《擬竜兵( ドラグーン)》たちのそれは連携というよりは、各々(おのおの)が片っ端から魔物を狩っていたようなものだったが。とにかくその経験のおかげで、アルヴィーはそれらの魔物を倒すための一定のセオリーをすでに手に入れている。

(まずは――足!)

 右腕を一閃。《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》がベヒモスの前足を薙ぐ。突進の最中に足を焼き斬られ、体勢を崩して倒れ込むベヒモス。そこへアルヴィーが駆け寄り、《竜爪( ドラグ・クロー)》を伸ばした。


 ――あの時、母の命をあっさりと奪い去っていった怪物。

 だがそんな怪物を、今の自分は容易くほふってしまえる。村を蹂躙じゅうりんされた悔しさや憎しみを、今このベヒモスにぶつけ、むごたらしく殺すことだってできる。

 それでも、その力に呑まれてしまえば、自身もまた魔物と同じ存在ものになってしまうのだ。


(……この力は、守るために使うんだ)


 そうでなければ、ルシエルの剣にはなれないから。

 憎しみを飲み下し、アルヴィーは《竜爪( ドラグ・クロー)》をベヒモスの首に当て――《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》でその首を一息に斬り落とした。


「――アル!」

 ルシエルを筆頭に駆け付けて来た第一二一魔法騎士小隊は、倒れ伏す二体のベヒモスに息を呑む。

「……何か、俺ら要らねえっぽくね?」

「そういうわけにもいかんだろう」

 顔を引きつらせて呟くカイルに、ディラークが突っ込む。そんなやり取りを余所に、アルヴィーは森の方を振り仰いだ。

「――まだ来る」

 一瞬の後、森がざわめく。梢を掻き分け顔を出したのは、単眼の魔物・サイクロプスだ。それも今度は三体。そしてその後ろから、竜のような頭部を持ち、手足と翼のない蛇のような胴をした巨大な魔物が、木々の間を這いずって姿を現した。ユフィオが上ずった声をあげる。

「あ、あれ――ワームじゃ……!」

 ワームといっても虫ではない。竜の亜種ともいわれる強大な魔物だ。騎士たちの間に絶望のざわめきが湧き起こった。


「ワームなんて、今まで出て来なかっただろ!? 何で今回に限って……!」

「あんなの、どうしろっていうんだ!」


「……で、どうしましょうか、隊長」

「サイクロプスは砦の魔動兵装の集中砲火があれば、どうにかなるだろう。問題はワームだ……」

 さすがに少々捨て鉢気味なシャーロットの問いに、ルシエルがそう呟いた時、アルヴィーがはっとして右腕をかざした。

「――みんな、下がれ!」

「え――」

 シャーロットが問い返そうとした時。

 咆哮。そして視界が炎に染まる。

 ワームが吐いたブレスだということに、一同はその時ようやく気付いた。だが間一髪、アルヴィーが張った《竜の障壁( ドラグ・シールド)》に遮られ、すぐ眼前で炎が渦巻いているというのに、その熱すら感じない。

『ふん。火竜たるわたしに火のブレスで挑むとは、舐めてくれたものだ』

 自身のうちで呟くアルマヴルカンに、アルヴィーは何だか嫌な予感を覚える。それが外れていなかったことは、次の瞬間証明された。

『主殿、障壁を消せ。あの愚か者に、炎の使い方というものを教えてやろう』

「やっぱりかー!」

 どうやらあのワームは、火竜――それも《上位竜( ドラゴン)》に真正面から喧嘩を売ってしまったらしい。

 アルヴィーたちがまだ生きていることに気付いたのか、首をもたげたワームは不快げな唸りをあげる。サイクロプスたちは最初のブレスの時点で、巻き込まれては敵わないとでも思ったのか、ワームから離れて砦を目指していた。そのサイクロプス目掛けて、砦からの魔動兵装の攻撃が殺到するが、サイクロプスも魔法を使う魔物だ。しかもベヒモスには及ばぬまでも強靭な外皮と、人間からすれば無尽蔵に等しい体力、膂力りょりょくを持つ。多少の被弾など、彼らには微風程度のものでしかない。

「――ルシィたちは下がれ! ワームは俺が相手する!」

 障壁を維持したまま、アルヴィーはそう叫ぶ。ワームの吐いた炎はまだ鎮火しきっていない。今障壁を消してしまうと、アルヴィーは平気でもルシエルたちがただでは済まないのだ。

 ルシエルは逡巡しゅんじゅんし、そして決断した。

「……分かった、僕たちはサイクロプスを何とかする!」

「ええ!? レドナで歯が立たなかったっしょ!?」

「無茶です、隊長!」

 途端に隊員たちから総ツッコミが入るが、ルシエルは意に介さなかった。

「考えがあるんだ。それが通じなかったら後方に下がる」

「……分かりました。その考えとやらに賭けましょう」

 ディラークが頷く。そして第一二一魔法騎士小隊は、アルヴィーを残してサイクロプスの迎撃に向かった。それを確かめ、アルヴィーは《竜の障壁( ドラグ・シールド)》を消す。途端に刺すような熱気が襲い掛かるが、彼にとって炎は何らダメージにはならないのだ。

 ただ一人残った無謀な人間を、今度こそ焼き尽くしてやらんとばかりに、ワームが再びあぎとを開いた。吐き出された業火が渦を巻き、アルヴィーに襲い掛かる。

 だが生憎、彼は火竜の魂を宿す人間だった。

 アルヴィーを襲った炎のブレスは、しかし彼を焼き尽くすことなく、逆にその身を守るように周囲を巡る。右肩の魔力集積器官マナ・コレクタが紅く輝くと、炎はそれに惹かれるように揺らめき、吸い込まれていった。明るい朱金の光が五枚のはねの内側からにじみ、それに呼応するように、《竜爪( ドラグ・クロー)》が脈動するかのごとく同じ朱金の光を放つ。


『……さて。割増で返してやろう』

「食らえっ――《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》っ!!」


 ワームに向けて真っ直ぐ伸ばされた《竜爪( ドラグ・クロー)》の切っ先に、眩い光が生まれる。次の瞬間、それは一筋の太く強い光芒となって、夜の大気を焼きながら貫いた。その熱に、《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》が通った真下の地面から火の手が上がり、ワームまでの道を照らし出す。

 炎を引き連れてほんの一瞬でワームに迫った手加減なしの《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》は、三度みたびワームが吐いた炎すら呑み込み、その頭部を捉えて消し飛ばした。

 《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》の直撃部分は骨すら残らず、頭部を失ったワームの胴体が、ゆっくりと崩れ落ちる。炎のブレスを吐くという攻撃上、ワームも炎にはある程度耐性があるはずだったが、そんなもの知ったことではないと言わんばかりの、清々しいまでの力技だ。その威力の凄まじさに、騎士たちは声もなくただ見入るしかない。

「ふう……そうだ、ルシィの方は――」

 ワームを下し、アルヴィーはサイクロプスに向かった親友の方を振り返る。まさにその時、戦場の一角に炎が咲いた。


「――薙ぎ払え、《炎風鎌刃フレイムサイス》!!」


 ルシエルの放った魔法が、炎を纏ってサイクロプスの一体の足を直撃。爆発的に膨れ上がった炎混じりの風が、サイクロプスの皮膚を焼き、その身を鋭く抉る。

「ガアアアアアアッ!!」

 サイクロプスの憤怒ふんぬに塗れた絶叫がとどろき、ぎらついた単眼がルシエルを捉えた。

「今だ、掛かれ!」

「了解!」

 ルシエルの号令一下、第一二一魔法騎士小隊が一斉に攻撃を開始する。シャーロットとカイルがサイクロプスの左右を駆け抜けざま、それぞれの得物を振るった。ルシエルの魔法で傷付いた箇所を正確に一撃。二人はそのまま一撃離脱ヒットアンドアウェイで、サイクロプスの攻撃範囲から逃れる。

『戒めろ、《地鋭縛針ガイアジェイル》!!』

 そこへクロリッドとジーンが唱和詠唱で放った《地鋭縛針( ガイアジェイル)》が発動、サイクロプスの両足を一瞬ながら縫い止める。同時に、ユナの連続射撃がサイクロプスの単眼に殺到した。しかしサイクロプスは目の周囲に魔法で障壁を展開、その攻撃を受け止める。ユナの放った火球は障壁に阻まれ、弾けるような音と炎の輝きを撒き散らした。

 だが――それらはすべて、布石でしかなかったのだ。

 隊員たちがサイクロプスの動きを止めている間、ルシエルはディラーク、ユフィオと共に、サイクロプスの足下に到達しようとしていた。

「――ディラーク、今だ!」

「了解!」

 ディラークは足を止め、両手を組んで腰を落とす。そこへ地面を踏み切ったルシエルが着地。魔動巨人ゴーレム戦の時と同じく、身体強化魔法全開のディラークの力を借り、ルシエルは跳ぶ。しかしサイクロプスの身長は魔動巨人ゴーレムより高く、そのままでは目標の高さまで到達できない。

「阻め、《二重障壁ダブルシールド》!」

 そこへユフィオが魔法障壁を展開。だがそれは本来の用途とは違い、即席の足場としてだ。足下に展開された魔法障壁を蹴り、ルシエルはさらに高く、サイクロプスの眼前まで跳び上がる。サイクロプスはユナの火球でその目を眩まされ、その瞬間までルシエルの姿を認識できなかった。

 ルシエルは《イグネイア》を渾身の力で突き出す。竜鱗の刃はサイクロプスの障壁とぶつかり合い――そして貫いた!


「――斬り裂け、《風刃エアブレイド》!!」


 単眼に突き刺さった《イグネイア》の剣身から、魔法が放たれる。それはサイクロプスの頭蓋の中で荒れ狂い、その命を断ち切った。

 絶命したサイクロプスが崩れ落ちる。それに巻き込まれないよう、その一瞬前にルシエルは剣を引き、飛び退いていた。

「……ユフィオ!」

「はい! 阻め、《二重障壁ダブルシールド》!」

 再びユフィオが張った魔法障壁を足場に、ルシエルは落下の勢いを殺しながら地面に下り立つ。その眼前で、サイクロプスが地響きを立てて地に伏した。

「――やったっすね、隊長!」

「アルの真似事だよ。それより全員、無事か?」

「はい、大丈夫です! でも、まだあと二体――」

 シャーロットが視線を向けた先、残る二体のサイクロプスはまだ健在で、一歩また一歩と砦に近付きつつある。

「行くぞ! とにかく足を止めるんだ!」

 ルシエルはそちらへ向かいかけたが、その時、二体のサイクロプスの周囲の地面が突如盛り上がり、見る間に二体の間を隔てる壁となった。見ると、数十人の魔法騎士たちがサイクロプスの周囲に展開している。おそらく、彼らが唱和詠唱で魔法を使い、サイクロプスを分断しようとしているのだ。


「――足を止めるだけでいい! 後はウチの隊長と砦が引き受ける!」


 その先頭で声を張り上げ、バトルアックスを振り翳してサイクロプスに向かうのはカシムだ。彼は先ほどのシャーロットやカイルと同じく、サイクロプスの巨木のような足に斬り付けそのまま離脱。十人ほどの騎士たちがそれに続き、同じように一撃離脱ヒットアンドアウェイ戦法でサイクロプスの足止めを図る。

 そして――サイクロプスが苛立たしげに唸りながら足を止めた、その時。


 彼方から飛来した一本の矢が、狙い違わずサイクロプスの単眼を貫いた。


「やった……!」

 歓喜の声があがる中、サイクロプスの上体が大きくふらつく。単眼を守る魔法障壁も、《貫通( ピアース)》の魔法付与エンチャントが施された矢には屈したのだ。矢はサイクロプスの頭蓋すら貫通し、後方の地面に着弾した。

 残ったサイクロプスは混乱したのか、周囲を見回し腕をめちゃくちゃに振り回す。そこへもう一本の矢が飛来し、ちょうど頭部に翳される形となった左腕に直撃、貫通した。その痛みに絶叫があがる。

「よし、総員退避!」

 騎士たちは急いで退避する。その直後、砦の魔動兵装の一斉射撃が、サイクロプスに叩き込まれた。

「ガァアアア……!」

 一つ一つはさほどのダメージにならなくとも、それが数十、百と重なれば無視し得ない威力となる。魔法の雨の中で、サイクロプスはついに力尽きた。その巨躯が崩れるように倒れ、そして動かなくなる。

 サイクロプスが斃れても、射撃はしばらく続いた。そしてやっと射撃が止み、騎士の一人が恐る恐るサイクロプスに近付いて、息がないことを確かめた。両手を大きく振る。

「――間違いない、仕留めた!」

 瞬間、騎士たちから歓声が湧き起こった。


「――やったぞ、倒した!」

「サイクロプス三体だぞ、信じられるか!?」

「すぐに砦にも知らせろ!」


 《伝令メッセンジャー》が飛ばされ、戦果はすぐに砦にも伝わった。騎士たちが喜びに沸き、シルヴィオは息をついて弓を下ろすと、“千里眼”の発動を解く。

(……それにしても、ベヒモス二体にサイクロプス三体、それにワームまで。今までそんな話、聞いたことがないぞ。たまたま今回は数が多かったのか、それとも……)

 シルヴィオは遠く暗く沈む森の影を眺める。だがもちろん、彼の疑問に答える者はなかった。



「――やれやれ、一時はどうなることかと思いましたが、何とかしのぎ切りましたな」

 同じ知らせは、砦の指揮を執る司令部にも届いていた。安堵の息をつく部下に、デズモンド・ヴァン・クラウザー一級騎士は笑みを浮かべる。

「これが騎士団の底力さ。――まあ、《擬竜騎士( ドラグーン)》が先に大物を片付けてくれていなければ、危なかったかもしれんがな」

「ベヒモス二体にワーム、その他の魔物に至っては数知れず、ですか……いやはやまったく、空恐ろしい戦果ですな」

「聞きしに勝る戦闘力といったところか。だが、味方であれば心強いではないか」

 はっはっは、と笑ったデズモンドは、部下たちに指示を出す。

「さて、まだ油断はできんが、もう大暴走スタンピードも山を越えたろう。騎士たちを呼び戻さねばな。まだ余力のある者には、申し訳ないが今しばらく警戒任務に就いて貰わねばならないが」

「は、そのように手配致します」

 部下たちが各所に連絡を取り始め、デズモンドは窓から外を見やる。先ほどまでの喧騒が嘘のように静かな夜景だ。

 ――だが、その静けさの裏で何やら企む者がいるかもしれないという報告を、デズモンドは受けていた。

(誰が何を狙っているのかまでは分からんが……そちらにも一応、気は配らねばなるまいな)

 そう考え、デズモンドはそちらに関しても指示を出すため、別の部下を呼び寄せるのだった。



 ◇◇◇◇◇



 双眼鏡で一部始終を確認し、《魔物使い》はため息をついた。

「あーあ、全部やられちゃった。《擬竜兵( ドラグーン)》は分かるけど、ここの騎士団があそこまで踏ん張るとはねー」

「あのクラスの魔物はまだ呼べるか?」

「うーん……あれで打ち止めになったってことは、音が聞こえる範囲にあれだけしかいなかったってことだろうから、難しいかもねー。むしろ、呼べた方だと思うよ? 僕もワームまで来るとは思わなかったしさ。《擬竜兵( ドラグーン)》に一撃でやられたけど」

「話に聞いていた《擬竜兵ドラグーン》の性能スペックよりも、若干上に感じたな。これ以上成長する前に、早く仕留めてしまわねば」

 と、そこへ騎士たちに紛れ込んでいた暗殺者たちや、砦内を調べていた情報部の者たちが、部屋に戻って来た。

「――どうだ」

「騎士団はさっきの襲撃で大分疲弊している。警戒でいくらかは残すだろうが、大部分は砦で休むことになるだろう」

「そうか……となると、やはり今夜、仕掛けるか」

 《黒狼》はククリナイフの柄を握る。

「どこか、良さそうな場所はあるか」

「砦の裏手はどうだ。砦と料理人たちが使っている使用人棟、それに倉庫にも挟まれているから、《擬竜兵( ドラグーン)》の《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を封じられるだろう。それに、外に架かる橋にも通じている」

「そうだな。そこが良いだろう」

 《黒狼》は頷き、暗殺者たちに指示を出す。

「《擬竜兵ドラグーン》をそこに誘き出して始末する。おまえたちは念のため、周りを固めろ」

「了解した」

「《魔物使い》、おまえは脱出時の陽動だ。弱い魔物で良い、できるだけ集めておけ」

「りょーかい」

「では、掛かるぞ。決行は三時間後とする」

 《黒狼》を始めとする暗殺者たちは、準備のためそれぞれ散って行く。残った《魔物使い》は、双眼鏡で窓の外を覗きながら、手慰みのように笛を吹き始めた。



 ◇◇◇◇◇



 大型魔物の襲来を何とか凌ぎ切った騎士団は、疲弊した騎士たちを休ませることを決め、体力にまだ余裕があったり、負傷などで戦闘中に砦に戻り処置を受けて回復した一部の者に、引き続きの警戒を命じた。その中には常人を遥かに超える持久力と戦闘力を持つ、アルヴィーも含まれている。

 だが夜半を過ぎ、夜行性の魔物たちの襲撃もほとんどないということで、アルヴィーは休憩を許され、砦の中を歩いていた。

(何か、精神的に疲れた気がするな……これが落ち着いたら落ち着いたで、次は特別任務だし)

 むしろそちらの方が本番だ。げんなりとため息をつくアルヴィー。せめてこの休憩で一息入れたい。フラムは主に女性陣の希望でそちらに貸し出しているので、じゃれ付かれることもなく休めるはずだ。

 だが欠伸混じりに部屋に戻りかけたところで、彼に声をかけてくる者がいた。

「――すまない、ちょっと手を貸してくれないか。困ったことが起きてな」

「困ったこと?」

「ああ、我々だけでは手が回らなくて……こっちだ」

「あ、ちょっと――」

 手伝うとも言わない内に、声をかけてきた騎士はアルヴィーを促して早足で歩き出す。本音を言えば部屋で休みたかったが、疲れているのは皆同じ。それに《魔の大森林》に入る際には、この砦から装備や食料を分けて貰うことになっているのだ。見慣れない顔だしここに常駐している騎士なのだろうと考え、一応の義理は立てねばなるまいと後に続く。

 騎士がアルヴィーを連れて来たのは、砦の裏手だった。砦の食事を一手に引き受ける料理人たちが寝泊まりしている使用人棟や、食料などを備蓄する倉庫が建ち並び、何となく手狭な印象を受ける。

「……誰もいないみたいだけど、困ったことって?」

 足を止めた騎士に、アルヴィーは近付きながら尋ねる。瞬間、アルマヴルカンの警告がアルヴィーの耳を打った。


『――いかん! 主殿、伏せろ!』

「え――」


 戸惑いながらも、反射的に身を屈めるアルヴィー。ほぼ同時に、その頭上を銀の光が斬り裂いていった。

「……ち、意外と勘が良い」

 大型のククリナイフを手に、騎士は舌打ちする。アルヴィーはそこでやっと気付いた。

「あんた……騎士じゃないのか」

「まあな。もっとも、素性などどうでもいいだろう」

 そう言いざま、彼は踏み込みククリナイフを振るう。太刀筋は鋭く速い。アルヴィーも右腕を戦闘形態に変え、《竜爪( ドラグ・クロー)》を伸ばして応戦するが、技量の違いは明らかだった。

(くそ、やっぱ剣習っとくんだった!)

 ルシエルの剣も速いが、それより刃渡りが短く取り回しやすいククリナイフは、ルシエルの剣よりさらに捉え難い。そのくせ重量がそこそこあるため、一撃がそれなりに重いのだ。相手はその重さすらも利用し、自在に刃を振るってくる。

「――っ!」

 ついにその一撃がアルヴィーの頬を掠める。血が一筋流れ、ひりつく痛みがなかなか引かないことで、アルヴィーは気付いた。

「それ、まさか――」

「ほう、気付いたか? 想像通り、このナイフはおまえを殺せるぞ、《擬竜兵( ドラグーン)》」

 にやりと唇を歪め、男は再び斬り掛かって来る。だがその刃は、不可視の障壁に阻まれた。

「魔法障壁か!」

 男が不快げに顔をしかめた。さすがにククリナイフでは《竜の障壁( ドラグ・シールド)》は破れないらしい。以前それを力技でぶち破られた経験のあるアルヴィーは、内心安堵した。あんな化け物が何人もいたのでは堪ったものではない。

 とはいえ、ここでは《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》が使えず、《竜爪( ドラグ・クロー)》だけで戦わなければならないので分が悪い。せめて戦場を移そうと、アルヴィーは踵を返して駆け出そうとした。

 瞬間。

 ヴヴヴ、と低い音と共に、眼前に着弾する魔力弾。はっとして周囲を見回すと、物陰から魔動銃の銃口がちらりと見えた。持ち込みなのかここの備品を盗んだのかは知らないが、どうやら周囲も固められているらしい。

「くそ……!」

 まんまと罠に嵌まったのだと理解し、アルヴィーは自身の迂闊うかつさを恨んだ。元猟師が罠に掛かるなど、笑い話にもならない。

『倉庫なら人もいるまい。いっそ倉庫ごと消し飛ばしてしまえばどうだ』

「できるかっ!」

 物騒なことを勧めてくるアルマヴルカンに思わず突っ込んだ時、《竜の障壁( ドラグ・シールド)》の効果が切れる。こうなれば魔力弾の中に突っ込んででも場所を変えた方がましだと、アルヴィーがタイミングを計り始めたその時。


「――悪いけど、邪魔するね」

「こっちにも都合があるから」


 少女の涼やかな声と共に、周囲を固めていた男たちの魔動銃がいきなり向きを変え、明後日の方向に魔力弾を撒き散らした。


「――何だ!?」

「銃が勝手に……!」

 しっかり抱えていたはずの魔動銃がいきなり手の中で暴れ出し、男たちは動揺する。だが、一人が“それ”に気付いた。

「これは……糸か!?」

 いつの間にか細い糸が、魔動銃に巻き付いていた。銃身から引鉄ひきがねに掛けて巻き付いたその糸に操られ、銃は暴発したのだ。

 しかし戸惑っている間にも、魔動銃は次々と向きを変え、勝手に引鉄が引かれて魔力弾を吐き出す。その一部が砦の壁や窓を直撃し、騒ぎに気付いた砦の騎士たちが窓から外を覗き始めた。

「……今だ!」

 男たちがそちらに気を取られた隙を突き、アルヴィーは《竜爪( ドラグ・クロー)》を振り抜く。だが相手もさるもの、即座に反応してアルヴィーの一撃をククリナイフで受け流した。

 だが、それ以上の戦闘継続は、少なくとも男たちの側の望むところではなかったらしい。

「――失敗だ! 引き揚げろ!」

 どうやらククリナイフの男がリーダー格のようで、彼の指示が飛ぶや、周囲の連中は魔動銃を捨ててあっという間に姿を消す。もちろんククリナイフの男もしかりだ。アルヴィーは追いかけようとしたが、騎士に呼び止められ事情を訊かれ始める。その時にはもう、男たちは影も形も見えなくなっていたので、追跡は断念せざるを得なかった。

(……あいつは、竜素材の武器を持ってた……俺が《擬竜兵( ドラグーン)》って知ってて狙って来たんだ。レクレウスの奴なのか?――でも、途中で邪魔に入った、あれは……)

 騎士に促されて砦に戻りながら、アルヴィーはふと周囲を見回す。しかしそこにはただ、建物が静かに佇み、月明かりが射すだけだった。



 ◇◇◇◇◇



 砦裏手に建ち並ぶ、使用人棟の屋根と倉庫の屋根の上。それぞれに陣取っていた少女たちは、暗殺者たちが撤退するのを確かめて、自分たちも脱け出すことにした。糸を使って音もなく建物を渡り、難なく砦の外に出ることに成功する。

「……何とか間に合ったね」

「念のために様子見に来て正解だったね」

 ブランとニエラは頷き合い、自分たちが拠点としている森の中に急ぐ。周囲の魔物を掃討し、魔物除けの結界を敷いて潜み、時折砦の様子を見るために潜入していたのだ。何しろ彼女たちの装備が三メイルもある人形な時点で、どう頑張っても砦にこっそり持ち込むのは無理だったので。

 ブランとしてはあの《擬竜兵ドラグーン》の少年に少々思うところはあったが――何しろ国境では危うく捕まるところだった――彼女にとって最優先すべきは主の命令だ。その主が《擬竜兵( ドラグーン)》を殺させるなと命じたのだから、ブランも彼を助けることに異存はない。

「でも、あいつらあれで諦めるかな?」

「分からない。でも、これで《擬竜兵( ドラグーン)》も警戒するだろうし」

「っていうか、しなかったらただの馬鹿」

「だね」

 時折辛辣な言葉も混じりつつ、彼女たちはひとまず任務成功の報告を携え、拠点へと戻って行く。


 様々な思惑を呑み込み、ラース砦の夜はようやくけようとしていた。


最近アクセス・ブクマが跳ね上がってて嬉しい限りです。ありがとうございます。

これからも拙作をよろしくお願い致します。

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