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片翼のドラグーン  作者: 八月 あやの
第二章 王都への道
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第11話 危難

 国境から王都ソーマへと伸びる街道を、騎士団の隊列が規律正しく辿っている。

 イル=シュメイラ街道と呼ばれるこの道は、王都ソーマからいくつかの貴族領の中心都市、そしてレドナを経由し、隣国レクレウスまで伸びる道である。もっとも、レクレウスと戦争状態になってからは、両国とももっぱら国内での行き来にのみ使われているが。地方と王都との貿易路としても、この街道は重要なルートだ。そもそもこの道は、大陸環状貿易路グレート・ロードと呼ばれる大陸各国の主要都市を結ぶ貿易路の一部なのである。

 レドナからイル=シュメイラ街道を辿ると、まずオルグレン辺境伯領の領都(ファルレアン王国では、伯爵領以上の規模の領地の中心都市は領都と呼称される)・ロウェルを通り、次いで子爵家の領地が集まる子爵家領地群、そしてクローネル伯爵領に入って領都・ラクルマルディを通過する。クローネル伯爵領はルシエルの実父、ジュリアス・ヴァン・クローネルが治める地だ。もっとも、アルヴィーがルシエルから聞いた話によると、領主としての仕事は長男(というかそのお目付け役の代官)に任せ、自身は王都に住んで財務副大臣として王宮に出仕しているらしい。

 どんな土地なのかと楽しみにしていたアルヴィーだったが、隊列は未だ子爵家領地群の半ば。クローネル伯爵領までは、まだあと二日は掛かるとのことだ。

「……あのさー」

「何だ」

 にべもない、というのはこういうことを言うのだろう。アルヴィーの監視役として同じ馬車に乗り込んでいる少年騎士は、こちらに目もくれずに素っ気ない声だけを返してくる。

 年の頃は十代半ば。青みがかった銀髪を肩の辺りまで伸ばし、マリンブルーの双眸は最初に刺々しい眼差しでアルヴィーを睨んだ後は、視界に入れる価値もないとばかりに頑なにこちらを見ない。整った顔立ちの彼はあと二、三年もすれば貴公子という言葉が相応しい青年になるだろうが、今は眉間に皺を寄せ、その美少年ぶりも三割減である。

「捕虜はおとなしくしていろ」

「捕虜、ねえ……多分俺レクレウスに戻れないけど、そういうの捕虜って言うの?」

「うるさい」

 会話にならない。

 ため息をついて、アルヴィーは申し訳程度の小さな窓から外を覗く。現在通っているこの子爵領は、領主が住む中心都市の他は村がいくつかあるだけの小さな所領だそうで、街道も森を切り開いて通されたものである。当然周りは森しか見えない。

(……ん?)

 ふと、その木立の間に何か人影のようなものを見た気がして、アルヴィーは目を凝らした。だが、それが見えたのはほんの一瞬だけで、しかも馬車とて前に進んでいるのだ。すぐにその辺りは後ろに通り過ぎて見えなくなってしまう。

(……気のせいかな)

 それでも少し気になって、アルヴィーは窓の外を見つめ続ける。

 と――前から馬に乗った騎士が走って来て、この先で隊列を休めることを告げて行った。アルヴィーは首を傾げる。確かに騎士たちもずっと騎乗しっ放しでは辛いので、時折休憩を挟みながらの帰還ではあったが、このタイミングでの休憩はかなり早い気がしたのだ。

 やがて隊列は、街道沿いの広く開けた場所に入った。イル=シュメイラ街道には、こうした進軍やキャラバンの野営のために、ところどころにこうして広場のような場所が設けられている。もっとも、国がわざわざ設置したわけではなく、ここを通る人々が必要に迫られて街道傍の森を切り拓き、それがだんだん広くなっていったという経緯があるが。

 ともかく騎士団はそこで一時の休憩に入ったが、隊を率いるジェラルドがここでその進みを止めたのは、遥か後方から追い付いて来た一羽の鳥が原因だった。


「――旧ギズレ領防衛の応援要請、ですか?」


 小隊長たちを集めてジェラルドが切り出した本題に、小隊長の一人が問う。頷いて口を開いたのは、ジェラルドの副官たるパトリシアだ。

「先ほど、ディルのアークランド大隊長から応援要請が届きました。――レクレウス軍は旧ギズレ領攻略のため、魔動巨人ゴーレムを複数投入しているようです。知っての通り、レクレウスは魔動機器に関しては大国。魔動巨人ゴーレムの性能も高いと推測されます。そのためアークランド大隊長は、現有戦力では防衛は困難と判断、こちらに応援を要請しています」

「レドナの部隊は動かせないからな。それを除くと、一番近場にいて自由が利くのが俺たちってわけだ。まあ、旧ギズレ領を向こうにられちゃ確かに困るからな、援軍を出さないって選択肢はない。で、だ。半数を援軍として出すことにする。そいつらは悪いがここからとんぼ返りだ。急ぎ引き返してディルに向かってくれ。物資は配布するし、魔法やアイテムによる移動補佐も許可する」

「では、これから呼ぶ小隊は準備を整え、今から三十分後までに集合の後、ディルに向かってください。第一〇五魔法騎士小隊……」

 パトリシアが小隊名を読み上げ始める。レドナでの報告に基づき、損耗の少ない隊を選んで編成した応援部隊だ。呼ばれた隊の小隊長はすぐに、隊員たちにこのことを伝えて準備に入るため足早にこの場を去って行く。

 それを何となく微妙な顔で見守っている上官に、セリオが声をかけた。

「……隊長、どうされました?」

「ああ、何というか気に食わん。どうにも上手く乗せられてる感が拭えなくてな」

 ジェラルドは頭上の木の枝に止まった鳥を見上げた。鱗皮鳥リドラバードと呼ばれるその鳥は、全体的な身体つきこそ鳥のそれだが、その表皮は頭と翼以外は羽毛ではなく鱗で覆われ、尾も蜥蜴とかげのように長く伸びている。“バード”などと名が付きつつも、立派に魔物の一種だった。鳥の部分も猛禽のように鋭い目と尖った嘴を持っており、とにかく飛翔能力に優れ気が強い。そのため、騎士団で文書や小さな荷物のやり取りによく使われていた。飛翔能力が高いということはそれだけ早く先方に着くし、気が強いので他の大型鳥類や飛行型の魔物に怯えることもない。さすがに大型の飛行型魔物相手だと分が悪いが、鱗皮鳥リドラバードは割と賢いので、きちんと仕込めばとにかく先方に辿り着くことを第一とし、無用な争いは避ける。荷物は足首に取り付けた小型の魔法式収納庫ストレージに入れて運ぶので、さして飛行の邪魔にもならない。

 だが、鱗皮鳥リドラバードでの文書運搬も確実に届くというわけではないので、こうした応援要請のような“必ず相手に届かないと困る”文書は、飛竜ワイバーンで届けるのが普通だった。ジェラルドもレドナからの報告を王都に届ける際、王都から飛竜ワイバーンを寄越して貰って送ったのだ。ディルにも飛竜ワイバーンはいるはずなので、それを使わなかったのはあちらの状態がそれだけ切羽詰まっているということか。

「確かに、魔動巨人ゴーレムなんぞを持ち出されちゃ、人間だけじゃ分が悪かろうが……そもそもレクレウスは、何だって旧辺境伯領への侵攻ごときに魔動巨人ゴーレムなんて持ち出しやがった? 費用対効果ってもんがあるだろうが。ディルは街道からも外れてるし、レドナに比べりゃ旨味はない。完全に足が出るぞ」

「でも、レドナにも奥の手の《擬竜兵( ドラグーン)》を出して来ましたよ」

「ありゃ稼働試験の側面もあったし、そもそもあれだけド派手に暴走するなんてのはレクレウスにしても計算違いだったろうよ。本来なら重要施設だけ制圧してほとんど無傷で街を手に入れるつもりだったんだろうし、事前の計算じゃ元は取れてたはずだ。だが旧ギズレ領に魔動巨人ゴーレムは事情が違う。今さら魔動巨人ゴーレムの性能試験なんざする必要もねえし、あっちにとっても魔動巨人ゴーレムは貴重だ。旧ギズレ領に投入するには勿体無さ過ぎる。俺なら素直に人間だけで侵攻させるがね」

「じゃあ、何か他に目的がある……?」

「だろうな。――俺がレクレウス側なら、狙うのはまず……」

 ジェラルドは遥か後方を見やる。そちらには、護送途中の《擬竜兵( ドラグーン)》を乗せた馬車があるはずだ。セリオの顔も緊張で引き締まった。

「……向こうはまだ、奪還を諦めてないってことですか」

「まあ、俺があちらさんでもあれは惜しいからな。かといって、応援要請を握り潰すわけにもいかんし、要請の文書に書いて寄越してきた戦況が事実なら、半分は向こうに回さなきゃ追っ付かん。まあこっちは、残った半数で何とか回すしかねえな。――ってなわけで、気ィ引き締めろよ、セリオ」

 ジェラルドはそう言い置き、さらさらと返信の文書を書き上げると、鱗皮鳥リドラバードを呼んで腕に止まらせ、その足の魔法式収納庫ストレージに書き上げた文書を放り込む。鱗皮鳥リドラバードは一声鳴くと、ジェラルドの腕を蹴って空高く舞い上がった。

 ――半数を旧ギズレ領防衛の援軍として向かわせ、隊列を組み直すと、帰還部隊も王都へ向けて出発する。人数は減ったが、その分ペースも上げられるはずで、行程の見直しが必要になるかもしれない。


 そんな騎士団の隊列を見送る影が一つ、広場を囲む森の中にあった。


「……へへ、計画通りだ」

 人影はそう呟き、木立の間を風のように擦り抜けて駆けて行く。補助魔法かアイテムでも使っているのか、その速度は速い。あっという間に騎士団の隊列を追い抜き、さらに先へ。

 そして程なく、森の中で息を潜めて待ち構える集団を、彼の目は捉えた。

「――姐御! 計画通りだ、あいつら半分くらいディルに向かわせたぜ!」

「そうかい。そりゃいい……ふふ、五千万クリーグがいよいよ近付いて来たよ」

 姐御と呼ばれた女、ノイン・バルゼルは、待ちきれぬというように舌舐めずりする。背に負ったトゥハンド・ソードを片手で軽々と抜き放って掲げ、彼女は凄絶に笑った。

「さあ――金貨五千枚の大仕事だよ。おまえら、あのポーションは飲んだね? 遠慮は要らない、派手にやんな!」

「おう!」

 答えるは周囲に集う男たち。どう見ても荒くれ者という風貌の《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》の傭兵たちは、それぞれ自分の得物を手に、野性の獣のように息を殺して時を待つ。

 やがて――彼らが窺う道の先から、ファルレアンの騎士たちが姿を現した。先頭を行くのは指揮官か、黒髪黒目の只者でない雰囲気の男。それをやり過ごし、しばらくして進んで来たのは簡素な馬車だ。それを確認し、彼女は号令を掛けた。


「――よし、ダズレイ、いっちょカマしてやんな! 相手は滅多なことじゃ死なない化け物だ、全力でやれ!」


 ダズレイと呼ばれた男は、魔法士だった。手にした杖を馬車に向け、詠唱する。

「了解! 爆ぜろ、《豪炎竜巻バーストトルネイド》!」

 次の瞬間、彼の杖から凄まじい勢いで炎が渦巻き、馬車を襲う。そして馬車は、為す術もなく業火に包まれた――。



 ◇◇◇◇◇



 休憩を終えて再び王都へと進み始めた騎士団――その後方に配された、護送用の馬車の中で、アルヴィーは小さな窓の外に目を凝らしていた。

(やっぱ、気のせいだったのかな。さっきの人影みたいなの……)

 休憩の直前に、森の中に見えた人影のようなもの。それがどうしても気になり、アルヴィーは出発してからずっと外を見つめているのだ。

 と――。

(! 今、何か森ん中走ってった……!?)

 ほんの一瞬、木立の間をすり抜けて行ったように見えた影。獣のそれとは明らかに違うと、猟師として森歩きにも慣れていたアルヴィーには一目で分かった。

 とりあえず告げておこうと、監視の騎士たちを振り返る。

「なあ、今、森ん中人影みたいなのが走ってったみたいだけど、報告した方がいいんじゃね?」

「わざわざ何を言うかと思えば……いくら森の中といっても、ここは子爵領。地元の猟師か何かだろう」

 銀髪の少年騎士が、馬鹿にしたように鼻で笑う。

「でもこの辺り、猟師が来るにしても遠過ぎないか? ええと、誰だっけ」

「貴様に名乗る名などない」

「えーと、じゃあ騎士その一で」

「無礼な! 僕はランドグレン伯が一子にして三級魔法騎士、ウィリアム・ヴァン・ランドグレンだ!」

 どうやら少年騎士は、乗せられやすい性格らしい。同じく監視のため乗り合わせていた別の騎士たちが、肩を震わせて笑いを堪えている。

 ともあれ、ウィリアムが相手にしようとしないので、アルヴィーは再び窓の外を覗く。と、森の奥で何かちかりと光ったような気がした。

 ざわり、森が不穏にざわめき、アルヴィーの全身に鳥肌を立たせるほどの戦慄が走る。

(やばい――!)

 アルヴィーは鋭く振り返り、騎士たちに叫んだ。


「伏せろぉぉぉっ!!」


 次の瞬間――森の中から放たれた凄まじい熱量の炎の渦が馬車にぶつかり、あっという間に馬車は炎に包まれた。

「ぎゃあっ!?」

「ひっ、火が――!」

 外の騎士たちの悲鳴、馬車に繋がれた馬の悲痛ないななき。馬車内の騎士たちは、アルヴィーの叫びに反射的に床に身を投げ出し、炎に包まれることは免れた。だが繋がれた馬が暴れているせいで馬車は大揺れ、騎士たちは魔法を使う余裕もなく、必死に床にしがみ付いている。とはいえ、この火勢では遠からず丸焼けだ。唯一、火竜の細胞を取り込んだアルヴィーだけは、炎に対して高い耐性を持っているので、例え馬車が燃え尽きようと余裕で生還できるが、騎士たちを放ってもおけない。

 アルヴィーは暴れる馬車の中、炎が放たれたのとは反対側の壁に何とか辿り着き、右足を振り上げた。

「……外にいる奴、どけ―――っ!!」

 そう怒鳴るが早いか、渾身の力で馬車の壁を蹴り付ける!

 ドカン、と爆撃のような音がして、馬車の壁が吹っ飛ぶというのも生温い勢いで粉砕された。《擬竜兵( ドラグーン)》の脚力に、頑丈とはいえあくまでも普通の域を出ない馬車が耐えられるはずがない。だがとにかく脱出路はできたので、アルヴィーは床にしがみ付く騎士たちを、片っ端から壁の穴経由で外に放り出す。もう馬車は暴れていないところを見ると、馬は力尽きたか、馬具が燃えて逃げたかだろう。

 最後にアルヴィーも脱出するのと、全体に火が回った馬車が燃えながら崩れ落ちるのがほぼ同時だった。炎と火の粉を撒き散らしながら馬車は崩れ、騎士たちがわっと後ずさる。アルヴィーにも多少降り掛かったが、彼にとっては埃と大差ないのでさっさと払い落とした。

 が――そこへ、再び森の中から魔法が放たれる!

「爆ぜろ、《豪炎竜巻バーストトルネイド》!」

 再び襲いくる炎の奔流。だが今度は、騎士たちも即座に反応して魔法障壁を展開した。

『阻め、《二重障壁ダブルシールド》!』

 唱和詠唱で展開された魔法障壁が炎を遮り、騎士たちの眼前を炎の幕が覆う。そして――次の瞬間、魔法障壁ごと騎士の一人が斬り倒された!

「ぐあっ――!?」

「な、何だ!? 一体何が――!」

「気を付けろ! 火の向こうに敵が……!」

 騎士たちに動揺が広がり、魔法障壁が炎ごと消える。そこに立っていたのは、大剣を担いだ一人の女だった。グラマラスだが鍛え上げられた肢体は、色気よりも気迫を漂わせ、榛色の鋭い双眸が獰猛な光を湛えている。猛獣を思わせるようなその女は、大剣――トゥハンド・ソードを振り翳すとそのまま騎士たちの戦列に躍り込んだ。

「はっはぁ! おとなしく道を開けなァ!!」

「な、何だこの女――ぐぁっ!」

 トゥハンド・ソードを右手一本で振り回し、手近な騎士を左の拳で殴り飛ばした女――ノイン・バルゼルは、辺りをぐるりと見渡す。そしてアルヴィーの姿を見つけ、その顔に凄絶な笑みを浮かべた。

「見つけ――たァ!!」

「くっそ……!」

 飛び掛かって来る彼女に、アルヴィーは反射的に飛び退りながら右腕を変形させた。封印具や手枷が弾け飛ぶ。そもそもこの程度で、進化した右腕の力は抑えられない。封印具や手枷はあくまでも、周囲に安心感を与えるための小道具ブラフでしかないのだ。

 だがこの状況ではそんなことも言っておられず、右腕を戦闘形態にしたアルヴィーは《竜爪( ドラグ・クロー)》を伸ばした。そして反転、ノインに向かって地を蹴る。

「こっのおおぉぉぉっ!」

 アルヴィーが振るう《竜爪( ドラグ・クロー)》と、ノインのトゥハンド・ソードがぶつかり合い、甲高い音が響いた。交錯は一瞬、双方弾かれるように離れ、そして今度はノインが振り回した剣をアルヴィーが受け止める。ギリギリと刃が噛み合う鍔迫り合い。彼女の膂力に、アルヴィーは内心驚愕する。

(《擬竜兵おれ》と互角!? 女だろ!?)

 身体強化魔法やポーションを使っているにしても、アルヴィーでさえ気を抜けば押し切られてしまいそうな怪力だ。がっちりと噛み合った二振りの刃の向こうで、ノインは舌舐めずりでもしそうな表情で囁く。

「ははッ、期待以上に可愛い顔してんじゃないのさ。結構好みだよ、ボウヤ! 躾けてやるのが楽しみだね!」

「っ、ざけんな――!」

 突き飛ばすように飛び離れ、アルヴィーは周囲に目を走らせる。彼女の他にも、いかにも荒くれ者といった連中が騎士団に襲い掛かり、あちこちで戦いを繰り広げていた。ファルレアンの騎士団の練度は決して低くないのに、どちらかといえば荒くれ者たちの方が押しているように見える。

(何なんだ、こいつら……!)

 だが、それ以上考える暇もなく、ノインがさらに攻め立てる。

「ほらほら、余所見してる暇はないよ、ボウヤ!」

「ちっ――!」

 トゥハンド・ソードが暴風のように荒れ狂い、アルヴィーは何とかそれを捌いていく。速さはルシエルの方が上。だが一撃の重さは圧倒的にこの女の方が勝っていた。鱗が変形した《竜爪( ドラグ・クロー)》でなければ、攻撃の重さに耐えかねて武器を取り落としていたに違いない。

「ボウヤ、おとなしくレクレウスに戻りな! 国じゃ手ぐすね引いて待ってるよ!」

「嫌だね――俺はもうあの国には戻らねーよ! そう決めた!」

 剣では敵わない。早々にそう悟り、アルヴィーはじりじりと立ち位置を移動する。《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》なら膂力は関係ない。だがそのためには、ファルレアンの騎士たちを巻き添えにしない位置に移動する必要があった。《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》は貫通力が強過ぎる。背後に誰かいれば、巻き添えにしてしまう可能性があるのだ。

 やがて、ノインの背後に誰の姿もなくなる一瞬――それを認めた瞬間、アルヴィーは大きく飛び退って距離を取り、《竜爪( ドラグ・クロー)》の切っ先をノインに向ける。森の中の上に対人なので、威力は大分絞らなければならないが、それでも人一人を行動不能にし、場合によっては死に至らしめるには充分な熱量だ。


 ――人を、殺すかもしれない。

 初めて、自分自身の意思で。


(……でも、俺は決めたんだ。レクレウスには戻らない――ルシィの傍にいるって!)


 何を信じられなくとも、ただ一人、心から信じられる唯一の友に誓った言葉。

 その言葉だけは、違えるわけにはいかないから。

 だからアルヴィーは、ためらいを捨ててその一撃を放つ。


「《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》――!」


 ……だが。

「はっ! 温いよボウヤ!!」

 咆哮。ノインは何と真正面から《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を待ち受け――そしてその軌道に剣を振り下ろした!

 ぶつかり合う光と刃、荒れ狂う爆炎。だが、その炎さえも斬り裂いてノインは生還、逆にこちらも無傷の剣を振るう。

「っ、らァ!!」

「くっ――!」

 危ういところで飛び退いたが、剣先がアルヴィーの胸元を掠めていく。

「嘘だろ――化け物かあんた!」

「あっはは! 褒め言葉と受け取っとくよ! そらそらそらァ!!」

 アルヴィーの驚愕を笑い飛ばし、ノインはさらなる連撃を浴びせてくる。

「くそ……《竜の障壁(ドラグ・シールド)》!」

 展開した不可視の魔法障壁に、ノインの剣もさすがに阻まれた。しかし次の瞬間、トゥハンド・ソードの切っ先と障壁がせめぎ合い、そして突き破られる!

「……はあ!?」

 目を見張りながらも、アルヴィーはとっさに身を躱し、剣先から逃れた。

(《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》も《竜の障壁(ドラグ・シールド)》も破るとか、何なんだあの女!?――いや)

 アルヴィーははっと気付いて、ノインの剣を見やった。

「その剣、ただの剣じゃねーな?」

 ノイン本人の膂力や胆力も確かに凄まじいが、実際に《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を斬り《竜の障壁( ドラグ・シールド)》を破ったのはその剣だ。

 果たして、ノインはあっさりとそれを認める。

「《下位竜ドレイク》を倒して、その骨を素材に誂えた剣さ。――どんなもんかと思ったけど、ボウヤにも効くんだねえ?」

「何が――」

 言いかけて、アルヴィーは気付く。はっとして手をやった胸元の傷は、まだうっすらと血を滲ませていた。

(治りが遅い……!?)

 この程度の傷なら、付いた側から塞がっていてもおかしくないのに。

 アルヴィーが愕然としているところへ、ノインが剣を振りかざして突っ込んで来る。慌てて向き直るが、迎撃が間に合わない――!


「――貫け、《雷槍サンダースピア》!!」

 刹那、第三者の詠唱と、虚空を焼く雷撃が両者の間に鋭く割り込んだ。


「……あ、あんたは」

「つくづく無礼者だな! 僕はウィリアム・ヴァン・ランドグレンだと名乗っただろう! 人の名前も覚えられないのか」

 ブロードソードを構え、闖入ちんにゅう者――ウィリアムはアルヴィーをじろりと睨む。

「いや、覚えてるけど……何で俺のこと助けんの?」

「か、勘違いするなっ! 僕の任務は貴様の監視と護送だ! つまり、王都まで貴様を送り届けることも僕の任務なわけで――」

 しどろもどろと言い訳めいたことをぶち上げかけたウィリアムだったが、

「……へーえ? こっちのボウヤもなかなか可愛いじゃないか」

 とっさに飛び退って雷撃を避けたノインが、ぺろりと唇を舐めながらそう言ったので憤然とそちらに剣を向ける。

「ボウヤだの可愛いだのと、無礼な! 僕はれっきとしたファルレアンの魔法騎士だ!」

「ああそうかい――どの道あたしの敵じゃないがね!」

 嘲笑い、ノインが地を蹴る。

「なっ、は、速――!」

 その速さに目を見張り、とっさに対応できなかったウィリアムを、アルヴィーが横から引っ攫ってノインの剣戟から間一髪で救った。

「何をする!」

「何じゃねえよ、突っ立ってたら死ぬぞあれ!」

「ええい、放せ――」

 こんな時だというのに揉め出した二人だったが、そこへノインが迫る。アルヴィーはウィリアムを左手で突き飛ばすと、右手の《竜爪( ドラグ・クロー)》でその剣を受け止めた。

「くっ……!」

 重い。《擬竜兵( ドラグーン)》の腕力をもってしてさえ、気を抜けば押し切られそうだ。

 と、

 ――キシッ……。

 かすかな音にアルヴィーは気付いた。

(何だ……?)

 軋むようなかすかな音。ノインの剣とがっちり噛み合う《竜爪( ドラグ・クロー)》を見、そしてアルヴィーは目を疑う。

 竜種の鱗にも匹敵する硬度と強靭さを誇るはずの《竜爪( ドラグ・クロー)》――だがノインの剣と噛み合ったその部分に、わずかながらひびが入り、剣の刃が食い込み始めていたのだ。

「なっ……!」

 あり得ない事態に、アルヴィーは絶句し、混乱する。

 それが、隙となった。

「――貰ったァ!」

 その一瞬を突いて、ノインはアルヴィーを突き放し、そして再び剣を振り下ろした。アルヴィーは《竜爪( ドラグ・クロー)》で受け止め――そして罅の部分に正確に刃を叩き込まれた《竜爪( ドラグ・クロー)》は、澄んだ甲高い音と共に斬り折られた!

「――――!」

 アルヴィーは目を見開き――その左の肩口に、《竜爪( ドラグ・クロー)》で勢いをやや殺されながらも、ノインの剣が深く食い込んだ。

「……うあ゛あぁぁぁっ!!」

 肩に潜り込む冷たい刃の感触、そして激痛。よろめくアルヴィーの鳩尾をノインの拳が捉え、吹き飛ばす。

「馬鹿な……《擬竜兵( ドラグーン)》の鱗を斬り折るだと……!?」

 ウィリアムが目を見張るが、そんな呑気なことをしている場合ではなかったのだ。

「姐御、こいつは俺が!」

 ノインの部下の一人が、駆け付けてアルヴィーを担ぎ上げると、そのまま森の中へと駆け出した。

「待て!」

 追おうとしたウィリアムだったが、その眼前に一人の男が滑り込み、剣を繰り出してきた。とっさに剣で受けるが、男の剣に絡め取られ、手から弾き飛ばされてしまう。

「何だ、魔法騎士っつってもまだガキじゃねえか。大して暇潰しにもなんねえなあ」

「何だと……!?」

「グラッツ、少しそのボウヤと遊んでやんな。――おまえたち、そろそろ引き揚げるよ!」

 ノインが声を張り上げると、傭兵たちから野太い返事が返る。

「くっ、この――!」

 ウィリアムは魔法式収納庫ストレージから予備の剣を引き出して構えるが、眼前の男からは余裕すら感じられる。その男が剣士として自分の遥か上にいることが、ウィリアムには分かった。

(――それでも、騎士として任務を失敗するわけには――!)

 じり、と一歩踏み出しかけた、その時だった。


「――纏え、《紫電茨刃ヴォルトソーン》!」


 声と共に、戦場に躍り込んで来たのは黒い魔剣を携えたジェラルド。彼は刃に薄紫の光を放つ稲妻を纏わせ、ノインに斬り掛かった。

「姐御!」

「手ェ出すんじゃないよ!」

 剣士の慌てた声にそう返し、ノインはそれを受けて立つ。

 二振りの剣が奏でるのは、攻撃の重さを感じさせる鋭い音。そして森に逃げた男にはセリオが追い縋り、雷を込めた半透明の鎖で男の足を戒めた。

「戒めろ、《雷痺縛鎖パラライズチェーン》!」

「ぎゃあああああ!?」

 堪らず倒れ込むように転んだ男の肩から、アルヴィーが滑り落ちる。

「大丈夫か!?」

「……あ、れ、何で、肩痛ぇ……」

 痛みと失血でぼんやりしているアルヴィーに、内心舌打ちする。

(治りが不自然に遅い。このまま出血が続けばまずいか……!)

 とりあえずポーションを、と魔法式収納庫ストレージに目をやった時、視界の端を何かが掠めた。


穿うがて、《尖氷投槍アイシクルジャベリン》!」

「――阻め、《三重障壁トリプルシールド》!」


 セリオは自身の直感に従って魔法障壁を展開。そこへ、鋭く尖った氷の槍が周囲の木々を穿ちながら殺到した。辺りの地面や木々、セリオの障壁に深々と突き刺さる氷の槍の穂先――だが、三重の障壁の最後の一枚までは貫ききれず、セリオとアルヴィーの身は守られる。二枚だったら貫かれていただろう。

「……へえ、俺の魔法を防ぐか。あのタイミングで」

 ゆらり、と木々の間から現れた男は魔法士だろう、杖を持っている。セリオは今度こそ、派手に舌打ちした。アルヴィーの治療をしたいのに、どうもそれさえままならなくなりそうだ。あの男、どうやら魔法士として結構な腕を持っている。

「……おまえたち、自分がどこで誰を襲ってるのか、もちろん分かってるんだよな?」

「ふん、当たり前だろう。どの道、騎士団を敵に回したところで今さら痛くも痒くもないしな」

 男が鼻で笑い、杖を構えた。セリオもアルヴィーを庇うように短杖ワンドを構える。

(とにかく、こいつを早く片付けないと――)

 だがその考えが、もう一人の男からセリオの意識を逸らさせた。アルヴィーを担いで逃走しようとしていた男は、セリオの魔法で一時行動不能になってはいたが、意識まで失っていたわけではなかったのだ。偶然セリオの近くにいたおかげで敵魔法士の魔法からも守られた彼は、敵魔法士と対峙するセリオを気絶したふりをしてそっと窺い、彼の意識が完全に自分から逸れたと見るや跳ね起きる。そして素早くアルヴィーに飛び付き、その身体を引きずって逃走に転じた。

「! 待て……!」

 追おうとしたセリオだったが、そこに魔法士が割り込む。どうあってもこの男を片付けなければならないと理解し、セリオは自身の失態を呪いながら杖を構えた。

「とりあえず――邪魔者にはさっさと退場願おうか、な!」

「それはこっちの台詞だぜ、ガキィ!」

 双方、杖を向け合い、ほぼ同時に詠唱する――。


(――向こうも始まったか)


 森の中で突如巻き起こった爆音に、ジェラルドはノインと鍔迫り合いをしながら器用に肩を竦めた。

「やれやれ、騒がしいことだ」

「まったくだよ。――にしても、あんたもなかなか色男じゃないか。あと十歳若けりゃ、好みだったんだけど……ね!」

 両者弾けるように離れ、また打ち合う。だが今度は、ジェラルドはノインの剣を受けるような真似はせず、刃を滑らせるように受け流した。彼の剣から紫電の火花が弾け飛んで小さく輝き、細い稲妻が茨のようにノインの剣にも絡み付く。

「そりゃ光栄だ。だが、男は三十過ぎてからが本番だって言うぜ?」

「あたしは若いのが好きなんだよ!」

「まあ個人の趣味嗜好にどうこうは言わんが……要するにあれか、あんた少年趣味ってやつか」

「何とでも言いな!」

 二撃、三撃。攻撃をこともなげに受け流すその技量に、ノインは内心感嘆する。この男、相当な技量うでだ。

「ははッ、あんたやるじゃないか!」

「そっちこそ、女だてらにずいぶんな力だぜ」

 にやりと唇を歪めるジェラルド。ノインの剣を這った薄紫の細い稲妻が彼女の手を打ち据えて弾け、鋭い痛みを与える。

「……余計な小細工がなけりゃ、もっとイイんだけどね!」

「おいおい、勘弁してくれ。――《下位竜( ドレイク)殺し》の剣と打ち合うのに裸のままじゃ、俺の《オプシディア》が傷だらけになっちまうだろ?」

 双眸に宿る光を鋭いものに変え、ジェラルドは詠唱。

「――戒めろ、《地鋭縛針ガイアジェイル》」

 瞬間、彼の眼前の地面から飛び出す大地の針!

「――ちぃっ!」

 だがその寸前、ノインは鋭く舌打ちして地を蹴り、宙を後方に一転して魔法の効果範囲から逃れ出ていた。野性の獣のような身体能力、そして勘だ。ほぼゼロ距離でそんな魔法をぶっ放すジェラルドも大概ではあるが。飛び退くタイミングがわずかでもずれれば自分も危ないのだから。

「ふん、つくづく野生動物みたいな女だな」

「はっ……そっちこそイカレた男だね。一歩間違えば自分も串刺しじゃないか。そのイカレ具合は嫌いじゃないけどね――それにしても、あたしも意外と有名なのかい? ここで名乗った覚えはないけどね」

 すると、ジェラルドはしれっと言い放った。

「ああ、森の中でもたもたしてる奴がいたからな。締め上げた後に薬で吐かせた。隊長クラスは持ってるんだぜ、自白薬。――まあ、一等キツイのを使ったから、この後使い物になるかは分からんがな」

 後方での騒ぎを聞き付けて、隊列の立て直しをパトリシアに任せ、セリオを連れて後方に向かっていたところ、騎士団の列に突っ込むタイミングを逃し、木々に身を隠して隙を窺っていた怪しい姿を見つけたのだ。速攻で叩きのめし、腕と膝の骨を砕いた後、尋問のため携帯が許されている自白薬を喉に突っ込んで洗い浚い吐かせた。何しろ誰何すいかした途端に斬り掛かって来たのだから、れっきとした正当防衛である。そしてこの国では重犯罪者に人権などない。というわけで、そのまま放り出して来た。仲間に回収されるかそれとも森の獣の餌になるかはあの男の運次第。もっとも尋問に少々時間を取られたせいで、多少駆け付けるのが遅れてしまったのだが。

 ノインは顔をしかめ、小さく舌打ちした。

「しょうがないね、まったく。――だがちっとばかし長居し過ぎたか」

「まあそう言わず、ゆっくりしてけよ?」

 ジェラルドが剣を構え、その刃に再び雷を纏わせる。この男は存外に冷徹だ。女であろうと容赦はすまい。ノインは考えを巡らせる。

(騎士団はそれなりに引っ掻き回したし、《擬竜兵( ドラグーン)》も奪還した。被害が大きくなり過ぎる前に退くのが利口だ)

 彼女は大胆ではあるが、無謀ではなかった。利にも敏い。そうでなければ、ある意味合理的きわまる傭兵の頭など張っていられないだろう。何といっても彼らは命を張って金を稼いでいる。危険や苦労と報酬が見合うかどうかには、人一倍敏感なのだ。

 そんな傭兵生活で磨かれた彼女の勘が、もういい加減退き時だと告げている。今まで幾度となく自分を救ってくれたその囁きに従い、ノインは撤退を開始した。両足をたわめ、次の瞬間地を蹴る。彼女の身体はくるりと宙で一転し、ジェラルドがとっさに飛ばした雷を避けた。そのままいっそ潔いほどにきっぱり身を翻し、懐から掌に乗る程度の大きさの丸い玉を取り出す。前金として貰った金で、贅沢に揃えた装備の一つだ。彼女はそれを、ためらいなく地面に叩き付ける。

 すると、澄んだ音を立てて玉が割れると同時に、凄まじい炎の嵐がそこに巻き起こった。魔法騎士たちも、これには思わず足を止めてしまう。ジェラルドは声を張り上げた。

「水系の魔法が得意な奴は消火しろ! 治癒や回復の魔法が使える奴は負傷者の手当て! 残った中から各隊二、三人ずつ来い! 奴らを追うぞ! 残りは逃げ遅れた賊を拘束後、残党に備えて警戒!」

 そう言い置いて、ジェラルドは魔法を纏わせた剣で炎を斬り裂き、その向こうへと飛び込んで行く。だが、襲撃者たちはすでに逃走した後らしく、それらしき姿はすでに街道上には見えなかった。

(ちっ……街道の中の一点をピンポイントで狙われたのが痛かったな。頭数はこっちが多くても、端の方の騎士れんちゅうは完全に戦力外じゃねえか)

 森に挟まれた街道で、隊列は長く伸びきっていた。《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》はそこを突いたのだ。騒動の中心に駆け付けたくとも、端の方にいる騎士は中の方にいる仲間たちに道を阻まれる形になり、結果として対応できる騎士の数をずいぶん減らされた。ジェラルドとセリオが駆け付けられたのも、ほぼ単騎で森の中を突っ切ったからに過ぎない。

 だが、過ぎたことを悔やんでも仕方がないので、ジェラルドはさっさと頭を切り替えることにした。

「――セリオ! いるか!?」

 森に飛び込んで部下を呼ぶと、荒く息をつきながらセリオが駆けて来る。

「すみません、隊長! 取り逃がしました! 一応使い魔(ファミリア)に追わせてはいますが……!」

「おまえが取り逃がすなんざ、よっぽどだな、あいつら」

「はい。あの魔法士、結構な腕でした」

 セリオは頷く。あの魔法士の男は、魔法士としては相当ランクが高いだろう。それに判断も早い。セリオと真っ向から魔法を撃ち合っておきながら、退き時と見ると素早く撤退して行ったのだ。

「まあいい。今はとにかく、奴らを追うぞ」

「はい!」

 セリオは片眼鏡モノクル魔動端末(デバイス)を装着すると、使い魔(ファミリア)との繋がりを辿り、騎士たちを導くように先頭に立って駆け出した。



 ◇◇◇◇◇



「――ひゃはは、やったぜェ! これで金と鉱山は俺たちのモンだァ!!」

 野太い歓声をあげ、《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》の面々は森の中を駆けていた。その内の一人の肩に担がれたアルヴィーは、失血で意識を失ったのかだらりと四肢を弛緩させたまま動かない。

「姐御、こいつ大丈夫なんですかい? 死なれたら報酬もパアですぜ」

「止血はしたからそれでいいさ。下手にポーションなんか使えば、即座に全快しちまうからね」

 むしろ、すぐには動けない程度に弱っていてくれた方が有難い。

「けど、向こうもさすがに追手くらいは掛けて来るだろう。止めに魔法の一つでもぶち込んで来た方が良かったんじゃないか?」

 そう言ったのは魔法士のダズレイ。彼は元々貴族に仕えていた魔法士だったが、問題を起こして出奔、流れ者となっていたところをノインにスカウトされて《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》に入団した。

「はッ、心配し過ぎだぜダズレイ! そうなったら、俺の剣の錆になるだけだ。伊達に《剣聖》名乗ってるわけじゃねえんだぜ、俺はよォ!」

 そんな彼の懸念を、剣士のグラッツが笑い飛ばす。彼は《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》きっての剣の使い手であり、《剣聖》を名乗っていた。確かに彼の剣の冴えはそれに相応しいと団員たちも認めており、実際本気で剣を振るえば、さっきの少年騎士など一太刀で斬り捨てられただろう。仲間内では、彼とダズレイがノインに次ぐナンバー2だと看做されている。

 そして彼らを束ねる《下位竜ドレイク殺し》、ノイン・バルゼル。彼女はこの傭兵団を立ち上げる前、別の傭兵団にいた時に《下位竜( ドレイク)》と遭遇、辛くも生き残りその手で竜を殺したという武勇伝を誇る女だ。

 《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》は何人かの“損失”は出したものの、首尾良く《擬竜兵( ドラグーン)》の奪還に成功し、逃走手段である馬を隠した地点に向かっていた。

「とにかく、後は手筈通り依頼人と落ち合って、そのままレクレウス国内に逃げ込むだけだ。けど、こういう時こそ油断するんじゃないよ!」

「おう!」

 気を緩める部下たちを叱咤するノインの声に、部下たちが口々に返す。

 その声に、沈みかけていたアルヴィーの意識が浮上した。

(……レクレウス、に)

 あの国に連れ戻されてしまえば、今度こそ飼い殺しにされるだろう。そして――ルシエルと会うことも、二度と叶うまい。

(――そんなの、ダメだ……っ!)

 また彼の敵になるなど、絶対に嫌だ。

 揺れて霞む視界の中、アルヴィーは右腕を持ち上げる。鉛のように重い腕はほんのわずかしか持ち上がらなかったが、それでいい。その腕が、深紅の鱗に覆われ始めるに至って、後ろを走っていた傭兵たちがようやく、アルヴィーの覚醒に気付いた。

「テメ――姐御、まずい!」

 だがその時にはすでに、アルヴィーの右腕は戦闘形態を成していた。

 ――《竜の咆哮(ドラグ・ブレス)》!

 放たれた光芒は、傭兵たちの足下に炸裂し、小さいながらも爆発を引き起こした。

「うわあああ!」

「ぎゃあっ――痛え!」

 飛び散った石飛礫や土、熱が男たちを襲う。アルヴィーを担いでいた男ももんどり打って地面に突っ込み、その拍子に彼の身体は地面に投げ出された。

(……今だ!)

 再び沈みそうになる意識を何とか繋ぎ止めながら、アルヴィーは傭兵たちに再び右腕を向ける。自分を捕らえようと駆け寄って来る《紅の烙印クリムゾン・スティグマ》の面々に向け、もう一度《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を放った。

 爆音と共に地面が爆ぜ、傭兵たちがたたらを踏む。その中でノインは、大剣を抜いて爆炎を斬ろうとしたが、その時にはアルヴィーは、傍らの立木を支えに、動かない身体を叱咤しながら何とか立ち上がっていた。

(逃げねーと……くそ、頭が働かねえ……!)

 失血のせいか、ぼんやりと霞が掛かったように思考がぼやける。それでも、《擬竜兵( ドラグーン)》となって強化されたアルヴィーの五感は、かすかに聞こえる水音と、澄んだ水の匂いを拾っていた。さほど遠くない場所に川がある――ぼやけた頭でも何とかそれだけは判断でき、そちらに向かってよろめく足で走り出す。

「待て……!」

 声がする方に手探りで《竜の咆哮( ドラグ・ブレス)》を撃ち込み、追手の足止めを図る。息は切れ、何度も立木にぶつかりながらも、アルヴィーは水の音と匂いを頼りに森を駆けた。追手は手練れの傭兵だが、アルヴィーも元は猟師。森歩きには一日の長がある。何とか傭兵たちに捕まることなく、やがて木々が切れて水音がはっきり聞こえ始め――そして、彼はそこで立ち尽くした。

 そこは確かに川ではあったが、同時に崖でもあった。ほとんど垂直に近い角度で切り立った崖の下、およそ十メイルほどのところを、澄んだ水を湛えた川が流れている。水の色からして、深さも数メイルほどはあるはずだ。対岸までは十メイルと少しというところか。《擬竜兵( ドラグーン)》の身体能力をもってすれば、容易く飛び越えられる距離だった。ただし、本調子であればの話だ。今の最悪に近いコンディションでは、かなり分の悪い賭けになるだろう。

(それでも――捕まるわけにはいかない)

 こうしてためらっている間にも、追手は迫っている。現にアルヴィーの聴覚は、追って来る足音を確かに捉えていた。猶予はない。

 アルヴィーは覚悟を決めて助走を付けるために少し下がろうと――したところで、不意に目の前がすうっと暗くなり、身体が傾いだ。失血から来る貧血だろう。大きく身体が泳ぐ。

(まずい――!)

 そう思う暇もあらばこそ、崖の上でバランスを崩したその身体は、吸い込まれるように十メイル下の川面へと転落した。

「――くそ!」

 まさにその時、森から飛び出して来たノインは、崖の向こうから聞こえた大きな水音に舌打ちする。崖の上から川を見下ろして、彼女は表情を険しくした。川は深く、流れも速い。アルヴィーの行方を追うのは難しいだろう。

 だが、彼女たちもプロの傭兵。そのプライドに懸けても、諦めるわけにはいかなかった。

「あのボウヤは川に落ちた! 追うよ! おそらく下流のどこかに流れ着くはずだ!」

「お、おう!」

 慌てて返事をする男たちを置き去りにする勢いで、ノインは下流を目指し駆け出した。



 ◇◇◇◇◇



 聞こえてくる水音がわずかに乱れた気がして、彼は顔を上げた。

 年の頃は二十歳前というところ。金色と茶色が混ざり合った独特な色味の髪に茶色の目の、何となく猫を思わせる目付きのその青年は、胡坐をかいていた地面から立ち上がると、耳を澄ます。と、またしても水音の中に混じるわずかな乱れ。それを手掛かりに、青年は使い慣れた一振りの剣を腰にくと、やや目を細めるようにしながら、明るい外へと足を踏み出す。

 彼がいたのは、崖の中ほどにぽかりと空いた洞穴だった。おそらく、昔は水が流れていたのだろうが、今はその水も涸れてしまったようで、雨露を凌ぐには絶好の場所となっている。こうした場所は獣や魔物の住処になりやすく、実際青年が初めてここを見つけた時には魔物が棲み付いていたが、彼は実力行使でこの洞穴の居住権を獲得した。食料に関しても、初日に大物の牡鹿を狩れたのでそれで充分。というかまだ肉が残っている。鮮度的に、そろそろやばいかもしれない。

 ともあれ、彼は洞穴から出ると、入口近くまで無造作に積み重なっている岩を器用に伝って下りていく。崖の一部が崩れたことによって出来たと思しき天然の階段を下りると、川の流れに洗われているギリギリの辺りに足を置いて、その流れに目を凝らした。

「……んん?」

 青年がいる辺りから少し上流側、川縁の岩の隙間に引っ掛かっているものがある。よくよく見てその正体に気付き、彼は絶叫した。

「――ぎゃあああ、ひ、人が溺れてるー!?」

 それは、白っぽい質素な服を着た人間のように見えた。

 わたわたと近付いて、何とか引っ張り上げる。黒髪の、十代半ばほどの少年だった。ずぶ濡れの上にその身体は弛緩していて、引っ張り上げるのには苦労したが、様子を確かめるとまだ息がある。左肩に大きな傷があり、そして右腕は人のものとも思えぬような深紅の肌をしていた。

「良かったああ、まだ生きてる! っていうか何この腕!? ってそれどころじゃない、あああしまったポーション洞穴に置いて来たあああ!!」

 しかしこの青年、今まで大陸をあちこち流れていたせいで、奇妙なモノには多少なりと耐性があったし、《擬竜兵( ドラグーン)》についてもまったく知らない。何より今は腕より命の心配の方が先である。なので人間離れした腕についても混乱し(テンパり)ながら華麗にスルーし、とりあえず生きているなら助けなければとばかりにその身体を担いで、落ちないように気を付けながら岩伝いに洞穴へと戻って行った。

 洞穴に戻って少年を地面に寝かせると、まずポーションを飲ませる。口の中に瓶を半ば無理矢理突っ込み、鼻と口を塞いで嚥下を促すという荒っぽい方法ではあったが、少年は何とか飲み込んで、窒息死は免れた。程なくポーションの効果が現れ、肩の傷が塞がり始める。

「……う、ん」

 と、少年が小さく呻いて目を覚ました。

「…………?」

 ここがどこだか分からないのと、怪我の失血のせいで頭がはっきりしないのだろう、どこかぼんやりとした目で見上げられる。炎を透かした琥珀のような、朱金色の瞳だった。

「あああ良かったポーション間に合ったー! 大丈夫かー、状況分かる? 君、ここのすぐ下の岩場に引っ掛かってたんだけど」

「!――そうだ、俺、崖から落ちて……!」

 がばりと勢い良く起き上がった少年に危うく頭突きをかまされそうになって、青年は慌てて避けた。

「うわっと!――でも、この辺りって結構人里からは離れてたよな? 何かワケ有り?」

「え、と……あれ、そういやここどこ?」

「俺も詳しい地名とかは知らないんだけどさ、崖の途中の洞穴。俺、剣の修行で大陸中流れてんだけど、ここって雨露凌ぐのにちょうどいいし、水にも困らないからここ五日くらい寝泊まりしてるんだ。俺はフィランっていうんだけど、君は?」

「……俺は、アルヴィー・ロイ。ファルレアンの王都のソーマってとこに行く途中、その……変な奴らに襲われて」

「ああ、じゃあ肩の怪我、その時に?」

「あいつらの頭――女なんだけど、化け物みてーに強くてさ。そいつにやられて……」

「ふーん……」

 うず、とフィランの中で興味が鎌首をもたげたが、他人の事情にあまり首を突っ込み過ぎるのも良くないと思い止まる。

「……その、あんたさ、俺のこと助けてくれたんだよな?」

「ん、ああ。まあね」

「ええと、ありがとう。ろくに礼とかできなくて悪いんだけど……」

「ああ、いいよ別に。日々これ修行なり、さ」

 フィランの父祖代々において、受け継がれてきた信念である。彼らは一所に落ち着かず大陸を流れて剣の腕を磨き、日常の何気ない動作をも修行とするべく心掛けてきた。そしてフィランもまた、彼らに倣うように放浪の旅を続けている。人生におけるあらゆることが、その生や剣の糧となると信じて。

 だが、とりあえず。

「……それより、ちょっと火を熾そう。怪我が治ってもそれじゃ風邪ひくよ。俺も服を乾かしたいしさ。ついでに飯にしようか。こないだ仕留めた牡鹿の肉が余っててさあ、そろそろやばくなりそうだから、できるだけ食っちゃいたいんだよね。君も食べなよ、怪我で大分失血してるはずだからさ。食って取り戻さないと」

「え、あ、うん……」

 どさくさ紛れに肉の消費要員を獲得ゲットし、フィランは支度を始める。と、アルヴィーがおずおずと申し出た。

「あのさ……服なら、俺が乾かせると思うけど」

「え?」

 フィランが首を傾げると、アルヴィーは右手を差し出す。深紅の肌と黒い爪、そして肌を走る紋様のような黒い筋に、フィランが思わず見入った時――その掌に、小さな炎が生まれた。

 炎は一瞬で大きくなり、彼ら二人を取り巻くように渦を巻く。押し寄せる熱気。だがそれはすぐに霧散し、そしてフィランは気付いた。湿っていた服が、からりと乾いていることに。

「おおー……すげー! 無詠唱で魔法使うなんて、君もしかして高位元素魔法士ハイエレメンタラーか何か?」

「ハイ……エレメンタラー? 何それ?」

 興奮したような面持ちになるフィランに、アルヴィーは首を傾げた。元々ただの村人でしかなかった彼は、魔法にはとんと疎い。そもそも“魔法士”としてカウントして良いものかどうかも怪しいのである。

「あー、自覚ない感じか……まあ俺もどっちかってと剣の方が専門だから、魔法はそんな詳しくないんだけどさ。魔法って大体、いくつか系統とか属性とかあるだろ? で、魔法士も複数の系統を広く浅くまんべんなく使える人と、逆に一つの系統に一点特化しちゃう人がいるんだけど、その一点特化の人の中でも特に強力な魔法が使える人が、高位元素魔法士ハイエレメンタラーって呼ばれるんだよ。大体は精霊とか妖精族とか、あと竜なんかの高位幻獣に加護を貰ってる人が、高位元素魔法士ハイエレメンタラーになりやすいんだってさ」

「へ、へえ……」

 アルヴィーの声がわずかに上ずった。加護とは少々違うかもしれないが、彼のうちには火竜の魂の欠片があり、また彼の身体にもその細胞が一部混じっている。心当たりがあり過ぎた。

(……つっても俺の場合はこれ……加護にカウントしていいのか?)

 そうちらりと思った時。


『――ふむ。“加護”というよりは“寄生”に近いがな』


「うぉうっ!?」

 不意打ちで何やら不穏なことを言われて、アルヴィーは思わず奇声をあげてしまった。

「うわ!? 何、虫でもいた?」

「あ、ああ、うん、そうそう! 虫ってーか、蛇!」

「蛇かあ……種類によっては食えるけど、」

「いや、もう逃げちまったし!」

 恐ろしいことを呟きかけたフィランに戦慄するアルヴィー。彼とて猟師として狩りに出ている間、獲物を捌いて口にしたことは何度もあるが、さすがに蛇を食料にしたことはなかった。猟師としての腕はそこそこ良かったのだ。

 だがとりあえず問題はそこではない。今しがたアルマヴルカンがのたまった、不穏な台詞についてである。

(……“寄生”って、どういうことだよ!?)

『言葉通りだ。わたしは現在、主殿の右腕を中心に、寄生している状態にある。肉体の組成を作り変えた上でな。その際に血液を介して、その細胞の微細な破片や、肉片を保存するのに用いていたわたしの血が主殿の全身に行き渡った。現在の身体能力や回復力はそこからも来ている。もちろん体質に合わねば拒絶反応で死んでいたが、どうやら主殿は人間にしてはわたしの血肉と相性が良い体質だったらしい』

「…………」

 なかなかにエグい話を聞かされて、アルヴィーは絶句した。

『とはいえ、それも絶対ではないのだから、当てにし過ぎるのはよろしくない。先ほど主殿の記憶を少しばかり覗かせて貰ったが、あの女が持っていた剣には気を付けた方が良いだろう。竜種を素材として作られた武器は、竜種の回復力を阻害する力を持つ』

(ちょっと待て! 記憶覗いたって……勝手に覗くなよ、曲がりなりにも礼儀ってもんがあるだろ!?)

『? 何か問題があるのか? 別にやましい記憶もなかったようだが』

 竜に人間の羞恥心など関係なかった。アルヴィーは思わずがくりと項垂れる。

「どうかした?」

「あ、いや何でもない……」

「ふうん。まあいいけど、火を熾してくれる? 肉焼いちゃいたいからさ」

 フィランがそう言うので、簡単に石を組んだ中に盛られた薪代わりの枯れ枝に火を点ける。その上に、軽く塩を振って鉄串を挿した肉を翳して炙ると、程なくして肉の焼ける匂いが漂い始めた。

「もうそろそろいいかな」

 フィランが肉を火から下ろしたので、アルヴィーもそれに倣う。部位のせいか鹿肉はやや硬かったが、最低限の味付けはしてあるし、何より彼ら二人はその程度で参るような歯と顎の持ち主ではなかった。黙々と肉を噛み砕く。

 簡素な食事を終えると、アルヴィーは立ち上がった。

「色々ありがとな。俺、もうそろそろ戻らないと……そうだ、俺の治療でポーション使っちまっただろ? 騎士団と合流できればポーションも分けて貰えるかも」

 その申し出に、フィランはふむ、と考える。確かにこんな森の中では、ポーションの補充は不可能だろう。荷物にはまだ幾許か余裕があるし、貰えるものなら確かに有難い。別段脛に傷持つ身というわけでもないし、騎士団と顔を合わせるくらいならさして問題はなかった。――“素性”がばれると、別の意味で面倒なことになる可能性はあったが。

「そうだな。あって困るもんでもないし。――けどその前に」

「……ん?」

 フィランは火の傍の壁際に置いていた荷物を引っ掴む。ほぼ同時に、アルヴィーの強化された聴覚を人の争う声らしきものが遠く掠めた。と、アルマヴルカンの声が鋭く告げる。

『主殿、シールドだ!』

「へ? あ、《竜の障壁(ドラグ・シールド)》――」

 アルヴィーが戸惑いながらも右腕を戦闘形態に変え、《竜の障壁( ドラグ・シールド)》を展開させた、次の瞬間。

 轟音と共に、洞穴の天井が突如崩れ、大小の瓦礫となって二人を押し潰さんと襲い掛かった――。


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