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エンディング 伝聞新しく

 時刻は昼過ぎ。街道を、メタルバイソンが走行している。そのフォルムは若干いびつだ。屋根の上に荷物がロープで括り付けられている。かさばるものが多く、特に分かりやすいのは騎士達の鎧である。


 では内部はどうか。端的に表現すれば、すし詰めだった。明らかな定員オーバー。理由は単純で、古城に捕らえられていた娘たちが同乗しているからだ。


 いたし方がないことだった。置いて行くのは論外。かといって遠距離を歩かせるわけにもいかない。その為の準備もない。


 加えて、全員が体調不良だ。精神を支配され、ろくな生活環境のもない古城に囚われていた。それでも十分に過酷なのに、血まで抜かれているのである。


 かくして、後部の座席スペースにすし詰めにして乗せることになった。男女の区別もできないが、不埒な真似もない。男たちは皆、騎士と従者である。紳士としての節度がある……というのは建前。


 痩せて不健康な娘に手を出すほど飢えていないとか、そもそも仕える相手であるセシリアが同乗しているとか。そのような理由が本音だった。


 さて、それらの範疇に入らないヒデオンはどうかと言えば。


「……流石に、車がちょっと重いなあ」


 やや青い顔で、運転席にあった。リーフェが目覚めるまで、痛みでろくに眠れずほぼ徹夜。治療された後はずっと運転である。流石の彼も元気いっぱいとはいかない。


「これだけ乗って、ちょっとで済むんだ……」


 呆れ半分で笑うのは助手席に座るセシリア。なお、彼女は脚を大きく開いており、空いたスペースに小柄なリーフェが腰かけている。少しでも後部座席を開けようとして考えた、苦肉の策であった。


「そりゃまあ、こんな鉄の塊を動かす車だから。パワーはあるんだよ」


 道や乗員の事を考え低速で走っているという理由もあるが、説明が面倒になって口にはしなかった。


「それよりもヒデオン、先ほどの話の続きです。この騒動に黒幕がいるというのは事実ですか?」

「吸血鬼のヤツは、誰かにあの本をもらって化け物になったといっていた。そして、あのデカブツもセットだったらしい」


 古城から回収された黒表紙の本。漂う気配から、ヤスペルの語った品であると当たりをつけている。


 中身を読んで確認、はできていない。吸血鬼になる知識が書かれているということもあり、迂闊に開くこともできないのだ。


「物騒な本と、でっかい怪物。そんなものをプレゼントできる奴が、なんの意図もないなんてありえない。だろう?」

「……否定する要素がありませんね」


 リーフェは小さくため息をついた。一つ片付いたら、より大きな問題が見えてきたのだから。


「手がかりは……アルネムの街にあるかしら。領主の館とか」

「仮にそうだとしても、すぐには無理よ。こんな様じゃね」


 死霊災厄の終息を求める勇者として気持ちが逸るが、そこを友人に諫められる。もっとも、ベルティナとしては早くこの状況から解放されたいという気持ちの方が大きかったが。後部座席に押し込まれている為、強制おしくらまんじゅう状態にあるのだ。


「……そうね。みんなにも休息が必要だわ」


 セシリアも後ろの惨状を改めて確認し、即座の行動を諦める。


「実際問題、この後いろいろ忙しくなるだろう? 街道沿いの街やら村やら、被害状況の確認がある」

「そうね。救助を必要としている者達もいるだろうし。人手も物資も必要だわ」

「それも私らがやるのぉ?」


 魔導士はうんざりとした感情を隠しもしなかった。それに眉を顰めつつも、聖女は小言を言うのを控えた。困窮した人々に手を差し伸べるのは当然のこと。しかし、膨大な時間と労力を必要とする作業だ。自分たちだけでやるとなればそのような声も出るだろう。


「別動隊が合流しても、とても足りません。王都に手紙を送ります。神殿に働きかければ、助力を得られるかと」

「最終的には王家の仕事になると思うわ。政治的にも、我が家が出しゃばり過ぎるのは良くないから」


 ボスハールト領は外国と繋がる重要地域である。解放だけでなく復興までクラーセン公爵家が成したとなれば、王家の立場がなくなる。それでなくても、自派閥の地域なのだ。身内からどのような非難を浴びるか、想像は容易かった。


「……それ、時間がかかりそうだな」

「いいえ、逆よ。交易地ががら空きになっているのだから、何を置いても確保しなければならない。他所の国に手を出されたら目も当てられないもの」

「死霊災厄の最中なのに?」

「それでもやるのが国家というものよ」

「まじか……。いや、そうだな。そういうもんだな」


 ヒデオンは一度耳を疑い、うんざりしながら納得した。彼の地元にも勢力や縄張りをめぐる争いはあった。ブラッドスキンという怪物が生存権を脅かしているにもかかわらず。


 その愚かしさを思い出せば、この極限状態での侵略行為もありうると理解できてしまった。


「まあ、それもこれも王都に伝えないと始まらないのだけれど」

「ヒデオン。この乗り物で王都に向かう事は可能ですか?」

「行けるけどね。確実にいろんなトラブルを引っかけると思うよ。聖女様と勇者公女の御威光でどうにかなると思う?」

「……可能かと思いますが、時間を取られるのは間違いないですね」


 いい案だと思ったのですが、と落胆するリーフェ。ふむ、とヒデオンは思案する。状況を終わらせたいのは自分も同じ。求められるのは早さ。


 であれば、自分の出来る現状の最善はなにか。


「よし。ちょっと速度を速めよう。揺れが厳しくなるから、全員頑張って耐えてくれよー」

「止めなさいっ! 調子の悪い人間が満載されてんのよっ」


 後部座席から、頭を叩かれる。やったのはベルティナだ。


「……失礼。安全運転を心がけます」

「この人、本当に目を離せない」


 セシリアは冷や汗を流す。同席するリーフェも神妙に頷く。


「厳しく監視、管理する必要があります」

「地元の連中と同じことを言う……」

「へえ、その話詳しく」


 メタルバイソンの車内は、エンジン音に負けず騒がしい。目的地であるヴェルテンの街にたどり着くまで、静まりそうになかった。


/*/


『ボスハールト領 解放! 勇者公女、偉業を達成す。

クラーセン公爵家の早馬が、王都に大きな朗報を届けた。ボスハールト領に巣くっていた吸血鬼が退治されたとのこと。恐るべき怪物が、領地を占領していたという話だけでも驚きだが、それをわずかな手勢だけで打倒したというのだから衝撃的だ。真偽を疑う声もあちこちでささやかれるが、王の決断は迅速だった。軍の派遣を決定。ボスハールト領の守護と復興に向かわせるとのこと。死霊災厄終結、それが夢物語ではない。そう思わせてくれる大きな動きが起きている』


 王都エーデルン 伝統新聞「紫」の記事より


『リスナーの皆、DJネイトのジャンクランドレディオの時間だ! さて、今日最初の話題はとってもホット! 保安官の愛車、メタルバイソン行方不明事件の続報だ。シェルターシティのハイテクノロジーで作られたこの鋼鉄の猛牛には、自動運転機能が付いているのは皆の知っての通り。この前も伝えたものな。その牛ちゃんがエンジン回して大騒ぎせず、静かにいなくなったものだからさあ大変。盗難事件じゃないかっていうのがこれまでの話。ところが今日、車庫を覗いた関係者が定位置で大人しくしている牛ちゃんを見つけたもんだからまた大騒ぎ。もちろん、エンジン音を聞いた奴はいない。全くもってミステリーだ。だけど、今回の話のメインはそれじゃない。なんと! 我らが保安官からの手紙が残されていたって話なんだ! 関係者に取材した所によれば、彼は別の土地で騒ぎに巻き込まれているとのこと。全くもって保安官らしい。それを片付けてから戻るとのメッセージがあったと、お怒り状態で教えてもらえた。おーい、保安官。早く戻ってこないとこっちも大変になるぜー? ともあれ、彼が無事で一安心だ。それじゃあ、そんな気分を音楽に変えてみよう。大騒乱前の定番をお聞きください。題名は……』


 ケージタウン DJネイトのジャンクランドレディオより



アポカリプスサバイバー 対 異世界アンデッド 了

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白かったです 応援しております
[良い点] 保安官の心配を誰もしていないのが草 カレハマジメニハタライテルヨ、ホントウダヨ [一言] 面白かったわ。 やっぱポストアポカリプスのラジオは良いものだ
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