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Battle No.5 絶対絶命

 なんか顔がベタベタして気持ち悪い。

 僕は、寝ているのか?

 なにしてたっけ?

 マリアと部屋でゴロゴロして、その後……。

 アンナを……。

 そうだ! アンナはどうした!


「アンナ!」


 顔を挙げると、自分は庭に倒れていたことがわかった。

 周りを見渡すと、アンナの姿どころか、セシリすら見えない。

 あるのは地面に残されたポーションの瓶だけだ。


「クソッ! してやられた!」


 おそらくセシリのやつは僕が目を離した隙にポーションを飲んで、足を傷を治した。

 そして僕に不意打ちをかまし、僕はそのまま失神。

 おそらく彼女はアンナを連れて壁の向こうに逃げたのだろう。


「クソッ! クソッ!」


 僕は悔しながら地面を叩くことしかできなかった。

 アンナはすぐそこにいるのに、彼女を助けることができなかった。

 なにがお姉ちゃんだ! 大事な妹すら助けられなかったくせに!

 諦めて人を呼ぶしかないのか、僕にできることはもうないのか。

 そんなことを考えると、僕は気づく。

 誰もここに来ていない。

 マリアには人を呼ぶのを頼んだし、自然にアンナとセシリがいなくなったことに気つく人もいるはずだ。なのに誰も来ない。

 ということは失神してから時間が少ししか経っていない。

 壁の穴の方を見ると、濡れた土に足跡が残っている。


「まだ追跡ができる」


 人を呼ぶ選択肢が一瞬で頭から消えた。

 僕は足跡を辿り、壁の外へ走る。


「待ってくれアンナ!」


 壁をくぐると、そこは森だった。

 僕が師匠と出会ったあの森、道はある程度知っているから追跡も容易い。

 雨のおかげで鮮明に土に刻まれた足跡を追っかけて、すんなりと森を越える。

 すると目に入るのは、視界をよぎるフェンス代わりの長い縄と立ち入り禁止のサイン。

 縄を越えてさらに進むと、そこは魔物が生息しているもう一つの森。

 戸惑ってしまった。

 足跡は縄の後ろまで続いている。もし中に入って魔物が出てきたら、僕には対抗手段がない。そして今まで学んだ技術は全部対人用の技だ。

 立ち入ることは、死を意味する。


「……ッ」


 だけどもっと怖がりのアンナは、今その森の中にいる。

 僕より何倍以上の恐怖を感じているはずの彼女を見捨てると言うのか?

 それはできない。


「僕は、お姉ちゃんだ」


 傷つくことには慣れているんだ、今更なにを怖がっている。

 縄をくぐり抜け、走り出す。

 相変わらず足跡を辿って前に進む。

 幸い魔物は全く出てこなかった。

 そして人の声が聞こえるようになった。


「誰か! 誰か!」

「うるさい! チッ、なんで誰も来ないのよ! 会合時間がとっくに過ぎてるわよ!」


 森の中の小さな空き地に、助けを呼ぶアンナと愚痴を吐いているセシリがいだ。

 仲間が来てないみたいだ。その前にアンナを助け出せばワンチャン。


「セシリッ!」

「なにっ」

「姉様!」


 空き地の真ん中にいるから不意打ちができない。僕は飛び出して、セシリと対峙する。


「もう一度君のアキレス腱を折ってやろうかあーん?」

「なんで⁉︎ 全力で後頭部を蹴ったのに、あなたはアンデットなの⁉︎」

「あれっ君知らないのか? お姉ちゃんは死なないんだぜ」

「わけのわからないことを!」


 アンナを助け出すまでは、僕は何度でもたち上がる。

 とは言えアキレス落としという切り札を見せてしまった以上、同じ手が効くとは思えない。

 ぶっちゃけ僕の方がぶが悪い。


「……」

「……」


 緊張感が漂う。

 僕が先手に出たら確実に負けてしまう。だから後の先を狙わなければならない。

 セシリは何かを打算しているのか、慎重に動いていない。

 アンナも黙っている。

 

「「「ウオーン!」」」

「「えっ」」


 声が割り込んで来た。

 しかもそれは一番会いたくなかった、森の魔物の声だ。

 間も無く、数体の魔物が周りの草むしりから現れた。


「「「ガルル」」」


 マッドウルフ。ゲームの中では低レベルのマップのみ群れで出てくる雑魚魔物。

 もしゲームプレイ中だったら雑魚すぎて経験値すらならんと大口叩くが、今は違う。

 子ども二人、そしてそんな子どもに一回倒された大人一人。勝ち筋が全く見えない。

 しかも群れで現れたから逃げようがない。いっそうもっと強いオークなどが一体だけ出てきた方が安全とさえ言える。

 絶対絶命だ。

 恐怖のせいか、セシリは明らかに混乱している。


「来るな魔物! 私は原魔様の手下なんだぞ!」


 なぜか強気な彼女はマッドウルフたちを煽り始めた。

 横にいるアンナは恐怖のあまり涙目になっている。

 しかも大きく動いているせいでマッドウルフの注意はセシリに集中していた。


「「「ガルル」」」

「な、なにをするのよ……! 来るな!」

「「「ガオー!」」」

「アンナ‼︎」


 このままだとアンナが危ない!

 マッドウルフたちが動き出すと同時に、僕はアンナの方へ猛ダッシュした。

 注意力が惹きつかれたおかげで僕はギリギリ無事にアンナを抱え上げマッドウルフたちから距離を取れた。

 セシリはどうなったと言うと、


「キャアーーー‼︎ やめなさい! やめろーーー!」


 手脚がマッドウルフたちに噛まれて、そのまま草むしりの方に引き連れられた。


「助けて! 助けて! 誰か! うああああああああ‼︎」


 恐ろしい悲鳴を最後に、セシリの声が消えた。

 魔物に、殺されたのか?

 放心してしまった僕は地面に座り込んでしまった。


「もう、終わった、のか?」

「ううう……姉様……姉様……」

「大丈夫だよ、悪者はもう行っちゃたから」


 立ち直ってアンナを縛っている縄を解こうとする。


「待っててね、今すぐ動けるようにするから」

「姉様……姉様……」

「はいはい、お姉ちゃんだよ」


 余裕な態度を見せてはいるが、縄が強く縛られていて中々解けない。

 とは言え僕にアンナを担いたままこの森から脱出できるほどの体力がない。

 このままだと、さっきのマッドウルフたちが……。


「ガルル」

「うそ……だろ……」

「ひぃ……!」


 一匹の血塗れのマッドウルフが戻ってきた。


「いくらなんでも早すぎるんだろうが」

「いや、いやっ」


 アンナはパニックになっている。そして縛りが解けていないから逃げれるわけがない。

 彼女を置いておくわけにもいかない。


「クソッ! やるしかないのか!」

 

 残された選択肢はただ一つ。

 ここでマッドウルフを仕留めて、アンナを助け出す。


「来いよ! クソ犬が!」

「ウオー!」


 僕の人生初の対魔物戦、ここで始める。


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