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Battle No.5 読書会

 やっと師匠からイイ出しされたので、今日のトレーニングは終わり。

 今の時間は、昼の三時くらい。まだまだ余裕がある。

 僕は横で休憩しているアンナとその世話をするマリアに声をかける。


「イタタタ。ただいまー」

「「お帰りなさい(ませ)」」

「アンナ、体調はどう?」

「アンナは、大丈夫、です。ね、姉様こそ、ご無事、ですか?」

「僕? そりゃピンピンしてるよ」


 アキレス落としが失敗する度に胸と顔が踏ん付けられるけど、マイペンライ(大丈夫)!

 痛くないわけじゃないけど、大怪我にならないように師匠がある程度回復魔法をかけてくれてたから、これくらいの痛みがむしろちょうどいい。

 それより今からアンナを色んなところに連れ回して、やりたいことを見つけ出さないとな。


「アンナが大丈夫なら、もうちょっと僕に付き合ってくれないかな? 趣味探しに」


 僕がそう言い出すと、彼女はきょとんとした顔になる


「えっ」

「えっ」


 えっってなに⁉︎

 もしかして嫌がっている? いきなりひどい目に遭わせたからか?

 いやちょっと待ってよ、幼いだけどアンナはもういい歳した女の子だ、何かしら予定があってもおかしくない。

 事がスムーズに進んてたけど、実は気弱な彼女が僕に無理強いされただけでは?

 それだったらまずいよ、僕はただの嫌なやつになっちゃうよ⁉︎


「ア、アンナ? もし他にやることがあるなら言ってもいいんだよ? アンナの予定の方が大事なんだから?」

「違い、ます! 今は姉様と、一緒に居たい」


 意外と食い気味で言い返され、僕はびっくりする。


「じゃあ、付き合ってくれるのか?」

「う、うん。姉様は、大丈夫ですか? 傷が……」

「これくらいへっちゃら、そうだろマリア?」

「はい、夜中に痛みで起きてしまうくらいだけですから」

「なんで言っちゃうんだ⁉︎ というかなんで知ってるの⁉︎」

「メイドとして務めです」


 なにこわい、アニメのメイドみたいに潜入してんの、僕の部屋に⁉︎

 君のせいでアンナも怯えてるじゃないか⁉︎


「ひぃ、夜中に? 姉様、ちゃんと傷を治さないと……!」

「冗談! 冗談なんだから! ねぇマリア!」

「……」

「一ヶ月厨房に入らない」

「はい、ただのメイドジョークです。アンナ様はお気になさらず」

「そう、ですか、姉様?」

「もちろん! お姉ちゃんめちゃくちゃタフだし、こんな傷痛くも痒くない!」

「う、うん」


 いやー、異世界ポーションの痛み止め効果ってすごいな。

 納得してくれたアンナは少し考えた後、時間が欲しいって言った。


「セシリを説得する、時間が欲しいです。今日は、カリン様の見学という体で、許可を貰いましたから」

「そっか。セシリさん僕こと嫌いなんだよな」

「ごめん、なさい」

「いやいやそれはアンナのせいじゃないし、なんなら僕がセシリさんを説得……」


 そう言うと、マリアは僕の肩を掴んだ。


「おやめください、それは逆効果にしかなりません」

「でも、誠意を見せればセシリさんもきっと」

「誠意で物事を解決できるならナタリー様はとっくに魔法を自由に扱っています」

「はぐっ」


 痛いところに突っ込むなこの野郎。

 お仕置きしてやるよブヘヘへへ。


「僕を愚弄したのはこの口か?」

「ナタリーしゃま、ほっぺは、らめてくだしゃい」


 なんだぁこのほっぺは、マシュマロみたいに柔らかっ。

 ムニムニするのにハマりそうだけど。


「あのう、姉様?」

「ブヘヘ……あっアンナ、これは違うんだ!」

「は、はい」


 やばっ、マリアがかわいすぎてアンナのことを忘れてしまった。

 名残惜しいまま僕はかわいらしいほっぺを手放した。解放されたマリアは不機嫌そうに僕の目を凝視する。

 ごめんって後で謝るから。


「アンナ、本当に手伝わなくっていいの?」

「はい。セシリはいつも、アンナに寄り添ってくれます。きっと、理解をしてくれる、はず」

「じゃあ、僕はここで待ってるから。説得が終わったらここに戻ってね」

「はい」

「頑張って! お姉ちゃん応援してるから」


 こうして、アンナは屋敷へ戻った。

 心配だけど、きっとなんとかしてくれるだろう。


「マリア、アンナは大丈夫だと思う?」

「知りません」

「ごめんって! マリアのほっぺが柔らかすぎてつい!」

「衛兵に通報しますよ」

「それはやめて!」


 アンナが帰ってくるまでマリアを必死に宥めるのであった。

 その後、アンナは無事に帰還した。結構時間かかったけどなんとかセシリさんを説得できてので、僕たちはある場所へ向かう。


「ここ、ですか?」

「どういうことなのでしょうか?」

「なんだよその信じられないものを見たような目は⁇」


 書庫を選んだことになにがおかしんだよえーっ!


「姉様なら、もっと、体を動かせる場所とかを……」

「本を破らないでくださいね」

「猿じゃありまいし紙を破らねえよ! ってかマリアもよく僕と書庫に行ってたんじゃないかなに驚いてんだ!」

「その方が盛り上がるかと」


 この世界に娯楽があんまりないのでね、飢えた僕が辿り着いた先は本である。

 残念ながら漫画はないけど、それっぽい小説は結構あった。

 日本の昔の小説は意外とラノベみたいな展開が多いと言われているが、この世界でも同じのようだ。

 しかも便利なことにこの世界の文字はなんと日本語。よほど難しい内容ではない限り結構読めちゃう。

 お陰で中世風な時代でも娯楽らしい娯楽を手に入れた。

 せっかくなのでその良さをアンナにおすすめしたいと思う。


「本はいいぞ。なにぜこんな僕でも読んでるからな」

「アンナ、文字を読むの、苦手です」

「そうだな、じゃあ僕が読みやすそうなのを選んでもいいか?」

「お願い、します」


 二人ともを連れていつもお世話になっている娯楽小説のコーナーへ行く。と言ってもそれは元々ほとんど空っぽな棚で、今いる8割の本は僕が町から買ったものだけど。

 バトルモノや恋愛モノとかはちょっと早い気がするな。

 僕はゆるい系の冒険小説を手に取り、二人に渡す。


「ありがとう、ございます」

「私のことを気になさなずに」

「マリア、君またそうなこと言って」


 今まで何度もここに来たけど、マリアは一度も本を読んだことがない。

 かと言って文字が読めないわけじゃない。


「一度だけ試してみてよ、絶対に面白いからさ」

「メイドの私が勝手に書庫の大事な本を扱うのはどうかと」

「それ僕が勝手に買ったやつだから屋敷のものじゃないんだけど」

「それでもいけません」

「えーっ」


 こんな感じで毎回毎回拒否されてしまう。

 僕とアンナだけ読むのもなんだけどな。

 すると、アンナからマリアに声をかける。


「マリアは、読まないの?」

「はい、お二方をお見守りします」

「読んでくれたら、姉様もきっと、喜ぶと思う」


 なんと彼女は僕の手助けをしてくれた。

 一人がダメなら二人でってこと、多勢に無勢だ!


「読んでくれると嬉しいなぁ、チラッ」

「そ、それは」

「チラッチラッ」

「アンナもお願い」

「うぐぐ……」


 二人掛かりが効いたようで、マリアは葛藤する素振りを見せる。

 少し考えた後、彼女はため息をつき、


「わかりました、読んでみます」


 やっと諦めてくれた。


「やったねアンナ! ハイタッチ!」

「え、う、ウェイ……?」

「全く……」


 こうして、小さな読書会が始まった。

 心地よい静寂が僕の心を和ませる。


「「「……」」」


 キャハハ、ラブコメはいつの時代でもオモロいわ。

 

 

「姉様」

「なに?」


 しばらく経つと、アンナは僕に声をかけた。


「この字は、どう読むのですか?」

「それは……」


 わからない字があったそうだ。

 にしても勉強熱心だな、僕だったら無視しちゃうのに。


「……こういう意味だよ」

「ありがとう、ございます」

「頑張って」


 その後アンナは何度も僕に質問をした。

 読みやすい本を選ぼうとしたけど、彼女でもわからない字があるんだ。

 マリアは大丈夫かな?


「マリアマリア」

「な、なんでしょうか」

「わからないこととかある?」

「ありません、全く」

「そっか」


 いつもの冷めた表情で大丈夫だと主張する彼女。

 なんか食い気味だけど、気のせいかな?

 大丈夫みたいなので僕は自分の読書に戻る。


「マリア……それは……」

「お手間を……すみま……」


 少し時間が経つと、マリアとアンナはヒソヒソと対話し始めた。

 気になってそっち方面を見ると、二人は明らかになにもないかのように顔を逸らす。


「……?」

「なにも、ないですよ?」

「ナタリー様は読書に集中してください」


 怪しい!絶対なにかを隠している!


「僕別の本を取りに行くんで」

「「行ってらっしゃい」」


 本を取りに行くのを装って、僕はしばらく隠れた後、静かに二人の後ろへ潜り込む。


「これは……」

「なるほど……」


 やはりなにか話をしている。


「なんの話してんの?」

「「きゃあ!」」


 思いっきりびっくりしたんだけど。

 別に大声で脅したわけでもないのに。


「ごめん。驚かるつもりじゃないんだ」

「い、いえ、姉様が悪い、わけじゃ……」

「こちらこそ、声を出しすぎました」


 申し訳なさそうな二人を見て、こっちまで申し訳なく感じる。


「僕は、その、面白い話でもしてるかなって、気になっただけで。もし言いたくないなら言わなくてもいいんだよ」

「マリア、どう、する?」

「話した方が、いいと思います」


二人がまたヒソヒソと相談していると、アンナの方が説明し始めた。


「実は、マリアにわからない字が多かったみたいなので、教えていたんです」

「そうだったんだ。でもそれなら僕に隠さなくても」

「それはですね……」


 気まずそうなアンナを代わりに、マリアは続ける。


「恥ずかしかった、からです」

「えっ」

「ナタリー様にだけ、弱みを見せたくありませんでした」


 そう言ったマリアのケモ耳は、まるで怒られた後の子犬の耳のように垂れていた。

 ミスった。実際の年齢の差からか、彼女たちには難しすぎた本を勧めてしまった。


「僕の方こそごめん、もっと二人に合う本を選ぶべきだった」

「「うん……」」


 趣味探しの手伝いって言ったのに逆に萎えさせてどうする。


「代わりと言ってもなんだが、僕が読み聞かせるのはどうかな?」

「「いいのですか!」」

「えっ」


 思った以上にこのアイディアが二人に気に入られた。

 結果、僕は夜になるまでずっと読み聞かせをすることになった。

 疲れたけど、楽しそうな二人が見れたのでオッケーってことで。


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